更年期への鍼|ホットフラッシュのエビデンスを比較の相手別に読む

更年期への鍼|ホットフラッシュのエビデンスを比較の相手別に読む 更年期障害

「急に顔がカーッと熱くなって、汗が止まらなくなるんです」

肩こりで通っている50代の患者さんに、施術中こう打ち明けられたこと、ありませんか。

続けて「更年期にも鍼灸は効きますか?」と聞かれる。答えに迷う場面ですよね。

更年期のホットフラッシュ(ほてり・のぼせ・発汗)にも、コクランレビューがあります。

ただし結論は「判断できない」で、しかも13年間更新されていません。

この記事では、その結論5文をまず置き、あとに出た試験を「何と比べたか」で並べ直します。最後は患者さんへの答え方と、自院サイトの書き方までつなげます。

結論(先に3つだけ)

① 2013年のコクランレビュー(16試験1,155名)の結論の1文目は「鍼が更年期の血管運動症状のコントロールに有効かどうかを判断するには、エビデンスが不十分だった」です。結論は5文あり、偽鍼との差は認められない、無治療と比べると鍼に利益があるように見えるがホルモン療法より効果が低いように見える、質が低いので大いに注意して扱うべき、有害事象のデータは乏しい、と続きます。検索は2013年1月で止まっています。

② 景色を変えているのは「何と比べたか」です。偽鍼と比べた試験では、ホットフラッシュについて臨床的に意味のある差が示されていません(327名の試験は群間差が認められず、360名の試験は統計的な有意差は出たものの、著者自身がその差は臨床的に意味のある最小の差に届かないと書いています)。待機・通常ケア・セルフケア助言と比べた試験では鍼の群が良い結果になっていますが、いずれも非盲検です。ホルモン補充療法と比べたコクランの数値は、鍼の群のほうが1日あたりのホットフラッシュが多いというものでした(3試験114名・確実性は低い)。

③ 北米の閉経学会(The Menopause Society、2023年)は、ホットフラッシュへの鍼を「推奨しない」に分類しています。同じ文書は、気分・睡眠・痛みなど一部の症状では改善の報告があること、偽鍼が生理的に不活性でない可能性の議論があることにも触れています。英国 NICE の指針と、日本の『産婦人科診療ガイドライン 婦人科外来編2023』の該当項目は、当サイトが本文を確認できていません。

④ では、鍼灸院は何をするのか。ホットフラッシュの回数そのものを看板にできる材料はありません。この記事は、肩こり・腰痛・眠りのつらさを一緒に診ること、婦人科の受診につなぐこと、そして「言えないこと」を言わないことを、現時点で書ける範囲として整理します。

(目次:WordPressのプラグインで自動生成)

同じ婦人科クラスターの姉妹記事として、生理痛は生理痛への鍼|月経困難症のエビデンスを対照別に読む総合ガイド、月経前の不調はPMSへの鍼|月経前症候群のコクラン「偽鍼との差」の出どころにまとめています。この記事が扱うのは、閉経の前後に起きる症状です。

(急いでいる方へ:患者さんへの答え方だけを見たい場合は「明日から使える」の章へどうぞ)

  1. 更年期と更年期障害は、どう定義されているのか
  2. 更年期の鍼について、コクランは何と書いているのか
  3. 偽鍼と比べると、臨床的に意味のある差は示されていない
    1. 大規模な試験でも、差は小さかった
    2. 「偽鍼」がひとまとめになっている問題
  4. 待機・通常ケアやセルフケア助言と比べると、差が報告されている
    1. 「待機リスト」とひとまとめにできない
    2. コクラン後の4試験も、同じ向きだった
    3. 同じグループ、同じ試験の中でも割れる
  5. ホルモン補充療法(HT)と比べると、どうなるのか
    1. 「HTと同等」と読める報告について
    2. 薬と直接比べた試験は見つからなかった
  6. ホットフラッシュ以外(睡眠・気分・生活の質)はどうか
  7. 学会は、更年期の鍼をどう扱っているか
    1. 北米の閉経学会(2023年)=「推奨しない」に分類
    2. 英国 NICE と、日本の指針について
  8. 日本で行われた更年期の鍼治療の研究は、どこまであるのか
    1. 抄録と本文で、向きが違う研究
    2. 日本の鍼灸院の実態に近い報告
  9. 乳がんの治療中・治療後のホットフラッシュへの鍼は、何が違うのか
  10. 明日から使える|更年期の鍼の説明トーク例と、自院サイトの書き方
    1. 自院サイトで更年期を扱うときの、リスクの低い書き方・避けたい書き方
  11. この記事で書かなかったこと・書けなかったこと
  12. FAQ|更年期の鍼について、鍼灸師によくある質問
  13. まとめ|更年期の鍼について、言えること・言えないこと
  14. 関連記事
  15. 参考文献

更年期と更年期障害は、どう定義されているのか

まず言葉の整理から始めます。ここがずれると、あとの研究の話が全部ずれるからです。

日本産科婦人科学会の解説によると、更年期とは閉経の前の5年間と後の5年間を合わせた10年間を指します。

この時期に現れる症状のうち、症状が重く日常生活に支障をきたすような状態が更年期障害です。

つまり「更年期」は期間の名前で、「更年期障害」は状態の名前です。

原因も1つではありません。同じ解説は、女性ホルモンが大きくゆらぎながら低下することを軸に、加齢による体の変化、精神的・心理的な要因、家庭や職場などの社会的要因が複合的に影響する、と書いています。

厚生労働省の調査資料には、もう1つ大事な一文があります。

更年期症状とは「更年期に現れる様々な症状の中で他の疾患に起因しないもの」という定義です。

他の疾患ではないと判断する作業が、定義そのものに組み込まれているわけです。これは医療機関の役割で、鍼灸師が担う部分ではありません。

では、どのくらいの人が受診しているのか。厚生労働省の調査(インターネット調査・女性2,975人)では、更年期障害と診断されたことがある人は1割に届かず、「可能性があると考えている」人はその3〜4倍いました。

🛑 ただしこの調査は「回答者本人の主観に基づくもの」と調査自身が明記しています。年代別の数値と読み方の注意は、下のエビデンスボックス①に置きました。

それでも、鍼灸院の現場感とは合う数字です。

「病院に行くほどではないと思って」と言いながら、肩こりや不眠で来院される。そういう方が一定数いるという前提で、この記事を読み進めてください。

エビデンスボックス① 定義と受診の実態について、当サイトが確認した範囲(深く知りたい方向け・飛ばしてOK)
  • 日本産科婦人科学会「更年期障害」(一般の方向けページ・https://www.jsog.or.jp/citizen/5717/ ・2025年1月30日更新と表示)当サイトの確認=ページを1回取得(Tier B)。逐語ではなく言い換えで紹介しています。記載されている治療はホルモン補充療法・漢方薬(当帰芍薬散・加味逍遙散・桂枝茯苓丸)・向精神薬です。🛑 このページに鍼灸の記載があるかどうかは、当サイトの取得では確定していません。「触れていない」とは書きません。
  • 厚生労働省「更年期症状・障害に関する意識調査(結果概要)」(https://www.mhlw.go.jp/content/000969136.pdf )当サイトの確認=PDF 5ページをページ画像として目視(Tier B・1パス)。目視の転記なので、かぎ括弧付きの逐語引用としては扱っていません。
  • 定義(p.1 の記載)=更年期症状は「更年期に現れる様々な症状の中で他の疾患に起因しないもの」、更年期障害は「こうした症状により日常生活に支障を来す状態」。同ページは出典として『産婦人科診療ガイドライン-婦人科外来編2020』を挙げています。例示されている症状は、ほてり・のぼせ・発汗・動悸・頭痛・関節痛・冷え・疲れやすさなどの身体症状と、気分の落ち込み・意欲低下・イライラ・不眠などの精神症状です。
  • 調査の方法=インターネット調査、20〜64歳の女性2,975人・男性2,025人、令和4年(2022年)3月25〜28日実施。
  • 数値(p.2)=女性で「更年期障害と診断されたことがある/されている」は40〜49歳 3.6%・50〜59歳 9.1%。「更年期障害の可能性があると考えている」は同 28.3%・38.3%。🛑 p.1 に「本調査における『更年期症状』とは、回答者本人の主観に基づくものである」と明記されています。
  • 評釈:この記事は、受診していない人が多いことの根拠としてこの調査を使っています。症状の有病率としては使っていません(主観の回答であり、診断ではないため)。男性の回答・年代別の他の数値は扱っていません。

更年期の鍼について、コクランは何と書いているのか

ここが出発点です。まず結論を、途中で切らずに置きます。

コクランレビュー(決まった手順で試験を集めて評価する国際組織の報告書)は、更年期のホットフラッシュについても1本出ています。

2013年版で、16試験1,155名。検索は2013年1月で止まっていて、そのあと更新されていません。

当サイトが探した範囲では、新しい版(pub3)も撤回の記録も見当たりませんでした。

著者結論は5文です。1文目だけを切り出すと、残りの4文が消えます。

出所:Dodin S, et al. Acupuncture for menopausal hot flushes. Cochrane Database Syst Rev. 2013;(7):CD007410(PMID 23897589)Authors’ conclusions(全5文)。原文(英語)の全文はエビデンスボックス②に置いています
当サイトによる訳
1文目|鍼が更年期の血管運動症状のコントロールに有効かどうかを判断するには、エビデンスが不十分だった。
2文目|鍼を偽鍼と比べたとき、更年期の血管運動症状への効果に有意な差があるというエビデンスは無かった。
3文目|鍼を無治療と比べたときには鍼に利益があるように見えたが、鍼はHT(ホルモン療法)より効果が低いように見えた。
4文目|エビデンスの質が低い〜非常に低く、鍼を無治療やHTと比べた研究は偽鍼やプラセボHTで対照化されていなかったため、これらの結果は大いに注意して扱うべきである。
5文目|有害事象のデータは乏しかった。

読むときの要点は3つです。

1つ目。3文目は、肯定と否定が同じ1文の中に入っています。

「無治療と比べると利益があるように見えた」と「ホルモン療法より効果が低いように見えた」は、切り離して引けません。

2つ目。4文目が、その前の文を丸ごと引き取っています。

質が低いこと、そして無治療やHTと比べた研究は偽鍼やプラセボで対照化されていなかったこと。だから「大いに注意して」と書かれています。

3つ目。5文目は有害事象です。データが乏しい、と書いてある。これは「安全だった」とは違います。

なお、このレビューには日本語の平易な要約が公開されています。ただしそれは当サイトの訳ではなく、厚生労働省eJIMが実施した公式の日本語版です(詳細はボックス②)。

コクランを読むときにどこを先に見るかは、コクランレビューの使い方|鍼灸師が結論より先に見る3か所で整理しています。

図解:更年期のホットフラッシュへの鍼に関するコクランレビュー(CD007410.pub2・2013年)の著者結論5文を、1文ずつカードに分けて並べた図

著者結論は5文

コクランの結論は5文でできている

1文目だけを切り出すと、残りの4文が消えます。

1文目
判断できない

鍼が更年期の血管運動症状のコントロールに有効かどうかを判断するには、エビデンスが不十分だった

2文目
偽鍼と比べて

効果に有意な差があるというエビデンスは無かった

3文目(=この2つは原文でも同じ1文)
無治療と比べると/ホルモン療法と比べると

無治療と比べたときには鍼に利益があるように見えたが、鍼はホルモン療法より効果が低いように見えた

4文目
大いに注意して

エビデンスの質が低い〜非常に低く、無治療やホルモン療法と比べた研究は偽鍼やプラセボのホルモン療法で対照化されていなかった

5文目
有害事象

データは乏しかった(=「安全だった」ではありません)

レビューの規模

16試験・1,155名/検索は2013年1月まで(その後の更新なし)/エビデンスの質は低い〜非常に低い

模式図です。各カードは当サイトによる訳を短くしたもので、原文の全文はエビデンスボックス②にあります。3文目は原文でも1つの文で、「無治療より利益があるように見えた」と「ホルモン療法より効果が低いように見えた」を切り離して引くことはできません。「有意な差が無かった」は、差が無いことの証明ではありません。検索は2013年1月で止まっており、その後の試験は含まれていません。出所=CD007410.pub2(PMID 23897589)。カードの構成は当サイトが組み直したもので、原典にこの図はありません。

エビデンスボックス② CD007410 の書誌・版・著者結論の原文(深く知りたい方向け・飛ばしてOK)
  • Dodin S, Blanchet C, Marc I, Ernst E, Wu T, Vaillancourt C, Paquette J, Maunsell E. Acupuncture for menopausal hot flushes. Cochrane Database Syst Rev. 2013;(7):CD007410.(PMID 23897589/DOI 10.1002/14651858.CD007410.pub2/PMC6544807)
  • 当サイトの確認=Main results 全文と Authors’ conclusions 5文を、Europe PMC・PMC本文・PubMed の生XML(curl で直接取得)の独立した経路で照合し、一字一句一致(Tier A)。PubMed の記録に更新版・撤回の情報(UpdateIn・RetractionIn)はありません。
  • 版と古さ:プロトコルは2008年、本体の pub2 は2013年7月30日。PMC の履歴に「2013年7月31日 Last amended(著者1名の追加)」の表示。検索の締め(抄録の逐語)=”We searched the following databases in January 2013″。当サイトが Europe PMC・PubMed で探した範囲に pub3 は見当たりませんでした。
  • 組み入れ基準(逐語)=”Randomized controlled trials comparing any type of acupuncture to no treatment/control or other treatments for reducing menopausal hot flushes and improving the quality of life of symptomatic perimenopausal/postmenopausal women were eligible for inclusion.”(当サイトによる訳:症状のある周閉経期・閉経後女性の更年期ホットフラッシュを減らし、生活の質を改善することを目的に、あらゆる種類の鍼を無治療/対照または他の治療と比較したランダム化比較試験を組み入れ可とした。)
  • Authors’ conclusions の原文(全5文)=”We found insufficient evidence to determine whether acupuncture is effective for controlling menopausal vasomotor symptoms. When we compared acupuncture with sham acupuncture, there was no evidence of a significant difference in their effect on menopausal vasomotor symptoms. When we compared acupuncture with no treatment there appeared to be a benefit from acupuncture, but acupuncture appeared to be less effective than HT. These findings should be treated with great caution as the evidence was low or very low quality and the studies comparing acupuncture versus no treatment or HT were not controlled with sham acupuncture or placebo HT. Data on adverse effects were lacking.”(当サイトによる訳は本文の引用ブロックに置いています)
  • 🛑 評釈:結論は5文です。当サイトは1文目だけを「結論」とは呼びません。3文目は「無治療より利益があるように見えた」と「HTより効果が低いように見えた」が同じ1文の中にあり、片方だけを引くことができません。4文目の「大いに注意して」は、2文目・3文目の両方にかかっています。
  • 利益相反:PubMed の記録(CoiStatement・1パス)は “None.” です。
  • 日本語版について:cochrane.org に日本語の平易な要約(表題「更年期のホットフラッシュに対する鍼療法」)が公開されています。訳注の表示は「《実施組織》厚生労働省『「統合医療」に係る情報発信等推進事業』(eJIM)[2016.1.4]」(1パス)。これは当サイトの訳ではなく、当サイトはこの日本語版の文章を引用していません。本記事の訳はすべて当サイトによるものです。⚠️ 訳の日付(2016年)は、原典の版の日付(2013年)とは別のものです。

偽鍼と比べると、臨床的に意味のある差は示されていない

図解:更年期のホットフラッシュへの鍼について、コクランレビューの比較を相手ごとに4枚のカードに分け、試験数・人数・エビデンスの確実性・報告された結果の向きを並べた図

比較の相手別

何と比べたかで、景色が変わる

同じレビューの中でも、比較の相手によって結果の向きが違います。

鍼 vs 偽鍼

回数は8試験・414名/確実性は低い

ホットフラッシュの回数に有意差なし。重症度は別の集計(6試験・297名/確実性は非常に低い)で小さい差が出たが、乳がんの女性の試験を除くと差は認められなくなった

鍼 vs 待機リストまたは無介入

レビューの対象は4試験、統合されたのは3試験・463名/確実性は低い

回数・重症度とも鍼の群が有意に良い(レビューはいずれも効果量を中等度と記載)。ただしいずれも参加者は非盲検

鍼 vs ホルモン補充療法

回数は3試験・114名/確実性は低い

鍼の群のほうが1日あたりのホットフラッシュが多い。重症度(2試験・84名)には有意差なし

電気鍼 vs リラクセーション

1試験・38名/確実性は非常に低い

回数・重症度とも有意差なし

模式図です。数値の詳細と原文はエビデンスボックス③〜⑤にあります。2番目のカードの比較名はレビューの表記(待機リストまたは無介入)です。このレビューで名前の挙がっている試験の対照は、セルフケア助言のみ・通常ケアのみ・待機に分かれており、同じ設計ではありません。どの試験がこの比較に入ったかを、当サイトは確定できていません。1番目のカードの偽鍼も、浅く刺す型・刺さない型・型が書かれていないものが混在しています。非盲検の比較では、期待や注目の効果を施術そのものの効果から分けられません。「有意差なし」は差が無いことの証明ではありません。出所=CD007410.pub2(PMID 23897589)。カードの構成は当サイトが組み直したもので、原典にこの図はありません。

ここから「何と比べたか」で分けていきます。最初は偽鍼(本物に似せた対照用の処置)です。

コクランで偽鍼と比べた試験は8本、414名。

1日あたりのホットフラッシュの回数は、差が認められませんでした(確実性は低い)。

重症度のほうは小さな差が出ていますが(6試験297名・確実性は非常に低い)、この数値には続きがあります。

乳がんの女性を対象にした試験を除いた事後の感度分析では、回数も重症度も差が認められなくなりました。

研究間のばらつきも、そこでほぼ消えています。つまり重症度の「小さな差」は、それだけを取り出して語れる数値ではありません。

大規模な試験でも、差は小さかった

コクランのあとに、規模の大きい偽鍼対照の試験が2本出ています。

1本目はオーストラリアの327名の試験です(Ee 2016)。

対照は皮膚に刺さないタイプの偽鍼で、8週間に10回。

結果は群間差が認められず、結論も「中医学の鍼は、中等度以上のホットフラッシュのある女性に対して、刺さない偽鍼に優るものではなかった」でした。

2本目は中国の360名の試験です(Liu Z 2018)。

こちらは偽の電気鍼が対照で、8週間に24回。

更年期症状の尺度で統計的に有意な差は出ています。ただし著者自身が、その差は臨床的に意味のある最小の差(=患者さんが変化を感じ取れる最低ライン)に届いていないと書いています。

この2本目は、もう1つ大事な材料を持っています。

生活の質の尺度では、臨床的に意味のある差の基準を超えていたのです。同じ試験の中で、測ったものによって結果が分かれた。この話は後の章でもう一度出てきます。

「偽鍼」がひとまとめになっている問題

ここで注意が要ります。コクランの8試験の偽鍼は、同じ処置ではありません。

当サイトが各試験の原著抄録で確認した範囲でも、経穴でない場所に浅く刺すタイプ、皮膚に刺さないタイプ、抄録に型が書かれていないものが混ざっています。

浅く刺す偽鍼は、それ自体が体に作用している可能性があります。これは北米の閉経学会の2023年の文書でも議論として取り上げられている論点です。

ですから「偽鍼と差がない」は、そのまま「鍼に効果がない」とは読めません。

偽鍼の型の違いは偽鍼(シャム鍼)とは何か|4つのタイプと「不活性でない」問題にまとめています。

そしてもう一方向の留保も置いておきます。

「有意差が認められなかった」は「差が無いことが証明された」という意味ではありません。

書けるのは「偽鍼と比べた試験では、差が示されていない」までです。

エビデンスボックス③ 偽鍼と比べた数値と、偽鍼の型(深く知りたい方向け・飛ばしてOK)
  • CD007410 の Main results(偽鍼比の段落・逐語・Tier A)=”Eight studies compared acupuncture versus sham acupuncture. No significant difference was found between the groups for hot flush frequency (MD -1.13 flushes per day, 95% CI -2.55 to 0.29, 8 RCTs, 414 women, I(2) = 70%, low-quality evidence) but flushes were significantly less severe in the acupuncture group, with a small effect size (SMD -0.45, 95% CI -0.84 to -0.05, 6 RCTs, 297 women, I(2) = 62%, very-low-quality evidence). There was substantial heterogeneity for both these outcomes. In a post hoc sensitivity analysis excluding studies of women with breast cancer, heterogeneity was reduced to 0% for hot flush frequency and 34% for hot flush severity and there was no significant difference between the groups for either outcome.”(当サイトによる訳:8研究が鍼と偽鍼を比較した。ホットフラッシュの頻度について群間に有意差は認められなかったが〈平均差 −1.13回/日、95%CI −2.55〜0.29、8 RCT、414名、I²=70%、質は低い〉、鍼群のほうがホットフラッシュは有意に軽く、効果量は小さかった〈標準化平均差 −0.45、95%CI −0.84〜−0.05、6 RCT、297名、I²=62%、質は非常に低い〉。これら2つの結果にはいずれもかなりの異質性があった。乳がんの女性を対象とした研究を除外した事後の感度分析では、異質性は頻度で0%、重症度で34%まで下がり、どちらの結果についても群間に有意差は認められなかった。)
  • 🛑 重症度の SMD −0.45 を単独で出さないのは、同じ段落の最後の文が「乳がん試験を除くと差が無くなった」と書いているためです。当サイトは2つを同じ場所に置いています。⚠️ 除外された試験の名前は、PMC本文の試験特性表が途中で切れて取得できず、当サイトは確認できていません。
  • 偽鍼比の生活の質(本文 Effects of interventions・1パス)=”No significant difference was found between the groups (SMD 0.11, 95% CI ‐0.33 to 0.55, 2 RCTs, 80 women, I 2 = 0%)”(当サイトによる訳:群間に有意差は認められなかった〈標準化平均差 0.11、95%CI −0.33〜0.55、2 RCT、80名、I²=0%〉)。評釈:偽鍼と比べたとき、生活の質にも差は示されていません。研究間のばらつきは0%です。
  • Ee C, Xue C, Chondros P, Myers SP, French SD, Teede H, Pirotta M. Acupuncture for Menopausal Hot Flashes: A Randomized Trial. Ann Intern Med. 2016;164(3):146-154.(PMID 26784863/DOI 10.7326/M15-1380/ACTRN12611000393954)豪州・327名(鍼163/偽164)・8週10回。当サイトの確認=Europe PMC・PubMed・編集長の生XMLの3経路で一致(Tier A)。
  • 逐語=”Mean HF scores at the end of treatment were 15.36 in the acupuncture group and 15.04 in the sham group (mean difference, 0.33 [95% CI, -1.87 to 2.52]; P = 0.77). No serious adverse events were reported.”/結論=”Chinese medicine acupuncture was not superior to noninsertive sham acupuncture for women with moderately severe menopausal HFs.”/限界=”Participants were predominantly Caucasian and did not have breast cancer or surgical menopause.”(当サイトによる訳:治療終了時のホットフラッシュ得点の平均は鍼群15.36、偽鍼群15.04〈平均差 0.33、95%CI −1.87〜2.52、P=0.77〉。重篤な有害事象の報告はなかった。/中医学の鍼は、中等度以上の更年期ホットフラッシュのある女性に対して、刺入しない偽鍼に優るものではなかった。/参加者は主に白人で、乳がんや外科的閉経の人は含まれていなかった。)
  • 評釈:対照は noninsertive sham acupuncture皮膚に刺さない偽鍼です。組み入れは中医学の「腎陰虚」の基準を満たす人に限られ、脱落は鍼群16%・偽鍼群13%。この試験は当サイトが確認した範囲で最大の偽鍼対照試験です。日本の研究者から同誌にレター(Takakura 2016・PMID 27653709)が出ていますが、当サイトは本文を取得できていません(内容は書きません)。
  • Liu Z, Ai Y, Wang W, ほか. Acupuncture for symptoms in menopause transition: a randomized controlled trial. Am J Obstet Gynecol. 2018;219(4):373.e1-373.e10.(PMID 30125529/DOI 10.1016/j.ajog.2018.08.019)中国・多施設・参加者盲検・360名(180/180)・8週24回・追跡24週。対照=sham electroacupuncture at nonacupoints(刺入の有無は抄録に記載がありません)。当サイトの確認=2経路+編集長の生XML(Tier A)。
  • 逐語=更年期症状尺度(MRS)の減少は6.3 対 4.5、群間差 “1.8 (0.9-2.8; P = .0002)” で、著者は “less than the minimal clinically important difference of 5 points’ reduction”(臨床的に意味のある最小の差である5点の減少に満たない)と書いています。ホットフラッシュ得点の群間差も8週・20週・32週で有意でしたが “all were less than the minimal clinically important difference in previous reports”。生活の質(MENQOL)の群間差は 5.7・7.1・8.4 で、こちらは臨床的に意味のある差とされる4点を超えています
  • 結論(逐語)=”Among women during menopause transition, 8 weeks’ electroacupuncture treatment did not seem to relieve menopausal symptoms, even though it appeared to improve their quality of life. Generalizability of the trial results may be limited by mild baseline menopausal symptoms in the included participants.”(当サイトによる訳:更年期移行期の女性において、8週間の電気鍼治療は更年期症状を和らげたようには見えなかったが、生活の質は改善したように見えた。組み入れられた参加者のベースラインの更年期症状が軽度であったため、この試験結果の一般化可能性は限られるかもしれない。)評釈:2文をセットで引いています。
  • 偽鍼の型(各試験の原著抄録の逐語より・Tier B)=Avis 2008(PMID 18528313)”shallow needling in nontherapeutic sites”(非治療部位への浅刺)/Nir 2007(Nir Y, Huang MI, Schnyer R, ほか. Maturitas. 2007;56(4):383-395・PMID 17182200)”placebo needles that did not penetrate the skin at sham acupuncture points”(刺さない)/Venzke 2010 “shallow needle (sham) acupuncture”(浅刺)/Kim DI 2011(PMID 21653660)”sham acupuncture on non-acupuncture points”(刺入の有無は抄録に記載なし)。Deng 2007・Hervik 2009・Vincent 2007・Wyon 2004 は抄録に型の記載が無いか、当サイトが取得できていません
  • 他の偽鍼対照試験:Kim DI 2011(韓国・54名・PMID 21653660)の結論=”Compared to sham acupuncture, acupuncture failed to show significantly different effects on the hot flush scores but showed partial benefits on the hot flush severity.”(当サイトによる訳:偽鍼と比べて、鍼はホットフラッシュ得点に有意に異なる効果を示すことはできなかったが、重症度には部分的な利益を示した。)/Vincent 2007(米国・103名・PMID 17019380)の結論=”The results of this study suggest that the used medical acupuncture was not any more effective for reducing hot flashes than was the chosen sham acupuncture.”(当サイトによる訳:本研究の結果は、用いられた医療鍼がホットフラッシュの軽減において、選ばれた偽鍼より有効ではなかったことを示唆している。)⚠️ Vincent 2007 の群ごとの残存率は、抄録の記載から向きを確定できなかったため載せていません。
  • ⚠️ 当サイトが数値を載せていない偽鍼対照の試験:Soares 2020(ブラジル・100名・クロスオーバー)は、結果の文と結論の向きが抄録から読み取れないため、数値も結論も使っていません。Nedeljkovic 2014(スイス・40名・4群)は1群あたり10名前後のため単独では出していません。Venzke 2010 は逐語を取り直せていません。

待機・通常ケアやセルフケア助言と比べると、差が報告されている

同じレビューの中で、比較の相手が変わると景色が変わります。

コクランで「待機リストまたは無介入」と比べた試験は4本。うち3試験463名を統合した結果では、ホットフラッシュの回数も重症度も鍼の群が有意に良く、効果量は中等度でした(確実性は低い)。

生活の質も、無介入と比べると鍼が有意に良いと書かれています。

ここで止まると、話が半分になります。

「待機リスト」とひとまとめにできない

この4試験がどれかを、当サイトは確定できていません(コクラン本文の試験特性表を取得できていないためです)。ただし、このレビューで名前の挙がっている試験の原著抄録を読むと、対照の中身は次のように分かれています。

  • ノルウェーの試験(ACUFLASH)=セルフケアの助言のみ
  • 韓国の試験(Kim KH 2010)=通常ケアのみ
  • 米国の試験(Painovich 2012)=待機(3群のうちの1つ)
  • 灸の試験(Park 2009)=当サイトは対照の中身を取得できていません

待機リスト、通常ケア、セルフケア助言。この3つは設計として別物です。

「待機リスト対照」と一括りにすると、事実がずれます。この取り違えは当サイトが過去に実際に起こしたもので、公開記事の修正につながりました。

対照の違いで結論が動く仕組みは鍼のエビデンスは比較対照で変わる|無治療比・偽鍼比・実薬比に、待機リストで効果が大きく出る理由は待機リスト対照とは|鍼の効果が大きく出る5つの仕組みにまとめています。

コクラン後の4試験も、同じ向きだった

比較の相手が待機・通常ケア・セルフケア助言のとき、コクランのあとの試験も鍼の群が良い結果になっています。

米国の209名の実用的試験(AIM 2016)は、6か月の時点で血管運動症状の頻度が鍼群で36.7%減り、対照群では6.0%増えたと報告しています。

ノルウェーの267名の試験(ACUFLASH 2009)は、24時間あたりの回数が鍼群で5.8回、対照群で3.7回減り、その差は2.1回でした。

ただし、ここには共通の前提があります。いずれも参加者は非盲検です。

患者さんは自分が施術を受けているかどうかを知っています。期待や注目の効果を、施術そのものの効果から分けられません。

非盲検の試験で何が混ざるのかは鍼で二重盲検が難しい理由|盲検化の4層を分けて読む、期待や注目そのものの大きさは鍼のプラセボ効果と文脈効果|偽鍼群も4〜5割が反応する理由で整理しています。

コクランの結論4文目が「無治療やHTと比べた研究は偽鍼やプラセボHTで対照化されていなかった」と書いていたのは、まさにこの点です。

ACUFLASH の数字には、もう1つ読みどころがあります。対照群でも1日3.7回減っていることです。

セルフケアの助言だけでも回数は減る。差の2.1回は、その上に乗っている分です。

同じグループ、同じ試験の中でも割れる

もっとはっきりした例があります。

韓国の同じ研究グループは、通常ケアと比べた試験(175名)では大きな差を報告し、偽鍼と比べた試験(54名)では有意差を示せませんでした。

米国のパイロット試験(Avis 2008・56名)はさらに分かりやすく、1つの試験の中で「通常ケアには勝ち、偽鍼とは変わらない」という結果でした。

この試験の結論は、こう書かれています。「強いプラセボ効果があるか、あるいは伝統的な鍼と偽鍼の両方がホットフラッシュの頻度を有意に減らすかの、どちらかを示唆する」。

著者自身が2つの読み方を並べたまま終えています。当サイトも、どちらか一方に寄せません。

エビデンスボックス④ 待機・通常ケア・セルフケア助言と比べた試験(深く知りたい方向け・飛ばしてOK)
  • CD007410 の Main results(待機・無介入の段落・逐語・Tier A)=”Four studies compared acupuncture versus waiting list or no intervention. Traditional acupuncture was significantly more effective in reducing hot flush frequency from baseline (SMD -0.50, 95% CI -0.69 to -0.31, 3 RCTs, 463 women, I(2) = 0%, low-quality evidence), and was also significantly more effective in reducing hot flush severity (SMD -0.54, 95% CI -0.73 to -0.35, 3 RCTs, 463 women, I(2) = 0%, low-quality evidence). The effect size was moderate in both cases.”(当サイトによる訳:4研究が鍼と待機リストまたは無介入を比較した。伝統的な鍼は、ベースラインからのホットフラッシュ頻度の減少において有意に有効であり〈標準化平均差 −0.50、95%CI −0.69〜−0.31、3 RCT、463名、I²=0%、質は低い〉、重症度の減少においても有意に有効だった〈同 −0.54、95%CI −0.73〜−0.35、3 RCT、463名、I²=0%、質は低い〉。効果量はいずれも中等度だった。)
  • 生活の質(Main results の逐語)=”For quality of life measures, acupuncture was significantly less effective than HT, but traditional acupuncture was significantly more effective than no intervention. There was no significant difference between acupuncture and other comparators for quality of life. Data on adverse effects were lacking.”(当サイトによる訳:生活の質の指標では、鍼はHTより有意に効果が低かったが、伝統的な鍼は無介入より有意に効果が高かった。生活の質について、鍼と他の比較対照とのあいだに有意差はなかった。有害事象のデータは乏しかった。)🛑 この段落も、HTに劣ることと無介入に優ることが隣り合っています。
  • 🛑 対照の中身(各試験の原著抄録の逐語・Tier B)=Borud 2009(ACUFLASH)は "advice on self-care only"セルフケア助言のみ/Kim KH 2010 は "usual care alone"通常ケアのみ/Painovich 2012 は3群の一部としての待機/Park 2009(灸)は当サイト未取得。⚠️ どの試験がどの比較に入ったかの割り付けは、PMC本文の試験特性表が取得できず、確度の低い情報です。記事の本文でも、試験と比較の対応が確定していないことを明示しています。
  • Avis NE, Coeytaux RR, Isom S, Prevette K, Morgan T. Acupuncture in Menopause (AIM) study: a pragmatic, randomized controlled trial. Menopause. 2016;23(6):626-637.(PMID 27023860/PMC4874921)米国・実用的・209名・最大20回・対照は waitlist control group(後半6か月に施術を提供)。逐語=”The VMS frequency declined by 36.7% at 6 months in the acupuncture group and increased by 6.0% in the control group (P <0.001 for between-group comparison). At 12 months, the reduction from baseline in the acupuncture group was 29.4% (P <0.001 for within-group comparison from baseline to 12 months)”。🛑 12か月の29.4%は群内(前後)の比較で、対照群はその時点で施術を受けています。当サイトは本文に6か月の群間比較だけを置きました。
  • Borud EK, Alraek T, White A, ほか. The Acupuncture on Hot Flushes Among Menopausal Women (ACUFLASH) study, a randomized controlled trial. Menopause. 2009;16(3):484-493.(PMID 19423996)ノルウェー・多施設・267名(134/133)・10回。逐語=”Hot flash frequency decreased by 5.8 per 24 hours in the acupuncture group (n = 134) and 3.7 per 24 hours in the control group (n = 133), a difference of 2.1 (P < 0.001).” 非盲検。対照群でも3.7回減っている点を落とさずに書いています。
  • Lund KS, Siersma V, Brodersen J, Waldorff FB. Efficacy of a standardised acupuncture approach for women with bothersome menopausal symptoms: a pragmatic randomised study in primary care (the ACOM study). BMJ Open. 2019;9(1):e023637.(PMID 30782712/PMC6501989/NCT02746497)デンマークの一般医9施設・70名・週1回×5週・対照は6週後に施術を提供。ホットフラッシュの群間差 “Δ -1.6 (95% CI [-2.3 to -0.8]; p<0.0001)”、睡眠 −1.8、情緒 −3.4。有害事象=”Mild potential adverse effects were reported by four participants, but no severe adverse effects were reported.” 🛑 施術者は鍼の研修を受けた一般医で、固定の5経穴(CV3・CV4・LR8・SP6・SP9)を用いています。日本の鍼灸院の施術とは型が違います。評価者盲検のみ。
  • Kim KH, Kang KW, Kim DI, ほか. Effects of acupuncture on hot flashes in perimenopausal and postmenopausal women–a multicenter randomized clinical trial. Menopause. 2010;17(2):269-280.(PMID 19907348)韓国・175名(116/59)・4週12回・対照は通常ケアのみ。逐語=”The mean change in the average 24-hour hot flash score was -16.57 in the treatment group (n = 116) and -6.93 in the control group (n = 59), a difference of 9.64 (P < 0.0001).” 非盲検。8週の追跡は治療群のみです。
  • Avis NE, Legault C, Coeytaux RR, ほか. A randomized, controlled pilot study of acupuncture treatment for menopausal hot flashes. Menopause. 2008;15(6):1070-1078.(PMID 18528313)米国・56名・3群(通常ケア19/非治療部位への浅刺18/鍼19)。逐語=”the two acupuncture groups showed a significantly greater decrease than the usual care group (P < 0.05), but did not differ from each other.”/結論=”These results suggest either that there is a strong placebo effect or that both traditional and sham acupuncture significantly reduce hot flash frequency.”(当サイトによる訳:2つの鍼の群は通常ケア群より有意に大きい減少を示したが、互いには差がなかった。/これらの結果は、強いプラセボ効果があるか、あるいは伝統的な鍼と偽鍼の両方がホットフラッシュの頻度を有意に減らすかの、どちらかを示唆する。)評釈:結論は “either … or” の形です。当サイトはどちらか一方だけを取り出しません。
  • ⚠️ この章の試験はすべて非盲検です(ACOM は評価者のみ盲検)。当サイトは、この章の数値を「施術そのものの効果の大きさ」としては扱っていません。

ホルモン補充療法(HT)と比べると、どうなるのか

否定側の数値です。ここは省かずに書きます。

コクランでホルモン療法と比べた試験は3本、114名。

結果は「鍼群のほうが1日あたりのホットフラッシュが有意に多い」でした(平均差3.18回/日・確実性は低い)。

重症度には差が認められず、生活の質は1試験41名でHT群が有意に高いと報告されています。

この数値の向きは、はっきりしています。ホットフラッシュの回数という物差しでは、鍼はホルモン療法に届いていません。

ですから、こう言えます。

鍼を「ホルモン補充療法の代わり」として説明する材料は、当サイトが確認した範囲にはありません。

HTを使うかどうかは医師の判断で、鍼灸師が関与する領域ではありません。服薬や治療の変更を勧める発言も避けてください。

「HTと同等」と読める報告について

いっぽうで、「鍼はHTと同等かそれ以上」と読めるレビューも存在します。ただし中身を見ると、物差しが違います。

そうしたレビューの主要な指標は、「有効率」(決めた基準で有効と判定された人の割合)や Kupperman 指数(更年期症状を点数化する古い尺度)で、ホットフラッシュの回数そのものではありません。

コクランがHT優位と出した指標とは、測っているものが違います。当サイトはこれらの統合値を載せていません。

血液中のホルモン値についても同じです。

2022年に出たレビュー(詳細はエビデンスボックス⑤)は「鍼はHTと同様の効果をホルモン値に持つように見える」と書いていますが、これは「差が有意ではなかった」という意味であり、研究間のばらつきも大きい値です。「HTと同等」とは書けません。

薬と直接比べた試験は見つからなかった

自然閉経の女性で、鍼をSSRI・SNRI・ガバペンチン・フェゾリネタントと直接比べたランダム化比較試験は、当サイトの検索では見つかりませんでした(医中誌Web・CENTRAL・中国語データベースは未検索)。

「電気鍼はこれらの薬と同程度」と述べたレビューはあります。

ただしそれは統計モデルを使って文献の値と突き合わせた間接比較で、薬と直接比べた試験ではありません。当サイトはこの比較の数値を使っていません。

エビデンスボックス⑤ HT比の数値と、薬との比較について確認できたこと(深く知りたい方向け・飛ばしてOK)
  • CD007410 の Main results(HT比の段落・逐語・Tier A)=”Three studies compared acupuncture versus HT. Acupuncture was associated with significantly more frequent hot flushes than HT (MD 3.18 flushes per day, 95% CI 2.06 to 4.29, 3 RCTs, 114 women, I(2) = 0%, low-quality evidence). There was no significant difference between the groups for hot flush severity (SMD 0.53, 95% CI -0.14 to 1.20, 2 RCTs, 84 women, I(2) = 57%, low-quality evidence).”(当サイトによる訳:3研究が鍼とHTを比較した。鍼はHTよりホットフラッシュが有意に高頻度であることと関連していた〈平均差 3.18回/日、95%CI 2.06〜4.29、3 RCT、114名、I²=0%、質は低い〉。ホットフラッシュの重症度について群間に有意差はなかった〈標準化平均差 0.53、95%CI −0.14〜1.20、2 RCT、84名、I²=57%、質は低い〉。)
  • HT比の生活の質と有害事象(本文 Effects of interventions・1パス)=”Quality of life was significantly higher in the HT group (MD 0.11, 95% CI 0.01 to 0.21, 1 RCT, 41 women)”/”No serious adverse events were reported in the two studies.”
  • ⚠️ HT比の3試験には、乳がんの既往がある女性にHTを行った古い試験(Frisk 2008)が含まれます。現在の日本乳癌学会の指針は、内分泌療法によるホットフラッシュにホルモン補充療法を行うべきではないとしています。当サイトはこの試験の数値を単独では扱っていません。
  • 電気鍼 vs リラクセーション(Main results の逐語)=1試験38名で、頻度 “MD -0.40 flushes per day, 95% CI -2.18 to 1.38″・重症度 “MD 0.20, 95% CI -0.85 to 1.25″、いずれも有意差なし(質は非常に低い)。
  • Liu C, Wang Z, Guo T, Zhuang L, Gao X. Effect of acupuncture on menopausal hot flushes and serum hormone levels: a systematic review and meta-analysis. Acupunct Med. 2022;40(4):289-298.(PMID 34894774/DOI 10.1177/09645284211056655)13 RCT・1,784名。偽鍼比は、終了時の値で頻度 MD 0.19 [−0.61, 0.99]・重症度 MD 0.02 [−0.13, 0.17]=差なし(変化量では MD −0.84 [−1.64, −0.05]、I²=54%)。結論の逐語=”Acupuncture may not decrease hot flush frequency, but yet appears to have similar effects on serum hormone levels as HT, that is, increased E2 and decreased FSH and LH. Considering that no firm conclusions could be drawn due to the low quality and limited number of included trials included, further high-quality RCTs need to be conducted.” 🛑 「ホルモン値がHTと同様」は差が有意でなかったという記述で、E2 は I²=76%、LH は I²=89% と研究間のばらつきが大きい値です。当サイトはホルモン値の数値を載せていません。
  • 🛑 当サイトが数値を載せていないHT比のレビュー=He QD 2021(*Am J Chin Med*・15 RCT・1,376名・PMID 34772331)は主要な指標が有効率と Kupperman 指数で、コクランのホットフラッシュ頻度(HT優位)と向きが逆になります。結論の表現も強いため、存在に触れるだけで数値・結論は引用していません。Zhong 2022(電気鍼のSR・PMID 34753328)のHT比も有効率と Kupperman 指数です。同レビュー自身が “The evidence base is limited by a small number of eligible studies, risk of bias and clinical/statistical heterogeneity, limiting our ability to draw firm conclusions.” と書いています。
  • Li T ほか. Quantitative study on the efficacy of acupuncture in the treatment of menopausal hot flashes and its comparison with nonhormonal drugs. Menopause. 2021;28(5):564-572.(PMID 33739313)17試験・1,123名。”we found the efficacy of electro-acupuncture was comparable to that of selective serotonin reuptake inhibitors/serotonin-norepinephrine reuptake inhibitors and neuroleptic agents such as gabapentin and escitalopram.” 🛑 これはモデルによる文献値との間接比較で、薬と直接比べた試験ではありません。当サイトはこの比較の数値を使っていません(北米の閉経学会2023の文書も、このレビューを引いたうえで電気鍼を推奨しないに分類しています)。
  • Palma F, Fontanesi F, Facchinetti F, Cagnacci A. Acupuncture or phy(F)itoestrogens vs. (E)strogen plus progestin on menopausal symptoms. A randomized study. Gynecol Endocrinol. 2019;35(11):995-998.(PMID 31142156)75名・3群・3か月・対照は結合型エストロゲン+MPA。小規模で盲検なし、非劣性を検証する設計ではありません。当サイトは数値を載せていません。
  • 薬との直接比較の検索:PubMed で「更年期・ホットフラッシュ・血管運動症状 × 鍼・電気鍼」を検索した母集団(488件)と、ガバペンチンを掛け合わせた27件を通覧しましたが、自然閉経の女性で鍼と非ホルモン薬を直接比べたランダム化比較試験は見つかりませんでした(ヒットしたのは乳がん・前立腺がんの試験と総説)。医中誌Web・CENTRAL・中国語データベースは未検索です。「存在しない」ではなく「当サイトの範囲で見つからなかった」です。

ホットフラッシュ以外(睡眠・気分・生活の質)はどうか

現場で相談されるのは、ほてりだけではありませんよね。眠れない、気分が落ち込む、疲れが抜けない。

ここは、研究の形が少し変わります。

面白いのは、同じ試験の中で、測ったものによって結果が分かれていることです。

先ほどの中国の360名の試験(Liu Z 2018)がその代表例でした。

更年期症状の尺度では、臨床的に意味のある差に届いていない。ところが生活の質の尺度では、その基準を超えていた。

著者の結論も「更年期症状を和らげたようには見えなかったが、生活の質は改善したように見えた」と、2つを並べています。

2025年に出た中国の72名の試験(Wang HX 2025)も同じ形です。

ホットフラッシュの得点は治療直後も12週後も両群で同様、つまり偽鍼と差が出ていません。

いっぽう結論の2文目は、電気鍼が睡眠の質を高め、血管運動・心理社会・身体の各領域で更年期症状を減らすとしています。

睡眠そのものを主題にした試験もあります。

中国の76名の試験(Fu 2017)は、刺さないタイプの偽鍼(同じ経穴に当てる型)と比べて、睡眠の質の尺度の改善が大きかったと報告しました。

ただし3週間の短期の評価で、偽鍼群の変化が極端に小さい点が気になります。

気分のほうは、さらに慎重に扱う必要があります。

周閉経期の抑うつを扱ったレビュー(25研究2,213名)は、標準治療と比べた場合に鍼の上乗せで抑うつ尺度の差を報告しています。

しかし同じ抄録が、偽鍼やホルモン療法と比べた効果の差を評価するには試験が少なすぎる、と書いています。

抑うつは精神医学の診断領域です。鍼灸院で程度を見積もる話ではありません。

気分の落ち込みが続く方、日常生活に支障が出ている方には、医療機関への相談をおすすめしてください。

まとめると、この章で書けるのはこうなります。

ホットフラッシュそのものは偽鍼と差が出ない。いっぽう睡眠・気分・生活の質では差が報告された試験がある。

北米の閉経学会の2023年の文書も、まさに同じ整理をしています(次章)。

ただし留保が2つ。

睡眠や気分の尺度は本人の主観で、非盲検や期待の影響を受けやすい部分です。

そして、これらの報告は中国の中〜小規模の試験に偏っています。

更年期に限らない慢性の不眠について、偽鍼や認知行動療法と比べた研究、睡眠薬を飲んでいる方への対応は不眠症への鍼|偽鍼や認知行動療法と比べた研究は、何を示したのかで整理しています。

図解:更年期の鍼について、偽鍼を対照とした2つの試験のホットフラッシュの結果と、睡眠・生活の質など他の指標の結果を対にして並べ、睡眠を主題にした3つ目の試験を下段に添えた図

同じ試験・同じ参加者

測ったものによって、結果が分かれる

どちらも偽鍼を対照にした試験です。

中国・360名(Liu Z 2018)|ホットフラッシュ・更年期症状
有意差は出たが

更年期症状の尺度は統計的に有意な差が出たものの、著者自身が臨床的に意味のある最小の差に届かないと書いています

同じ試験|生活の質
基準を超えた

生活の質の尺度では、報告されている臨床的に意味のある差の基準を超えていました

中国・72名(Wang HX 2025)|ホットフラッシュ
両群で同様

ホットフラッシュ得点は、治療直後も12週後も両群で同様でした

同じ試験|睡眠・更年期症状
結論は言及

結論の2文目は、睡眠の質の向上と、更年期症状の減少に言及しています(この2文目には血管運動領域も含まれますが、結果では得点が両群で同様と書かれており、抄録だけでは関係を読み取れません)

睡眠を主題にした試験

中国・76名(Fu 2017)は、睡眠の質の尺度で偽鍼より大きい改善を報告(3週間の短期の評価)。ただし偽鍼群の変化が極端に小さく、差の大きさをそのまま受け取れません

模式図です。この図は「睡眠や生活の質には効く」と読むためのものではありません。いずれも個々の試験の報告で、確実性の評価を経た統合値ではありません。対になっているカードは同じ試験の別々の尺度の結果で、どちらが本当かという関係ではありません。「臨床的に意味のある最小の差」は報告ごとに設定された基準で、試験によって値が異なります。睡眠・気分・生活の質の尺度は本人の主観で、期待の影響を受けやすい部分です。これらの報告は中国の中〜小規模の試験に偏っています。Wang HX 2025 の結論2文は、ホットフラッシュを有意に改善しないという文と、睡眠・更年期症状に言及する文の組です。出所=Liu Z 2018(PMID 30125529)/Wang HX 2025(PMID 40846522)/Fu 2017(PMID 29029258)。カードの構成は当サイトが組み直したもので、原典にこの図はありません。

エビデンスボックス⑥ 睡眠・気分・生活の質についての報告(深く知りたい方向け・飛ばしてOK)
  • Liu Z 2018(PMID 30125529・ボックス③に書誌)=MENQOL の群間差 5.7・7.1・8.4 は、報告されている臨床的に意味のある最小の差(4点)を超えています。更年期症状尺度(MRS)とホットフラッシュ得点の群間差は有意だが最小の差に届かず。同じ試験・同じ参加者で、尺度によって結論が分かれています。
  • Wang HX, Yu XT, Hu J, Chen JJ, Mei YT, Chen YF. Electroacupuncture for hot flashes in early menopause: A randomized sham-controlled trial. J Integr Med. 2025;23(5):519-527.(PMID 40846522/DOI 10.1016/j.joim.2025.07.008/ChiCTR2300072002)中国・72名・6週18回・偽鍼対照(型は抄録に記載なし)。逐語=”Immediately after completion of the 6-week treatment cycle and at 12 weeks post-intervention, the HF scores were similar in both groups.”/結論(2文)=”EA does not significantly improve HFs in early postmenopausal patients. However, it enhances the quality of sleep and decreases menopausal symptoms across vasomotor, psychosocial and physical domains.”(当サイトによる訳:6週間の治療終了直後と介入後12週の時点で、ホットフラッシュ得点は両群で同様だった。/電気鍼は閉経初期の患者のホットフラッシュを有意に改善しない。しかし睡眠の質を高め、血管運動・心理社会・身体の各領域にわたって更年期症状を減らす。)🛑 結論2文はセットで引いています。⚠️ 結果では「ホットフラッシュ得点は同様」と書かれており、結論2文目の「血管運動領域」の記述との関係は、抄録だけでは読み取れません。当サイトは本文を読めていません。
  • Fu C, Zhao N, Liu Z, ほか. Acupuncture Improves Peri-menopausal Insomnia: A Randomized Controlled Trial. Sleep. 2017;40(11).(PMID 29029258/DOI 10.1093/sleep/zsx153)中国・76名・3週10回。対照は Streitberger 型(皮膚に刺さらない)の偽鍼を同じ経穴に用いる設計。睡眠の質の尺度(PSQI)の減少は 8.03 対 1.29、睡眠ポリグラフで睡眠効率の改善も報告。限界=短期の評価で、偽鍼群の変化が極端に小さい点を当サイトは留保として書いています。
  • Zhao FY, Fu QQ, Kennedy GA, Conduit R, Zhang WJ, Zheng Z. Acupuncture as an Independent or Adjuvant Management to Standard Care for Perimenopausal Depression. Front Psychiatry. 2021;12:666988.(PMID 34122180/PMC8192720)25研究・2,213名。標準治療と比べた抑うつ尺度(HAMD)の差は SMD −0.54。🛑 同じ抄録に “Too few RCTs were available to assess the clinical efficacy differences between acupuncture and placebo/sham acupuncture or HRT alone.”(当サイトによる訳:鍼とプラセボ/偽鍼、あるいはHRT単独との臨床的有効性の差を評価するには、利用できるRCTが少なすぎた。)とあります。当サイトはこの2つをセットでのみ扱います。
  • ⚠️ 当サイトが数値を載せていない睡眠のレビュー=Chiu 2016(*Obstet Gynecol*・31 RCT・2,433名・PMID 26855097)は統合値が極端で、抄録に対照の内訳が書かれていないため使っていません。Luo 2026(PMID 42090940)は鍼と認知行動療法のサブグループの値が並びますが、対照が異なるため「鍼のほうが上」とは読めません。Bruyneel 2026(PMID 42247852)は認知行動療法などを第一選択の候補に挙げつつ、同じ文が “Despite several limitations” で始まります。
  • Befus D, Coeytaux RR, Goldstein KM, ほか. Management of Menopause Symptoms with Acupuncture: An Umbrella Systematic Review and Meta-Analysis. J Altern Complement Med. 2018;24(4):314-323.(PMID 29298078)鍼なしと比べた統合値(頻度 SMD −0.66/重症度 −0.49/健康関連QOL −0.93)を報告する一方、同じ抄録に “SMDs were smaller or not statistically significant when acupuncture was compared with sham acupuncture.” と書かれています。🛑 結論は「RCTのエビデンスは血管運動症状の軽減とQOLの改善のために鍼を用いることを支持する」と「観察された臨床的利益は一部または全部が非特異的効果によるかもしれない」が同じ文の中にあります。当サイトは前半だけを引きません。安全性については “has not been rigorously examined, but there is no clear signal for a significant potential for harm.”(厳密には検討されていないが、重大な害の可能性を示す明確なシグナルはない)と書かれています。⚠️ 厚生労働省eJIMの鍼のページが紹介している2018年のレビューは、このレビューと推定されますが、当サイトは照合していません。

学会は、更年期の鍼をどう扱っているか

ここが、患者さんに聞かれたときにいちばん困る章です。同時に、いちばん慎重さが要る章でもあります。

北米の閉経学会(2023年)=「推奨しない」に分類

The Menopause Society(旧 NAMS)が2023年に出した非ホルモン療法のポジションステートメントは、ホットフラッシュへの鍼を「推奨しない」の側に分類しています。

これは、ホルモン療法が使えない人のための選択肢を整理した文書です。

推奨されている側には、認知行動療法・臨床催眠・SSRI/SNRI・ガバペンチン・フェゾリネタント(新しいタイプの飲み薬)などが並びます。

ただし、この文書から「非推奨」だけを切り出すと、落ちるものがあります。

同じ本文が、次の2つも書いているからです。

1つ目。多くの系統的レビューと試験で、鍼は気分・睡眠・痛みなど一部の更年期に関連する症状を和らげると評価されてきた。しかし偽鍼と比べたとき、血管運動症状の改善についての臨床的な利益はほとんど、あるいはまったく無かった。——この2つは、原文では1つの文の中にあります。中年期の女性でも乳がん経験者でも同じ、とされています。

2つ目。鍼の研究で適切な比較群をどう置くかには相当の議論があり、偽鍼は生理的に不活性でないかもしれないという主張もある。

そのうえで結論部分は、伝統的な鍼を支持するエビデンスは無いとし、電気鍼については「より有望だが、さらなる検討を要する」と書いています。

この文書の「Level」表記には食い違いがあります

抄録と表2では、鍼はまとめて Not recommended(Level II) と並んでいます。

いっぽう本文の該当箇所は、伝統的な鍼を Level I、電気鍼を Level II と書き分けています(どちらも「推奨しない」)。

当サイトは、どちらか片方だけを書くことはしません。「推奨しないに分類されている」という事実は両方で共通しています。

⚠️ 当サイトの確認は、公式PDFの目視と、編集長によるテキスト抽出です。同じ文書の別の抽出であって、独立した2経路ではありません。

英国 NICE と、日本の指針について

ここは正直に書きます。

英国 NICE の更年期の指針(NG23)は、当サイトの経路では本文・PDFとも取得できませんでした(HTTP 403)。日本の『産婦人科診療ガイドライン-婦人科外来編2023』には、CQ412「更年期障害に対する漢方治療・補完代替医療はどのように行うか?」という設問が実在しますが、その回答(Answer)と解説の本文は確認できていません(有償の書籍です)。

したがって当サイトは、「日本のガイドラインは鍼に触れていない」とも「日本のガイドラインが鍼を推奨している」とも書きません。ほかに本文を読めていない文書(『ホルモン補充療法ガイドライン2025年度版』『女性医学ガイドブック 更年期医療編2019年度版』、国際閉経学会の改訂に向けた2026年の系統的レビュー)は、下のエビデンスボックス⑦に一覧で置きました。

エビデンスボックス⑦ 学会文書の書誌と、確認できた範囲(深く知りたい方向け・飛ばしてOK)
  • The 2023 nonhormone therapy position statement of The North American Menopause Society. Menopause. 2023;30(6):573-590.(PMID 37252752/DOI 10.1097/GME.0000000000002200)出版種別=Consensus Statement。Advisory Panel=Shufelt CL, Brown V, Carpenter JS, Chism LA, Faubion SS, Joffe H, Kling JM, Soares CN, Thurston RC。前版は2015年。当サイトの確認=抄録は Europe PMC・PubMed XML・公式PDFの3経路で一致(Tier A)。本文は公式PDF(18ページ)を目視で確認したうえで、編集長がテキスト抽出で再照合し一致(⚠️ 同一文書の別抽出であり、独立した2経路ではありません)。
  • 抄録 Results の逐語(一部)=”Not recommended: Paced respiration (Level I); supplements/herbal remedies (Levels I-II); cooling techniques, avoiding triggers, exercise, yoga, mindfulness-based intervention, relaxation, suvorexant, soy foods and soy extracts, soy metabolite equol, cannabinoids, acupuncture, calibration of neural oscillations (Level II); …” 推奨側には認知行動療法・臨床催眠・SSRI/SNRI・ガバペンチン・フェゾリネタント(Level I)などが挙がっています。
  • 本文「ACUPUNCTURE, OTHER TREATMENTS, AND TECHNOLOGIES」節(p.582)の逐語=”In most systematic reviews, as well as in RCTs, acupuncture was deemed to alleviate some menopause-related symptoms (eg, mood, sleep, pain) as reflected in the reduction in menopause-related total scores (eg, KI, Greene Climacteric Scale) or the improvement in quality-of-life measurements (eg, MSQOL questionnaire); it had, however, little to no clinical benefit for the improvement of VMS compared with sham interventions, either for symptomatic midlife women or for survivors of breast cancer.”(文献番号は当サイトで省きました)/”There has been a considerable debate regarding the use of appropriate comparisons or control groups in acupuncture studies; some have argued, for example, that sham interventions may not be physiologically inert and therefore would not be the most appropriate comparison for studies or trials that aim to inform clinical practice.”/”Existing evidence does not support the use of traditional acupuncture for the treatment of VMS, neither for midlife women nor for VMS in survivors of breast cancer. (Level I; not recommended). The use of electroacupuncture, although more promising, still warrants further investigation. (Level II; not recommended)”
  • Key points(p.583)=”Existing evidence does not support the use of traditional acupuncture for the treatment of VMS; electroacupuncture requires more rigorous study before it can be recommended.”
  • 🛑 評釈:当サイトはこの文書を「推奨しないに分類した文書」として扱い、同時に「気分・睡眠・痛みでは改善の報告がある」「偽鍼が不活性でない可能性の議論がある」という同じ文書の記述を落としません。Level 表記の食い違い(抄録・表2=Level II/本文=伝統的な鍼 Level I・電気鍼 Level II)も本文の注記で開示しています。⚠️ 2023年以降の改訂版は、当サイトの検索(PubMed)では見つかりませんでした。
  • NICE ガイドライン NG23(Menopause)本文・PDFとも HTTP 403 で取得できませんでした。ウェブ検索の要約は採用していません。🛑 「NICE は鍼に触れていない」とは書きません。
  • 『産婦人科診療ガイドライン-婦人科外来編2023』(日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会)=Minds の目次で、更年期の項目群(CQ407〜CQ412)と、CQ412「更年期障害に対する漢方治療・補完代替医療はどのように行うか?」の存在まで確認(Tier B)。日本産婦人科医会が公開している2023年版(案)のコンセンサス資料では、改訂対象の13 CQ に CQ412 は含まれていません(p.5 の表を目視・1パス)。🛑 Answer・推奨レベル・鍼に関する記載の有無は、当サイト未確認です。2026年版の該当 CQ も未確認。
  • 『ホルモン補充療法ガイドライン2025年度版』(日本女性医学学会 編・金原出版・2025年5月25日)=書誌のみ確認。本文未確認。『女性医学ガイドブック 更年期医療編2019年度版』も書誌のみです。
  • Maunder A, Mardon AK, Rao V, ほか. Complementary therapies for management of menopausal symptoms: a systematic review to inform the update of the International Menopause Society recommendations on women’s midlife health. Climacteric. 2026;29(2):165-209.(PMID 41498229/DOI 10.1080/13697137.2025.2584061)158研究(2022年1月〜2024年12月)。逐語=”While promising evidence was found for acupuncture, Chinese herbal medicine (CHM), herbs, nutrients, mind-body/touch therapies for a variety of symptoms, most was of low/very low certainty.” 中等度の確実性とされたのは「鍼+漢方(睡眠)」です。⚠️ 鍼単独での血管運動症状の確実性は抄録に書かれておらず、当サイトは本文を取得できていません。IMS の改訂勧告そのものも見つかりませんでした。
  • EMAS(欧州閉経学会)2015年の非ホルモン療法ポジション(Mintziori G ほか. *Maturitas*. 2015;81(3):410-413. PMID 25982505)=抄録に “Behavioral therapies and alternative medicine interventions have been tried, but the available evidence is still limited.” とあります。抄録に鍼の語は見当たりませんが、本文は未確認のため「触れていない」とは書いていません。
  • 参考:Hemachandra C ほか(*BMJ Sex Reprod Health*. 2024;50(2):122-138・PMID 38336466)は2015〜2023年の閉経の指針26本を評価し、質の高い指針で一貫して支持されている非ホルモン療法として NK3 拮抗薬・SSRI/SNRI・ガバペンチンを、そして認知行動療法と催眠を “consistently considered as being of potential benefit” と整理しています(抄録に鍼の語はありません)。

日本で行われた更年期の鍼治療の研究は、どこまであるのか

海外の話が続きました。では日本はどうか。ここは薄い、というのが正直なところです。

抄録と本文で、向きが違う研究

2022年に英文誌へ出た日本の試験があります(Kouzuma 2022)。

48名を鍼24名・偽鍼24名に無作為に割り付け、週1回×4回。偽鍼は鍼管だけを当てて刺さない型で、日本式の7経穴を用いています。

抄録には「更年期症状は有意に軽減した」と書かれ、結論も症状を和らげるとしています。

ところが本文を読むと、比較の形が違いました。

本文の比較は、無作為に割り付けた2群のままではありません。

偽鍼群は「心拍が下がらなかった22名」に絞られ、鍼群は心拍の低下量で3つに分け直されています。その事後の4群の比較では、ホットフラッシュ・発汗・冷え・更年期スコアに有意差は示されていません。

=くじ引きで分けたグループのまま比べていない、ということです。

ですから当サイトは、この研究を「偽鍼と群間差がなかった」とは書きません。

書けるのは「抄録は症状が有意に軽減したと結論している。本文の事後の4群比較では有意差は示されていない」というセットまでです。

同じ著者らによる日本語の原著(2022年・看護系)もあります。

ほてりは4回の治療後に有意に軽減したとされ、いっぽうで中程度の発汗や冷えは鍼治療の有無にかかわらず軽減したと書かれています。

群間の比較なのか前後の変化なのかは抄録から判別できず、当サイトは本文を読めていません。同じ48名のデータである可能性もあります。

日本の鍼灸院の実態に近い報告

もう1本、現場感のある報告があります(Hirota 2023)。

都内7か所の鍼灸院で、更年期症状を訴える29名に3回の施術を行った予備研究です。対照群はありません。

結果は、更年期症状の合計点は下がったものの、その改善は筋骨格系の症状によるもので、血管運動症状と精神神経症状は改善しなかったというものでした。

この論文には、同業者向けにそのまま使える一文があります。

鍼灸師は、婦人科で評価を受けること、そして鍼を使う意向を婦人科医に伝えることを、患者に助言してよいという趣旨の記述です。

更年期症状の定義が「他の疾患に起因しないもの」である以上、この順番は理にかなっています。

なお、この記事には「この症状が出たら受診」というサインの一覧を置いていません。更年期について、そう線を引ける一次資料を当サイトが確認できていないためです。サインの有無を鍼灸師が見極める、という運用にはしないでください。更年期症状の定義そのものが「他の疾患に起因しないもの」である以上、ほかの原因があるかどうかを判断するのは医療機関の役割です。現場で確認できるのは、婦人科などで評価を受けているかどうかです。受けていない場合、前回の評価から時間が経っている場合、経過の中で症状の出方が変わった場合は、受診をおすすめしてください。

なお、全日本鍼灸学会雑誌に更年期を主題にした原著論文は、当サイトの検索では見つかりませんでした(学会抄録は存在します)。

医中誌Webは未検索なので、「存在しない」という意味ではありません。

エビデンスボックス⑧ 日本の研究について確認できたこと(深く知りたい方向け・飛ばしてOK)
  • Kouzuma N, Taguchi T, Higuchi M. Heart Rate and Autonomic Nervous System Activity Relationship During Acupuncture Associated with Postural Change and Effect on Menopausal Symptoms: A Prospective Randomized Trial. Med Acupunct. 2022;34(5):299-307.(PMID 36311889/DOI 10.1089/acu.2022.0004/PMC9595640)48名(24/24)・週1回×4・日本式7経穴。対照=”only an acupuncture tube was used without insertion of a needle into the skin”(鍼管のみで皮膚に刺入しない)。
  • 抄録(逐語・編集長が照合)=Results “Menopausal symptoms were alleviated significantly.”/Conclusions “This technique relieve patients’ menopausal symptoms.”(原文ママ)
  • 🛑 本文(PMC記事ページの生HTML・1パス=Tier B)=”The data of the 22 participants who experienced no HR reduction were analyzed as the sham group.”(当サイトによる訳:心拍数の低下が見られなかった22名のデータを偽鍼群として解析した。)鍼群は心拍の低下量で no-reduction 5名・low-reduction 5名・high-reduction 14名に分けられています。その4群の事後比較について “No significant differences in hot flashes, excessive sweating, cold sensations, and menopausal score (analyzed by post-hoc analysis of variance with Bonferroni correction) were noted.”
  • 🛑🛑 評釈:本文の比較は無作為化した群のままではなく、反応で分け直した事後の群です。したがって当サイトは「偽鍼対照で群間差なし」とは書きません。抄録の肯定と本文の記述は、どちらか片方だけを書かず、セットで示しています。この試験は盲検の成否を検証しておらず、閉経の状態は自己申告です(Limitations)。
  • 上妻尚子, 田口太郎, 樋口マキヱ. 夜間の自律神経機能を調整し更年期症状を緩和する鍼治療と看護の協働. 日本看護研究学会雑誌. 2022;45(4):4_737-4_747.(DOI 10.15065/jjsnr.20211018164)48名を鍼の有無×症状の程度で4群に分けた原著。抄録には、ほてりが4回の治療後に有意に軽減したこと、いっぽうで中程度の発汗や冷えは鍼治療の有無にかかわらず4回の治療後に有意に緩和されたことが書かれています。🛑 当サイトは本文(PDF)を読めておらず、この「有意に軽減」が群間の比較か前後の変化かを判別できていません。逐語引用はしていません。上の英文論文と同一のデータである可能性がありますが、確認できていません。
  • Hirota J, Takayama M, Nasu M, Schlaeger JM, Yajima H, Takakura N. Exploration of Japanese women seeking acupuncture for menopausal symptoms: a preliminary study. Int J Complement Altern Med. 2023;16(6):344-346.(PMID 38983590/DOI 10.15406/ijcam.2023.16.00674/PMC11233129)都内7鍼灸院・29名・3回・対照なしの前後比較。逐語=”Menopausal symptoms were reduced with individualized acupuncture treatments, exclusively due to improvement of musculoskeletal symptoms. Vasomotor and psychoneurological symptoms were not improved.”/”acupuncturists may advise them to be evaluated by and inform gynecologists of their intention to use acupuncture to treat menopausal symptoms.”(当サイトによる訳:更年期症状は個別化された鍼治療で軽減したが、それはもっぱら筋骨格症状の改善によるものだった。血管運動症状と精神神経症状は改善しなかった。/鍼灸師は、婦人科医の評価を受けること、および更年期症状の治療に鍼を用いる意向を婦人科医に伝えることを、患者に助言してもよい。)簡略更年期指数26以上は29名中15名。対照がないため、効果の大きさの根拠にはなりません。
  • 検索の範囲:J-STAGE(「更年期 鍼」133件の上位20/「ホットフラッシュ 鍼」19件全件/「更年期障害 鍼灸」274件の上位20/「更年期症状 鍼治療」39件の上位20)と PubMed の所属地フィルタ(6件)。医中誌Web は未検索、CiNii は結果を表示できませんでした。「日本に研究が無い」ではなく「この範囲で見つからなかった」です。
  • ⚠️ 当サイトが使わなかった日本語文献:良導絡系の臨床報告1本は、抄録に当サイトの方針と相容れない効果表現(不妊への効果)が含まれるため扱っていません。総説1本は取得時にサーバーエラーが続き、読めていません。

乳がんの治療中・治療後のホットフラッシュへの鍼は、何が違うのか

この層は、事情が変わります。ホルモン療法という選択肢が取りにくいためです。

そのぶん比較の相手が薬になり、ガイドラインの結論も割れています。ここでは事実の並びだけを示します。

偽鍼と比べた試験では、差が認められなかったものが複数あります(米国の72名、スウェーデンの84名など)。

コクランで「乳がんの試験を除くと偽鍼との差が消えた」という感度分析があったのも、この層の試験が含まれていたからです。

通常ケアやセルフケアと比べた試験では、鍼の群が良い結果です。

イタリアの190名の試験(Lesi 2016)は、強化されたセルフケアのみの群よりホットフラッシュ得点が低かったと報告しています。

米国・中国・韓国の3試験のデータを統合した解析(Lu W 2024・158名)でも、待機の群より良い結果でした。ただし施設(国)によって効果が違っていたと、著者自身が書いています。なお、この2つの比較はいずれも非盲検です。

ガイドラインは3つに割れています。

  • 北米の閉経学会(2023年)=乳がん経験者のホットフラッシュについても「推奨しない」
  • 統合腫瘍学会の乳がん指針(2017年・米国臨床腫瘍学会が2018年に承認)=「考慮してよい」(グレードC)(グレードC=正味の利益は小さいという確実性のもとで、個々の患者に選択的に提供することを推める、という等級です)
  • 日本乳癌学会の指針(2022年版)=「確定的ではないがその効果は期待できる」

ただし3つ目には続きがあります。

根拠として挙げられている系統的レビューの結論は、「乳がん患者のホットフラッシュに鍼が有効だと示すには、エビデンスは説得力がない」でした。

ガイドラインの地の文だけを引いて、自院の説明に使わないでください。

この節で扱うのは症状をやわらげる支持療法の文脈だけです。

がんそのものへの効果や再発については扱いません。施術の可否は、主治医との連携のうえで判断される領域です。

エビデンスボックス⑨ 乳がんのホットフラッシュ:試験とガイドライン(深く知りたい方向け・飛ばしてOK)
  • 偽鍼と比べた試験=Deng G ほか(*J Clin Oncol*. 2007;25(35):5584-5590・PMID 18065731・72名)は群間差が有意ではありませんでした。🛑 抄録の差の値と信頼区間は符号の向きが読み取れないため、当サイトは数値を載せていません。同じ抄録は “We cannot exclude the possibility that a longer and more intense acupuncture intervention could produce a larger reduction of these symptoms.” とも書いています。/Liljegren A ほか(*Breast Cancer Res Treat*. 2012;135(3):791-798・PMID 21153699・84名・対照は非経穴への非刺入刺激)の結論=”In conclusion, convincing data that true acupuncture is more effective than CTRL in reducing vasomotor symptoms is still lacking. Our study shows that both true and CTRL reduce vasomotor symptoms in breast cancer patients treated with adjuvant tamoxifen.”/Hervik J, Mjåland O(*Breast Cancer Res Treat*. 2009;116(2):311-316・PMID 18839306)は群間比較の数値が抄録に無いため、群内の減少率を載せていません。
  • Lesi G ほか. Acupuncture As an Integrative Approach for Treatment of Hot Flashes in Women With Breast Cancer (AcCliMaT). J Clin Oncol. 2016;34(15):1795-1802.(PMID 27022113)イタリア・190名(85/105)・10回・対照は enhanced self-care alone(強化セルフケアのみ)。逐語=”Acupuncture plus enhanced self-care was associated with a significantly lower hot flash score than enhanced self-care at the end of treatment (P < .001) and at 3- and 6-month post-treatment follow-up visits (P = .0028 and .001, respectively).” 非盲検。
  • Lu W ほか. Acupuncture for hot flashes in hormone receptor-positive breast cancer: A pooled analysis of individual patient data from parallel randomized trials. Cancer. 2024;130(18):3219-3228.(PMID 38924035)米・中・韓の3試験の個別データ・158名・10週20回・対照は待機(後から施術)。逐語=”-5.3 ± 0.9 vs. -1.4 ± 0.9; p < .003″/🛑 “The effect of the acupuncture intervention differed by site (p = .005).”(施設によって効果が違った)。非盲検。
  • 🛑 当サイトが数値を載せていない試験=Mao JJ ほか(*J Clin Oncol*. 2015;33(31):3615-3620・PMID 26304905・120名・4群)は、主要な評価が「偽鍼 vs プラセボ錠」=プラセボ効果の大きさの比較であり、本文に “Our trial was not powered to examine the efficacy of acupuncture or GP.” と明記されています。「電気鍼がガバペンチンに勝った」とは書けません。/Walker EM ほか(*J Clin Oncol*. 2010;28(4):634-640・PMID 20038728・50名)の “as effective as venlafaxine” は、劣らないことを確かめる設計ではない小規模試験の表現のため引用していません。
  • 系統的レビューは割れています=Chien TJ ほか(*PLoS One*. 2017;12(8):e0180918・PMID 28829776・13 RCT・844名)=”acupuncture had no significant effect on the frequency and the severity of hot flush (p = 0.34; p = 0.33), but significantly ameliorated menopause symptoms (p = 0.009).”/Garcia MK ほか(*Cancer*. 2015;121(22):3948-3958・PMID 26281028)=”the current level of evidence is insufficient to either support or refute the benefits of acupuncture for the management of HFs in cancer patients.”/Zhang G ほか(*Front Oncol*. 2025;15:1543938・PMID 40165891)=スコアは改善(SMD −0.54)だが “acupuncture does not reduce the frequency of hot flashes”・”the level of evidence is low”/Xu DF ほか(*Complement Med Res*. 2025;32(5):387-401・PMID 40934138・偽対照8 RCT・493名)=反応率のみ差(118名分)で “As for frequency and hot flash severity, no difference was noted between groups. GRADE of evidence showed low to very low quality.”
  • Greenlee H ほか. Clinical practice guidelines on the evidence-based use of integrative therapies during and after breast cancer treatment. CA Cancer J Clin. 2017;67(3):194-232.(PMID 28436999/PMC5892208)表1の「Vasomotor/Hot flashes」の行に “Acupuncture … can be considered for improving hot flashes.”(グレードC)。グレードCの定義=”Recommends selectively offering or providing this service to individual patients based on professional judgment and patient preferences. There is at least moderate certainty that the net benefit is small.”(当サイトによる訳:専門的判断と患者の希望に基づき、個々の患者に選択的に提供することを推める。正味の利益は小さいという少なくとも中等度の確実性がある。)🛑 この推奨は抄録には出てこず、表で確認したものです。米国臨床腫瘍学会の承認文書(Lyman GH ほか. *J Clin Oncol*. 2018;36(25):2647-2655・PMID 29889605)にも同じ一文があります。当サイトの確認はいずれも1パス〜同一経路2パス(Tier B)。2017年の文書で、1990〜2015年の文献に基づいています。
  • 日本乳癌学会『乳癌診療ガイドライン2022年版』BQ10(https://jbcs.xsrv.jp/guideline/2022/y_index/bq10/ )=ステートメントは「内分泌療法によるホットフラッシュに対して,ホルモン補充療法は行うべきではない。」。小見出し「1)ホットフラッシュ」の下に「一方,鍼療法の効果も検討されており,確定的ではないがその効果は期待できる。」(同一経路2パス=Tier B)。🛑 その文の出典として挙げられているのは Lee MS, Kim KH, Choi SM, Ernst E.(*Breast Cancer Res Treat*. 2009;115(3):497-503・PMID 18982444)で、このレビューの結論は “In conclusion, the evidence is not convincing to suggest acupuncture is an effective treatment of hot flash in patients with breast cancer.” です。⚠️ 2026年版の該当項目は当サイト未確認で、記述が変わっている可能性があります。
  • ⚠️ この記事が扱っていないこと:がんそのものへの効果・再発・生存に関することは扱いません(当サイトの方針)。乳がん患者への刺鍼で注意すべき点(リンパ浮腫のある側の上肢など)について、当サイトは一次資料を集めていません。個別の可否は主治医との連携のうえで判断される領域です。

明日から使える|更年期の鍼の説明トーク例と、自院サイトの書き方

ここまでを、そのまま口に出せる形にします。共通しているのは「盛らない」ことです。

① 「更年期のほてりに、鍼は効きますか?」と聞かれたとき

「正直にお伝えしますね。ほてりや発汗そのものについては、本物に似せたニセの鍼と比べた研究で、差が認められないものが続いています。300人規模の研究でも差は認められませんでした。

いっぽうで、しばらく鍼を受けずに待っていただいた方や、セルフケアの助言だけを受けた方と比べた研究では、鍼を受けた方のほうが回数が減っています。ただし、助言だけの方でも回数は減っていますし、こちらはご自分が受けているかどうか分かっている形の研究なので、期待の効果を分けられないんです。

ですから『ほてりが確実に軽くなります』とはお伝えできません。肩こりや眠りのつらさも一緒に診ていく前提で、期間を決めて様子を見る、という受け方をおすすめしています。まだ婦人科で診てもらっていなければ、一度相談してみてください。ほかの原因がないかを確かめられるのはお医者さんなので。」

② 「ホルモン補充療法をやめて、鍼にしたいんです」と言われたとき

「お薬や治療をやめるかどうかは、処方している先生と相談していただく話です。私からやめましょうとは言えません。

研究の話をすると、鍼とホルモン補充療法を比べたまとめでは、ほてりの回数はホルモン補充療法のほうが少ないという結果でした。ですから『鍼が代わりになる』とはお伝えできないんです。

治療はそのまま続けていただくのが前提です。そのうえで鍼を受けていただくなら、通院先の先生にも鍼を受けていることをお伝えください。」

③ 「病院に行くほどではないと思うんです」と言われたとき

「そう思われる方は多いです。ただ、更年期の症状という言葉は『ほかの病気が原因ではないもの』という意味で使われています。

ほかの原因がないかを確かめられるのはお医者さんで、私にはその判断ができません。だから一度、婦人科で診てもらってからのほうが、こちらも安心して続けられます。

受診されるときは、鍼を受けていることも先生にお話ししてください。そのうえで、こちらでできることを一緒に考えさせてください。」

自院サイトで更年期を扱うときの、リスクの低い書き方・避けたい書き方

以下は「この書き方なら適法」と保証するものではなく、相対的にリスクが低い/高い書き方の整理です。実際の記載は最新のガイドライン本文と、所管保健所の指導をご確認ください。

リスクの低い書き方

  • 「更年期のホットフラッシュへの鍼について、2013年のコクランレビューは『有効かどうかを判断するにはエビデンスが不十分』としています。偽鍼と比べた研究では差が示されず、ホルモン補充療法と比べた数値ではホルモン補充療法のほうがホットフラッシュが少ない、と報告されています」(出典と限界を同じ場所に置く)
  • 短い版:「更年期のほてりへの鍼については、国際的なレビューが『有効かどうか判断できない』としています。当院は、肩こりや眠りのつらさを含めてご相談を伺います」(そのままサイトに貼れる長さ)
  • 「症状が重い方、ほかの原因が心配な方には、婦人科へのご相談をおすすめしています」(受診をすすめる文を先に置く)
  • 「肩こり・腰痛など、更年期の時期に重なりやすい体の症状についてのご相談も承っています」(施術対象を、確認できている範囲で書く)

避けたい書き方

  • 避けたい:「更年期障害が治る」「ホルモン補充療法が要らなくなる」(効果の断定と、治療の中止を促す表現につながる)
  • 避けたい:「鍼で女性ホルモンが増えます」(当サイトが確認したレビューは、ホルモン値の差が有意でなかったことを報告しているもので、研究間のばらつきも大きい値です)
  • 避けたい:「海外の学会も更年期に鍼をすすめています」(北米の閉経学会2023年の文書は、ホットフラッシュへの鍼を推奨しない側に分類しています)
  • 避けたい:「更年期障害かどうか、当院で見極めます」(診断を含意する)
  • 避けたい:「3回でほてりが楽になりました(50代・女性)」(施術の効果を示す体験談。客観的に証明できない内容にあたり、効果を保証していると受け取られやすい)

施術所のウェブサイトは、あはき師法・柔整師法の広告規制については原則として対象外とされています。ただし医療法・薬機法・景品表示法などの他の法令は及びます。

この記事で書かなかったこと・書けなかったこと

正直コーナーです。理由つきで開示します。

  1. 英国 NICE の指針(NG23)の本文は読めていません(403)。「記載が無い」ではなく「確認していない」です。
  2. 日本の『産婦人科診療ガイドライン-婦人科外来編2023』CQ412 の回答・解説、『ホルモン補充療法ガイドライン2025年度版』、『女性医学ガイドブック 更年期医療編2019年度版』、『乳癌診療ガイドライン2026年版』の本文も確認できていません。したがって「日本のガイドラインは鍼を推奨も否定もしていない」という書き方はしていません。
  3. 有効率・Kupperman 指数で比べた統合値、モデルによる間接比較で薬と比べた値、群内の減少率だけの値は使っていません。比較の物差しが違うか、向きを確定できないためです。
  4. 選穴・手技・刺鍼の深さ・回数の処方は書いていません。試験で用いられた経穴を紹介した箇所も、施術の指示ではありません。
  5. 「安全」とは書いていません。コクランは有害事象のデータが乏しいと明記しており、報告例には刺鍼部の軽い内出血や灸による熱傷があります。「報告が少ない」は「起きない」とは違います。
  6. 医中誌Web・CENTRAL・中国語データベースは未検索です。「見つからなかった」はこの範囲の話です。
  7. 男性の更年期(加齢男性性腺機能低下症)は扱っていません。対象が別です。
  8. 「この所見なら受診」というサインの一覧は置いていません。更年期について、そう線を引ける一次資料を当サイトが確認できていないためです。裏づけの無い一覧を置くと、当てはまらない=安全、と読まれます。代わりに、更年期症状の定義そのものが「他の疾患に起因しないもの」であること(=その判断が医療機関の役割であること)と、婦人科の評価を受けるよう助言してよいという報告を、本文に置いています。

FAQ|更年期の鍼について、鍼灸師によくある質問

Q. 何回くらい受ければよいか、根拠のある目安はありますか?

A. 当サイトが確認した範囲に、回数を決められる根拠はありません。試験の設計も、8週10回・8週24回・4週12回・週1回×5週と幅があります。回数の考え方そのものは肩こりへの鍼の頻度|「週何回」の根拠を一次資料までたどるで整理しました。現場では「何回で見直すか」を最初に決めて共有する運用をおすすめします。試験の設計そのものは4〜8週で区切られているものが多く、この区切りは効果が出る時期でも、推奨される回数でもありませんが、見直しの時期を決めるときの手がかりにはなります。

Q. 「鍼で女性ホルモンが整う」と説明してよいですか?

A. 当サイトはその説明を支持できる材料を持っていません。ホルモン値を扱ったレビューはありますが、その「ホルモン療法と同様」という記述は差が有意ではなかったという意味で、研究間のばらつきも大きい値です。ホルモンの評価は医療機関の役割です。

Q. 更年期の鍼は安全だと言ってよいですか?

A. 言い切る根拠はありません。コクランは有害事象のデータが乏しいと書いています。個々の試験では重篤な有害事象の報告が無かったものや、軽度の有害事象が数名に出たものがあります。報告された例には刺鍼部の軽い内出血や灸による熱傷があります。

Q. 乳がんの治療中の方から相談されたら、どう答えますか?

A. 主治医との連携が前提です。研究では偽鍼と比べて差が出なかった試験があり、通常ケアやセルフケアと比べた試験では鍼の群が良い結果でした。ガイドラインの結論も割れています(推奨しない/考慮してよい/期待できる)。当サイトが扱うのは症状をやわらげる支持療法の文脈だけで、がんそのものへの効果には触れません。刺鍼の注意点についての一次資料も、当サイトは集めていません。

まとめ|更年期の鍼について、言えること・言えないこと

  • コクランの結論は5文です。1文目は「有効かどうかを判断するにはエビデンスが不十分」。3文目は「無治療と比べると利益があるように見えた」と「ホルモン療法より効果が低いように見えた」が同じ1文にあります。検索は2013年1月で止まっています
  • 偽鍼と比べた試験では、ホットフラッシュについて臨床的に意味のある差が示されていません。327名の試験は群間差が認められず、360名の試験は有意差が出たものの著者自身が臨床的に意味のある差に届かないと書いています。ただし「差が無いことの証明」ではなく、偽鍼の型も混在しています
  • 待機・通常ケア・セルフケア助言と比べると、鍼の群が良い結果です。いずれも非盲検で、対照の中身は試験ごとに違います。同じグループ・同じ試験の中で、比較の相手によって結果が割れた例もあります
  • ホルモン補充療法と比べたコクランの数値は、鍼の群のほうがホットフラッシュが多いというものでした(3試験114名・確実性は低い)。「代わりになる」とは説明できません
  • ホットフラッシュ以外(睡眠・気分・生活の質)では、差が報告された試験があります。同じ試験の中で、測ったものによって結果が分かれているのが特徴です
  • 北米の閉経学会(2023年)は「推奨しない」に分類しています。同じ文書が、一部の症状での改善の報告と、偽鍼が不活性でない可能性の議論にも触れています。NICE と日本のガイドラインの本文は、当サイトが確認できていません

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更新履歴:本記事は初版です。コクランレビューの新しい版が出た場合、NICE NG23・『産婦人科診療ガイドライン-婦人科外来編』の該当項目・『ホルモン補充療法ガイドライン』・『乳癌診療ガイドライン』の本文を確認できた場合、北米の閉経学会の声明が改訂された場合に追記・修正します。

引用について:本記事の引用は著作権法32条にもとづく引用です。英文の日本語訳はすべて当サイトによるもので、他者の公式訳は用いていません。コクランレビュー CD007410 には厚生労働省eJIMが実施した日本語の平易な要約がありますが、当サイトはその文章を引用していません。文の途中を省いた引用には、省いた内容が結論の向きに関わる場合、その内容を同じ箇所に書いています。日本語の文献は、本文を読めていないものについて逐語引用をしていません。

参考文献

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本記事は鍼灸師向けの学術情報の提供を目的としたものであり、特定の治療効果を保証するものではありません。効果には個人差があります。鍼灸師は疾病の診断を行う立場にはありません。更年期障害の型の判断や併存疾患の評価は医療機関の役割です。個別の患者への対応にあたっては、受診を優先すべきサインがないかを確認し、必要に応じて医療機関の受診をおすすめしてください。

【AI作成・編集責任について】本記事はAI(人工知能)が作成し、株式会社addwisteria の加藤タカシが編集責任者として内容を確認しています。引用した論文・ガイドラインの数値や推奨は改訂により変わることがあるため、実際の臨床判断では各原典の最新版をご確認ください。

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