待機リスト対照とは|鍼の効果が大きく出る5つの仕組み

待機リスト対照とは|鍼の効果が大きく出る5つの仕組み 研究の読み方

待機リスト対照とは、対照群に「いまは何もせずに待ってください。試験が終わったら同じ施術を受けられます」と伝えて待ってもらう設計のことです。この対照と比べて出た数字は、鍼そのものの作用だけでなく、「待つと知らされたこと」まで含んだ差になります。

同じ1本の試験の中でも、偽鍼と比べたときの差と、待機リストと比べたときの差は、約2.6倍から約9.5倍ひらくことがあります(ドイツのART試験のうち、倍率を算出できた3本)。一方で、ほとんどひらかなかった試験もあります。
待機リスト比の数字には、鍼の作用のほかに、盲検できないこと・自然経過・平均への回帰・併用薬の差などが混ざっています。だから偽鍼比の数字と同じ意味では読めません。
ただし「読まなくていい数字」でもありません。待機リスト比が答えているのは「そもそも受けた人と受けなかった人で違うのか」という別の問いです。答えている問いを取り違えないこと。それがこの記事の要点です。

待機リスト対照って、何を「待つ」設計なの?

論文の抄録に「待機リストと比べて有意に改善」と書いてある。これを、そのまま患者さんへの説明に使っていいのか。そこで手が止まったことは、ありませんか。

止まって正解です。この数字は、偽鍼と比べた数字とは意味が違います。まず、その「待機リスト」が何なのかから始めます。

米国NIHの専門家パネルが2019年にまとめた勧告に、対照群の型が定義されています。そこでの待機リスト対照は、「実験群に提供されたのと同じ介入が、事後評価が完了したあとで対照群にも提供される」条件です。

つまり待機リストは「何もしない」条件ではありません。「待てば受けられる」と知らされている条件です。一方、無治療対照の定義は「介入は何も提供されない」。あとで受けられるという約束は、ここには入っていません。

細かいようですが、この違いがこの記事の出発点です。

待機リスト対照と、その隣にある無治療・通常ケア・注意対照の定義と、それぞれが答える問いの比較

待機リストの定義

待機リストは「何もしない」ではなく「待つと知らされる」

米国NIHの専門家パネルによる勧告(Freedland 2019)の定義にもとづき、待機リストと、その隣に置かれる3つの型を並べました。

待機リスト
対照群が受けるもの=いまは何もしない。試験終了後に同じ施術

伝え方は「◯週間お待ちください」。患者の盲検は原理的にできない。主に答える問い=そもそも効くのか

無治療
対照群が受けるもの=何も提供されない

あとで受けられるという約束は定義に含まれない。患者の盲検はできない。主に答える問い=そもそも効くのか

通常ケア(TAU)
対照群が受けるもの=日常的に行われている診療の継続

原著の定義に「個人ごと・施設ごとに異なることが多い」と明記されている。主に答える問い=現場の選択肢と比べてどうか

注意対照
対照群が受けるもの=接触量をそろえた別の関わり

スタッフとの接触量を治療群と同じにする設計の総称。主に答える問い=接触そのものの分を差し引くとどうか

※ 偽鍼(シャム)は、この4つとは役割が違います
構造は似ているが、有効成分とされるものを欠く条件

主に答える問い=どう効くのか(成分の分離)。偽鍼のタイプの違いは別記事で扱っています(→偽鍼(シャム鍼)とは何か鍼のエビデンスは比較対照で変わる

この定義は行動的介入を対象としたNIH専門家パネルの勧告にもとづくもので、鍼の試験のために作られたものではありません。待機リストは「何もしない」のではなく「待つと知らされている」条件です。ただし、この違いが実際の効果量にどれだけ出るかは決着していません。待機リストと無治療を直接比較したデータが、ほとんど存在しないためです(後述)。

コクランは待機リストを「禁じて」いません

先回りして、よくある誤解をひとつ潰しておきます。コクランの手引き(Cochrane Handbook)は比較の型を3つ列挙していて、2番目の「対照」の例に「無介入、待機リスト対照、通常ケア」と書いています。

つまり待機リスト対照は、比較の一類型として普通に列挙されているだけです。使うなとも、使えとも書かれていません。同じ章には「プラセボと対照の区別はしばしば恣意的である」という但し書きまであります。

問題は、出てきた数字をどう読むかのほうです。

読むときの一文:待機リスト対照は「禁じられた設計」ではなく、「答える問いが違う設計」です。

なぜ待機リストと比べると、効果は大きく出やすいの?

理由は1つではありません。少なくとも5つの仕組みが重なっています。

そして大事なのは、5つそれぞれで証拠の強さが違うことです。ここを混ぜると、話が雑になります。

待機リスト対照で効果量が大きく出やすくなる5つの仕組みと、それぞれの証拠の強さ

5つの仕組み

大きく出やすい理由は、1つではありません

待機リストと比べたときの差を押し広げうる要因を5つに分けました。それぞれ証拠の強さが違います。

① 患者を盲検化できない
証拠の強さ=鍼の領域で直接測られている

同じ試験の中で盲検群と非盲検群に無作為化したメタ疫学研究では、患者報告アウトカムで平均0.56 SDの誇張。鍼の試験10件では0.63 SD。観察者が評価するアウトカムでは誇張は見られませんでした

② 「待て」と言われること自体の影響
証拠の強さ=鍼以外の領域の間接証拠。結論は出ていない

小規模の実験(n=185・アルコール)では待機と伝えた群のほうが悪化。しかし同じ設計の大規模追試(n=3,388)では強い証拠が得られませんでした

③ 報告バイアス
証拠の強さ=測る手段がほとんどない

「本当に良くなった」のか「良くなったと報告した」のかを分ける方法が確立していません。コクランのプラセボレビューの著者自身が、両者の区別は難しいと明記しています

④ 対照群の中身が試験ごとに違う
証拠の強さ=原著に明記されている(読めば分かる)

膝OAのコクランレビューは「待機リスト対照の全試験で、待機中の参加者は現行レベルの経口NSAIDsまたは鎮痛薬の使用を許可されていた」と記載。待機=完全な無治療ではありません

⑤ 自然経過を測る「窓」が歪む
証拠の強さ=定義と一般論。定量はできていない

待機リスト群は本来、自然経過と平均への回帰を測るための窓です。ところが②が働くなら、その物差し自体が動いてしまいます

この5分類は、原著の記述を当サイトが整理したものであり、公式な分類体系ではありません。①の0.63 SDは「鍼の試験で、患者が盲検されているかどうかだけで効果量がどれだけ変わったか」の値であって、「待機リスト対照試験のバイアスの大きさ」を直接測ったものではありません。待機リスト対照では患者盲検が原理的にできないため、当サイトが橋渡しをして紹介しています。②は鍼ではなくアルコールの試験です。

① 患者を盲検化できない

いちばん強い証拠がある仕組みです。しかも鍼のデータが名指しで出てきます。

2014年のメタ疫学研究(研究についての研究)が、変わった設計の試験だけを集めました。同じ試験の中で、患者を「盲検サブスタディ」と「非盲検サブスタディ」に無作為に割り付けた試験です。同じ介入、同じ集団。違うのは「自分が何を受けているか知っているかどうか」だけ。

結果、患者報告アウトカムでは、非盲検の患者が効果量を平均0.56 SD誇張していました。そして鍼の試験10件のサブグループでは0.63 SDです。いっぽう、観察者が評価するアウトカムでは誇張が見られていません。押し上げが起きるのは「患者が自分で答える」項目だ、ということです。

痛みは、まさにその代表です。

ここで橋渡しをひとつ。待機リスト対照では、患者の盲検は原理的にできません。「あなたは待機群です」と伝えるのが設計だからです。

つまりこの研究が測った向きのバイアスは、待機リスト対照試験では働きうる。ただし「0.63 SDぶん押し上がっている」という意味ではありません。ここは慎重に。誰を盲検化できて、誰をできないのかは鍼で二重盲検が難しい理由|盲検化の4層を分けて読むに層ごとにまとめています。

読むときの一文:押し上がるのは、患者が自分で答える項目です。

② 「待て」と言われること自体の影響

「待たされること自体が、悪い方向に働くのではないか」。この仮説はノセボ(悪い方向のプラセボ)と呼ばれます。もともとは心理療法の領域から出てきた考えで、鍼の研究から出たものではありません。

検証の試みもあります。参加者の全員に同じ資料を渡したうえで、伝え方だけを「あなたは介入群です」「あなたは待機リスト群です」と変えた実験です。小規模な試験では、待機と伝えられた群のほうが悪い方向に動きました。ところが同じ設計の大規模な追試では、強い証拠は得られませんでした。

そして、ここがいちばん弱いところです。待機リストと無治療を直接比べた試験は1件だけで、その1件からは使用可能なデータが得られていません。根拠は、いまのところ間接比較なのです。確実性の評価も低いとされています。

だから当サイトは、こう書きます。「待機リストはノセボであることが分かっている」とは書けません。「その可能性が指摘されており、証拠は間接的で、確実性は低い」までです。

なお、この節で触れた研究はアルコールと精神疾患の領域のもので、鍼のデータではありません。数値と書誌はエビデンスボックス③にまとめてあります。

読むときの一文:「待機リストはノセボだ」は、まだ仮説です。

④ 対照群の中身が、試験ごとに違う

ここは臨床家がいちばん使える視点かもしれません。「待機リスト群」というラベルの下に、実際に何が入っているか。試験によって違います。

膝・股OAのコクランレビューには、はっきり書かれています。「待機リスト対照の全試験で、待機中の参加者は現行レベルの経口NSAIDsまたは鎮痛薬の使用を許可されていた」。

薬は続いているのです。「何もしていない群」という説明は、正確ではありません。

さらに、先ほどのメタ疫学研究には副次の所見がありました。非盲検の対照群では、脱落と併用治療がどちらも増えていたのです(数値はエビデンスボックス①)。待たされる側は、脱落しやすく、他の治療を足しやすい。これは効果量の差として表に出ます。

そしてもう一点。待機リスト群は本来、自然経過と平均への回帰(繰り返し測ると値が平均に近づいて見える統計的な現象)を測るための窓です。②が働くなら、その窓そのものが歪みます。

読むときの一文:「待機リスト」と書いてあったら、その群が何を受けていたかを本文で探す。

同じ試験で、偽鍼比と待機リスト比はどれくらいひらくの?

ここからは実測値です。話を単純にするため、同じ試験の中に偽鍼群と待機リスト群の両方がある試験だけを見ます。

同じ試験の中での、真鍼と偽鍼の差、真鍼と待機リストの差、そして同一試験内の比を3試験について並べた比較

同一試験内の比較

比べる相手を変えると、差の大きさが変わる

偽鍼群と待機リスト群の両方を持つ試験から3本を取り出し、偽鍼と比べた差/待機リストと比べた差/同じ試験の中での比を並べました。指標も単位も試験ごとに違うため、数値は各カードの中だけで比べられます。

緊張型頭痛|約9.5倍
Melchart 2005・n=270・頭痛日数の減少

偽鍼と比べた差=0.6日(95%CI −1.5〜2.6、P=0.58)/待機リストと比べた差=5.7日(3.9〜7.5、P<0.001)/同一試験内の比=約9.5倍

片頭痛|約1.6倍
Zhao 2017・n=249・発作回数の減少(16週)

偽鍼と比べた差=1.1回(0.4〜1.9、P=.002)/待機リストと比べた差=1.8回(1.1〜2.5、P<.001)/同一試験内の比=約1.6倍偽鍼と待機リストの差そのものは有意ではありません(0.7回、−0.1〜1.4、P=.07)

関節痛|ほとんどひらきませんでした(反例)
Hershman 2018・n=226・BPI最悪疼痛(6週)

偽鍼と比べた差=0.92点(0.20〜1.65、P=.01)/待機リストと比べた差=0.96点(0.24〜1.67、P=.01)/同一試験内の比=ほぼ同じ。アロマターゼ阻害薬に関連した関節痛の試験です

指標も単位も試験ごとに違うため、試験どうしの比較はできません。「同一試験内の比」は、その1本の試験の中だけで意味を持つ数字です。この図が示しているのは「同じ1本の試験の中でも、比べる相手を変えると差の大きさが変わる」ということだけで、Hershman 2018 のように、ほとんど変わらない試験もあります。疾患横断の設計論として並べたものです。特定の疾患への効果の主張として読まないでください。3本以外の試験(ART腰痛・ART膝OA・ART片頭痛)の数値は、エビデンスボックス②に記載しています。

上の1本目は、ドイツのART(Acupuncture Randomized Trials)という研究プログラムの試験です。緊張型頭痛・慢性腰痛・膝OA・片頭痛が1本ずつ、「鍼/非経穴へのミニマル鍼/待機リスト」の3群でそろえられています。

そして4本すべてで、偽鍼と比べた差は小さく、待機リストと比べた差は大きい。倍率にすると約2.6倍から約9.5倍です(片頭痛は偽鍼比が0.0日のため、倍率が出せません)。

ここまでなら「待機リスト対照だと大きく出る」で終わります。ですが、いちばん下のカードでは、真鍼と偽鍼の差が0.92点、真鍼と待機リストの差が0.96点。ほぼ同じでした。もうひとつ、Zhao 2017 では偽鍼と待機リストの差そのものが有意ではありません。

だからこの記事は「待機リスト対照だと効果が大きく出る」を法則としては書きません。「大きく出やすい傾向がある。ただし例外もある」。これが正確な言い方です。

Hershman 2018 には52週の報告もあり、そこでも真鍼が偽鍼・待機リストの双方を上回っています。ただし24週から52週の間に全群へ鍼10回分のバウチャーが配られており、待機群も鍼を受けています。52週の「待機比」を「鍼を受けていない人との比較」として読まないでください。

読むときの一文:倍率は「その1本の試験の中の比」です。試験をまたいで持ち出せません。

「鍼なし」との差は、2階建てになっている

では、待機リストと比べたときの大きな差は、どこから来ているのか。これを分解した論文があります。2009年のBMJ。鍼・偽鍼・鍼なしの3群をすべて持つ試験だけを集めたシステマティックレビューです。

3群試験を集めたメタ解析による、鍼と偽鍼の差、偽鍼と鍼なしの差の大きさの比較

差の分解

大きいほうの階は、鍼の特異的な作用では説明されない

鍼・偽鍼・鍼なしの3群をすべて持つ試験だけを集めた解析(13試験・3,025名)と、偽鍼の非特異的効果を測った解析(37試験・5,754名)から、痛みの標準化平均差(SMD)を同じものさしで並べました。※原著ではマイナス表記ですが、ここでは分かりやすさのためプラスにそろえています。

鍼 vs 偽鍼Madsen 2009・13試験3,025名・I²=36%
0.1795%CI 0.08–0.26
偽鍼 vs 鍼なしMadsen 2009・同じ解析・I²=66%
0.4295%CI 0.23–0.60
↓ 別の解析による、同じ向きの所見
偽鍼 vs 鍼なしLinde 2010・37試験5,754名・I²=54%
0.4595%CI 0.34–0.57

待機リストを含む「鍼なし」との差は、この2つが積み重なった形になります。ただし原著は合計値を示していないため、単純な足し算として扱わないでください。さらに重要な注意として、Madsen 2009・Linde 2010 の「鍼なし群」は、待機リストと通常ケアを区別していません。したがってこの図の数値を「待機リスト対照の効果量」として引用することはできません。異質性(試験間のばらつき)は、鍼なしとの比較のほうが大きくなっています(I²=66% 対 36%)。

数字はこうです。鍼 対 偽鍼=0.17。偽鍼 対 鍼なし=0.42。前者は100mmのVASに換算すると4mm。後者はその2倍以上あります。つまり「鍼なしと比べた差」は2階建てで、大きいほうの階は鍼の特異的な作用では説明されない部分です。

もうひとつ、異質性(I²=試験間のばらつきの指標)に注目してください。「鍼なしとの差」のほうが、試験によってブレます。原著の考察にも「鍼なし群のほうが群間のばらつきが大きいようだ」とあり、「盲検化の欠如は、鍼なし群に内在している」とも書かれています。

この論文の結論は否定的です。「鍼には小さな鎮痛効果が見られたが、臨床的な意味に欠けるようであり、バイアスと明確に区別できない」。

なお別の解析には、直感に反する所見がありました。偽鍼が鍼なしを上回る幅が大きい試験ほど、鍼が偽鍼を上回る幅は小さかったというものです(数値はエビデンスボックス②)。「対照が弱い試験ほど鍼が勝ちやすい」という単純な話ではありません。

読むときの一文:「鍼なしとの差」は2階建て。大きいほうの階の中身は、まだ分けられていません。

ドイツで、対照の選び方が2つに分かれた話

ここまでの話が、いちばん鮮やかに見える実例があります。2000年代のドイツです。2000年10月、ドイツの医師・保険者による連邦委員会が、鍼のモデルプロジェクトを開始しました。そこから走った研究プログラムが、対照の選び方で2つに分かれます。

ドイツの鍼のモデルプロジェクトにおける2つの研究プログラムの、対照の選び方と結果の違い

同じ国・同じ時期・同じ疾患

対照の選び方で、答える問いが分かれた

2000年代のドイツで並走した2つの研究プログラムを、対照の選び方で対比しました。

ART/ARC|第3群は待機リスト
問い=そもそも効くのか

ARTは「鍼150/非経穴へのミニマル鍼75/待機リスト75」の3群・52週追跡・30施設。待機群は「2か月間は無治療、そののち半標準化鍼」。ARCは対照群が3か月後に鍼を受けられる実践的試験(腰痛で1,549 対 1,544 を無作為化)。結果=待機リストとの差は大きく、偽鍼との差は小さい

GERAC|第3群は保存療法・標準薬
問い=いま行われている治療と比べてどうか

腰痛・膝OA・片頭痛の3試験。第3群は待機リストではなく実治療です。膝OAではレスポンダー率が伝統鍼53.1%/偽鍼51.0%/保存療法29.1%。片頭痛では真鍼47%/偽鍼39%/標準薬40%。結果=鍼と偽鍼の差は出ないが、両方とも保存療法を上回る場合がある

※ どちらが正しい、という図ではありません
答えている問いが違います

「そもそも効くのか」と「いまの選択肢と比べてどうか」は別の問いです。政策判断は、この両方を見たうえで下されています

GERACは待機リストを使っていません。ART/ARCとGERACを混ぜて「ドイツの試験は待機リストを使った」と要約しないでください。片頭痛の3群(真鍼47%/偽鍼39%/標準薬40%)の差について、当サイトは有意性を確認していません。2006年4月までに慢性腰痛と膝OAについて公的(社会)保険からの償還が認められたと報告されていますが(頭痛は含まれていません)、当サイトは決定機関の文書・正式名称を一次確認していません。また、委員会の呼称を含め、モデルプロジェクトに関する記述は Cummings 2009 の抄録の範囲です。「待機リスト対照の試験があったから保険適用になった」という因果関係を示す図でもありません。ART各試験の経穴・通電条件・置鍼時間は原著未確認のため記載していません。

ART(Acupuncture Randomized Trials)は、待機リストを置きました。目的は明快です。プラセボ効果と自然回復から、鍼の効果を分離すること。先ほどのNIHの整理でいえば、「そもそも効くのか」に答える設計です。

一方GERAC(German Acupuncture Trials)は、第3群に保存療法や標準薬を置きました。「いま行われている治療と比べてどうか」という問いです。

結果の見え方は、まるで違います。ARTでは待機リストとの間に大きな差が出て、偽鍼との差は小さい。GERACでは鍼と偽鍼の差が出ず、しかし両鍼群が保存療法を上回る場面がある。

どちらの結果も、それぞれの問いに対する正しい答えです。混ざりやすいのは、この2つを同じ物差しで読んだときです。

そして2006年4月までに、慢性腰痛と膝OAについて公的保険からの償還が認められたと報告されています。ただし当サイトは、この決定の文書そのものを確認できていません。「待機リスト対照の試験があったから保険適用になった」という因果は書けません。

読むときの一文:対照が違えば、答えている問いも違います。結果の向きだけを比べない。

それでも「待機リスト比較は読まなくていい」とは言えません

ここまで読むと、待機リスト対照の数字を全部割り引きたくなります。その気持ちは分かります。でも、そこまで行くと行き過ぎです。理由を3つ挙げます。

理由1|答えている問いが、そもそも違います

NIHの専門家パネルは、対照の選び方を「試験が何を知りたいか」で決めるべきだとし、3つの目的を挙げています。「そもそも効くのか」「臨床的に意味のある選択肢と比べてどうか」「どう効くのか・なぜ効くのか」。無治療・待機リストは1つめ、偽鍼は3つめ、通常ケア・標準治療は2つめに対応します。

「対抗力の弱い対照」であることと、「無意味な対照」であることは、別の話です。

理由2|コクランは、待機リスト比較を捨てていません

片頭痛予防のコクランレビューを見てください。鍼 対 鍼なし(無治療・通常ケアのみ)の比較で、レスポンダー率は41% 対 17%。RR 2.40、NNTB 4です。この比較のGRADE(エビデンスの確実性の評価)は、moderate(中等度)とされています。

理由の記述がまた誠実です。「盲検化の欠如によるバイアスリスクがあるにもかかわらず、大規模試験が一貫して臨床的に意味のある差を示している」。同じレビューは「6試験すべてで参加者は非盲検であり、その参加者自身が全アウトカムを評価していた。結果としてバイアスは否定できない」とも書いています。

バイアスがあると明記したうえで、1段階下げて、それでも残る差を評価している。これが実務的な扱い方です。だから待機リスト対照の試験は、「質が低い」のではありません。この設計では、この項目が構造的に満点にならないのです。

理由3|大きなデータは、両方の数字を報告しています

39試験・約2万人の個別患者データをまとめた解析は、鍼を行わない対照(待機リストや通常ケアを含む)との差を約0.5 SD、偽鍼との差を約0.2 SDと報告しています。

そして著者は、こう結論しています。「鍼の後の疼痛低下を、プラセボ効果だけで説明することはできない」。同時に「正しい経穴に刺すこと以外の要因も、治療効果への重要な寄与をしている」とも書いています。

片方だけを引くと、原著の改変になります。両方を残してください。

読むときの一文:割り引くのは数字ではなく、その数字が答えている問いのほうです。

じゃあ、この数字をどう割り引いて読むの?

最後に、実務の手順に落とします。論文で待機リスト比の数字を見たときの、3つの確認です。

待機リスト対照の効果量を読むときに確認する3つの手順

読み方の手順

待機リスト比の数字を見たら、この3つを確かめる

数字を割り引くのではなく、何が含まれた数字なのかを言えるようにするための3手順です。

1

対照は何か
待機リストか、無治療か、通常ケアか。論文の表記が「no acupuncture」「control」だけの場合、中身が混ざっていることがあります
2

その対照群は、実際に何を受けていたか
鎮痛薬の継続は許可されていたか。脱落はどれくらいか。他の治療を足していないか。報告規範STRICTAは、対照の正確な記述を求めています
3

盲検はどこまでかかっているか
患者は盲検されているか。アウトカムを評価したのは誰か。患者報告アウトカムなら、押し上げの向きを頭に入れて読みます

この3手順は、原著の記述と報告規範をもとにした当サイトの整理であり、公式なチェックリストではありません。待機リスト比の数字と偽鍼比の数字を、足したり直接比べたりしないでください。SMD・RR・NNTB・平均差は相互に換算できません。この手順を踏んでも「本当の効果量」が求まるわけではなく、数字の意味を取り違えにくくなるだけです。

言い換えると、こうなります。待機リスト比の数字は、鍼の作用だけでなく、待つと知らされたこと・盲検できないこと・自然経過・平均への回帰を含んだ総量です。だから偽鍼比の数字と同じ意味では読めません。それでも、「そもそも受けた人と受けなかった人でどう違うか」という別の問いには、ちゃんと答えています。

読むときの一文:3つを確かめてから、その数字を人に説明する。

当サイトの記事での実例

抽象的な話に聞こえたかもしれません。実は、当サイトの既存記事のあちこちに、この構造が埋まっています。

実例1|腰痛・膝OA|同じART試験を、2本の記事が別々に引いています

腰痛のプロトコル記事は、ART腰痛試験(298名)を紹介しています。待機リストに対しては21.7mmで有意に優れ、偽鍼との差は5.1mmで統計的有意差は示されませんでした(P=.26)。この記事の限界欄には「待機リストは盲検化できず、期待効果の影響を受けやすい」と書いてあります。

膝OAの実務記事は、ART膝OA試験(294名)を「待機比較では有効、偽鍼との差は時間で縮小」と紹介しています。この試験では、52週の時点でミニマル鍼との差は有意でなくなりました(P=0.08)。待機リスト比の大きさと、偽鍼比の縮み方。この2つはセットで読む数字です。

腰痛の鍼|主要RCT3試験のツボ・置鍼時間・回数を比較膝OAの鍼の頻度・回数|運動療法併用と受診の見極め

実例2|膝OA|SMD −0.96 という数字の正体

膝OAのエビデンス記事に、「待機リスト対照・短期:痛みSMD −0.96(−1.19〜−0.72、4試験884名)」という数値があります。読者がいちばん驚く数字かもしれません。

この −0.96 は、ある1本の試験の値ではありません。膝・股OAのコクランレビューが、待機リスト対照の4試験・884名をプールした二次解析で出した値です。同じレビューの偽鍼比は、8週で −0.28、26週で −0.10。事前設定の臨床的閾値は0.39でした。レビュー著者自身も、偽鍼比の差について「不完全な盲検によるプラセボ効果が一因の可能性が高い」と述べています。

なお、待機リスト比較はSummary of findings表に載っていません(二次解析という位置づけのためです)。「コクランが待機リスト比較に高い格付けを与えた」とは読めません。

膝OAに鍼は効く?ACR推奨とNICE非推奨が分かれる理由【論文解説】変形性膝関節症の鍼|効果・頻度・費用を整理した総合ガイド

実例3|片頭痛|「月3.2日改善」の正体は、3群の内訳だった

片頭痛予防の記事は、もともと「月3.2日改善」という誤情報を是正するために書かれたものです。その3.2という数字の正体は、Zhao 2017 の真鍼群の単群の変化量でした。同じ試験の偽鍼群は2.1、待機群は1.4です。

単群の変化量と群間差は、まったく別の数字です。同じ記事には Linde 2005 も載っていて、レスポンダー率は真鍼51%/偽鍼53%/待機15%。偽鍼が真鍼を上回っています。

片頭痛の予防に鍼は効く?Cochrane22試験が示す3つの比較

実例4|文脈効果|同じ落差を、反対側から見る

当サイトには、この記事と対になる記事があります。文脈効果の記事です。あちらは「偽鍼群がなぜ高いのか」を扱い、この記事は「待機リスト群がなぜ低いのか」。同じ落差を、反対側から見ているわけです。

鍼のプラセボ効果と文脈効果|偽鍼群も4〜5割が反応する理由

よくある誤解

誤解1|「待機リスト対照=無治療対照」

定義が違います。待機リストは「事後評価が終わったあとで、対照群にも同じ介入が提供される」条件。無治療は「介入が何も提供されない」条件です。さらに実務上、待機リスト群は完全に何もしていないわけでもありません(鎮痛薬の継続が許可されていた例があります)。

ただし——待機リストと無治療を直接比較した試験は、ほぼ存在しません。「定義上は違う」と言えても、「どれくらい違うか」はまだ分かっていません。

誤解2|「だから待機リスト対照の研究は読まなくていい」

NIHの専門家パネルは、待機リスト・無治療を「そもそも効くのか」に答えるための対照として位置づけています。コクランの片頭痛予防レビューも、盲検化の欠如というバイアスリスクを明記したうえで、鍼 対 鍼なしの比較をmoderateと格付けし、NNTB 4を提示しています。

読まなくていい数字ではありません。足したり、直接比べたりしてはいけない数字です。

この記事は「どの対照が正しいか」を決めるものではありません。対照の型の一覧は鍼のエビデンスは比較対照で変わるで、偽鍼のタイプは偽鍼(シャム鍼)とは何かで、偽鍼群の側で何が起きているかは鍼のプラセボ効果と文脈効果で扱っています。上乗せデザインは上乗せ試験(add-onデザイン)は何を測るか、盲検化の層は鍼で二重盲検が難しい理由です。SMDそのものの読み方と最小重要差(MCID)は、別の記事で扱う予定です。SMD・RR・NNTB・平均差は相互に換算できないため、異なる指標を並べるときは注記を添えてください。

エビデンスボックス① 用語の定義と、バイアスの枠組み(飛ばして読んでもOK)
  • 対照の型の定義(図1の出典):Freedland KE, King AC, Ambrosius WT, et al. The selection of comparators for randomized controlled trials of health-related behavioral interventions: recommendations of an NIH expert panel. J Clin Epidemiol. 2019;110:74-81. PMID:30826377 / DOI:10.1016/j.jclinepi.2019.02.011 / PMC6543841。米国NIHの専門家パネルによる勧告。待機リスト=”The same intervention that is provided to the experimental group is subsequently provided to the comparator group, after the post-test evaluation has been completed.”/無治療=”No intervention is provided.”/通常ケア=参加者が集められた場で日常的に提供されている治療やサービスで、個人ごと・施設ごとに異なることが多い/注意対照=治療群と同じ量の接触をスタッフ・プログラムから受けられるよう設計された条件の総称/プラセボ/シャム=構造的には似ているが有効成分とされるものを欠く条件。対照選択の3つの目的=”Whether it works at all”/”How well it works relative to clinically relevant alternatives”/”How or why it works”。同論文はまた、うつ病と社交不安症の最近のネットワークメタ解析では待機リストよりも無治療やプラセボのほうが改善が大きかったと記載し、根拠として Furukawa 2014・Mayo-Wilson 2014 を引用しています。限界=行動的介入を対象とした勧告であり、鍼の試験のためのガイドラインではありません。
  • コクランの手引きにおける位置づけ:McKenzie JE, Brennan SE, Ryan RE, et al. Chapter 3. In: Cochrane Handbook for Systematic Reviews of Interventions version 6.5. Cochrane, 2024。§3.2.3 は比較の3類型を列挙=介入 vs プラセボ(偽的な手技を含む)/“Intervention versus control (e.g. no intervention, wait-list control, usual care).”/介入A vs 介入B。同章には「プラセボと対照の区別はしばしば恣意的である」という但し書きもあります。手引きは待機リスト対照の使用を禁じても推奨してもいません。比較の一類型として列挙しているだけです。
  • 非盲検の対照がバイアスリスク評価でどう扱われるか:Cochrane Handbook version 6.5, Chapter 8(RoB 2 の解説章)。参加者・介護者・施術者が盲検化されていないことは、意図した介入からの逸脱を招く場合にバイアスの原因になりうる。患者報告アウトカムについては “leading to a judgement of at least ‘Some concerns’.”(少なくとも「いくらか懸念あり」の判定になる)。「試験の質が低い」ではなく「この設計では、この項目が構造的に満点にならない」という理解が正確です。
  • 盲検の有無だけを変えた比較(図2の①の出典):Hróbjartsson A, Emanuelsson F, Skou Thomsen AS, et al. Bias due to lack of patient blinding in clinical trials. A systematic review of trials randomizing patients to blind and nonblind sub-studies. Int J Epidemiol. 2014;43(4):1272-1283. PMID:24881045 / DOI:10.1093/ije/dyu115 / PMC4258786。メタ疫学研究、主解析12試験・3,869名。設計=同一試験の中で患者を「盲検サブスタディ」と「非盲検サブスタディ」に無作為に割り付けた試験だけを集め、同じ介入・同じ集団で盲検の有無だけが違う状況を比較したもの。患者報告アウトカム=”nonblinded patients exaggerated the effect size by an average of 0.56 standard deviation”(95%CI −0.71〜−0.41)。鍼の試験10件=−0.63(−0.77〜−0.49)/鍼以外2件=−0.17(−0.41〜0.07)=有意でない。観察者報告アウトカムでは誇張は見られませんでした。副次=対照群の脱落リスク比1.79(1.18〜2.70)、併用治療リスク比1.55(0.99〜2.43)。この −0.63 は鍼試験10件のサブグループの値であり、「待機リスト対照試験のバイアスが0.63 SD」という意味ではありません。待機リスト対照では患者盲検が原理的にできないため、当サイトが橋渡しをして紹介しています。
  • 報告バイアス(図2の③の出典):Hróbjartsson A, Gøtzsche PC. Placebo interventions for all clinical conditions. Cochrane Database Syst Rev. 2010;(1):CD003974. PMID:20091554。著者の但し書き=患者報告のプラセボ効果と報告バイアスとを区別するのは難しい。Madsen 2009 の考察も、報告バイアス・併用治療・患者と施術者のやりとりのばらつきが、観察されたプラセボ効果のばらつきの一部を説明しうると述べています。「これが何割」とは書けません。原著が区別できないと述べている以上、当サイトも区別できると書きません。
  • 平均への回帰と、待機期間そのものの変化量(図2の⑤の出典):Barnett AG, van der Pols JC, Dobson AJ. Regression to the mean: what it is and how to deal with it. Int J Epidemiol. 2005;34(1):215-220. PMID:15333621当サイトは本文を読んでいないため、抄録レベルの範囲にとどめます=繰り返し測定の自然なばらつきが本当の変化のように見える統計的現象で、ベースライン値で選抜した集団を追跡するほど顕著)/Hesser H, Weise C, Rief W, Andersson G. The effect of waiting: A meta-analysis of wait-list control groups in trials for tinnitus distress. J Psychosom Res. 2011;70(4):378-384. PMID:21414459(11RCT・待機リスト群314名。6〜12週の待機で耳鳴り尺度は3〜8%低下、Hedges’ g = 0.17。耳鳴りの研究であり、鍼でも痛みでもありません)。ART設計論文(Brinkhaus 2003)は、待機リスト群を「2か月間は無治療、そののち半標準化鍼」と定義し、その目的をプラセボ効果と自然回復から鍼の効果を分離することと記しています。
  • 報告規範:MacPherson H, Altman DG, Hammerschlag R, et al. Revised STRICTA: extending the CONSORT statement. PLoS Med. 2010;7(6):e1000261. PMID:20543992。項目6a=研究課題に照らした対照の選択理由とその根拠/項目6b=”Precise description of the control or comparator.”(対照の正確な記述)。
エビデンスボックス② 鍼の試験の実測値(飛ばして読んでもOK)
  • 3群試験だけを集めた分解(図4の出典):Madsen MV, Gøtzsche PC, Hróbjartsson A. Acupuncture treatment for pain: systematic review of randomised clinical trials with acupuncture, placebo acupuncture, and no acupuncture groups. BMJ. 2009;338:a3115. PMID:19174438 / PMC2769056。SR-MA、13試験・3,025名(さまざまな痛みの病態)。鍼・偽鍼・鍼なしの3群をすべて持つ試験に限定。鍼 vs 偽鍼=SMD −0.17(95%CI −0.26〜−0.08)=100mm VASで4mm(2〜6mm)、P=0.10、I²=36%/偽鍼 vs 鍼なし=SMD −0.42(−0.60〜−0.23)、P<0.001、I²=66%。「鍼なし」群=標準ケアのみを受ける群で、併用は鎮痛薬13件・理学療法5件。基礎ケアが3群で異なる試験は除外。考察=”Lack of blinding is inherent in the no acupuncture groups”/鍼なし群のほうが群間のばらつきが大きいようだ。著者結論=鍼には小さな鎮痛効果が見られたが、臨床的な意味に欠けるようであり、バイアスと明確に区別できない。限界=13試験と少なく、痛みの病態が混在し、異質性が大きい。否定的トーンの強い論文です。
  • 偽鍼の非特異的効果の大きさ(図4の3本目・本文の「直感に反する所見」の出典):Linde K, Niemann K, Schneider A, Meissner K. How large are the nonspecific effects of acupuncture? A meta-analysis of randomized controlled trials. BMC Med. 2010;8:75. PMID:21092261 / PMC3001416。37試験・5,754名。偽鍼 vs 鍼なし=SMD −0.45(95%CI −0.57〜−0.34、I²=54%)(連続アウトカム32試験)。”Trials with larger effects of sham over no acupuncture reported smaller effects of acupuncture over sham intervention”(β = −0.39, P = 0.029)。「鍼なし」群の定義=真の鍼も偽鍼も受けない群で、完全な無治療の場合もあれば、他群にも施された治療(レスキュー薬・基礎治療・ルーチンケア)を受ける場合もあるこの論文は「鍼なし」の中身(待機リストか通常ケアか)を分けていません。「待機リスト対照の効果量」として引用できません。著者が挙げた最大の限界=患者・介入・アウトカム・方法論的質にわたる強い異質性。
  • 膝・股OAのコクランレビュー(実例2の出典):Manheimer E, Cheng K, Linde K, et al. Acupuncture for peripheral joint osteoarthritis. Cochrane Database Syst Rev. 2010;2010(1):CD001977. PMID:20091527 / PMC3169099。16RCT・3,498例(膝OA 12件・股OA 3件・混合1件)。痛みの待機リスト比 SMD −0.96(95%CI −1.19〜−0.72、4試験884名)。原著はこれを「待機リスト対照との二次解析」と位置づけており、特定の1試験の値ではありません。機能の待機リスト比=−0.89(−1.18〜−0.60)。偽鍼比8週=−0.28(−0.45〜−0.11、9試験1,835例)/偽鍼比26週=−0.10(−0.21〜0.01)。事前設定の臨床的閾値は痛み0.39・機能0.37。著者の解釈=偽鍼に対する利益は小さく閾値に届かず、不完全な盲検によるプラセボ効果が一因の可能性が高い。待機リスト比較はSummary of findings表には掲載されておらず、待機リスト比較のGRADE格付けは提示されていません。対照群の中身=”For all waiting list-controlled trials, participants on the waiting lists were allowed to receive the current level of oral NSAID or analgesic therapy.”/待機リストを用いた5試験について、参加者が鍼を開始したあとの測定はすべて除外している。末梢関節OAのレビューであり、腰痛のレビューではありません。
  • 片頭痛予防のコクランレビュー(理由2の出典):Linde K, Allais G, Brinkhaus B, et al. Acupuncture for the prevention of episodic migraine. Cochrane Database Syst Rev. 2016;2016(6):CD001218. PMID:27351677 / PMC4977344。鍼 vs 鍼なし(無治療/通常ケアのみ)=レスポンダー率41% vs 17%、RR 2.40(95%CI 2.08〜2.76)、4試験2,519名、NNTB 4(3〜6)、頭痛頻度SMD −0.56(−0.65〜−0.48、2,199名)。GRADE=moderate quality。その理由=”large trials consistently show clinically relevant differences, in spite of the risk of bias due to lack of blinding.”。リスクの記述=6試験すべてで参加者は非盲検であり、その参加者自身が全アウトカムを評価していた。結果としてバイアスは否定できない。
  • 偽鍼群と待機リスト群の両方を持つ6試験(図3に使った3試験+ART残り3試験)
    ① Melchart D, et al. BMJ. 2005;331(7513):376-382. PMID:16055451。270名(反復性または慢性の緊張型頭痛、女性74%、平均43歳)、8週で12回、ドイツの28外来施設。頭痛日数の減少=鍼7.2日(SD 6.5)/ミニマル鍼6.6日(SD 6.0)/待機1.5日(SD 3.7)。群間差=vs ミニマル鍼 0.6日(95%CI −1.5〜2.6、P=0.58)/vs 待機 5.7日(3.9〜7.5、P<0.001)=約9.5倍。著者結論=無治療より有効だったが、ミニマル鍼より有意に有効ではなかった。
    ② Brinkhaus B, et al. Arch Intern Med. 2006;166(4):450-457. PMID:16505266。n=298(鍼146/ミニマル鍼73/待機79、女性67.8%、平均59±9歳)、8週で12回。疼痛VASの低下=鍼28.7±30.3mm/ミニマル鍼23.6±31.0mm/待機6.9±22.0mm。vs ミニマル鍼 5.1mm(95%CI −3.7〜13.9、P=.26)/vs 待機 21.7mm(P<.001)=約4.3倍
    ③ Witt C, et al. Lancet. 2005;366(9480):136-143. PMID:16005336n=294(群別内訳は原著の記載どおり鍼150/ミニマル鍼76/待機74で、内訳の合計は抄録の総数と一致しません。当サイトは294で統一しています)。8週で12回。8週のWOMAC(ベースライン調整)=鍼26.9(SE 1.4)/ミニマル鍼35.8(1.9)/待機49.6(2.0)。差=vs ミニマル鍼 −8.8(−13.5〜−4.2、P=0.0002)/vs 待機 −22.7(−27.5〜−17.9、P<0.0001)=約2.6倍52週ではミニマル鍼との差は有意でなくなりました(p=0.08)。
    ④ Linde K, et al. JAMA. 2005;293(17):2118-2125. PMID:15870415。n=302(鍼145/偽鍼81/待機76)。中等度以上の頭痛日数の差=vs 偽鍼 0.0日(P=.96)/vs 待機 1.4日(P<.001)偽鍼比が0.0日のため、倍率は算出できません。レスポンダー率=真鍼51%/偽鍼53%/待機15%(53%は偽鍼群の値です)。
    ⑤ Zhao L, et al. JAMA Intern Med. 2017;177(4):508-515. PMID:28241154。3群=真鍼/偽鍼/待機リスト。n=249(ITT 245、女性77.1%)。16週の発作回数の減少=真鍼3.2(SD 2.1)/偽鍼2.1(SD 2.5)/待機1.4(SD 2.5)。群間差=真鍼 vs 偽鍼 1.1回(0.4〜1.9、P=.002)/真鍼 vs 待機 1.8回(1.1〜2.5、P<.001)=約1.6倍/偽鍼 vs 待機 0.7回(−0.1〜1.4、P=.07)=有意差なし
    ⑥ Hershman DL, et al. JAMA. 2018;320(2):167-176. PMID:29998338。米国11施設、閉経後・早期乳がん・アロマターゼ阻害薬服用中でBPI最悪疼痛3点以上。226名を無作為化(真鍼110/偽鍼59/待機57)、91.1%が完遂。6週のBPI-WP低下=真鍼2.05点/偽鍼1.07点/待機0.99点。調整後差=真鍼 vs 偽鍼 0.92(0.20〜1.65、P=.01)/真鍼 vs 待機 0.96(0.24〜1.67、P=.01)=ほぼ同じ(反例)。著者結論=6週で統計的に有意な関節痛の低下が得られたが、”the observed improvement was of uncertain clinical importance”(観察された改善の臨床的重要性は不確か)。52週報告=JAMA Netw Open. 2022;5(11):e2241720. PMID:36367721(真鍼 vs 偽鍼 1.08点低い[0.24〜1.91、P=.01]/真鍼 vs 待機 0.99点低い[0.12〜1.86、P=.03]。ただし24〜52週の間に全群へ鍼10回分のバウチャーが配られており、待機群も鍼を受けています)。
    ※ 指標も単位も試験ごとに異なるため(頭痛日数/VAS mm/WOMAC点/発作回数/BPI点)、「同一試験内の比」は試験どうしの比較には使えません。
  • 両論の担保:Vickers AJ, Vertosick EA, Lewith G, et al. Acupuncture for Chronic Pain: Update of an Individual Patient Data Meta-Analysis. J Pain. 2018;19(5):455-474. PMID:29198932。39試験・20,827例。原著の対照は “no acupuncture control”=鍼を行わない対照で、待機リストだけでなく通常ケアを含みます。その差は “close to .5 SDs”、偽鍼との差は “close to .2 SDs”。両者は別々の試験群からの値です。1年で約15%の減衰。著者結論=”Although factors in addition to the specific effects of needling at correct acupuncture point locations are important contributors to the treatment effect, decreases in pain after acupuncture cannot be explained solely in terms of placebo effects.”
エビデンスボックス③ 「待つこと」の研究、ドイツの経緯、この記事の限界(飛ばして読んでもOK)
  • 「待て」と伝えることの直接検証(小規模・陽性):Cunningham JA, Kypri K, McCambridge J. Exploratory randomized controlled trial evaluating the impact of a waiting list control design. BMC Med Res Methodol. 2013;13:150. PMID:24314204 / PMC4029562。危険な飲酒者185名の全員に同じ介入資料を渡したうえで、A群には介入群である、B群には待機リスト群であり資料の送付まで4週間待つ必要があると伝えた。追跡4週、157名(85%)が完了。結果=行動を変える準備の尺度が中央値より上だった人のうち、待機リスト条件の群は介入条件の群より週あたり約6ドリンク多く飲んでいた(交互作用項1.08[0.00〜2.16]、p≤.05)。著者結論=待機リスト対照条件を用いた試験は治療効果を過大評価しうるが、そのバイアスの程度は研究集団によって異なると考えられる、というもの。著者が挙げた限界=事前に作成した解析計画がなかったこと。アルコール(危険な飲酒)の探索的試験であり、鍼の試験ではありません。
  • 同じ設計の大規模追試(陰性):Ulfsdotter Gunnarsson K, Henriksson M, McCambridge J, Bendtsen M. Effects of a waiting list control design on alcohol consumption among online help-seekers: A randomised controlled trial. Drug Alcohol Depend. 2024;263:112409. PMID:39153442(プロトコル論文=BMJ Open. 2021;11:e049810. PMID:34446493)。3,388名を無作為化(介入と伝えた群1,692/待機と伝えた群1,696)。両群とも実際には即時アクセスを付与。1か月追跡でデータが得られたのは954名。結果=”We found no strong evidence that alcohol consumption differed between groups”(IRR = 0.95, 95%CI = 0.83; 1.08, probability of effect = 78.8%)。ただし介入資料への関与には差が出ており、実験操作自体は成功していたと著者は述べています。
  • 心理療法領域のネットワークメタ解析(間接証拠・鍼のデータではありません)
    ① Furukawa TA, Noma H, Caldwell DM, et al. Waiting list may be a nocebo condition in psychotherapy trials: a contribution from network meta-analysis. Acta Psychiatr Scand. 2014;130(3):181-192. PMID:24697518当サイトは本文を読んでいないため、抄録レベルの範囲にとどめます。49RCT・2,730名。うつ病急性期のCBTを、待機リスト(WL)/無治療(NT)/心理的プラセボ(PP)と比べたネットワークメタ解析。”The odds ratio of response for NT over WL was statistically significant at 2.9 (95% CI: 1.3-5.7).”。ただし同じ抄録が “Significant differences did not persist in post hoc sensitivity analyses attempting to adjust for publication bias.”(出版バイアスを調整する事後感度分析では、有意差は保たれなかった)と記載しています。著者結論も “There may be important differences…” と断定を避けています。
    ② Michopoulos I, Furukawa TA, Noma H, et al. Different control conditions can produce different effect estimates in psychotherapy trials for depression. J Clin Epidemiol. 2021;132:59-70. PMID:33338564。123試験・12,596名、I²=55.9%(45.9〜64.0%)。待機リストが最も「弱い」対照=無治療との比 OR 1.93(1.30〜2.86)/心理的プラセボとの比 OR 2.03(1.21〜3.39)/薬プラセボとの比 OR 2.66(1.45〜4.89)。著者は対照の型をまとめて解析すべきではないと勧告。依然として間接比較です。
    ③ Mayo-Wilson E, Dias S, Mavranezouli I, et al. Psychological and pharmacological interventions for social anxiety disorder in adults. Lancet Psychiatry. 2014;1(5):368-376. PMID:26361000 / PMC4287862。101試験・13,164名。待機リストをネットワークの基準に事前設定。心理的プラセボ vs 待機リスト SMD −0.63(95%CrI −0.90〜−0.36)/薬のプラセボ vs 待機リスト −0.47(−0.71〜−0.23)。”non-specific factors might account for about half the total effects of individual CBT and SSRIs.”
  • コクランの方法論レビュー(「直接比較がない」の出典):Faltinsen E, Todorovac A, Staxen Bruun L, et al. Control interventions in randomised trials among people with mental health disorders. Cochrane Database Syst Rev. 2022;4(4):MR000050. PMID:35377466 / PMC8979177。96試験・15の精神疾患。プラセボ介入(全体) vs 待機リスト・無治療=SMD −0.37(−0.49〜−0.25、I²=41%、65試験2,446名)/心理的プラセボ=−0.49(−0.64〜−0.30、39試験1,656名)/物理的プラセボ=−0.21(−0.35〜−0.08、I²=0%、17試験896名)/薬理学的プラセボ=−0.14(−0.39〜0.11)=有意差なし/通常ケア vs 待機リスト・無治療=−0.33(−0.83〜0.16)=有意差なし、I²=86%。待機リスト vs 無治療の直接比較=1試験のみで、使用可能なデータが得られなかった。著者結論=対照の選択は、その治療がどれだけ有効に見えるかに相当な影響を与える、というもの。確実性は全比較で low〜very low。精神疾患の試験を対象にした方法論レビューであり、鍼の話ではありません。
  • ドイツのモデルプロジェクト(図5の出典):Cummings M. Modellvorhaben Akupunktur—a summary of the ART, ARC and GERAC trials. Acupunct Med. 2009;27(1):26-30. PMID:19369191抄録の範囲でのみ確認。委員会の呼称を含め、モデルプロジェクトに関する当サイトの記述はこの抄録の範囲です。)。2000年10月に開始。非経穴へのミニマル鍼による偽鍼も治療的文脈のなかでは同程度に有効で、”is unlikely to be an inactive placebo”。2006年4月までに、慢性腰痛と膝OAについて公的(社会)保険からの償還が認められた(頭痛は含まれない)。当サイトは決定機関の正式名称・決定文書を一次確認していません。/ART設計論文=Brinkhaus B, et al. Forsch Komplementarmed Klass Naturheilkd. 2003;10(4):185-191. PMID:12972723(3群=半標準化鍼150/非経穴へのミニマル鍼75/待機リスト75。待機リスト群は “no treatment for two months followed by semi-standardized acupuncture”。ドイツの30施設、1試験あたり300名、52週追跡)/ARC=Witt CM, et al. Am J Epidemiol. 2006;164(5):487-496. PMID:16798792(腰痛で1,549名 対 1,544名を無作為化、非無作為化群8,537名。対照=鍼なし+ルーチンケアのみで、3か月後に鍼を受けられる。3か月時点で腰の機能が12.1 vs 2.7 改善=差9.4[95%CI 8.3〜10.5、P<0.001]。ICER €10,526/QALY)/GERAC=待機リストを使っていません=Haake 2007(腰痛・第3群は保存療法)/Scharf HP, et al. Ann Intern Med. 2006;145(1):12-20. PMID:16818924(膝OA・n=1,007。レスポンダー率=伝統鍼53.1%/偽鍼51.0%/保存療法29.1%)/Diener HC, et al. Lancet Neurol. 2006;5(4):310-316. PMID:16545747(片頭痛・n=960。真鍼47%/偽鍼39%/標準薬40%。この3群の差の有意性について、当サイトは確認していません)。
  • この記事の限界:① SMD −0.96 は Witt 2005 単独の値ではなく、コクランCD001977 が待機リスト対照4試験884名をプールした二次解析の値です。Witt 2005 のnは、抄録本文が294、群別内訳の合計が300で一致しません。当サイトは294を採用しています。Furukawa 2014・Michopoulos 2021・Mayo-Wilson 2014・MR000050 は精神医学/心理療法領域の研究です。鍼のデータではありません。④ Furukawa 2014 は本文未読(抄録範囲のみ)。Barnett 2005 も本文未読です。⑤ 待機リストと無治療を直接比較したデータは、実質的に存在しません。ノセボ仮説の根拠は間接比較が中心で、確実性は low〜very low です。⑥ Cunningham 2013 はアルコールの探索的試験(n=185・事前解析計画なし)で、大規模追試(n=3,388)は強い証拠を見いだしていません。⑦ Hróbjartsson 2014 の −0.63 は鍼試験10件のサブグループの値であり、待機リスト対照試験のバイアスの大きさを直接測ったものではありません。Madsen 2009・Linde 2010 の「鍼なし群」は、待機リストと通常ケアを区別していません。⑨ 単位・指標が違う試験の数値は、そのまま比較できません。図3の「同一試験内の比」は、試験どうしの比較には使えません。結論ボックスと本文の「約2.6〜9.5倍」は、倍率を算出できた3本(膝OA 約2.6倍/腰痛 約4.3倍/緊張型頭痛 約9.5倍)の範囲です。⑩ Hershman 2018/2022 の52週の比較では、24〜52週の間に待機群も鍼を受けています。⑪ ドイツの保険償還の決定機関・決定文書は当サイト未確認で、モデルプロジェクトの記述は Cummings 2009 の抄録の範囲です。⑫ ART各試験・膝OA各試験の経穴・通電条件・置鍼時間は原著未確認のため記載していません。⑬ コクランの手引きは、待機リスト対照の使用を禁じても推奨してもいません。⑭ この記事は「どの対照が正しいか」を決める記事ではありません。

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本記事は鍼灸師向けの学術情報の提供を目的としたものであり、特定の治療効果を保証するものではありません。効果には個人差があります。鍼灸師は疾病の診断を行う立場にはありません。症状の型の判断や併存疾患の評価は医療機関の役割です。個別の患者への対応にあたっては、受診を優先すべきサインがないかを確認し、必要に応じて医療機関の受診をおすすめしてください。

【AI作成・編集責任について】本記事はAI(人工知能)が作成し、株式会社addwisteria の加藤タカシが編集責任者として内容を確認しています。引用した論文・ガイドラインの数値や推奨は改訂により変わることがあるため、実際の臨床判断では各原典の最新版をご確認ください。

更新履歴

本記事は初版です。原典の改訂(コクランレビューの更新など)に応じて追記します。
本記事はコクランレビュー(CD001977・CD001218・MR000050)とコクランの手引き(version 6.5)、NIH専門家パネルの勧告(Freedland 2019)、メタ疫学研究(Hróbjartsson 2014)を主な典拠にしています。コクランレビューと手引きは改訂されることがあり、改訂を確認した時点で数値と記述を見直し、この欄に追記します。当サイトの一次確認の範囲(全文/抄録のみ等)が変わった場合も同様です。とくにFurukawa 2014 の本文を確認できた場合は、記述の精度を上げてこの欄に追記します。

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