「膝が痛くて。何回くらい通えば楽になりますか?」
変形性膝関節症(膝OA)の患者さんに、そう聞かれて言葉を選んだこと、ありませんか?
回数を断言はできない。でも「様子を見ましょう」だけでは頼りない。
そのあいだで、いつも少し迷いますよね。
先にお断りしておきます。
この記事は「どのツボに打つか」ではなく、頻度・回数・運動療法との併用・受診の見極めという“組み立ての枠組み”の話です。
確定している研究データと、正直に「わからない」部分を分けて書きますね。
結論
- 膝OAの鍼は「頻度・回数の目安」「運動療法との併用」「受診の見極め」をセットで考えます
- 鍼は運動療法・減量・教育に置き換わるものではなく、補助的な位置づけです(ガイドラインの中核は運動療法)
- 回数は断言できません。期間を決めて複数回受け、決めた時点で効果を一緒に再評価する——腰痛と同じ枠組みが安全です
膝OAの鍼「3点セット」ハブ図
鍼は運動療法に置き換わらず、この3つをセットで組み立てます
「何回で効く」の確定値はなし。決めた時点で痛みと生活動作を一緒に見直します
ガイドラインの中核はこの3つ。鍼は置き換えではなく並走させる補助的な位置づけです
危険なサインがあれば、鍼で引っ張らず整形外科の受診・連携につなぎます
模式図です。鍼は運動療法・減量・教育に置き換わるものではありません。ガイドラインの推奨は割れています。
▶ 全体像は親記事へ:膝OAに鍼は効くのか|鍼灸師のためのエビデンス総合ガイド
ひとつ前提を。
この記事は「実務での組み立て方の目安」を同業者向けに整理したものです。
効果を保証するものではなく、個々の症例判断は主治医・原著・最新の知見にもとづいて行ってくださいね。
膝OAの鍼、何回くらいで見極める?|頻度・回数の考え方
Tu 2021のレスポンダー率 比較バー
「改善に達した人の割合」どうしの比較です
EA vs SA=13.0ポイント差(P=0.0234)で有意、MA vs SA=11.3ポイント差(P=0.0507)で非有意。これは「MCID達成者の割合(達成率)」の差でありWOMAC点数の変化量ではありません。週3回×8週の高頻度が前提で、週1回と同等とは言えません。
まず、いちばん聞かれる「回数」の話から。
結論を先に言うと、「何回で効く」と言える確定値はありません。
研究で採用された頻度は、試験ごとにかなり幅があります。
近年の中国の大規模試験(Tu 2021)は、週3回×8週=計24回という高頻度でした。
一方、古くからある試験では週1〜2回・計10〜12回程度のものもあります。
ここで大事な注意を。
Tu 2021で偽鍼より良い結果が出たのは、この「週3回×8週」という強度が前提でした。
週1回で同じ結果になる、とは言えないんですね。
しかも、その「良い結果」の中身も丁寧に見る必要があります。
電気鍼群が偽鍼群より良かったのは「改善に達した人の割合(レスポンダー率)」で、WOMACの点数が何点良くなったという話ではありません。
数値や複合レスポンダーの定義はエビデンスボックス①にまとめました。
では実務でどう組み立てるか。
おすすめは、腰痛の記事と同じ考え方=「期間を区切って再評価する」枠組みです。
たとえば「まず数週間、複数回受けていただき、○週の時点で痛みと生活動作を一緒に見直す」。
研究でも1回で判断せず、数週間の介入後に評価しているんですね。
「今日1回でどうなるか」ではなく「決めた期間で見る」——これが誠実で、患者さんも安心します。
なお、具体的なツボ名・通電の周波数・置鍼時間は、この記事ではあえて挙げません。
各RCTの逐語プロトコル(どの穴に何Hzで何分か)は原著の再確認が必要な段階で、試験に紐づけた数値を断定できないからです。
「膝の周囲+足の遠隔部を組み合わせるのが一般的」といった大枠の話にとどめておきますね。ツボ名や通電条件を具体的に知りたい場合は、必ず原著のMethodsで確認してください。
エビデンスボックス① Tu 2021の頻度・回数と「13ポイント」の中身(飛ばしてOK・深く知りたい方向け)
- デザイン:多施設ランダム化比較試験(3群:電気鍼EA/手技鍼MA/偽鍼SA)
- n数:442人(中国多施設)
- 頻度・回数・追跡:週3回 × 8週 = 計24回の高頻度(intensive)、追跡26週
- 主要評価:8週時点で痛みと機能の双方が最小臨床的重要改善(MCID)に達した人の割合=複合レスポンダー率
- 結果:レスポンダー率 EA 60.3%/MA 58.6%/SA 47.3%。EA vs SA=差13.0ポイント(97.5%CI 0.2〜25.9、P=0.0234)で有意。MA vs SA=差11.3ポイント(P=0.0507)で非有意
- 限界:「13.0ポイント」はレスポンダー率(達成者割合)の差であり、WOMACやNRSの点数の変化量ではない。陽性は週3回×8週という高頻度が前提で、実臨床の週1回と効果が同等とは言えない。手技鍼と偽鍼の差は非有意。MCID閾値の具体数値は原著要確認
- 書誌:Tu JF, et al. Efficacy of Intensive Acupuncture Versus Sham Acupuncture in Knee Osteoarthritis. Arthritis Rheumatol. 2021;73(3):448-458. PMID:33174383 doi:10.1002/art.41584
エビデンスボックス② 他のRCTで採られた回数・デザイン(飛ばしてOK)
- Berman 2004(PMID:15611487):n=570。本鍼/偽鍼/患者教育対照の3群。通常ケアへの上乗せ(adjunctive)デザインで、鍼群は26週で計23回。上乗せ設計のため「鍼単独の効果」とは読み替えられない
- Witt 2005(PMID:16005336):n=294。本鍼/ミニマル鍼(偽鍼相当)/待機の3群。8週で12回。待機比較では有効、偽鍼との差は時間で縮小
- GERAC / Scharf 2006(PMID:16818924):n=1,007。伝統鍼/偽鍼/保存療法の3群、約10〜12回。本鍼vs偽鍼は有意差なし、両鍼群とも保存療法には優越
- 共通の注意:各試験の経穴・通電条件・置鍼時間の逐語は原著全文の再確認が必要な段階。試験名に紐づけた経穴・Hz・分数は本記事では記載しない
鍼だけで完結させていい?|運動療法・減量・教育が中核
ここは膝OAで最も大事な前提です。
先に言い切ってしまいますね。膝OAの管理の中核は、運動療法・減量・患者教育です。
主要ガイドラインは、この3つを第一選択に位置づけています。
鍼はあくまで補助的な選択肢、という扱いなんですね。
だから「鍼だけで膝OAを完結させる」という組み立ては、ガイドラインの考え方とずれます。
鍼を提供するにしても、運動療法と並走させるのが筋です。
実際、大規模なBerman 2004も「通常ケアへの上乗せ」で鍼を評価していました。
運動や通常ケアの土台があったうえでの鍼、という設計です。
「土台+鍼」で考えるのは、研究デザインとも整合します。
具体的には、大腿四頭筋を中心とした筋力運動や、可動域・有酸素運動が中核になります。
体重過多があれば減量、そして「膝OAとどう付き合うか」の教育。
鍼はこの流れに乗せる補助、と位置づけると説明もぶれません。
なお、運動療法の具体的処方はこの記事では深追いしません。
鍼灸師の業務範囲と、主治医・理学療法士との連携の中で組み立ててくださいね。
注記
ガイドラインの推奨は割れています。米ACR2019は膝OAへの鍼を「条件付き推奨(弱い推奨)」、英NICE2022は「提供しないこと」と非推奨。日本のJOA2023では鍼は独立した推奨CQとして扱われていません(Minds要約時点)。いずれのガイドラインでも、運動療法・減量・教育が中核である点は共通しています。詳しい賛否の整理は兄弟記事へ。
▶ 効くのか効かないのか、ガイドラインの食い違いはこちら:膝OAへの鍼のエビデンス|ACR条件付き推奨とNICE非推奨をどう説明するか
エビデンスボックス③ ガイドライン上の位置づけ(飛ばしてOK)
- ACR/AF 2019(米国):膝OAへの鍼を条件付き推奨(弱い推奨)。ただしACR自身が「有効性には議論(controversy)がある/効果量は不確実だが害は小さい」と明記。書誌:Kolasinski SL, et al. Arthritis Rheumatol. 2020;72(2):220-233. PMID:31908149
- NICE NG226 2022(英国):「鍼またはドライニードリングを提供しないこと」と非推奨。根拠は臨床的ベネフィットの欠如+費用対効果。URL:https://www.nice.org.uk/guidance/ng226
- JOA 2023(日本):Minds要約のCQ一覧に鍼の独立CQは見当たらず=鍼に推奨度が付されていない(要約時点)。運動療法・患者教育・体重管理は明確に推奨
- 共通:運動療法・減量・教育が第一選択。鍼は補助的位置づけで、単独完結を支持する記述ではない
この膝、鍼を続けていい?|受診・連携を考えるサイン
受診・連携を考えるレッドフラッグ
鍼で様子を見る前に、医療機関での評価を促したいケースです
これらは鍼で様子を見る前に整形外科の評価を促す目安です。稀な重篤事象は「稀≠ゼロ」。清潔操作・深度管理が前提です。
3点セットの最後は「受診の見極め」です。
鍼を組み立てる前に、そもそも整形外科へつなぐべき膝を見分ける、という視点ですね。
判断に迷ったら、まず次のようなサインがないかを確認します。
これらは鍼で様子を見る前に、医療機関での評価を促したいケースです。
- 強い腫脹・熱感・発赤(炎症や感染を疑う所見)
- 急な増悪、これまでと違う強い痛み
- 膝が引っかかって動かない・急に抜ける感じ(ロッキング、膝崩れ)
- 著明な変形の進行
- 保存療法を続けても改善が乏しい、日常生活に支障が大きい例(人工関節などの適応検討)
- 発熱を伴う、外傷後、易感染の背景がある
こうしたサインがあるときは、鍼で引っ張らずに整形外科の受診・連携を促すのが安全です。
「鍼を否定する」のではなく、「評価の順番を間違えない」という話ですね。
すでに整形外科でフォロー中の患者さんなら、主治医の方針と齟齬がないかを確認します。
とくに人工膝関節置換術後などは、刺入部位の選択や清潔操作に配慮が要ります。
安全性そのものについて補足を。
膝OA領域の鍼RCTでは、重篤な有害事象の報告は目立ちません。
軽微な副作用(刺入部の内出血など)は一般的にみられる、という水準です。
ただし「稀=ゼロ」ではありません。
関節周囲の深刺や電気鍼では、血管・神経・関節腔への配慮が前提になります。
易感染の患者さんでの感染リスクも念頭に置いておきましょう。
エビデンスボックス④ 膝OA領域の鍼の安全性(飛ばしてOK)
- Cochrane(Manheimer 2010):末梢関節OA(膝OA中心)16RCT・3,498名。重篤有害事象の報告なし。軽微副作用(刺入部の内出血・出血中心)0〜45%、有害事象0〜7%で対照群と同程度。ただし安全性報告は16件中8件のみと限定的。PMID:20091527
- 留意:関節周囲の深刺・電気鍼時は血管神経・関節腔への配慮。人工膝関節置換術後の刺入部位選択。易感染患者の感染リスク
- 解釈:軽微事象は一般的、重篤は稀。ただし「稀=ゼロ」ではなく、清潔操作と深度管理が前提
明日から使える|患者説明トーク例
ここが看板です。
そのままコピペして使える説明例を2つ用意しました。
どちらも効果を保証しない言い回しにしています。
トーク例①(期間を決めて一緒に評価する)
「膝の鍼について、まず正直にお伝えしますね。
『何回で楽になる』と言い切れる回数はありません。効果には個人差もあります。
そこで、まず数週間・何回か続けて受けていただいて、○週の時点で痛みと動きを一緒に見直しませんか。
そこで変化が乏しければ、進め方も遠慮なく見直しましょう。」
トーク例②(運動療法と併用する説明)
「膝の痛みは、鍼だけにお任せするより、運動と一緒に取り組むほうが土台がしっかりします。
海外・国内のガイドラインでも、運動や体重管理が中心で、鍼はそれを補う位置づけなんです。
なので、主治医の運動の指示があればそれを続けながら、鍼で痛みの軽減をお手伝いする形にしましょう。
ただ、効果の感じ方には個人差がありますので、一定期間で一緒に見直しますね。
もし強い腫れや熱、急な悪化があれば、鍼より先に整形外科での確認をおすすめしますね。」
ポイントは、回数の話を「効果の裏づけ」として使わないことです。
Tu 2021でも手技鍼と偽鍼の差は非有意でしたし、ガイドラインの評価も割れています。
「研究ではこう組まれていた」という参照にとどめ、断定しないのが安全ですね。
賛否の整理(正直コーナー)
歯切れのいい話ばかりではないので、正直に書きますね。
膝OAの鍼は、比較する相手によって評価がまるで変わります。
無治療や待機リストと比べると、鍼は大きく改善して見えます。
ところが偽鍼(見せかけの鍼)と比べると、差は小さく、臨床的な閾値に届かないことが多いんです。
この二重性のせいで、ガイドラインもACRは「弱い推奨」、NICEは「非推奨」と割れています。
だから「膝OAに鍼は効きます」と言い切るのは、少し盛りすぎです。
かといって「無意味」でもありません。
「何と比べて、どのものさしで見るか」で結論が動く——ここを正直に共有できるのが、この仕事の誠実さだと思います。
実務への落としどころは、やはり3点セットです。
運動療法を土台に置き、期間を区切って再評価し、危険なサインは受診につなぐ。
鍼を「主役」にしすぎない組み立てが、患者さんにとっても安全ですよね。
よくある質問
Q. 週何回・何回くらい受ければいいですか?
「何回で効く」と言える確定値はありません。研究では週3回×8週=計24回(Tu 2021)のような高頻度から、週1〜2回・計10〜12回程度まで幅があります。実務では期間を区切って複数回受け、決めた時点で痛みと生活動作を再評価する進め方が安全です。
Q. 鍼だけで膝OAを診てもいいですか?
ガイドラインの中核は運動療法・減量・患者教育です。鍼は補助的な位置づけとされているので、運動療法と並走させる形が筋です。鍼だけで完結させる組み立ては推奨しづらいです。
Q. Tu 2021で「13ポイント高い」とは、どれくらい効いたということですか?
「改善に達した人の割合」が偽鍼群より13ポイント高かった、という意味です(WOMACの点数の改善量ではありません)。しかもこの結果は週3回×8週という高頻度が前提でした。詳しい数値はエビデンスボックス①をご覧ください。
Q. どんなときに整形外科へつなぐべきですか?
強い腫脹・熱感、急な増悪、膝のロッキングや抜ける感じ、著明な変形の進行、保存療法で改善が乏しく生活支障が大きい例、発熱・外傷後・易感染の背景などです。これらは鍼で様子を見る前に医療機関での評価を促してください。
Q. 電気鍼のほうが効くのですか?
Tu 2021では電気鍼群が偽鍼群に対し有意差を示し、手技鍼群は非有意でした。ただし1試験の結果で、経穴や通電条件の逐語は原著要確認の段階です。「電気鍼なら効く」と断定はできません。
まとめ
- 膝OAの鍼は「頻度・回数」「運動療法併用」「受診の見極め」の3点セットで組み立てます
- 回数の確定値はありません。Tu 2021は週3回×8週=計24回の高頻度で、偽鍼よりレスポンダー率が13ポイント高い結果でした(点数の改善量ではありません)
- 実務は「期間を区切って複数回受け、決めた時点で再評価する」枠組みが安全です
- 中核は運動療法・減量・教育。鍼は補助で、単独完結にしないのがガイドラインと整合します
- 強い腫脹・熱感・急増悪・ロッキング・著明変形・保存療法無効例などは整形外科への受診・連携を促してください
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参考文献(確認日 2026-07-27)
- Tu JF, et al. Efficacy of Intensive Acupuncture Versus Sham Acupuncture in Knee Osteoarthritis: A Randomized Controlled Trial. Arthritis Rheumatol. 2021;73(3):448-458. PMID:33174383 doi:10.1002/art.41584
- Berman BM, et al. Effectiveness of acupuncture as adjunctive therapy in osteoarthritis of the knee: a randomized, controlled trial. Ann Intern Med. 2004;141(12):901-910. PMID:15611487
- Witt C, et al. Acupuncture in patients with osteoarthritis of the knee: a randomised trial. Lancet. 2005;366(9480):136-143. PMID:16005336
- Scharf HP, et al. Acupuncture and knee osteoarthritis: a three-armed randomized trial. Ann Intern Med. 2006;145(1):12-20. PMID:16818924
- Manheimer E, et al. Acupuncture for peripheral joint osteoarthritis. Cochrane Database Syst Rev. 2010;(1):CD001977. PMID:20091527 doi:10.1002/14651858.CD001977.pub2
- Kolasinski SL, et al. 2019 ACR/Arthritis Foundation Guideline for the Management of Osteoarthritis of the Hand, Hip, and Knee. Arthritis Rheumatol. 2020;72(2):220-233. PMID:31908149 doi:10.1002/art.41142
- NICE. Osteoarthritis in over 16s: diagnosis and management (NG226). 2022-10-19. https://www.nice.org.uk/guidance/ng226
- 日本整形外科学会 監修. 変形性膝関節症診療ガイドライン2023. 南江堂. 2023.(Minds要約 https://minds.jcqhc.or.jp/summary/c00793/ )
免責事項
本記事は鍼灸師向けの学術・実務情報であり、特定の治療効果を保証するものではありません。紹介した回数・頻度は各試験で採用された研究上の設定であり、特定の手技・経穴・回数を推奨するものではありません。各RCTの経穴・通電条件・置鍼時間は原著の再確認が必要な段階のため、試験名に紐づけた数値は記載していません。ガイドラインの推奨・安全性の評価はいずれも確定的なものではなく、比較対照によって結論が変わります。受診の見極めや実際の施術判断は、各症例の状態と主治医の方針、原著・最新の知見にもとづいて行ってください。
【AI作成・編集責任について】本記事はAI(人工知能)が作成し、株式会社addwisteria の加藤タカシが編集責任者として内容を確認しています。エビデンス・制度に関する情報は執筆時点の公開情報にもとづく目安であり、効果には個人差があります。数値・推奨は改訂で変わりうるため、引用時は原典の再確認をお願いします。


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