「論文で効果が示されました」と聞くたびに、こう思ったことはありませんか?
——で、実際どこに、何本、何回打ったんだろう?と。
効果量の数字は紹介されても、施術の中身まで語られることは少ないですよね。気になったまま、そっと閉じた論文もあると思います。
この記事を読むと、腰痛の大規模試験3本で実際に採用された打ち方の枠組みがわかります。記事の後半には、患者さんへの説明トーク例も載せていますよ。
結論
3試験の施術プロトコルは「半標準化」が共通でした。GERACとBrinkhausでは、週1〜2回・計10〜12回・置鍼30分・通電なしという枠組みが採られています。
ただしこれは各試験の研究上の設定であり、推奨プロトコルではありません。3試験とも本鍼と偽鍼のあいだに統計的有意差は示されておらず、この設定が結果をもたらしたという証拠は得られていません。
この「有意差が出なかった」という結果、解釈には重要な但し書きがあります。そこは後半の「正直な話」で書きますね。
これは推奨ではなく、研究で採られた設定の紹介です。
▶ この記事は「腰痛×鍼」クラスターの施術プロトコル編です。全体像は 腰痛への鍼|鍼灸師のためのエビデンス総合ガイド をどうぞ。
そもそも「半標準化」って何のこと?
3試験に共通するキーワードが「半標準化」です。聞き慣れない言葉かもしれません。
意味はシンプルで、枠は決めるけれど、中身は術者に委ねるやり方のことです。たとえば「この範囲から最低4穴」とだけ決め、どの穴を選ぶかは術者が判断します。
完全にガチガチだと、現場の実態から離れてしまいます。かといって自由すぎると、研究として比較ができません。その折衷案が半標準化、というわけですね。
① GERAC試験の施術プロトコル|経穴・本数・置鍼30分・週2回×10回
まずは規模の大きいGERACから見ていきましょう。慢性腰痛の患者さんを、本鍼・偽鍼・通常治療の3群に分けた試験です。
対象は、平均で8年ほど腰痛を抱えてきた方たち。かなり手強い層ですよね。
選穴と刺鍼条件
| 穴の選び方 | 半標準化。腰部の局所/分節点から最低4穴を両側 + 阿是穴・遠隔点を追加 |
| 候補に挙がった穴 | BL20(脾兪)〜BL34(下髎)、BL50(胃倉)〜BL54(秩辺)、GB30(環跳)、GV3(腰陽関)〜GV6(脊中)、華佗夾脊(EX-B2)、十七椎下(EX-B9) など |
| 本数 | 1回あたり14〜20本 |
| 深さ | 5〜40mm |
| 刺激 | 得気を誘発 |
| 置鍼 | 30分 |
| 頻度・回数 | 週2回×10回(部分反応者は5回まで追加) |
| 電気鍼(通電) | なし |
ざっくり言えば、腰の膀胱経ライン+督脈+夾脊+環跳あたりから選ばれていた、という枠組みです。なお、どこまでが決められた穴で、どこからが術者の選択だったか。その正確な区分は原著のMethods要確認です。
結果
6か月後の反応率は、本鍼47.6%・偽鍼44.2%・通常治療27.4%でした。本鍼は通常治療のおよそ1.7倍です。
ただしこれは反応率の比であって、鍼が通常治療より優れた治療法だと示したものではありません。比較の一断面として受け取ってくださいね。
そして本鍼と偽鍼の差は、わずか3.4%。統計的な有意差は示されませんでした(差がないことの証明ではありません)。
エビデンスボックス① 出典と研究の詳細(深く知りたい方向け)
- デザイン:多施設・盲検化ランダム化比較試験(3群)
- n数:1,162人(本鍼387/偽鍼387/通常治療388)。平均罹病期間 約8年
- 主要結果:6か月時点の反応率 本鍼47.6% vs 偽鍼44.2%(差3.4%、P=.39、統計的有意差は示されず)/通常治療27.4%
- 限界:経穴特異的な効果を示せなかった。本試験は同等性を検証する設計ではないため、有意差なし=同等の証明ではない。偽鍼として用いた浅刺が、不活性なプラセボとは言い切れない可能性もある。必須穴・選択穴の区分は原著要確認。
- 書誌:Haake M, et al. German Acupuncture Trials (GERAC) for Chronic Low Back Pain. Arch Intern Med. 2007;167(17):1892-1898. PMID:17893311 doi:10.1001/archinte.167.17.1892
② Brinkhaus 2006の施術プロトコル|局所点と遠隔点の使い分け・12回/8週
次はBrinkhausの試験です。鍼・最小限鍼(偽鍼)・待機リストの3群に分けています。
この試験は、経穴リストが局所点と遠隔点に分けて公開されています。プロトコルの中身が見えやすいのが特徴ですね。
選穴と刺鍼条件
| 局所点 | BL20(脾兪)〜BL34(下髎)、BL50(胃倉)〜BL54(秩辺)、GB30(環跳)、GV3(腰陽関)・GV4(命門)・GV5(懸枢)・GV6(脊中)、華佗夾脊、十七椎下 |
| 遠隔点(症状に応じ選択) | SI3(後渓)、BL40(委中)・BL60(崑崙)・BL62(申脈)、KI3(太渓)・KI7(復溜)、GB31(風市)・GB34(陽陵泉)・GB41(足臨泣)、LR3(太衝)、GV14(大椎)・GV20(百会) |
| 刺激 | 得気を目標。各回に最低1回は手技刺激を加える |
| 置鍼 | 30分 |
| 頻度・回数 | 計12回を8週間(最初の4週は週2回、残り4週は週1回) |
| 電気鍼(通電) | なし |
こちらも同じで、腰の膀胱経ライン+督脈+夾脊+環跳が土台。そこに、症状に応じて手足の遠隔点を足していく枠組みです。
結果
待機リスト(何もせずに待つ群)に比べると、鍼群ははっきり優れていました。疼痛(VAS 0〜100mm)の群間差は21.7mmです。
一方、偽鍼との差は5.1mm。ここでも統計的な有意差は示されませんでした(差がないことの証明ではありません)。
エビデンスボックス② 出典と研究の詳細(深く知りたい方向け)
- デザイン:ランダム化比較試験(3群)
- n数:298人(鍼146/最小限鍼[偽鍼]73/待機リスト79)
- 主要結果:待機リストに対し有意に優れる(疼痛VAS 0〜100mm の群間差 21.7mm、P<.001)。偽鍼との差は 5.1mm で統計的有意差は示されず(P=.26)
- 限界:偽鍼群との差が示されず、経穴特異的効果の証明にはならない。同等性検証の設計ではないため、有意差なし=同等ではない。待機リストは盲検化できず、期待効果の影響を受けやすい。
- 書誌:Brinkhaus B, et al. Acupuncture in Patients With Chronic Low Back Pain: A Randomized Controlled Trial. Arch Intern Med. 2006;166(4):450-457. doi:10.1001/archinte.166.4.450
③ Cherkin 2009の施術プロトコル|爪楊枝の疑似鍼を含む4群比較・10回/7週
3つ目はアメリカの試験です。個別化鍼・標準化鍼・疑似鍼・通常ケアの4群に分けた設計になっています。
選穴と刺鍼条件
正直に書きますね。この試験については、経穴名や置鍼時間まで手元で確認できていません。
確認できているのは、次の2点だけです。
- 計10回を7週間かけて実施
- 4群のうち疑似鍼は、爪楊枝で刺激し皮膚を貫通しない方法
経穴名・置鍼時間・電気鍼の有無は原著要確認です。表にできるほどの情報が揃っていない、というのが実情です。
結果
8週時点の機能障害(Roland-Morris障害質問票、0〜23点)の改善は、鍼群4.4〜4.5点。通常ケアは2.1点でした。
1年後も、実鍼・疑似鍼ともに臨床的に意味のある改善が59〜65%。通常ケアは50%でした。
そして実鍼と疑似鍼のあいだには、統計的な有意差が示されませんでした(差がないことの証明ではありません)。著者らは、結論でこう述べています。
慢性腰痛に対して鍼は有効と認められたものの、患者ごとに刺鍼部位を個別化することや皮膚を貫通することは、治療効果を生むうえでは重要でないようだ。この結果は、鍼の作用機序とされてきたものに疑問を投げかける。
(Cherkin DC, et al. 2009, Abstract Conclusions)
前半の留保つきである点が大事です。「鍼は無意味だった」と読むのは、著者の主張とずれてしまいます。
エビデンスボックス③ 出典と研究の詳細(深く知りたい方向け)
- デザイン:ランダム化比較試験(4群)
- n数:638人(個別化鍼/標準化鍼/疑似鍼[非貫通・爪楊枝]/通常ケア)
- 主要結果:8週時点の機能障害改善(Roland-Morris障害質問票 0〜23点)鍼群 4.4〜4.5点 vs 通常ケア 2.1点(P<.001)。1年後、実鍼・疑似鍼とも臨床的に意味ある改善 59〜65% vs 通常ケア 50%。実鍼と疑似鍼のあいだに統計的有意差は示されず
- 限界:疑似鍼(非貫通)でも同等の改善が観察されたが、同等性検証の設計ではないため「差がない」ことの証明にはならない。鍼特異的な機序を支持する結果でもない。具体的な経穴・置鍼時間・通電の有無は原著要確認。
- 書誌:Cherkin DC, et al. A Randomized Trial Comparing Acupuncture, Simulated Acupuncture, and Usual Care for Chronic Low Back Pain. Arch Intern Med. 2009;169(9):858-866. PMID:19433697
3試験のプロトコルに共通する「型」はある?
先に一行でまとめますね。
GERACとBrinkhausに共通するのは、週1〜2回・計10〜12回・置鍼30分・通電なし。Cherkin 2009は回数(10回/7週)のみ確認でき、置鍼時間と通電の有無は原著要確認です。
つまり「3試験に共通の型」と言い切るのは、まだ早いということですね。そのうえで並べてみましょう。
| GERAC | Brinkhaus 2006 | Cherkin 2009 | |
|---|---|---|---|
| 頻度 | 週2回 | 週2回→週1回 | 10回/7週 |
| 総回数 | 10回(+最大5回) | 12回 | 10回 |
| 期間 | 約5週 | 8週 | 7週 |
| 置鍼 | 30分 | 30分 | 確認できず |
| 穴の決め方 | 半標準化 | 半標準化 | 個別化/標準化を比較 |
| 電気鍼 | なし | なし | 確認できず |
通電については、はっきりさせておきたい点があります。GERACとBrinkhausは電気鍼を用いていません。
ですから「大規模RCTで効果が出たのは電気鍼だから」という説明は、この2試験には当てはまりません。そもそも3試験とも、本鍼が偽鍼を上回ったとは言えない結果です。通電の有無を、効果の根拠として語らないほうが安全ですね。
本鍼と偽鍼で有意差が出なかった|この結果をどう受け止めるか
ここが、この記事でいちばん書きにくいところです。でも逃げずに書きますね。
3試験すべてで、本鍼と偽鍼の統計的な有意差は示されませんでした。浅刺でも、爪楊枝でも、結果は似た水準だったということです。
つまり「この経穴に、この深さで刺したから効いた」とは言えません。プロトコルの中身が結果を決めた、という証拠は得られていないのです。
▶ 有効性そのものの評価(ACP推奨とNICE非推奨の食い違い)は、こちらで整理しています:腰痛への鍼のエビデンス|ACP推奨・NICE非推奨をどう説明するか
ここで大事な但し書きを2つ。まず、3試験はいずれも「同等である」ことを検証する設計ではありません。ですから有意差が出なかったことは、「差がないことの証明」ではないんですね。
もう一つ。偽鍼として使われた浅刺は、本当に何もしていないとは言い切れません。「差が出なかった」の解釈自体に、議論が残っているのが実情です。
一方で、見落としてはいけない事実もあります。鍼群も偽鍼群も、通常治療や待機リストよりは改善していました。
では、何が働いていたのか。触れられること、時間をかけて向き合うこと、期待感。そうした非特異的な要素の関与を指摘する議論はあります。
ただし本記事で扱った3試験は、これらを直接測定していません。あくまで解釈のひとつとして受け取ってください。
▶ 鍼が働くしくみをめぐる仮説の整理は、こちらへ:鍼はなぜ効くのか|鎮痛の作用機序を5つの仮説で整理【文献付】
この歯切れの悪い結果を知っておくことは、損ではないと思います。むしろ患者さんに誇張しない説明ができるようになりますよね。
参考:研究の回数設定を、説明にどう使うか
「何回くらい通えばいいですか?」よく聞かれる質問ですよね。
研究で採用された回数・期間は、説明を組み立てる材料になります。効果を保証しない言い方で、2つ用意しました。
トーク例①(回数と期間の見通しを伝える)
「海外の大きな研究では、週1〜2回のペースで、7〜8週かけて10〜12回という進め方が研究上の設定として採られていました。効果をお約束するものではありませんし、同じ日程なら同じ結果になるという意味でもありません。回数は体の反応を見ながら一緒に決めていきましょう。」トーク例②(1回で判断しない、と伝えたいとき)
「研究でも、1回で結論を出す形ではなく、何度か重ねて評価されていました。ですので、今日1回でどうなるかというより、少し期間をとって見ていきたいんです。途中で変化がなければ、進め方も一緒に見直しますね。」
なお、これらの研究では本鍼と偽鍼のあいだに有意差が示されていません。回数の話を「効果の裏づけ」として使わないようご注意ください。
経穴リストを見るときの注意|BL23腎兪・BL25大腸兪・BL40委中・GB30環跳は候補
最後に、いちばん誤解されやすい点を。記事中の経穴リストは、固定穴ではありません。
あれは「試験で採用候補として明示された穴」です。すべての症例に同じ穴が打たれたわけではありません。
たとえばBL23(腎兪)やBL25(大腸兪)。GERACとBrinkhausの「BL20(脾兪)〜BL34(下髎)」という範囲には含まれますが、使われたと断定はできません。
BL40(委中)はBrinkhausで遠隔点として明示されています。GB30(環跳)は両試験のリストに入っています。それでも、あくまで候補であって、決まった穴ではないんですね。
そして各試験で、どこまでが決められた穴でどこからが術者の裁量だったか。その細かい区分は原著のMethodsを確認してください。
よくある質問|置鍼時間・電気鍼・治療回数
Q. 3試験のプロトコルは、そのまま真似していいですか?
研究用に組まれた枠組みなので、そのまま臨床の正解にはなりません。あくまで「大規模試験ではこう組まれた」という参照例として扱ってください。
Q. 電気鍼(通電)は使われていましたか?
GERACとBrinkhausは用いていません。Cherkin 2009については確認できていません(原著要確認)。
Q. 置鍼時間はどれくらいが標準ですか?
GERACとBrinkhausはどちらも30分でした。ただしこれは各試験の設定であり、最適時間を示した研究ではありません。
Q. 何回で判断するのが妥当ですか?
3試験では10〜12回を7〜8週かけて実施し、その後に評価しています。判断の目安として参考にはなりますが、効果を保証する回数ではありません。
Q. 偽鍼と有意差がないなら、鍼は意味がないということですか?
そうは読めません。3試験は同等性を検証する設計ではなく、有意差なしは「差がないことの証明」ではないためです。また偽鍼(浅刺・非貫通)が不活性とも言い切れません。
まとめ
- 3試験の選穴は「半標準化」。枠を決めて、選穴は術者に委ねる形でした
- GERACとBrinkhausは週1〜2回・計10〜12回・置鍼30分・通電なし。Cherkinは10回/7週のみ確認でき、置鍼時間と通電は原著要確認です
- GERACの6か月反応率は本鍼47.6% vs 通常治療27.4%(およそ1.7倍)。ただしこれは反応率の比であって、鍼が通常治療より優れた治療法だと示したものではありません
- 3試験とも、本鍼と偽鍼のあいだに統計的有意差は示されませんでした(差がないことの証明ではありません)
- 経穴リストは採用候補であり、全例に共通する固定穴ではありません
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参考文献
- Haake M, et al. German Acupuncture Trials (GERAC) for Chronic Low Back Pain: randomized, multicenter, blinded, parallel-group trial with 3 groups. Arch Intern Med. 2007;167(17):1892-1898. PMID:17893311 doi:10.1001/archinte.167.17.1892
- Brinkhaus B, et al. Acupuncture in Patients With Chronic Low Back Pain: A Randomized Controlled Trial. Arch Intern Med. 2006;166(4):450-457. doi:10.1001/archinte.166.4.450
- Cherkin DC, et al. A Randomized Trial Comparing Acupuncture, Simulated Acupuncture, and Usual Care for Chronic Low Back Pain. Arch Intern Med. 2009;169(9):858-866. PMID:19433697
免責事項
本記事は鍼灸師向けの学術情報であり、特定の治療効果を保証するものではありません。紹介したプロトコルは各試験で採用された研究上の設定であり、特定の手技・経穴・回数を推奨するものではありません。経穴リストは試験で候補として挙げられた穴であって、全例に共通する固定穴ではありません。また、本鍼と偽鍼のあいだに統計的有意差が示されなかった点は、いずれの解釈も確定的なものではありません。一部の項目は原著の再確認が必要な段階です。実際の施術判断は、各症例の状態と原著・最新の知見にもとづいて行ってください。


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