生理痛への鍼|月経困難症のエビデンスを対照別に読む総合ガイド

生理痛への鍼|月経困難症のエビデンスを対照別に読む総合ガイド 月経困難症

「生理痛にも鍼って効くんですか?」
腰痛で通っている患者さんから、ふとこう聞かれたことはありませんか。

調べてみると、コクランレビューが出てきます。
タイトルは Acupuncture for dysmenorrhoea
「コクランにあるなら大丈夫だ」と思った瞬間が、いちばん危ないところです。

そのレビューの結論は、「効果があるとも、ないとも言えない」でした。
この記事は、その1行から始めます。
読み終えるころには、生理痛への鍼を「何と比べた話なのか」で切り分けて説明できるようになります。

結論(1分でわかる全体像)
生理痛への鍼について、2016年のコクランレビューは「効果があるとも、ないとも言えない」と結論しています。すべての比較で、エビデンスの質は「低い」か「非常に低い」と評価されました。
そのなかで、いちばん作りのしっかりした研究1本では、偽鍼との差が出ませんでした(3か月・6か月・12か月のいずれの時点でも)。
一方で鎮痛薬や無治療と比べた試験では鍼が有利と報告され(いずれも質の評価は「低い」です)、逆に指圧を鎮痛薬と比べた1試験では指圧群のほうが痛みが強いと報告されています。答えが変わるのは、比べる相手が変わるからです。
そして子宮内膜症などが背景にある生理痛は、エビデンスの形がまったく違います。この2つを一括りにしないことが、この記事のいちばんの狙いです。

【先に押さえる1点】施術より受診を優先する目安
米国産婦人科学会の委員会意見(No.760)の抄録には、治療を始めて3〜6か月たっても月経痛が改善しない場合は、二次的な原因と治療の遵守状況を調べるべきだという趣旨が書かれています。
⚠️ この文書は青年期を対象としており、当サイトが確認できたのは抄録までです。詳しくは「施術より受診をすすめる目安」の章で扱います。

  1. なぜ「生理痛に鍼」は、こんなに答えにくいのか
  2. コクランは生理痛の鍼に何と言っているのか
    1. レビューには、著者自身の利益相反が開示されている
  3. このレビューでいちばん重い1行はどこか
    1. その「唯一の試験」の中身
  4. 比べる相手を変えると、答えは4通りに変わる
    1. ① 鎮痛薬(NSAIDs)との比較|鍼が有利という報告があるが、質の評価は「低い」
    2. ② 無治療との比較|鍼が有利という報告があるが、ひとつの数値にまとまっていない
    3. ③ 偽鍼との比較|結果は一貫せず、結論が出ていない
    4. ④ 指圧と鎮痛薬(NSAIDs)の比較|1試験では指圧群のほうが痛みが強いと報告されている
  5. 最大規模の試験は、いったい何と何を比べたのか
  6. 偽鍼の側では何が起きているのか
  7. コクラン以外のレビューは、数の多さをどう読むか
  8. 原発性と続発性は、同じ「生理痛」ではない
  9. 施術より受診をすすめる目安は、どこに書いてあるのか
  10. 有害事象のデータは、なぜ「安全」の根拠にならないのか
  11. 施術を始める時期は決着しているのか
  12. ガイドラインは生理痛の鍼をどう扱っているのか
  13. 明日から使える|患者への説明トーク例と自院サイトの書き方
    1. 自院サイトで生理痛を扱うときの、リスクの低い書き方・避けたい書き方
  14. この記事で書かなかったこと・書けなかったこと
  15. FAQ|生理痛への鍼で鍼灸師によくある質問
  16. まとめ|生理痛への鍼を鍼灸師としてどう扱うか
  17. 関連記事
  18. 更新履歴
  19. 参考文献

なぜ「生理痛に鍼」は、こんなに答えにくいのか

まず、患者数の話からです。
コクランレビューの背景欄には、原発性月経困難症は月経痛のもっとも一般的な形で、生殖年齢のどこかで最大4分の3の女性が経験する、と書かれています。

日本でも大きな調査があります。
2013年に発表された日本女性の大規模な調査では、74%が月経に伴う何らかの症状を、50%が痛みを報告しました。

つまり、鍼灸院に来ている女性のかなりの割合が、生理痛を抱えている計算になります。
主訴ではなくても、問診票の余白に書かれている。
そこで「鍼、効きますよ」と即答してしまうか、いったん立ち止まれるかが分かれ目です。

そして、鍼の話を持ち出す前に知っておきたい数字がひとつあります。
米国の産婦人科系の総説によれば、月経困難症のある女性の約18%は、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs=いわゆる痛み止め)に反応しないとされています。
著者は、その人たちと医師が「あまり研究されていない方法」を探すことになる、とも書いています。

ここで気をつけたいのは、この18%を「だから鍼の出番だ」と読まないことです。
一次資料が言っているのは、その18%に何を勧めるかが定まっていないということまでです。
鍼がそこに入るかどうかは、これから見ていくエビデンスが決めます。

エビデンスボックス① 背景の数字の出典と限界(深く知りたい方向け・飛ばしてOK)
  • Smith CA, Armour M, Zhu X, Li X, Lu ZY, Song J. Acupuncture for dysmenorrhoea. Cochrane Database Syst Rev. 2016;4(4):CD007854.(PMID 27087494/DOI 10.1002/14651858.CD007854.pub3/PMC8406933)Background の逐語="Primary dysmenorrhoea is the most common form of period pain and affects up to three-quarters of women at some stage of their reproductive life."(当サイトによる訳:原発性月経困難症は月経痛のもっとも一般的な形であり、生殖年齢のいずれかの時期に最大4分の3の女性が影響を受ける)
  • Oladosu FA, Tu FF, Hellman KM. Nonsteroidal antiinflammatory drug resistance in dysmenorrhea: epidemiology, causes, and treatment. Am J Obstet Gynecol. 2018;218(4):390-400.(PMID 28888592/PMC5839921)抄録に「月経困難症のある女性の約18%はNSAIDsに反応しない」旨の記述。当サイトは抄録までの確認(Tier B)で、原文の逐語引用は行っていません。
  • Tanaka E, Momoeda M, Osuga Y, et al. Burden of menstrual symptoms in Japanese women: results from a survey-based study. J Med Econ. 2013;16(11):1255-1266.(PMID 24015668)日本女性 19,254名の調査。74%に月経に伴う症状、50%が痛みを報告。年間の経済的負担は約6,830億円(約86億米ドル)と推計。限界:オンライン調査であり一般化に限界があると著者自身が明記しています。
  • Akiyama S, Tanaka E, Cristeau O, Onishi Y, Osuga Y. Evaluation of the treatment patterns and economic burden of dysmenorrhea in Japanese women, using a claims database. Clinicoecon Outcomes Res. 2017;9:295-306.(PMID 28579813/PMC5446961)レセプト6,315名(原発性3,441/続発性2,874)。初回治療はLEP(低用量エストロゲン・プロゲスチン)37.7%、漢方30.0%。年間医療費はマッチ対照の2.2倍(原発性)・2.9倍(続発性)(いずれもp<0.0001)。
  • ※ Oladosu 2018・Tanaka 2013・Akiyama 2017 は抄録のみの確認(Tier B)です。数値は抄録に記載された値をそのまま引いています。

コクランは生理痛の鍼に何と言っているのか

ここが、この記事の第一の柱です。

コクランレビュー(複数の試験を集めて系統的にまとめた、国際的な評価組織の報告書)は実在します。
2016年4月18日に出た Acupuncture for dysmenorrhoea がそれです。
42件のランダム化比較試験・4,640名の女性を集めており、当サイトが確認した範囲では、この領域で最大規模のまとめです。

撤回もされていませんし、これより新しい版も見当たりません。
ただし、文献の検索は2015年9月で止まっています
つまり、この結論は10年以上更新されていない、ということです。

“There is insufficient evidence to demonstrate whether or not acupuncture or acupressure are effective in treating primary dysmenorrhoea, and for most comparisons no data were available on adverse events. The quality of the evidence was low or very low for all comparisons. The main limitations were risk of bias, poor reporting, inconsistency and risk of publication bias.”
出所:Smith CA, et al. Acupuncture for dysmenorrhoea. Cochrane Database Syst Rev. 2016;4(4):CD007854(PMID 27087494)Authors’ conclusions
当サイトによる訳:原発性月経困難症の治療において、鍼または指圧が有効かどうかを示すには、エビデンスが不十分である。また、ほとんどの比較で有害事象に関するデータが得られなかった。エビデンスの質は、すべての比較において低いか非常に低かった。主な限界は、バイアスリスク、報告の不備、一貫性のなさ、出版バイアスのリスクであった。

読み飛ばしそうになる1文目が、この記事のすべてです。
「効果がある」でも「効果がない」でもなく、「有効かどうかを示すにはエビデンスが不十分」
これは英語で insufficient evidence と書かれる、判定保留の結論です。

そして2文目以降が重い。
すべての比較で、エビデンスの質は「低い」か「非常に低い」
これは統合された数値そのものが、あまり当てにならないという意味です。

つまり「コクランがある」ことと「効果が証明されている」ことは、まったく別だということになります。
生理痛の鍼は、その最良の実例です。
コクランレビューをどこから読むかは、当サイトのコクランレビューの使い方の記事で「結論より先に見る3か所」として整理しています。

レビューには、著者自身の利益相反が開示されている

このレビューには、利益相反として次のことが開示されています。

“CS recently completed a randomised controlled trial of acupuncture to treat primary dysmenorrhoea. MA recently completed a randomised controlled trial of acupuncture to treat primary dysmenorrhoea. XZ, XL, ZL and JS have no conflicts of interest.”
出所:同上(PMID 27087494)Declarations of interest
当サイトによる訳:CSは最近、原発性月経困難症を治療するための鍼のランダム化比較試験を完了した。MAも最近、原発性月経困難症を治療するための鍼のランダム化比較試験を完了した。XZ、XL、ZL、JSに利益相反はない。

ここで「当事者が書いたレビューだから信用できない」と言いたいわけではありません。
むしろ逆の読み方をしてください。

鍼の試験を自分で走らせた研究者が加わっているレビューが、それでも「不十分」という否定的な結論を出している
利益相反の向きを考えると、結論の方向はかえって堅く読めます。
そしてコクラン自身が、この事実を隠さずに開示しています。

エビデンスボックス② CD007854.pub3 の書誌と版の履歴(深く知りたい方向け・飛ばしてOK)
  • 書誌:Smith CA, Armour M, Zhu X, Li X, Lu ZY, Song J. Acupuncture for dysmenorrhoea. Cochrane Database Syst Rev. 2016 Apr 18;4(4):CD007854./PMID 27087494/DOI 10.1002/14651858.CD007854.pub3/全文 PMC8406933
  • 版の履歴:2011年1月19日の pub2(Smith CA, Zhu X, He L, Song J. Acupuncture for primary dysmenorrhoea. PMID 21249697)の更新版。pub4 は確認されず、撤回notice も見当たりませんでした。
  • 🛑 タイトルは pub2 の “primary dysmenorrhoea” から pub3 で “dysmenorrhoea” に変わっていますが、対象は一貫して原発性月経困難症です(Objectives の逐語に "in the treatment of primary dysmenorrhoea")。書名だけを見て「続発性も含む」と誤読しないでください。
  • 検索の締め"the Cochrane Menstrual Disorders and Subfertility Group Trials Register (to September 2015)"=2015年9月まで。
  • 規模"We included 42 RCTs (4640 women)."(当サイトによる訳:42件のランダム化比較試験、4,640名の女性を組み入れた)
  • 混同しやすい別のレビュー:Proctor ML, et al. Transcutaneous electrical nerve stimulation and acupuncture for primary dysmenorrhoea. CDSR. 2002;(1):CD002123(PMID 11869624)=2002年でTENSとの合冊。/Han S, et al. TENS for pain control in women with primary dysmenorrhoea. CDSR. 2019;(5)(PMC6514530)=鍼のレビューではありません。
  • 確認の経路:Europe PMC(resultType=core)とPMC全文に加え、PubMed の efetch で抄録全文を独立に取得して照合しました(2026-08-30)。書誌・検索の締め・42件4,640名・主要な効果量・著者結論・利益相反の記述は、いずれも一致しています。

図解:生理痛の鍼に関するコクランレビュー(CD007854.pub3)の規模・エビデンスの質・結論を示した数値カード

レビューの素性

コクランレビュー CD007854.pub3 のプロフィール

「コクランがある」ことと「効果が示されている」ことは、別のことです。

組み入れた試験
42件

ランダム化比較試験を42件収載しています。

参加者
4,640名

当サイトが確認した範囲では、この領域で最大規模のまとめです。

対象
原発性のみ

続発性(子宮内膜症など)は別のレビュー CD007864 が担当しています。

文献検索の締め
2015年9月

以後10年、更新されていません。

エビデンスの質(GRADE)
低い/非常に低い

一部ではなく、すべての比較でこの評価です。

著者結論

鍼または指圧が原発性月経困難症に有効かどうかを示すには、エビデンスが不十分

出所=Smith CA, et al. CD007854.pub3(PMID 27087494)Authors’ conclusions/訳は当サイトによる

数値と結論は抄録に明記された値です。「質が低い」はエビデンスの評価であって、鍼が有害であるという意味ではありません。また「結論が出ていない」は「効果がない」とは異なります。カードの並べ方は当サイトが組み直したもので、原典にこの図はありません。

このレビューでいちばん重い1行はどこか

42件の試験を集めたレビューで、いちばん臨床に効く1行はどこか。
数字の羅列ではありません。次の1文です。

“Findings were inconsistent and inconclusive. However, the only study in the review that was at low risk of bias in all domains found no evidence of a difference between the groups at three, six or 12 months.”
出所:同上(PMID 27087494)Main results /鍼 vs 偽鍼・プラセボの比較の項
当サイトによる訳:結果は一貫せず、結論を出せなかった。ただし、本レビューのなかで全ドメインにおいてバイアスリスクが低かった唯一の研究は、3か月、6か月、12か月のいずれの時点でも群間に差があるという証拠を見いだせなかった。

「バイアスリスクが全ドメインで低い」というのは、研究の作り方に目立った弱点が見当たらない、という評価です。
その1本だけが、偽鍼(見た目は鍼だが刺入しない、あるいは経穴を外すなどした対照)と比べて差を出せなかった
しかも3か月・6か月・12か月と、追跡のどの時点でもです。

質の低い試験がたくさん並んでいて、そこには肯定的な結果もある。
けれども、いちばん作りのしっかりした1本では差が消える。
これは腰痛でも膝でも頭痛でも繰り返し見てきた形ですが、生理痛ではコクラン自身がその1行を書いています。

その「唯一の試験」の中身

コクランのなかで偽鍼対照として挙がっている試験のひとつに、オーストラリアで行われた92名の試験があります。

14〜25歳の原発性月経困難症の女性を、鍼46名と対照46名に分けました。
3か月で9回の施術。
対照群には、先端を鈍くした鍼を、経穴・経絡から2〜4cm離した7か所に当て、皮膚を貫通させずに手技刺激する方法が使われました。刺さない偽鍼です。

結果はこうです。
この試験がいちばん見たかった指標は痛みの強さでした。そしてそこには、3か月でも6か月でも12か月でも、群間の差がありませんでした
差が出たのは、おまけの指標のほうです。痛みの続いた時間追加の鎮痛薬を要した割合は、6か月の時点だけ差が報告され、12か月では消えました(数値はこのあとのエビデンスボックスにP値つきで載せています)。

つまり、コクランの「3・6・12か月のいずれでも差なし」は主要アウトカムの話、原著が6か月で報告した差は副次アウトカムの話です。
両者は矛盾していませんし、「コクランが見落とした」という読み方もできません。

なお著者自身が、興味深い限界を書いています。
対照群が実は不活性ではなく、本当の効果を覆い隠した可能性がある、というものです。
刺さない偽鍼であっても、皮膚への手技刺激はゼロではありません。
偽鍼の中身がどれだけ多様かは偽鍼(シャム鍼)の記事に、術者の盲検が成立しない構造は盲検化の記事に整理しています。

当サイトが確認できていないこと(同定の留保)
コクランのレビュー本文で試験IDとして挙がっているのは Smith 2010 という表記です。当サイトはコクランの参照リストそのものを直接確認できていません(全文XMLが取得できず、PMCページの参照リストが展開されなかったため)。
n=92・非貫通のプラセボ鍼・3か月/6か月/12か月の追跡という条件が Smith CA, et al. Evid Based Complement Alternat Med. 2011;2011:612464 と一致するため同一の試験と考えられますが、当サイトは同定を確定していません
そのため本文では「コクランが低バイアスと評価した唯一の試験は◯◯である」という名指しをしていません。参照リストを確認できた時点で更新します。

エビデンスボックス③ Smith 2011 の設計・数値・限界(深く知りたい方向け・飛ばしてOK)
  • Smith CA, Crowther CA, Petrucco O, Beilby J, Dent H. Acupuncture to treat primary dysmenorrhea in women: a randomized controlled trial. Evid Based Complement Alternat Med. 2011;2011:612464.(PMID 21799683/DOI 10.1093/ecam/nep239/PMC3140031・全文確認済)
  • デザイン:ランダム化比較試験。オーストラリア。原発性月経困難症の14〜25歳・92名(鍼46/対照46)。3か月で9回の施術。登録=ACTRN12605000766617。資金=豪NHMRC(ID 250325)。
  • 🛑 対照の中身:非貫通のプラセボ鍼。先端を鈍化した 0.30×30mm の鍼を、経穴・経絡から2〜4cm離した非経穴7か所(両側)に当て、皮膚を貫通させずに手技刺激。部位=仙骨部・腰部・下腹部・足・下腿・前腕。
  • 主要アウトカム(疼痛強度・McGill)3か月:月経1日目 4.9 vs 4.9(P=0.90)/2日目 3.5 vs 4.0(P=0.28)/3日目 2.0 vs 2.6(P=0.32)=群間差なし。気分の変化 RR 0.72(95%CI 0.53〜1.00, P=0.05)。
  • 6か月:疼痛の持続時間 30時間 vs 39時間(P=0.04)/追加鎮痛薬を要した割合 54% vs 82%(RR 0.69, P=0.03)。12か月:すべての差が消失。
  • 有害事象"No serious adverse effects reported."(当サイトによる訳:重篤な有害作用の報告はなかった)。もっとも多かった随伴反応は「リラックスした」29%・「穏やかになった」23%。副作用の報告に群間差なし。
  • 著者自身の限界:検出力不足/関心を示した女性の半数超が組入れ基準を満たさなかった/対照群が active であった可能性があり、真の効果を覆い隠したかもしれない
  • ※ コクランの参照リスト上の試験ID Smith 2010 と本試験の同定は、当サイトでは未確定です(本文の注記を参照)。

比べる相手を変えると、答えは4通りに変わる

ここが、生理痛の鍼を語るときにいちばん誤解が生まれるところです。
同じレビューの中で、比較の相手ごとに結論が違います
しかも4つ目だけが、鍼灸師にとって都合の悪い方向を向いています。

① 鎮痛薬(NSAIDs)との比較|鍼が有利という報告があるが、質の評価は「低い」

痛みが和らいだ人の割合を報告した4件の試験(352名)では、鍼群のほうが多かったと報告されています。
質の評価は「低い」です。

ただし、痛みの強さ(0〜10のVAS)を報告した7件は、試験のばらつきが大きすぎて統合できませんでした(I²=94%)。
すべての試験で鍼群のスコアのほうが低かったものの、群間差は0.64点から4点まで散らばっています。

② 無治療との比較|鍼が有利という報告があるが、ひとつの数値にまとまっていない

無治療と比べた6件の試験では、いずれも鍼群のほうが痛みのスコアが低かったと報告されています。
ただしコクランは「データが解析(統合)に適さなかった」と書いており、ひとつの数値にはまとまっていません。

なお「無治療」と呼ばれる対照群は、研究期間中まったく何もしない群のこともあれば、研究が終わったあとに施術を受ける「待機リスト」のこともあります。同じ「無治療」でも中身が違い、差の出やすさも変わります。この区別は当サイトの待機リスト対照の記事に整理しました。
比較の型ごとに何が測れるのかは比較対照の記事が土台になります。

③ 偽鍼との比較|結果は一貫せず、結論が出ていない

6件のランダム化比較試験がありますが、結果は一貫せず、コクランは結論を出せませんでした。
そして先ほど見たとおり、そのなかで作りのもっとも良い1本は差を示していません

④ 指圧と鎮痛薬(NSAIDs)の比較|1試験では指圧群のほうが痛みが強いと報告されている

ここを落とさないでください。
指圧と鎮痛薬を比べた1件(136名)では、指圧群のほうが痛みのスコアが高かったと報告されています。

数値は平均差0.39ポイント(95%信頼区間 0.21〜0.57)。
🛑 この試験の尺度は0〜3のスケールです。
同じ抄録の他の比較(鍼対NSAIDs、指圧対偽指圧、指圧対無治療)はいずれも0〜10のVASなので、「0.39なら小さい」と読んでしまうと解釈を誤ります。3点満点の上での0.39です。
エビデンスの質は「非常に低い」で、1試験のみです。

なお指圧については、偽指圧と比べた試験で利益を報告したものがある一方、無治療と比べた試験でははっきりした差が見られていません(数値は下のエビデンスボックスに載せています)。

肯定的な行だけを並べると、④は消えます。
消さないことが、この記事の役目です。

エビデンスボックス④ CD007854 の比較別の結果(深く知りたい方向け・飛ばしてOK)
  • 出所はすべて Smith CA, et al. CD007854.pub3(PMID 27087494)の抄録 Main results。逐語と数値は PubMed efetch で独立に照合済み(2026-08-30)。
  • 鍼 vs 偽鍼/プラセボ(6 RCT)"Findings were inconsistent and inconclusive."/全ドメイン低バイアスの唯一の試験は3・6・12か月とも群間差の証拠なし。
  • 鍼 vs 無治療"Data were unsuitable for analysis, but pain scores were lower in the acupuncture group in all six studies reporting this outcome."(当サイトによる訳:データは解析に適さなかったが、このアウトカムを報告した6研究すべてで鍼群の疼痛スコアのほうが低かった)
  • 鍼 vs NSAIDs・疼痛緩和率"Four RCTs reported rates of pain relief, and found a benefit for the acupuncture group (OR 4.99, 95% CI 2.82 to 8.82, 352 women, I² = 0%, low-quality evidence)."
  • 鍼 vs NSAIDs・VAS:7試験・I² = 94% でプール不能"In all studies the scores were lower in the acupuncture group, with the mean difference varying across studies from 0.64 to 4 points on a VAS 0 - 10 scale (low-quality evidence)."
  • 指圧 vs 偽指圧/プラセボ"Data were unsuitable for pooling, but two studies reported a mean benefit of one to three points on a 0–10 VAS pain scale."/残る試験は解析に適さず、いずれも指圧群のほうが痛みが低かった。
  • 🛑 指圧 vs NSAIDs(1 RCT・136名)"One study reported this outcome, using a 0 - 3 pain scale. The score was higher (indicating more pain) in the acupressure group (MD 0.39 points, 95% CI 0.21 to 0.57, 136 women, very low-quality evidence)."この比較だけが 0〜3 のスケールです。数値を引くときは、いつでも尺度をセットで添えてください。
  • 指圧 vs 無治療(2試験・140名)"There was no clear evidence of a difference between the groups on a VAS 0–10 pain scale (MD -0.96 points, 95% CI -2.54 to 0.62, 2 trials, 140 women, I² = 83%, very low-quality evidence)."
  • ⚠️ 比較別の参加者数の内訳(各比較の総n)は、抄録に記載がありません。当サイトは Summary of findings 表での照合を終えていないため、本文には抄録に明記された数値(352名・136名・140名・4,640名)だけを出しています。
  • ⚠️ すべての比較で GRADE は low または very low です。効果量の大小より先に、この評価を見てください。

コクランのなかで対照を分けて読む練習をしたい方へ
同じ構図を、慢性腰痛のコクランレビュー(CD013814)で1本まるごと分解した記事があります。偽鍼比・無治療比・通常ケア比の3枚が、同じレビューの中でどう違う答えを出すかを追えます。→ コクランが示した慢性腰痛の鍼|偽鍼・無治療・通常ケア【論文解説】

図解:生理痛の鍼と指圧について、比較対照別に結果が4通りに分かれることを示した比較カード

比較対照別

比べる相手を変えると、答えは4通りに変わる

同じレビューの中で、比較の相手ごとに結論が違います。尺度が混在するため、数値の大小をカードをまたいで比べないでください。

① 鍼 vs 鎮痛薬(NSAIDs)
疼痛緩和率を報告した4試験・352名
OR 4.99

95%CI 2.82〜8.82/I²=0%/質は低い。
痛みの強さ(0〜10のVAS)を報告した7試験は I²=94% で統合できず、群間差は0.64〜4点に散らばります。

② 鍼 vs 無治療
疼痛スコアを報告した6試験
6試験すべてで鍼群が低い

ただしデータが統合に適さず、ひとつの数値にまとまっていません。

③ 鍼 vs 偽鍼
6件のランダム化比較試験
結論不能

結果は一貫していません。全ドメインで低バイアスの唯一の試験は、3か月・6か月・12か月とも群間差なしでした。

ここから下は、鍼ではなく指圧の比較です
向きが逆

④ 指圧 vs 鎮痛薬(NSAIDs)
1試験・136名/質は非常に低い
指圧群のほうが痛みが強い

尺度は0〜3

平均差 0.39ポイント(95%CI 0.21〜0.57)。この比較だけが0〜3の尺度で、他の比較(0〜10のVAS)とは違います。3点満点の上での0.39です。

指圧についての補足

指圧 vs 偽指圧=2試験が0〜10のVASで1〜3点の利益を報告、残りは統合に適さず。/指圧 vs 無治療=MD −0.96(95%CI −2.54〜0.62)・2試験140名・I²=83%=はっきりした差はありません。

🛑 カード④の尺度は0〜3で、他の比較(0〜10のVAS)とは違います。数値の大小をカードをまたいで直接比べないでください。すべての比較でエビデンスの質は「低い」か「非常に低い」と評価されています。「統合できない」は「効果がない」という意味ではなく、試験のばらつきが大きすぎて1つの数値にまとめられない、という意味です。また「群間差が示されなかった」は「差が無いことが証明された」という意味ではありません。出所=CD007854.pub3(PMID 27087494)。カードの構成は当サイトが組み直したものです。

最大規模の試験は、いったい何と何を比べたのか

当サイトが確認した範囲でもっとも規模の大きいランダム化比較試験は、中国で行われた501名の多施設試験です。
2014年に Pain Med に発表されました。

「501名の大規模試験で鍼の効果が示された」と紹介されることがあります。
けれども、この試験が比べたものを見ると、話がまったく変わります。

3群に分かれた167名ずつが、全員、実際に刺鍼を受けています
違うのは刺した場所だけです。
① 三陰交(SP6)/② 関係のない経穴として懸鍾(GB39)/③ 経穴ではない場所。

つまりこれは偽鍼対照試験ではなく、「経穴に特異性はあるのか」を問う試験です。
「鍼か、鍼でないか」を比べたのではありません。

結果は、初回介入後のVASで、三陰交群が他の2群より4.0mm低い、というものでした(信頼区間とP値は下のエビデンスボックスに載せています)。
一方で、別の尺度(RSS-Cox と VRS)では3群間に差がありませんでした。

そして著者自身が、統計的には有意でも臨床的には有意ではない、という趣旨の結論を書いています(当サイトは抄録までの確認で、原文の逐語は引いていません)。
100mmのスケールで4mm。
研究者が自分の手で臨床的な有意性を否定している数字を、施術所の説明に流用するのは無理があります。

「p値が小さい」と「臨床で意味がある」は別のことです。
この読み分けは鍼の論文の読み方のまとめで扱っています。

エビデンスボックス⑤ Liu 2014(n=501)の設計と数値(深く知りたい方向け・飛ばしてOK)
  • Liu CZ, Xie JP, Wang LP, et al. A randomized controlled trial of single point acupuncture in primary dysmenorrhea. Pain Med. 2014;15(6):910-920.(PMID 24636695/DOI 10.1111/pme.12392)
  • デザイン:多施設ランダム化比較試験。中国。原発性月経困難症 501名(3群 各167名)。
  • 🛑 対照の性質:偽鍼対照ではありません。3群とも実際に刺鍼しています。①classic acupoint=三陰交(SP6)/②unrelated acupoint=懸鍾(GB39)/③non-acupoint(非経穴)。問うているのは経穴の特異性です。
  • 結果:初回介入後のVAS で SP6 vs GB39 が −4.0mm(95%CI −7.1〜−0.9, P=0.010)、SP6 vs 非経穴が −4.0mm(−7.0〜−0.9, P=0.012)RSS-Cox・VRS では3群間に差なし。
  • 著者結論:経穴に特異的な鍼は、統計的には有意だが臨床的には有意ではない効果を生じた、という趣旨。※当サイトは本試験を抄録までしか確認していない(Tier B)ため、原文の逐語引用は行っていません。全文と盲検化の有無は再取得の対象です。
  • 限界:全文未取得。単回介入後の即時効果が中心で、長期の追跡は本記事では扱っていません。

偽鍼の側では何が起きているのか

「偽鍼と差がない」と聞くと、鍼群が動かなかったように感じます。
実際は逆で、偽鍼群でも痛みは大きく下がっています

原発性月経困難症の試験13件を集め、偽鍼群の中で起きた変化だけを統合したメタ解析があります。
そこでのプラセボ反応は、大きな値として報告されています(効果量は下のエビデンスボックスに載せています)。
効果量の目安でいえば、小さくない動きです。

さらに面白いのは、プラセボ反応が小さくなる条件が報告されていることです。
鈍頭鍼を使った試験、単施設の試験、バイアスリスクの低い試験、罹病期間が長い患者、術者の経験が浅い場合、そしてアジア圏以外で行われた試験。
これらでは偽鍼群の反応が小さかった、とされています。

ここから読めることは、シンプルです。
私たちが臨床で「効いた」と感じている変化のうち、どこまでが鍼の刺激によるものかは、簡単には切り分けられない。
月経痛はもともと周期で変動しますし、平均への回帰も自然経過も混ざります。

ただし注意点があります。
この −0.99 は群内の前後の変化を統合した値で、治療そのものの効果量ではありません。
「偽鍼にこれだけの効果がある」と読むのも、行き過ぎです。

こうした対照群の側で起きていることは、鍼のプラセボ効果と文脈効果の記事にまとめています。

エビデンスボックス⑥ 偽鍼群のプラセボ反応(深く知りたい方向け・飛ばしてOK)
  • Sun CY, Xiong ZY, Sun CY, et al. Placebo response of sham acupuncture in patients with primary dysmenorrhea: A meta-analysis. J Integr Med. 2023;21(5):455-463.(PMID 37620224/DOI 10.1016/j.joim.2023.08.005)
  • デザイン:13件のランダム化比較試験の偽鍼群の群内変化を統合したメタ解析。原発性月経困難症。
  • 結果:疼痛強度のプラセボ反応 SMD −0.99(95%CI −1.31〜−0.68)鈍頭鍼・単施設・低バイアス・罹病期間が長い・術者の経験が浅い・非アジア圏の条件で、プラセボ反応は小さかったと報告されています。
  • 🛑 限界:これは群内の前後変化の統合であり、真の治療効果でも、偽鍼という介入の効果でもありません。自然経過・平均への回帰・測定の繰り返しによる影響が含まれます。当サイトは抄録までの確認(Tier B)で、原文の逐語引用は行っていません。

コクラン以外のレビューは、数の多さをどう読むか

「コクランは古い。もっと新しいレビューがある」という反論はもっともです。
実際、2018年以降だけでも複数のシステマティックレビューが出ています。

たとえば2018年のレビューは、無治療と比べても鎮痛薬と比べても鍼が有利、という統合値を出しています。
数字だけ見れば立派です。
けれども偽鍼と比べた統合値が主要な結果として立っていません
言えるのは「何もしない群や鎮痛薬より良い」までです。

2025年には、経穴刺激全般を扱ったレビューも出ました。
ただしこちらは、⚠️ 「無治療」と「偽刺激」を同じ比較群にまとめて統合しているため、その値を偽鍼比の効果量として読むことはできません。

指圧のレビューでは、プラセボ比で指圧が有利という値が報告されています。
これはコクランの「指圧は鎮痛薬に劣る」という方向と食い違います
どちらかが間違いというより、集めた試験も比較の相手も違う、というのが正確な理解です。両方を並べておきます。

(この段落で触れたレビューの規模・効果量・信頼区間は、すべて下のエビデンスボックスに載せています。)

そして、この領域を語るときにいちばん効くのが次の事実です。

2018年に発表されたレビューのレビューは、生理痛の鍼に関する5本のシステマティックレビューを AMSTAR-2(レビューの質を評価する道具)で採点し、5本すべてを「critically low(極めて低い)」と判定しました。
共通の欠陥は、プロトコルの事前登録がない、除外文献のリストがない、利益相反の開示が不明瞭、というものです。

2020年には28本のレビューを評価した別のレビューも出ており、こちらも「報告の質は中程度、方法論の質は poor(不良)」という趣旨の評価をしています。

つまり、レビューの本数が多いことは、答えが固まっていることを意味しません
数の多さは、この領域では信頼の根拠になりにくいわけです。

なお中国発の大規模なネットワークメタ解析(120試験・9,571名・29療法)も存在しますが、上位に並ぶのは埋線や温鍼といった、日本の一般的な鍼灸院の手技とは言いにくいものです。順位表から臨床の推奨を作るのは避けてください。

エビデンスボックス⑦ コクラン以外のレビュー群と、その質の評価(深く知りたい方向け・飛ばしてOK)
  • Woo HL, Ji HR, Pak YK, et al. The efficacy and safety of acupuncture in women with primary dysmenorrhea: A systematic review and meta-analysis. Medicine (Baltimore). 2018;97(23):e11007.(PMID 29879061/PMC5999465)60 RCT(統合49)。無治療比 手技鍼 SMD −1.59(−2.12〜−1.06)/NSAIDs比 手技鍼 SMD −0.63(−0.88〜−0.37)・温鍼 SMD −1.12(−1.81〜−0.43)。偽鍼比の統合値が主結果に立っていません。
  • Wang Y, Liu L, Wu X, et al. Clinical Evidence of Acupoint Stimulation for Primary Dysmenorrhea. J Pain Res. 2025;18:4307-4336.(PMID 40893121/PMC12393090)22 RCT・1,955名。⚠️「無治療」と「偽刺激」を同一の比較群にまとめているため、SMD −2.96(−4.39〜−1.53)を偽鍼比の効果量として読むことはできません。有害事象 RR 0.94(0.26〜3.33)。確実性は low〜moderate。
  • Yu X, Liu B, Li J, et al. Efficacy and safety of acupressure for primary dysmenorrhea. Complement Ther Med. 2025;95:103272.(PMID 41138782)23 RCT(統合20)。プラセボ比 MD −1.58(−1.96〜−1.20)/内服比 −1.11(−1.79〜−0.43)/通常治療比 −1.29(−1.77〜−0.80)。著者自身が現行のエビデンスは質が低いと記述。有害事象を報告したのは23試験中2件のみ。🛑 コクラン(指圧はNSAIDsに劣る)と方向が食い違うため、本文では両方を併記しています。
  • Liu J, Wang Y, Zhang J, et al. Efficacy and Safety of Non-Pharmacological Therapies for Primary Dysmenorrhea: A Network Meta-Analysis. J Pain Res. 2025;18:975-991.(PMID 40034106/PMC11874745)16試験・8療法。鍼 vs プラセボ SMD −0.948(−1.853〜−0.044)=信頼区間の上限がほぼ0に接しています。SUCRA順位を臨床推奨として読まないでください。
  • Zhao H, Jang JH, Ryu YH, Han CH. Acupuncture-Related Therapies for Primary Dysmenorrhea: A Systematic Review and Network Meta-Analysis. J Integr Complement Med. 2026;32(2):92-116.(PMID 41056095)120試験・9,571名・29療法。🛑 上位に並ぶのは埋線・温鍼などで、日本の一般的な鍼灸院の手技ではありません。
  • Kong X, Fang H, Li X, Zhang Y, Guo Y. Effects of auricular acupressure on dysmenorrhea. Front Endocrinol. 2022;13:1016222.(PMID 36686444/PMC9851274)35 RCT・3,960名。VAS MD −1.45(−1.73〜−1.17)。主要アウトカムが「有効率」で、著者自身が盲検化プラセボ対照試験の必要を明記。耳穴への刺激であり体鍼ではありません。
  • 【レビューの質の評価】Zhang F, Sun M, Han S, et al. Acupuncture for Primary Dysmenorrhea: An Overview of Systematic Reviews. Evid Based Complement Alternat Med. 2018;2018:8791538.(PMID 30584456/PMC6280308)5本のSRを AMSTAR-2 で評価し、5本すべてが critically low。共通の欠陥=プロトコル未登録・除外文献リストなし・利益相反開示が不明瞭。
  • Yang J, Xiong J, Yuan T, et al. Effectiveness and Safety of Acupuncture and Moxibustion for Primary Dysmenorrhea: An Overview of Systematic Reviews and Meta-Analyses. Evid Based Complement Alternat Med. 2020;2020:8306165.(PMID 32419829/PMC7206866)28本のSR(原著281件・26,459名)を評価。報告の質は中程度、方法論の質は不良、という趣旨。
  • ⚠️ 本ボックスの文献はいずれも抄録までの確認(Tier B)です。原文の逐語引用は行っていません。
  • 🛑 当サイトが効果量として使わないと決めた数値:Shen 2025(PMID 41114388)の無介入比 MD −47.80(95%CI幅が1.66と不自然に狭い)/Abaraogu 2016(PMID 27863617)の3時間後の値(信頼区間の符号が不整合)/Zhao M 2025(PMID 40988743・I²=99%)/各種「総有効率」。Shen 2025 から使うのは「治療後3周期の時点で偽鍼に対する優越性は示されなかった」という定性的な記述のみです。

原発性と続発性は、同じ「生理痛」ではない

ここが、この記事の設計の核です。

月経困難症には2つのタイプがあります。
原発性は、骨盤内に病気がない状態での月経痛。
続発性は、骨盤内の病変や特定の疾患によって起こる月経痛です。
米国産婦人科学会の文書によれば、青年期の続発性月経困難症でもっとも多い原因は子宮内膜症だとされています。

ここまで見てきたコクランレビューは、原発性だけを対象にしています。
では続発性はどうか。別のコクランレビューがあります。

そちらの採用試験は、たった1件・67名です。
しかも比較の相手は、プラセボでも通常治療でもなく、中薬(中国の生薬処方)でした。
耳鍼37名と中薬30名の比較です。

“The evidence to support the effectiveness of acupuncture for pain in endometriosis is limited, based on the results of only a single study.”
出所:Zhu X, Hamilton KD, McNicol ED. Acupuncture for pain in endometriosis. Cochrane Database Syst Rev. 2011 Sep 7;(9):CD007864(PMID 21901713)Authors’ conclusions
当サイトによる訳:子宮内膜症の疼痛に対する鍼の有効性を支持するエビデンスは、たった1件の研究の結果に基づくものであり、限られている。

このレビューは2011年から更新されていません。
そして、この1件の試験が報告した数値(月経困難症スコアの平均差 −4.81)を、単独の効果量として持ち出すのは避けてください。
対照が中薬である以上、その数字は「鍼が何もしないより良い」ことすら示していません。

より新しいシステマティックレビュー(2023年)もあります。
刺入する鍼だけを採用した6試験・331名のレビューで、非特異的な鍼と比べた月経痛の効果量が g=1.67(95%信頼区間 1.23〜2.12)と報告されています。
ただし、これは1試験・106名だけの値です。
通常ケアと比べた値にいたっては、1試験・19名で、エビデンスの質は「非常に低い」と評価されています。

まとめると、こうなります。
原発性は「大量の試験があるのに結論が出ない」。
続発性は「そもそも試験がほとんど無い」。
同じ『生理痛』という言葉でくくると、この違いが見えなくなります。

そして臨床でいちばん怖いのは、続発性の背景にある病気を、鍼灸院の中だけで抱え込んでしまうことです。
次の章につながります。

エビデンスボックス⑧ 続発性(子宮内膜症)側のエビデンス(深く知りたい方向け・飛ばしてOK)
  • Zhu X, Hamilton KD, McNicol ED. Acupuncture for pain in endometriosis. Cochrane Database Syst Rev. 2011 Sep 7;(9):CD007864.(PMID 21901713/DOI 10.1002/14651858.CD007864.pub2/PMC10010596)
  • 採用試験は1件のみ(67名・中国・腹腔鏡で確定診断)。耳鍼37名 vs 中薬30名(丹参・赤芍・三稜・莪朮・枳殻・香附/3周期)。
  • 結果(逐語):"Dysmenorrhoea scores were lower in the acupuncture group (mean difference -4.81 points, 95% CI -6.25 to -3.37, P < 0.00001)."(当サイトによる訳:月経困難症スコアは鍼群のほうが低かった〈平均差 −4.81ポイント、95%CI −6.25〜−3.37、P<0.00001〉)。「総有効率」91.9% vs 60%。
    🛑 評釈:対照が中薬であり、プラセボでも通常治療でもありません。採用試験も1件だけです。当サイトはこの −4.81 を鍼の効果量として単独で提示しません。
  • 著者結論には、"well-designed, double-blinded, randomised controlled trials" の必要性が明記されています。
  • 状態:撤回notice・更新notice は見当たりませんでした。2011年から更新されていません。
  • Giese N, Kwon KK, Armour M. Acupuncture for endometriosis: A systematic review and meta-analysis. Integr Med Res. 2023;12(4):101003.(PMID 38033648/PMC10682677)6試験・331名(検索2023年3月20日まで)。刺入する鍼のみ採用。RoB2 と GRADE を使用。非特異的鍼比:骨盤痛全般 g=1.54(0.92〜2.16、3 RCT、n=231、low certainty)/月経痛 g=1.67(1.23〜2.12、1 RCT、n=106、moderate certainty)。通常ケア比:月経痛 g=0.9(0.15〜1.64、1 RCT、n=19、very low certainty)。有害事象は「ほとんどの研究で低率」。
    🛑 ⚠️ 同レビューの部位非特定の骨盤痛の値(MD −2.77、95%CI 2.15〜3.38)は点推定値とCIの符号が不整合のため、当サイトは引用しません。本レビューは抄録までの確認(Tier B)です。

図解:原発性月経困難症と続発性(子宮内膜症)で、鍼のエビデンスの量と対照が大きく違うことを示した対比カード

タイプ別

原発性と続発性は、エビデンスの形が違う

一括りにすると、この違いが見えなくなります。

原発性(骨盤内に病変がない)
担当レビュー=CD007854.pub3(2016)
42試験・4,640名

対照=偽鍼・鎮痛薬・無治療ほか。質は全比較で「低い」〜「非常に低い」。結論は判定保留です。

続発性(子宮内膜症など)
担当レビュー=CD007864(2011・以後更新なし)
採用試験1件・67名

対照は中薬

プラセボでも通常治療でもありません。別の2023年のレビューは6試験331名ですが、月経痛の値は1試験106名のみ。通常ケア比は1試験19名で、確実性は非常に低いと評価されています。

同じ「生理痛」でも、担当している研究の量も、比べた相手も違います

模式図です。タイプの判断は医療機関の役割で、鍼灸師が行うものではありません。右カードの数値を鍼の効果量として単独で扱わないでください(対照が中薬であるため、「何もしないより良い」ことすら示していません)。続発性を疑う具体的な所見については、当サイトは一次資料を取得していないため本図に載せていません。出所=CD007854.pub3(PMID 27087494)/CD007864(PMID 21901713)/Giese 2023(PMID 38033648)。構成は当サイトが組み直したものです。

施術より受診をすすめる目安は、どこに書いてあるのか

鍼灸師は診断を行う立場にはありません。
それでも「いつ婦人科につなぐか」は、毎日の判断として必要です。

当サイトは、この目安を自分たちで決めないことにしています。
使えるのは、婦人科側の一次資料です。

米国産婦人科学会の委員会意見(No.760『青年期の月経困難症と子宮内膜症』)の抄録には、治療を始めて3〜6か月たっても月経痛が臨床的に改善しない場合、産婦人科医は二次的な原因の可能性と、治療の遵守状況を調べるべきだという趣旨が書かれています。

これを鍼灸院の実務に置き換えると、こうなります。

すでに婦人科で治療を受けていて、3〜6か月たっても月経痛が変わらないという人には、「もう一度婦人科で相談してみてください」と伝える。
鍼を続けるかどうかとは別に、この一言を渡すのが鍼灸師の仕事です。

まだどこにもかかっていない人には、まず婦人科の受診をすすめる。
とくに、痛みで学校や仕事を休む状態が続いている場合です(これは当サイトの運用上の目安で、特定の一次資料に対応した項目ではありません)。
「鍼で様子を見ましょう」を先に置かないでください。

施術を始めるなら、期限を先に決める。
「何回・何周期で、何をもって評価するか」を最初に共有しておけば、だらだら続く事態を避けられます。

判断がつかないときは、施術を先に置かない。
当サイトは、続発性を疑うための所見の一覧を持っていません(理由はこのあとに書きます)。一覧が無いということは、「当てはまらないから大丈夫」と判断するための材料も無いということです。ですから運用は逆向きになります。いつもと様子が違う、経過が読めない、判断に迷う——そう感じた時点で、施術の予定より受診を先にしてください。急を要すると感じる状態であれば、その日のうちに医療機関にかかるようお伝えください。
これは特定の所見にもとづく医学的な基準ではなく、当サイトの運用上の既定値です。所見の一覧を出せない以上、「迷ったら施術しないほうへ倒す」という形でしか書けません。

そして、いちばん大事な留保です。
当てはまる項目がひとつも無くても、それは背景に病気がないことの証明にはなりません。
続発性を疑うべき具体的な所見(診察や画像で確認されるもの)については、当サイトは一次資料をまだ取得できていません
だからここでは列挙していません。

この章について、当サイトが確認できている範囲
根拠にしているのは ACOG Committee Opinion No.760(Obstet Gynecol. 2018;132(6):e249-e258/PMID 30461694)の抄録です。出版社サイトが有料のため本文には到達できておらず、原文の逐語引用は行っていません
また、この文書は青年期(adolescent)を対象にしたものです。成人にそのまま当てはまるかどうかを、当サイトは確認していません。
本文を確認できた時点で、記述を更新します。

図解:生理痛の患者に対して、施術を続けるか婦人科の受診をすすめるかを判断するためのステップ図

受診の目安

施術より受診をすすめる目安(3ステップ)

病名を推定するための図ではありません。「施術を続けるか、受診をすすめるか」を決めるための動線です。

  • 1
    婦人科にかかっていますか?
    かかっていない → 婦人科の受診をすすめる。とくに、痛みで学校や仕事を休む状態が続いている場合です。
  • 2
    治療を始めて3〜6か月たっていますか? 痛みは変わりましたか?
    変わっていない → 「もう一度婦人科で相談してみてください」と伝える。出所=ACOG Committee Opinion No.760 の抄録の趣旨(当サイトによる要約)。
  • 3
    施術を始めるなら
    回数と期間を先に決めて、一緒に評価する。何回・何周期で、何をもって評価するかを最初に共有しておきます。

薬の増減は処方した医師へ タイプの判断は医療機関の役割 迷ったら施術より受診を先に

このステップ図は診断のためのものではありません。鍼灸師は疾病の診断を行う立場になく、これは「施術を続けるか、受診をすすめるか」を決めるための目安です。該当がひとつも無くても、背景に病気がないことの証明にはなりません。判断に迷う場合は、施術より受診を先に置いてください(当サイトの運用上の既定値であり、所見にもとづく基準ではありません)。3〜6か月という期間は ACOG Committee Opinion No.760 の抄録に基づくもので、当サイトは本文に到達できておらず、対象も青年期です。成人にそのまま当てはまるかは確認していません。

有害事象のデータは、なぜ「安全」の根拠にならないのか

安全性の話になると、つい「重い副作用の報告はありません」と言いたくなります。
けれども、この領域でその言い方はできません。

コクランの結論には、こう書かれていました。
「ほとんどの比較で、有害事象に関するデータが得られなかった」。
偽鍼と比べた項目にも、無治療と比べた項目にも、"No studies reported adverse events"(当サイトによる訳:有害事象を報告した研究はなかった)という一文が並んでいます。

指圧のレビューでも同じです。
2013年の8試験のレビューには「すべての試験が有害事象を報告しなかった」という記述があり、2025年の23試験のレビューでも、有害事象を報告したのは2件だけでした。

これは「安全だった」ではなく「調べられていない」ということです。
両者を混ぜないでください。

数字が取れている部分もあります。
鎮痛薬と比べた4件(239名)では、有害事象は鍼群のほうが少なかったと報告されています(オッズ比 0.10、95%信頼区間 0.02〜0.44、I²=15%、質は低い)。
ただしこれは「鍼が安全」ではなく「比べた相手が薬だった」という話です。

先ほどの豪州の92名の試験では、重篤な有害作用の報告はなく、もっとも多かった随伴反応は「リラックスした」29%、「穏やかになった」23%でした。

臨床で押さえたいのは次の2点です。

ひとつは、「有害事象の報告がない」を安全性の根拠として患者説明に使わないこと
稀であることとゼロであることは違います。

もうひとつは、生理痛の施術部位は下腹部・腰仙部・下肢が中心になりやすいという点です。
下腹部への刺鍼は、妊娠の可能性がある方が対象になり得ます。
⚠️ ただし、妊娠中や妊娠可能性のある方への下腹部刺鍼の可否について、当サイトはこの記事の範囲で一次資料を収集していません。ここは各自の教育背景と所属団体の基準に従ってください。当サイトとして推奨も否定も示しません。

エビデンスボックス⑨ 有害事象の報告状況(深く知りたい方向け・飛ばしてOK)
  • CD007854(PMID 27087494):著者結論に "for most comparisons no data were available on adverse events"。偽鍼比較・無治療比較の欄はいずれも "No studies reported adverse events"
  • CD007854・鍼 vs NSAIDs"Adverse events were less common in the acupuncture group (OR 0.10, 95% CI 0.02 to 0.44, 4 RCTs, 239 women, 4 trials, I² = 15%, low-quality evidence)."(当サイトによる訳:有害事象は鍼群のほうが少なかった)
  • Smith 2011(PMID 21799683)"No serious adverse effects reported." 随伴反応の最多は「リラックスした」29%・「穏やかになった」23%。副作用の報告に群間差なし。
  • Jiang HR, Ni S, Li JL, et al. Systematic review of randomized clinical trials of acupressure therapy for primary dysmenorrhea. Evid Based Complement Alternat Med. 2013;2013:169692.(PMID 24023570/PMC3759274)8 RCT。"All trials did not report adverse events."=安全性のデータが皆無であるという記録。※抄録までの確認(Tier B)。
  • Yu X, et al. 2025(PMID 41138782):23試験中、有害事象を報告したのは2件のみ。いずれも軽微。
  • Wang Y, et al. 2025(PMID 40893121):有害事象の発生率に差なし(RR 0.94、95%CI 0.26〜3.33)。
  • Zhang HR, Tu HY, Wang Y, et al. Effectiveness and Safety of Moxibustion Robots on Primary Dysmenorrhea: A Randomized Controlled Pilot Trial. Chin J Integr Med. 2021;27(8):578-584.(PMID 33837481)灸の有害事象発生率:ロボット 2.1% vs 手技 7.2%(p<0.05)。パイロット試験。※抄録までの確認(Tier B)。
  • Giese 2023(PMID 38033648)"Most studies reported low rates of adverse events."(続発性)
  • 🛑 読み方:これらの多くは「有害事象が無かった」ではなく「有害事象を報告していない」という記録です。安全性の証拠としては使えません。
  • ⚠️ 妊娠可能性のある方への下腹部刺鍼の可否は、本記事の文献の範囲では扱っていません。一次資料を取得できた時点で追記します。

施術を始める時期は決着しているのか

「生理の何日前から始めればいいですか」。
患者さんからも同業者からもよく出る質問ですが、まだ決着していません

月経前に始めるほうがよい、という方向の報告はあります。
ただし、鍼でタイミングそのものを振り分けた試験(豪州・74名・4群)では、全群で痛みが減ったのに、群間の差がありませんでした
そしてこの試験には、対照群がありません。偽鍼も無治療も通常ケアも置かれていないのです。

“The RCT, due to its design in comparing effectiveness of differing doses of acupuncture, did not have a usual care group.”
“This suggests an additional benefit of acupuncture but our ability to determine the extent to which acupuncture treatment is responsible for the changes in pain, menstrual symptoms and health-related quality of life observed in the study is limited.”
出所:Armour M, Dahlen HG, Zhu X, Farquhar C, Smith CA. The role of treatment timing and mode of stimulation in the treatment of primary dysmenorrhea with acupuncture: An exploratory randomised controlled trial. PLoS One. 2017;12(7):e0180177(PMID 28700680/PMC5507497)Discussion(Limitations)。⚠️ この2文は原文で連続していません。間に、12か月の変化が原発性月経困難症の自然な軽減によるものとは考えにくいこと、およびWitt(ドイツ)の通常ケア群が3か月で平均15%の減少だったのに対し本試験は群の割付によらず24%の減少だったこと、を述べた2文があります。
当サイトによる訳:本ランダム化比較試験は、異なる用量の鍼の有効性を比較する設計であったため、通常ケア群を置いていない。/このことは鍼の上乗せの利益を示唆するが、痛み・月経に伴う症状・健康関連QOLについて本研究で観察された変化のどの程度が鍼治療によるものかを判断する我々の能力は、限られている。

著者は、この12か月の変化が自然な軽減だけで説明できるとは考えにくいとし、鍼の上乗せの利益を示唆すると書いています。ただし同じ文の後半で、その変化のどの程度が鍼によるものかを判断する能力は限られているとも書いています。対照群が無い以上、そこから先へは進めない、ということです。
🛑 「群内で痛みが減った」を「鍼が効いた」と書き換えないでください。同時に、著者が書いていない「鍼の効果とは読めない」という否定側の断定も、当サイトは行いません。書けるのは「上乗せの利益が示唆されるが、その程度は判定できない」までです。

月経前開始を支持する報告の中身、灸の試験との違い、試験ごとのプロトコルの差、そしてなぜ決着しないのかは、施術のタイミングを主題にして稿を改めて扱います

エビデンスボックス⑩ Armour 2017(n=74)の設計と限界(深く知りたい方向け・飛ばしてOK)
  • Armour M, Dahlen HG, Zhu X, Farquhar C, Smith CA. The role of treatment timing and mode of stimulation in the treatment of primary dysmenorrhea with acupuncture: An exploratory randomised controlled trial. PLoS One. 2017;12(7):e0180177.(PMID 28700680/DOI 10.1371/journal.pone.0180177/PMC5507497・全文確認済)
  • デザイン探索的ランダム化比較試験。オーストラリア。原発性月経困難症 74名4群に割り付け(低頻度×手技鍼19/高頻度×手技鍼18/低頻度×電気鍼18/高頻度×電気鍼19)。3周期で12回の施術。
  • 🛑 対照群がありません。4群とも実際の施術を受けています。偽鍼も無治療も通常ケアも置かれていません。著者の逐語="did not have a usual care group"(当サイトによる訳:通常ケア群を置いていない)。問うているのは「鍼か、鍼でないか」ではなく「いつ・どの刺激で行うか」です。
  • 結果全群で痛みが減りましたが、群間の差はありませんでした。したがって「月経前に始めるほうがよい」という方向を、この試験は支持も否定もしていません。
  • 著者自身の限界:①"not powered to detect small between group differences"(当サイトによる訳:小さな群間差を検出する検出力を持たない)=検出力不足。②6か月・12か月の脱落が多く LOCF(最終観測値の繰り越し)を多用したため、効果の持続期間を過大評価しうる
  • 🛑 読み方:対照群が無い以上、群内で痛みが減ったことを「鍼が効いた」と読み替えることはできません。同時に、著者が書いていない「鍼の効果とは読めない」という否定側の断定も、当サイトは行いません。著者が書いているのは「上乗せの利益が示唆されるが、その程度は判定できない」までです(本文の逐語引用を参照)。
  • ⚠️ 本文で引用した2文は、原文で連続していません。間に2文があることを引用ブロックの出所欄に明記しています。

ガイドラインは生理痛の鍼をどう扱っているのか

ここは、書けることと書けないことをはっきり分けます。

当サイトが確認できた範囲では、生理痛に鍼を推奨している主要な診療ガイドラインは見つかりませんでした。
同時に、「鍼を使うな」と明記しているものも見つかっていません。

実務で効くのは、次の1点です。
NICEの慢性疼痛ガイドライン(NG193)は、慢性一次性疼痛に鍼を検討してよいとしています。
けれども当サイトが確認した Evidence review G(鍼)の範囲では、dysmenorrhoeamenstrual の語は出現しませんでした。エビデンス基盤に月経困難症が含まれていることを示す記載を、当サイトは確認できていません。
つまり「NICEが慢性痛に鍼を認めているから生理痛にも使える」とは言えません。自院のサイトで書いてしまいがちなので、ここは押さえておいてください。

日本のガイドラインと、その他の海外ガイドラインについては、当サイトが確認できた範囲と、確認できていない範囲を下に分けて置きます。

⚠️ ガイドラインについて、当サイトが確認できた範囲
日本『産婦人科診療ガイドライン 婦人科外来編2023』CQ305「機能性月経困難症の治療は?」が実在するところまで(Mindsの目次で確認。「機能性月経困難症」は原発性月経困難症の日本語表記)。🛑 回答本文は確認できていません。鍼灸への言及があるかどうかは分かりません。また同ガイドラインは2026年版が現行であることが日本産科婦人科学会のサイトで確認できており、当サイトが目次を見たのは2023年版です。
日本の子宮内膜症診療ガイドライン(英語版・第3版)「補完代替療法は子宮内膜症関連疼痛に有効か」というCQ22が実在するところまで。🛑 回答本文と推奨グレードは取得できていません。
英国NICE 子宮内膜症ガイドライン(NG73・2024年11月更新)=1パスで確認した範囲では acupuncture の語は出現しませんでした。🛑 これは「NICEが鍼を否定した」という意味ではありません。
米国産婦人科学会 委員会意見 No.760=本文が有料で到達できておらず、抄録に鍼への言及はありませんでした。
これらは該当ページを確認できた時点で、事実に差し替えます。「確認できていない」を「記載が無い」と読み替えないでください。

明日から使える|患者への説明トーク例と自院サイトの書き方

ここまでを、そのまま患者さんに話せる形にします。

① 「生理痛に鍼は効きますか?」と聞かれたとき
「正直にお伝えしますね。生理痛への鍼については、世界的にいちばん厳しくまとめられた報告書が2016年に出ていて、そこでの結論は『効果があるとも、ないとも言い切れない』でした。研究の数は多いのですが、ひとつひとつの研究の質が高くない、という評価です。
一方で、痛み止めと比べた研究や、何もしない場合と比べた研究では、鍼のほうが良かったという報告もあります。ですので『やってみる価値はあるけれど、確実に良くなるとお約束はできない』というのが、いまのところ正確なところです。
やるとしたら、何回・何周期で見直すかを最初に決めておきましょう。」

② 「痛み止めをやめたいんです」と言われたとき
「お薬をやめるかどうかは、処方している先生と相談していただく話になります。私からやめましょうとは言えません。
研究では、痛み止めと鍼を比べたものはありますが、『鍼が薬の代わりになる』ことを示したものではありません。まずはお薬を続けたまま、鍼を並行して置いてみて、様子を一緒に見ていくのが安全だと思います。
もし痛みの出方が変わってきたら、そのことを次の診察でお医者さんに伝えてみてください。」

③ 「痛みが強くて毎月寝込んでいる」「治療しているのに変わらない」と言われたとき
「それはつらいですね。生理痛には、体質的なものと、子宮や卵巣の病気が背景にあるものと、2つのタイプがあります。この見分けは医療機関のお仕事なので、私からは判断できません。
産婦人科の文書には、治療を始めて3〜6か月たっても痛みが変わらない場合は、ほかの原因も調べたほうがよい、という趣旨のことが書かれています。まだ受診されていなければ一度、すでに通院中なら『変わっていません』ともう一度お伝えいただくのがよいと思います。
鍼のほうは、受診と並行して続けていただくことはできます。ただ、痛みの出方がこれまでと変わってきたと感じたら、施術より受診を先にしましょう。私のほうでも、経過は一緒に見ていきますね。」

⚠️ トーク③の「3〜6か月」の出所について(施術者向けの注記です)
根拠は米国産婦人科学会の委員会意見 No.760 の抄録で、この文書は青年期(adolescent)を対象としています。成人にそのまま当てはまるかどうかを当サイトは確認しておらず、本文にも到達できていません
患者さんに渡すときは、期間の数字そのものより「婦人科でもう一度相談する」という行動のほうを主にしてください。

自院サイトで生理痛を扱うときの、リスクの低い書き方・避けたい書き方

以下は「この書き方なら適法」と保証するものではなく、相対的にリスクが低い/高い書き方の整理です。実際の記載は最新のガイドライン本文と、所管保健所の指導をご確認ください。

リスクの低い書き方

  • 「生理痛への鍼については、2016年のコクランレビューで『効果があるともないとも言えない』と結論されています。当院ではその前提でご説明しています」(出典を明示し、結論を盛らない)
  • 「痛みの原因が子宮内膜症などにある場合があります。婦人科での確認をおすすめしています」(受診勧奨を先に置く)
  • 「回数と期間を決めて、一緒に評価します」(施術の枠組みを示す)

避けたい書き方

  • 避けたい:「生理痛が治る」「薬が要らなくなる」(効果の断定・医薬品の否定につながる)
  • 避けたい:「コクランでも効果が認められています」(原典の結論と食い違う)
  • 避けたい:「生理痛の根本原因を改善します」(診断を含意する)

施術所のウェブサイトは、あはき師法・柔整師法の広告規制については原則として対象外とされています。ただし医療法・薬機法・景品表示法などの他の法令は及びます。この線引きは鍼灸院のホームページと広告規制の記事で整理しました。

この記事で書かなかったこと・書けなかったこと

正直コーナーです。理由つきで開示します。

  1. コクランが「全ドメインで低バイアス」と評価した試験の名前を、名指ししていません。参照リストを直接確認できていないためです(本文の注記を参照)。
  2. 比較別の参加者数の内訳(各比較の総n)を出していません。抄録に記載がなく、Summary of findings 表での照合が済んでいないためです。本文に出したのは抄録に明記された数値だけです。
  3. 偽鍼の型についてのコクランの記述を、逐語では引いていません。「非侵襲と侵襲が混在していた」という趣旨の記述を1パスで得ましたが、逐語として確定していないためです。
  4. 日本のガイドラインの中身を書いていません。CQが存在することまでしか確認できていないからです。
  5. 日本発のランダム化比較試験は見つかりませんでした。確認できた日本語の臨床研究は、女子大学生51名に三陰交へ円皮鍼を行った2009年の報告(全日本鍼灸学会雑誌)だけで、これは無治療期間→治療期間→無治療期間という自己対照の前後比較であり、ランダム化された対照群がありません。著者自身も「治療効果は精神的な要因や月経痛以外の痛みに影響されやすい可能性」と留保しています。「見つからなかった」であって「存在しない」ではありません。
  6. 中薬・浮鍼・埋線・鍼刀などを用いた研究は、効果の根拠として扱っていません。日本の一般的な鍼灸院の手技ではないためです。
  7. 「有効率」を主要アウトカムにした研究の数値は使っていません。何をもって「有効」としたかが試験ごとに違うためです。
  8. PMS(月経前症候群)・PMDDは扱っていません。月経困難症とは別の疾患で、別のコクランレビューがあります。姉妹記事として分けます。
  9. 選穴・手技の具体的な推奨は書いていません。この記事はエビデンスの地図であって、施術書ではありません。
  10. 「効く」とも「効かない」とも書いていません。どちらの断定にも、根拠が足りないからです。

FAQ|生理痛への鍼で鍼灸師によくある質問

Q. 生理痛の鍼は何回くらい必要ですか?
A. 回数を直接比べた試験は、本記事の文献の範囲にはありません。参考になるのは各試験のプロトコルで、豪州の92名の試験は3か月で9回、同じく豪州の74名の試験は3周期で12回でした。ただし後者は群間に差が出ていません。「◯回で効きます」とは言えないので、回数と期間を先に決めて一緒に評価する形が現実的です。

Q. 月経の何日前から始めるのがよいですか?
A. 決着していません。月経前に始めるほうが良いという方向の報告はありますが、鍼でタイミングを振り分けた試験では群間に差が出ませんでした。しかもその試験には対照群がありません。「◯日前に打つべき」という数字は、現時点では出せません。施術のタイミングについては稿を改めて扱います。

Q. 「コクランに載っている」と患者さんに言ってもよいですか?
A. 「載っている」は事実ですが、そこで止めると誤解を生みます。載っているのは「効果があるともないとも言えない」という結論のほうです。伝えるなら結論までセットにしてください。掲載されていることと、効果が示されていることは別です。

Q. 子宮内膜症と言われている患者さんに鍼をしてもよいですか?
A. 婦人科の治療を続けてもらうことが前提です。そのうえで痛みへの対応として鍼を並行させる形なら、当サイトはそれを否定する材料を持っていません。ただし続発性側のコクランレビューは採用試験が1件だけで、しかも比較の相手が中薬です。「子宮内膜症の痛みに鍼が有効だと分かっている」とは言えない状態だと理解しておいてください。

Q. 生理痛の鍼灸に療養費(保険)は使えますか?
A. 療養費の支給対象として通知で挙げられているのは6疾患(神経痛・リウマチ・頸腕症候群・五十肩・腰痛症・頸椎捻挫後遺症)で、月経困難症はこの列挙に含まれていません。これら以外については「慢性的な疼痛を主症とする類症疾患」として保険者が個別に判断するとされています。⚠️ この説明は当サイトが公開情報を整理した二次的な情報であり、通知番号は記載していません。所管は保険者および地方厚生局です。法的・行政的な助言ではありませんので、実際の取扱いは加入されている保険者・所管の地方厚生局にご確認ください。制度の全体像は鍼灸の療養費(保険)完全ガイドで整理しています。

Q. 生理痛に鍼が作用するしくみは説明できますか?
A. この記事の文献の範囲では、確立した機序を提示できません。当サイトの作用機序の記事は痛み(鎮痛)の機序を整理したもので、月経痛に固有の機序を扱ってはいません。機序の説明で効果を補強しないほうが、結果的に信頼されます。

まとめ|生理痛への鍼を鍼灸師としてどう扱うか

  • 2016年のコクランレビュー(42試験・4,640名)の結論は「効果があるともないとも言えない」。すべての比較でエビデンスの質は「低い」か「非常に低い」と評価されています
  • バイアスリスクが全項目で低かった唯一の試験は、3・6・12か月のいずれでも群間差を示していません。これがこのレビューでいちばん重い1行です
  • 比べる相手で答えが4通りに変わります。鎮痛薬比は有利、無治療比は有利(ただし統合不能)、偽鍼比は一貫せず、指圧対鎮痛薬の1試験(136名)では指圧群のほうが痛みが強いと報告されています(0〜3のスケールで平均差0.39・質は非常に低い)
  • 最大規模の501名の試験は偽鍼対照ではなく経穴の特異性を問う試験で、著者自身が臨床的な意味は無いという趣旨の結論を書いています
  • 偽鍼群でも痛みは大きく下がります(13試験の群内の前後変化を統合した値で、自然経過や平均への回帰を含みます。偽鍼という介入の効果量ではありません)。臨床での手ごたえを、そのまま鍼の効果と読まないでください
  • 原発性と続発性は別物。続発性側のコクランは採用試験1件・対照が中薬という状態です
  • 治療を始めて3〜6か月変わらないなら、婦人科での再確認をすすめる(米国産婦人科学会の文書の趣旨。対象は青年期で、当サイトは抄録までの確認です)。当てはまらなくても、それは病気がないことの証明ではありません
  • 安全性は「安全だった」ではなく「調べられていない」。有害事象の報告がないことを、安全の根拠に使わないでください
  • 施術のタイミングは決着していません。「月経前が良い」という方向の報告と、「振り分けても差が出なかった」という報告が並んでいます

関連記事

更新履歴

本記事は初版です。以下が確認できた時点で追記・修正します。①コクラン CD007854 の参照リスト(低バイアス試験の同定)②Summary of findings 表による比較別の試験数・参加者数 ③『産婦人科診療ガイドライン 婦人科外来編』CQ305 の回答本文(2026年版)④日本の子宮内膜症診療ガイドライン CQ22 の回答本文と推奨グレード ⑤ACOG Committee Opinion No.760 の本文。

参考文献

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  2. Smith CA, Zhu X, He L, Song J. Acupuncture for primary dysmenorrhoea. Cochrane Database Syst Rev. 2011;(1):CD007854. PMID: 21249697. DOI: 10.1002/14651858.CD007854.pub2 ※本記事が扱うのは更新版(pub3)です
  3. Smith CA, Crowther CA, Petrucco O, Beilby J, Dent H. Acupuncture to treat primary dysmenorrhea in women: a randomized controlled trial. Evid Based Complement Alternat Med. 2011;2011:612464. PMID: 21799683. DOI: 10.1093/ecam/nep239 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3140031/
  4. Liu CZ, Xie JP, Wang LP, et al. A randomized controlled trial of single point acupuncture in primary dysmenorrhea. Pain Med. 2014;15(6):910-920. PMID: 24636695. DOI: 10.1111/pme.12392 ※当サイトは抄録までの確認
  5. Armour M, Dahlen HG, Zhu X, Farquhar C, Smith CA. The role of treatment timing and mode of stimulation in the treatment of primary dysmenorrhea with acupuncture: An exploratory randomised controlled trial. PLoS One. 2017;12(7):e0180177. PMID: 28700680. DOI: 10.1371/journal.pone.0180177 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5507497/
  6. Armour M, Smith CA. Treating primary dysmenorrhoea with acupuncture: a narrative review of the relationship between acupuncture ‘dose’ and menstrual pain outcomes. Acupunct Med. 2016;34(6):416-424. PMID: 27913451. DOI: 10.1136/acupmed-2016-011110 ※当サイトは抄録までの確認
  7. Liu LY, et al. Moxibustion for patients with primary dysmenorrhea at different intervention time points: a randomized controlled trial. J Pain Res. 2020;13:2653-2662. PMID: 33116807. DOI: 10.2147/JPR.S270698 ※当サイトは抄録までの確認
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  27. Oladosu FA, Tu FF, Hellman KM. Nonsteroidal antiinflammatory drug resistance in dysmenorrhea: epidemiology, causes, and treatment. Am J Obstet Gynecol. 2018;218(4):390-400. PMID: 28888592. DOI: 10.1016/j.ajog.2017.08.108
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  30. 吉元授, 田口玲奈, 今井賢治, 北小路博司. 月経痛に対する鍼治療の効果(円皮鍼を用いた検討). 全日本鍼灸学会雑誌. 2009;59(4):406-415. DOI: 10.3777/jjsam.59.406 ※当サイトが確認したのは要旨までです。ランダム化された対照群のない自己対照の研究です
  31. Armour M, Ee CC, Hao J, Wilson TM, Yao SS, Smith CA. Acupuncture and acupressure for premenstrual syndrome. Cochrane Database Syst Rev. 2018;8:CD005290. PMID: 30105749. DOI: 10.1002/14651858.CD005290.pub2 ※本記事では扱っていません(PMSは月経困難症とは別の疾患です)

本記事は鍼灸師向けの学術情報の提供を目的としたものであり、特定の治療効果を保証するものではありません。効果には個人差があります。鍼灸師は疾病の診断を行う立場にはありません。月経困難症の型の判断や併存疾患の評価は医療機関の役割です。個別の患者への対応にあたっては、受診を優先すべきサインがないかを確認し、必要に応じて医療機関の受診をおすすめしてください。

【AI作成・編集責任について】本記事はAI(人工知能)が作成し、株式会社addwisteria の加藤タカシが編集責任者として内容を確認しています。引用した論文・ガイドラインの数値や推奨は改訂により変わることがあるため、実際の臨床判断では各原典の最新版をご確認ください。

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