「病院で過敏性腸症候群と言われて、薬も飲んでいるんです。鍼治療で、お腹のほうもよくなりますか?」
肩や腰で通っている患者さんから、こう聞かれたことはありませんか。
過敏性腸症候群(IBS)への鍼を調べると、「上回った」研究と「差がなかった」研究の両方が出てきます。
この記事では、研究を「何と比べたか」で並べ直します。
学会の扱い、医療機関につなぐ目安、患者さんへの伝え方までつなげます。
結論(先に5つ)
① 偽鍼(本物に似せた対照の処置)と比べた研究は、結果が割れています。2012年のコクランレビューは、症状の重さと生活の質で偽鍼に対する利益を見出しませんでした(検索は2011年まで)。2026年に複数の試験をまとめた解析は、反応した人の割合と治療終了時の症状で偽鍼を上回ったとしましたが、結果の確かさは低く、試験間のばらつきも大きいとされています。中国の下痢型の280名の試験は偽鍼を上回り(16週時点を除く)、米国・ドイツなどの試験では差がありませんでした。
② 英国で通常のケアに鍼を足した試験では、3か月時点の症状の点数が、通常のケアだけの群より下がりました。ただし著者自身が改善を「小さい」と書いています。患者さんは自分がどちらの群か知っており、施術者と過ごす時間が増えた影響も差し引けていません。2年後には統計的な差は確認されていません。
③ 薬より鍼が上回ったという研究は、どちらを受けているか患者さんに分かる比較や、抄録に盲検の記載がない比較が中心です。コクランは、その差が鍼への好みや期待だけによるのかは、今後の試験が明らかにするかもしれないと書いています。鍼が薬の代わりになるとは言えません。
④ ガイドラインの扱いは分かれます。英国 NICE は2008年の推奨で、鍼の使用を「勧めるべきではない」としています。2017年の見直しでは、ガイドラインを更新しないと決めました(当サイトが確認した版)。日本消化器病学会のガイドライン(2020年)の日本語版は、推奨文ではなく解説の中で、標準的な治療や抗うつ薬に反応しない場合の代替として鍼灸を提案すると書いており、推奨の強さは付いていません。英語版の同じ箇所は、2つのメタ解析で鍼がプラセボより症状を改善したとしつつ、研究デザインのため注意が要ると書いています。
⑤ では鍼灸院は明日から何をするか。当サイトの提案は3つです。(1)血便・発熱・思い当たる理由のない体重減少などがある方や、まだ医療機関でお腹の相談をしていない方には、施術より先に受診をすすめる。(2)鍼を試すなら、偽鍼と差がなかった研究もあることを先に伝え、医療機関の治療の代わりにはしない。(3)処方薬は自己判断でやめず、主治医に相談するよう伝える。
この記事が扱う「過敏性腸症候群」は、どこまでか
この記事が扱うのは、成人の過敏性腸症候群(IBS)です。
診断は医師が、国際的な診断基準(Rome IV など)にもとづいて行います。
研究では、下痢型(IBS-D)・便秘型(IBS-C)・混合型などに分けて対象を決めることがあります。
下痢型だけの試験の結果を、IBS 全体の話として読まないよう注意します。
胃もたれなどが続く機能性ディスペプシアや、慢性の便秘は扱いません(理由はエビデンスボックス①)。
比べる相手で結論が動く仕組みは、鍼のエビデンスは比較対照で変わる|無治療比・偽鍼比・実薬比で整理しています。
エビデンスボックス① 対象の範囲と、姉妹症状を切り分けた理由(深く知りたい方向け・飛ばしてOK)
- 日本消化器病学会 編集・発行(制作 南江堂). 機能性消化管疾患診療ガイドライン2020―過敏性腸症候群(IBS)(改訂第2版). 2020年6月1日発行.(協力学会=日本消化管学会・日本神経消化器病学会・日本心身医学会/学会公開 PDF https://www.jsge.or.jp/committees/guideline/guideline/pdf/IBSGL2020_.pdf )当サイトの言い換え=推奨の強さの定義(文書 p.xii)は、強=「実施する」ことを推奨する、弱=「実施する」ことを提案する。利用対象は一般臨床医で、対象は成人です。評釈:奥付は転載・複製に許諾を求めています。当サイトは表と図を再現せず、言い換えと出所で紹介します。
- サブタイプ(型)の扱い:この記事で取り上げる試験のうち、ACTION(Yang JW 2025)と Qi 2022 は下痢型のみ、Pei 2020 は便秘型と下痢型を層別、Zhao J 2024 は難治性、Mak 2019 は全般性不安障害との併存が対象です(各試験の抄録の方法の文による)。🛑 評釈:当サイトは、これらの結果を IBS 全体の結論として書きません。
- 姉妹症状を持ち込まない理由:同じ「お腹の不調」でも、機能性ディスペプシアや慢性の便秘は別の病気として研究されており、数値を持ち込むと話がずれます。機能性ディスペプシアにはコクランレビュー(Lan L, Zeng F, Liu GJ, Ying L, Wu X, Liu M, et al. Acupuncture for functional dyspepsia. Cochrane Database Syst Rev. 2014;2014(10):CD008487・PMID 25306866)があり、慢性の機能性便秘には大規模な試験(Liu Z, Yan S, Wu J, He L, Li N, Dong G, et al. Acupuncture for Chronic Severe Functional Constipation: A Randomized Trial. Ann Intern Med. 2016;165(11):761-769・PMID 27618593)があります。🛑 評釈:慢性機能性便秘は便秘型 IBS と同じではありません。当サイトはこれらの数値を IBS の根拠として使いません。
IBS の相談を受けたとき、医療機関につなぐ目安は
鍼灸師は診断を行う立場にありません。お腹の症状の陰に、大腸の病気などが隠れていることもあります。
まだ医療機関でお腹の相談をしていない方には、まず受診をすすめてください。
以下は、日本消化器病学会のガイドライン(2020年)が医師向けの診断の流れ図で挙げる、大腸の検査を考える手がかりを、当サイトが「施術より先に受診をすすめる場面」に置き換えたものです。
医師が診断を進めるためのもので、鍼灸師が IBS かどうかを判断する道具ではありません。
便に血が混じる/発熱や関節の痛みを伴う/この6か月以内に、思い当たる理由なく3kg以上体重が減った。同ガイドラインは、これらを器質的な病気(検査で形の異常が見つかる病気)を示唆する警告症状・徴候として挙げています。この場合は施術せず、医療機関の受診をすすめます。
お腹に触れたとき、しこりのようなものに気づいた。同ガイドラインは、腹部の腫瘤の触知などの異常な身体所見も、同じ警告症状・徴候に含めています。この場合も施術を続けず、受診をすすめます。
50歳以上の方/大腸の病気にかかったことがある方/ご家族に大腸の病気の方がいる。同ガイドラインは危険因子として、50歳以上での発症または患者、大腸の器質的な病気の既往歴または家族歴を挙げています。この場合、医療機関でお腹の検査や相談をまだしていなければ、先に受診をすすめます。
すでに IBS と診断されている方でも、上のような症状が新しく出てきたら、主治医への相談をすすめてください。
同じガイドラインの英語版は、IBS の患者さんにも器質的な病気が併存しうると書いています。
最後に大事なことを1つ。
これらに当てはまらないからといって、大腸の病気が無いとは言えません。迷ったら、受診をすすめる側に倒してください。
① お腹の相談を受けて、施術の前に確認するとき
「お腹のこと、話してくださってありがとうございます。いくつか確認させてください。便に血が混じったり、熱が出たりしていませんか。この半年で、思い当たる理由なく体重が減っていませんか。ご家族に大腸の病気をされた方はいますか。
お腹の症状の陰に別の病気が隠れていることもあって、その判断は私にはできません。まだ病院でお腹の相談をしていなければ、先に医療機関で相談してみてください。鍼をどうするかは、そのあと一緒に考えましょう。」
エビデンスボックス② 受診をすすめる目安の一次資料と、扱いの限界(深く知りたい方向け・飛ばしてOK)
- 日本消化器病学会 IBS 診療ガイドライン2020(日本語版)の診断アルゴリズム(文書 p.xvi・書誌はボックス①)当サイトの言い換え=「警告症状・徴候」「危険因子」「通常臨床検査の異常」のいずれかがあれば、大腸の検査に進む流れ。警告症状・徴候は、発熱、関節痛、血便、6か月以内の予期せぬ3kg以上の体重減少、異常な身体所見(腹部腫瘤の触知、腹部の波動、直腸指診による腫瘤の触知、血液の付着など)を代表とする、器質的疾患を示唆する症状と徴候。危険因子は、50歳以上での発症または患者、大腸器質的疾患の既往歴または家族歴。確認の範囲:警告症状・徴候と危険因子の項目は、編集長が原本のページ画像で照合(2026-09-14)。ページ画像の照合のため、かぎ括弧の逐語引用にはしていません。
- 🛑 評釈(この目安の限界):このアルゴリズムは医師の診断手順で、鍼灸師の判断基準として作られたものではありません。本文の項目は、この一次資料に対応が取れるものだけを置き、「当サイトが受診をすすめる場面に置き換えた」ことを明示しています。「50歳以上の方」は、原文の「50歳以上での発症または患者」を、受診をすすめる側に広く取った表現です。通常臨床検査(血液・便潜血など)は鍼灸院で行えないため、本文に置いていません。流れ図の注記には、患者が消化管の精密検査を希望する場合にも精査を行う旨の記載がありますが、編集長の照合範囲の外のため本文に置いていません。この目安は図解にしていません(図だけが切り出されると「当てはまらなければ施術してよい」と読まれるため)。
- Fukudo S, Okumura T, Inamori M, Okuyama Y, Kanazawa M, Kamiya T, et al. Evidence-based clinical practice guidelines for irritable bowel syndrome 2020. J Gastroenterol. 2021;56(3):193-217.(PMID 33538894/DOI 10.1007/s00535-020-01746-z/PMC7932982・CC BY 4.0・同ガイドラインの英語版)Diagnosis の節の逐語=”Colonoscopy is necessary for IBS patients who have alarm signs/symptoms of organic disease. However, is should be noted that IBS patients may also have comorbid organic disease.”(当サイトによる訳:器質的疾患の警告徴候・症状がある IBS 患者には大腸内視鏡検査が必要である。ただし、IBS 患者が器質的疾患を併存していることもある点に留意すべきである。)評釈:
is shouldは原文の表記のままです。本文の「当てはまらなくても大腸の病気が無いとは言えない」「診断後も新しい症状が出たら主治医に相談」は、この2文目に対応させています。 - ⚠️ 当サイトが本文の目安に入れていないもの:夜間の下痢・鉄欠乏性貧血は、韓国の2025年のコンセンサス(Choi Y, Youn YH, Kang SJ, Shin JE, Cho YS, Jung YS, et al. J Neurogastroenterol Motil. 2025;31(2):133-169・PMID 40205893)にあるとリサーチ時に記録していますが、当サイトは照合できていないため、一覧に入れていません。英国 NICE CG61 の 1.1.1.2(2017年改訂)は、具体的な症状の列挙ではなく、がんの疑いの紹介基準(NICE の別のガイドライン)に沿った徴候と、炎症性腸疾患の炎症マーカーを挙げる形です。一覧に無いことは、受診が不要という意味ではありません。
IBS の鍼について、コクランは何と書いているのか
コクランレビュー(決まった手順で試験を集めて評価する国際組織の報告書)の「IBS への鍼」は、2012年の版(Manheimer 2012)です。
17試験・約1,800人を集め、文献の検索は2011年11月まで。当サイトが PubMed などで調べた範囲では、より新しい版は見つかりませんでした。
比べた相手ごとに、結果の向きが違います。
偽鍼と比べた試験では、症状の重さでも生活の質でも、鍼の利益は見出されませんでした。根拠の質は「中等度」で、それ以上にならなかった理由はデータの少なさです。
いっぽう薬と比べると、症状が改善した人は鍼の群で約8割、薬の群で約6割でした。
ただしこの比較は中国語の試験が中心で、盲検(どちらの群か分からないようにする工夫)がなく、根拠の質は「低い」とされています。
出所:Manheimer E, Cheng K, Wieland LS, Min LS, Shen X, Berman BM, et al. Acupuncture for treatment of irritable bowel syndrome. Cochrane Database Syst Rev. 2012;2012(5):CD005111(PMID 22592702)Authors’ conclusions(全3文)。原文(英語)はエビデンスボックス③に置いています
当サイトによる訳:
1文目|偽鍼を対照とした RCT では、IBS の症状の重症度や IBS に関連した生活の質について、信頼できる偽鍼の対照に対する鍼の利益は見出されていない。
2文目|中国の比較効果試験では、患者は2種類の鎮痙薬(ピナベリウム臭化物とトリメブチンマレイン酸塩。いずれも IBS にささやかな利益を示すことが示されている)よりも、鍼から大きな利益を得たと報告した。
3文目|薬物療法と比べて鍼で報告されたこの大きな利益が、すべて患者の鍼への好みや、薬より鍼で改善するという期待の大きさによるものかどうかは、今後の試験が明らかにするかもしれない。
1文目は否定側、2文目は肯定側です。3文目は「期待によるものだ」と結論した文ではなく、「好みや期待だけで説明できるのかは、まだ分からない」という問いの形です。
数字を引く前に、知っておきたい2つのこと
1つ目。検索が2011年までなので、英国の上乗せ試験(2012年)や、中国の280名の試験(2025年)は入っていません。
「コクランの結論=今の結論」とは読めません。
2つ目。コクランには「ほかの治療に鍼を足す」比較もあり、そこで上回ったのは中国医学の治療(漢方薬など)に鍼を足した比較です。
「通常の治療に鍼を足すと良い」の根拠としては読めません。
コクランのどこを先に見るかは、コクランレビューの使い方|鍼灸師が結論より先に見る3か所で整理しています。
エビデンスボックス③ コクラン(Manheimer 2012)の原文と、数値の読み方(深く知りたい方向け・飛ばしてOK)
- Manheimer E, Cheng K, Wieland LS, Min LS, Shen X, Berman BM, et al. Acupuncture for treatment of irritable bowel syndrome. Cochrane Database Syst Rev. 2012;2012(5):CD005111.(PMID 22592702/DOI 10.1002/14651858.CD005111.pub3/PMC3718572)2006年版(pub2・PMID 17054239)の更新。PubMed の記録に、さらに新しい版や撤回の情報(UpdateIn・RetractionIn)はなく、Europe PMC でも後継版・撤回は見つかりませんでした(2026-09-14)。⚠️ Cochrane Library 本体のページには当サイトは到達しておらず、「stable」などの表示の有無は未確認です。検索は2011年11月まで。確認の範囲:抄録まで(本文の特性表・Implications for practice は逐語で取得できていません)。著者結論は3文で、本文の引用ブロックでは途中で切らずに全文を訳しています。
- Selection criteria(抄録の逐語・全文)=”Randomized controlled trials (RCTs) that compared acupuncture with sham acupuncture, other active treatments, or no (specific) treatment, and RCTs that evaluated acupuncture as an adjuvant to another treatment, in adults with IBS were included.”(当サイトによる訳:成人の IBS で、鍼を偽鍼・他の実治療・特定の治療なしと比べた RCT と、鍼を他の治療の補助として評価した RCT を採用した。)
- Main results(抄録の逐語・全文)=”Seventeen RCTs (1806 participants) were included. Five RCTs compared acupuncture versus sham acupuncture. The risk of bias in these studies was low. We found no evidence of an improvement with acupuncture relative to sham (placebo) acupuncture for symptom severity (SMD -0.11, 95% CI -0.35 to 0.13; 4 RCTs; 281 patients) or quality of life (SMD = -0.03, 95% CI -0.27 to 0.22; 3 RCTs; 253 patients). Sensitivity analyses based on study quality did not change the results. A GRADE analysis indicated that the overall quality of the evidence for the primary outcomes in the sham controlled trials was moderate due to sparse data. The risk of bias in the four Chinese language comparative effectiveness trials that compared acupuncture with drug treatment was high due to lack of blinding. The risk of bias in the other studies that did not use a sham control was high due to lack of blinding or inadequate methods used for randomization and allocation concealment or both. Acupuncture was significantly more effective than pharmacological therapy and no specific treatment. Eighty-four per cent of patients in the acupuncture group had improvement in symptom severity compared to 63% of patients in the pharmacological treatment group (RR 1.28, 95% CI 1.12 to 1.45; 5 studies, 449 patients). A GRADE analysis indicated that the overall quality of the evidence for this outcome was low due to a high risk of bias (no blinding) and sparse data. Sixty-three per cent of patients in the acupuncture group had improvement in symptom severity compared to 34% of patients in the no specific therapy group (RR 2.11, 95% CI 1.18 to 3.79; 2 studies, 181 patients). There was no statistically significant difference between acupuncture and Bifidobacterium (RR 1.07, 95% CI 0.90 to 1.27; 2 studies; 181 patients) or between acupuncture and psychotherapy (RR 1.05, 95% CI 0.87 to 1.26; 1 study; 100 patients). Acupuncture as an adjuvant to another Chinese medicine treatment was significantly better than the other treatment alone. Ninety-three per cent of patients in the adjuvant acupuncture group improved compared to 79% of patients who received Chinese medicine alone (RR 1.17, 95% CI 1.02 to 1.33; 4 studies; 466 patients). There was one adverse event (i.e. acupuncture syncope) associated with acupuncture in the 9 trials that reported this outcome, although relatively small sample sizes limit the usefulness of these safety data.”
- (当サイトによる訳)17の RCT(1,806名)を採用した。5つの RCT が鍼と偽鍼を比べた。これらの試験のバイアスのリスクは低かった。症状の重症度〈SMD −0.11、95%CI −0.35〜0.13、4試験281名〉と生活の質〈SMD −0.03、−0.27〜0.22、3試験253名〉について、偽(プラセボ)鍼に対する鍼の改善のエビデンスは見出されなかった。試験の質にもとづく感度分析でも結果は変わらなかった。GRADE 分析では、偽鍼対照試験の主要アウトカムのエビデンスの質は、データが少ないため中等度だった。鍼と薬物治療を比べた中国語の4つの比較効果試験は、盲検がないためバイアスのリスクが高かった。偽鍼の対照を用いなかった他の試験も、盲検がない、またはランダム化と割付の隠蔽の方法が不十分なため、バイアスのリスクが高かった。鍼は薬物療法や特定の治療なしより有意に有効だった。症状の重症度が改善した患者は、鍼群で84%、薬物治療群で63%だった〈RR 1.28、1.12〜1.45、5試験449名〉。GRADE 分析では、このアウトカムのエビデンスの質は、バイアスのリスクが高い〈盲検なし〉ことと、データが少ないため低かった。症状の重症度が改善した患者は、鍼群で63%、特定の治療なしの群で34%だった〈RR 2.11、1.18〜3.79、2試験181名〉。鍼とビフィズス菌〈RR 1.07、0.90〜1.27、2試験181名〉、鍼と心理療法〈RR 1.05、0.87〜1.26、1試験100名〉には統計的に有意な差はなかった。他の中国医学の治療の補助としての鍼は、その治療単独より有意に良かった。改善した患者は、補助的な鍼の群で93%、中国医学の治療のみの群で79%だった〈RR 1.17、1.02〜1.33、4試験466名〉。このアウトカムを報告した9試験で、鍼に関連した有害事象は1件〈鍼による失神〉だったが、サンプルサイズが比較的小さいため、この安全性データの有用性は限られる。
- 🛑 評釈(数値の読み方):偽鍼と比べた試験は「5試験」ですが、統合は症状4試験・生活の質3試験で、当サイトは「5試験で差なし」とは書きません。SMD の負の値は、この抄録では鍼が良い向きです(同じ IBS の他の統合では向きの書き方が違うものがあります)。薬物比の RR 1.28 は5試験の値で、盲検のない中国語の4試験を含みます。「no specific treatment」の中身(待機リストか、何もしないか)は抄録に無く、当サイトは「無治療と比べて」とは書きません。ビフィズス菌比と特定の治療なし比は人数がどちらも2試験181名ですが、同じ試験かは確認していません。補助の比較は「中国医学の治療(漢方薬など)への上乗せ」で、通常の治療への上乗せではありません。
- Authors’ conclusions(抄録の逐語・全3文)=”Sham-controlled RCTs have found no benefits of acupuncture relative to a credible sham acupuncture control for IBS symptom severity or IBS-related quality of life. In comparative effectiveness Chinese trials, patients reported greater benefits from acupuncture than from two antispasmodic drugs (pinaverium bromide and trimebutine maleate), both of which have been shown to provide a modest benefit for IBS. Future trials may help clarify whether or not these reportedly greater benefits of acupuncture relative to pharmacological therapies are due entirely to patients’ preferences for acupuncture or greater expectations of improvement on acupuncture relative to drug therapy.”(訳は本文の引用ブロック)
- 🛑 評釈(結論の読み方):3文目は
due entirely to(すべてが〜によるものか)を問う文です。当サイトは「コクランは、鍼の利益は期待によると結論した」とは書きません。反対に、1文目だけを「コクランの結論」とも呼びません。
偽鍼と比べると、IBS の鍼の研究は割れている
図解:過敏性腸症候群への鍼の研究を、比較の相手(偽鍼・待機リスト・通常のケア・薬)ごとに4枚のカードに分け、試験の規模と対象、報告された結果の向きと、その読み方の注意を並べた図
同じ「IBS の鍼」でも、比べる相手によって結果の向きが違います。
コクラン(2012年・検索2011年まで)=症状の重さと生活の質で差なし(根拠の質は中等度)
2019年・2022年の統合=症状の重さで偽鍼との差なし(2022年は腹痛で小さな差を報告しつつ、偽鍼との比較では頑健な証拠なしと記載)
2026年の統合(非経穴の偽鍼・12試験)=反応率と治療終了時の症状で鍼が上(結果の確かさは低い・ばらつき大)
中国6施設280名(下痢型のみ・先の鈍い針の偽鍼)=腹痛と下痢の複合反応率で鍼が上(16週を除く)
米国230名・ドイツ43名・79名の試験・同じグループの90名のパイロット=差なし
米国230名=鍼の群も偽鍼の群も、待機リストより改善。鍼と偽鍼の間には統計的な差なし(カード1と同じ試験)
英国233名=3か月で、通常のケアだけの群より症状の点数が下がった(著者自身が「小さい」と記載)
盲検なし・時間と注目の影響が改善の一部に寄与した可能性が高いと著者が記載
24か月では統計的な差は確認されず
コクランの薬との比較=改善した人の割合は鍼の群で多い。ただし盲検のない中国語の試験が中心(根拠の質は低い)。著者は、その差が鍼への好みや期待だけによるのかは今後の試験で明らかになるかもしれない、と記載
中国7病院531名=鍼の群で症状の点数の低下が大きかった(著者の結論は「より有効かもしれない」)。抄録に盲検の記載なし・2種類の薬をまとめた対照
2019年の統合=集めた27試験に、適切な盲検を行ったものは無いと記載
鍼が薬の代わりになる、薬を減らせる、という意味ではありません。処方薬のことは主治医へ
模式図です。各カードは統合値ではなく、研究ごとの結果の向きを当サイトが並べたものです。カード3・4は偽鍼を置いた比較ではありません。カード2は、偽鍼の群も含めて待機リストと比べたもので、鍼に特有の効果を切り分けた比較ではありません。カード1の280名の試験は下痢型だけが対象で、解析した人数は抄録に書かれていません。カード3の差は、盲検のない通常のケアとの比較です。カード4は、どちらを受けているか患者に分かる比較が中心です。「差なし」は差が無いことの証明ではありません。出所=Manheimer 2012(PMID 22592702)/Zheng H 2019(PMID 31814859)/Yang Y 2022(PMID 36589968)/Zheng HZ 2026(PMID 42413705)/Yang JW 2025(PMID 40441496)/Lembo 2009(PMID 19455132)/Schneider 2006(PMID 16150852)/Lowe 2017(PMID 28251729)/Qi 2022(PMID 36580333)/MacPherson 2012(PMID 23095376)・2017(PMID 26980547)/Pei 2020(PMID 32499125)/Wu 2019(PMID 30719074)。カードの構成は当サイトが組み直したもので、原典にこの図はありません。
偽鍼にも、皮膚に刺さらない型や、ツボでない場所に浅く刺す型など、いくつか種類があります。
型の違いは偽鍼(シャム鍼)とは何か|4つのタイプと「不活性でない」問題にまとめています。
研究をまとめた解析どうしで、結論が分かれている
2026年に消化器の学術誌に出た系統的レビュー(決まった手順で試験を集めてまとめた解析)は、「ツボでない場所への偽鍼」と比べた12試験に絞りました。
反応した人の割合と治療終了時の症状で、鍼が偽鍼を上回ったと報告しています。
ただし、計算の条件を変えても結果が保たれたのは、この2つだけでした。
追跡時の症状と生活の質は、結果が安定していません。著者自身も、ばらつきが大きく結果の確かさが低いため、大規模で質の高い試験での確認が必要だと結論しています。
いっぽう、差を示さなかった統合もあります。
コクラン(2012年)に加え、2019年と2022年の統合も、症状の重さでは偽鍼との差を示しませんでした。2019年の統合は、有効率では本物の鍼が上回ったものの、計算の条件を変えた確認では支持されなかったと書いています。
2022年の統合は腹痛で小さな差を報告しつつ、偽鍼との比較では頑健で安定した証拠を示していない、と書いています。
補完代替医療の試験をまとめた統合(2021年)でも、鍼を含む区分は、プラセボや偽の処置を有意には上回りませんでした(鍼がこの区分に入ることは、論文の本文の分類によります)。
当サイトが読んだ抄録の範囲では、なぜ割れるのかを検証した記載は見当たりませんでした。
組み入れた試験の年代や偽鍼の型の違いが候補になりますが、これは当サイトの見立てです。
大きな試験:中国6施設、下痢型の280名
2025年の ACTION 試験(Yang JW 2025)は、下痢型の IBS の280名を、鍼と偽鍼に分けました。
偽鍼は、先の鈍い針をツボでない場所に用いる型です(皮膚を貫かない型と考えられますが、抄録に明記はありません)。6週で15回行い、腹痛と下痢の両方が一定以上改善した人の割合を比べています。
6週時点で基準を満たした人は、鍼の群で約6割、偽鍼の群で約4割でした。
差は3週目から見られ、16週目を除いて試験の終わりまで続いたと報告されています。
注意は3つあります。対象が下痢型だけであること。偽鍼が先の鈍い針の型であること。
そして、抄録には解析した人数が書かれていません。抄録の人数と割合から当サイトが計算すると、各群140名とは合いません(この計算は原文に書かれたものではありません)。
偽鍼と差がなかった試験
同じ研究グループが先に行った90名のパイロット試験(Qi 2022)では、ツボに刺す群、別のツボに刺す群、刺さない偽鍼の群の3群に、統計的な差はありませんでした。
著者は、刺した2群に臨床的に意味のある改善があったとしつつ、効果を正確に評価するには、より大きな試験が必要だと書いています。
米国の230名の試験(Lembo 2009)では、刺さない偽鍼と差がありませんでした。
ただ、鍼と偽鍼のどちらを受けた人も、待機リスト(試験の間は治療を受けずに待つ群)より改善していました。
ドイツの43名の試験(Schneider 2006)の著者は、IBS への鍼は主にプラセボ反応だと結論しています。
同時に著者は、偽鍼との差を確かめるには566名規模の試験が必要だろうとも書いており、43名の小さな試験の結論として読みます。79名の二重盲検の試験(Lowe 2017)も、偽鍼と差がありませんでした。
偽鍼の群でも改善が起きる理由は、鍼のプラセボ効果と文脈効果|偽鍼群も4〜5割が反応する理由で整理しています。
そこで取り上げた、施術者の関わり方を変えた試験も、IBS の患者さんが対象です。
エビデンスボックス④ 偽鍼と比べた統合と主な試験の原文(深く知りたい方向け・飛ばしてOK)
- Zheng HZ, Zou HL, Chen BH, Li YJ, Wu WZ, Huang XB. Acupuncture vs Sham Non-Acupoint Acupuncture for Irritable Bowel Syndrome: A Systematic Review and Meta-Analysis. Gastroenterology. 2026.(PMID 42413705/DOI 10.1053/j.gastro.2026.06.017・Epub・巻号頁は未確定)非経穴の偽鍼との比較に限定・12 RCT・1,105名(メタ解析は11試験)。抄録 Results の逐語(後半)=”Acupuncture demonstrated a significantly higher response rate for IBS compared with sham control (risk ratio, 1.61; 95% CI, 1.25-2.07; I² = 77%; 1004 participants). Acupuncture significantly improved total symptom severity at the end of treatment (SMD, 0.79; 95% CI, 0.30-1.28; I² = 86%) and at follow-up (SMD, 0.70; 95% CI, 0.22-1.18; I² = 83%) compared with sham acupuncture. Significance was also noted for quality of life at the end of treatment (SMD, 0.36; 95% CI, 0.01-0.71). However, sensitivity analysis only confirmed the robustness regarding response rate and symptom severity at the end of treatment.”/Conclusions(全2文)=”Acupuncture significantly improved response rate and overall symptoms at the end of treatment in patients with IBS compared with sham non-acupoint acupuncture. Due to the significant heterogeneity and low certainty of evidence, this work merits more confirmation by large-scale and high-quality trials.”(当サイトによる訳:偽の対照と比べて、鍼は IBS の反応率が有意に高かった〈RR 1.61、95%CI 1.25〜2.07、I²=77%、1,004名〉。偽鍼と比べて、鍼は治療終了時〈SMD 0.79、0.30〜1.28、I²=86%〉と追跡時〈SMD 0.70、0.22〜1.18、I²=83%〉の症状の重症度の合計を有意に改善した。治療終了時の生活の質でも有意差がみられた〈SMD 0.36、0.01〜0.71〉。しかし感度分析で頑健性が確認されたのは、反応率と治療終了時の症状の重症度だけだった。/非経穴の偽鍼と比べて、鍼は IBS 患者の反応率と治療終了時の全般的な症状を有意に改善した。異質性が大きく、エビデンスの確実性が低いため、この結果は大規模で質の高い試験によるさらなる確認に値する。)🛑 評釈:追跡時の症状〈0.70〉と生活の質〈0.36〉は感度分析で頑健でなかった指標で、当サイトは単独で出しません。本文の「結果の確かさ」は、原文の certainty of evidence(エビデンスの確実性)を言い換えたものです。SMD はこの抄録では正の値が鍼の良い向きで、コクランと逆です。組み入れた試験の国、偽鍼が刺す型か刺さない型か、ACTION が含まれるかは、本文を確認していないため不明です。
- Yang Y, Rao K, Zhan K, Shen M, Zheng H, Qin S, et al. Clinical evidence of acupuncture and moxibustion for irritable bowel syndrome: A systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Front Public Health. 2022;10:1022145.(PMID 36589968/DOI 10.3389/fpubh.2022.1022145/PMC9801330)31 RCT・鍼と灸・検索2022年6月。本文の「2022年の統合」。抄録 Results のうち偽鍼比の文(逐語。この前に薬との比較と試験逐次解析の文があります)=”Acupuncture wasn’t associated with symptom severity reduction (SMD, 0.03, 95% CI, -0.25 to 0.31, I² = 46%), but exhibited therapeutic benefits on abdominal pain (SMD, -0.24; 95% CI, -0.48 to -0.01; I² = 8%) compared to sham acupuncture.”/Conclusion(全3文)=”Acupuncture and/or moxibustion are beneficial for symptom severity, abdominal pain and quality of life in IBS. However, in sham control trials, acupuncture hasn’t exhibited robust and stable evidence, and moxibustion’s results show great heterogeneity. Hence, more rigorous sham control trials of acupuncture or moxibustion are necessary.”(当サイトによる訳:偽鍼と比べて、鍼は症状の重症度の軽減と関連しなかった〈SMD 0.03、−0.25〜0.31〉が、腹痛には治療上の利益を示した〈SMD −0.24、−0.48〜−0.01〉。/鍼と灸の一方または両方は、IBS の症状の重症度・腹痛・生活の質に有益である。しかし偽の対照を置いた試験では、鍼は頑健で安定したエビデンスを示しておらず、灸の結果は異質性が大きい。したがって、より厳密な偽の対照を置いた鍼や灸の試験が必要である。)🛑 評釈:同じ抄録の中で SMD の符号の向きが揃っていません(症状 0.03/腹痛 −0.24)。向きの定義は本文で確認しておらず、当サイトは本文で「腹痛で小さな差」までにしています。灸と偽灸の統合値は異質性が極端に大きく、載せていません。
- Zheng H, Chen R, Zhao X, Li G, Liang Y, Zhang H, et al. Comparison between the Effects of Acupuncture Relative to Other Controls on Irritable Bowel Syndrome: A Meta-Analysis. Pain Res Manag. 2019;2019:2871505.(PMID 31814859/DOI 10.1155/2019/2871505/PMC6877908)41 RCT・3,440名(偽鍼比8試験)。本文の「2019年の統合」。抄録の逐語=”No significant difference was found when acupuncture was compared with sham acupuncture, in terms of effects on IBS symptoms and quality of life (SMD = 0.18, 95% CI -0.26∼0.63, P=0.42; SMD = -0.10, 95% CI -0.31∼0.11, P=0.35), but the pooled efficacy rate data showed a better outcome for true acupuncture (RR = 1.22, 95% CI 1.01∼1.47, P=0.04), which was not supported by sensitivity analysis.”/Conclusions(全3文)=”Relative to sham controls, acupuncture showed no superiority for treating IBS, while the advantage over western medicine was significant. Acupuncture could be used as an adjunct in clinical settings to improve efficacy. Future high-quality and large-sample-size studies with adequate quantity-effect design need to be conducted.”(当サイトによる訳:偽鍼と比べたとき、IBS の症状と生活の質への効果に有意差はなかった〈SMD 0.18、−0.26〜0.63/SMD −0.10、−0.31〜0.11〉が、有効率の統合では本物の鍼が良い結果を示し〈RR 1.22、1.01〜1.47〉、それは感度分析では支持されなかった。/偽の対照と比べて鍼は IBS の治療で優越性を示さなかった一方、西洋医学に対する優位は有意だった。鍼は臨床で効果を高める補助として用いうる。今後、十分な量反応の設計を備えた、質の高い大規模な研究が必要である。)評釈:本文の「計算の条件を変えた確認」は、原文の sensitivity analysis(感度分析)の言い換えです。結論2文目の「補助として用いうる」は、上乗せの対象が西洋薬・漢方薬・推拿と混ざった統合からの著者の提案です。
- Billings W, Mathur K, Craven HJ, Xu H, Shin A. Potential Benefit With Complementary and Alternative Medicine in Irritable Bowel Syndrome: A Systematic Review and Meta-analysis. Clin Gastroenterol Hepatol. 2021;19(8):1538-1553.e14.(PMID 32961342/DOI 10.1016/j.cgh.2020.09.035/PMC8112831)補完代替医療とプラセボ・偽の処置の比較に限定・66 RCT。抄録の逐語=”Body-based and energy healing therapies demonstrated no significant benefit over placebo or sham for abdominal pain or overall response.”(当サイトによる訳:身体に働きかける療法とエネルギー療法は、腹痛でも全般的な反応でも、プラセボや偽の処置に対する有意な利益を示さなかった。)本文の記載(当サイトの言い換え)=鍼は「energy-healing」の区分に入っており、その区分の腹痛は SMD 0.21(95%CI −0.20〜0.61・6 RCT・464名)、全般的な反応は RR 1.32(0.99〜1.76・4 RCT・299名)でした。🛑 評釈:抄録には acupuncture の語が無く、「鍼を含む区分で差なし」の根拠は本文の分類です。当サイトが読んだ PMC の本文は著者最終稿(NIHMS1691774)で、出版版と字句が違う可能性があります。区分に灸や電気鍼も含まれるかは確認していません。RR の信頼区間の下限 0.99 を「わずかに届かない」と肯定側に寄せて読みません。
- 評釈(なぜ割れるのか):本文の「抄録の範囲では、理由を検証した記載は見当たりません」は、当サイトが読んだ Zheng HZ 2026・Yang Y 2022・Zheng H 2019 の抄録の範囲の話です(Billings 2021 は本文も読んでいます)。これらの本文にサブグループ解析やメタ回帰があるかは確認していません。
- Yang JW, Qi LY, Yan SY, She YF, Li Y, Chi LL, et al. Efficacy of ACupuncTure in Irritable bOwel syNdrome (ACTION): A Multicenter Randomized Controlled Trial. Gastroenterology. 2025;169(5):958-969.e5.(PMID 40441496/DOI 10.1053/j.gastro.2025.05.016)中国6病院・Rome IV の IBS-D・18〜75歳・280名を1:1。対照は抄録の方法の文で “sham acupuncture (blunt-tipped needle at non-acupoints)”。6週15回・12週追跡。主要評価は6週の複合反応率(最悪の腹痛が30%以上改善し、かつ下痢の日数が50%以上減少)。抄録の逐語=”The primary outcome was reached by 71 (57.9%) patients in the acupuncture group compared with 47 (41.4%) patients in the sham acupuncture group (risk ratio 1.40; P = .008). The between-group difference became significant from week 3 and maintained throughout the study except week 16. No severe adverse event was reported.”/Conclusions(全2文)=”Acupuncture improved abdominal pain and stool consistency in patients with IBS-D, with sustained efficacy over 18 weeks. The results of this trial suggest that acupuncture may serve as an alternative treatment for IBS-D.”(当サイトによる訳:主要アウトカムに達したのは、鍼群71名〈57.9%〉、偽鍼群47名〈41.4%〉だった〈RR 1.40、P=.008〉。群間差は3週目から有意になり、16週を除いて試験期間を通じて維持された。重篤な有害事象は報告されなかった。/鍼は IBS-D の患者の腹痛と便の性状を改善し、その有効性は18週にわたって持続した。この試験の結果は、鍼が IBS-D の代替治療になりうることを示唆する。)🛑 評釈:71÷57.9%は約123、47÷41.4%は約114で、割り付けた各群140名と一致しません(当サイトによる逆算で、原文に明記はありません)。抄録に解析対象数が無く、本文は確認していません。結論の「18週にわたって持続」と、Results の「16週を除いて」は同じ抄録の中で並んでおり、当サイトは16週で有意差がなかったことを落としません。抄録の対照の語は「先の鈍い針を非経穴に」で、皮膚を貫かないことは抄録に明記されていません(皮膚を貫かないと本文に明記しているのは、同じグループの Qi 2022 です)。
- Qi LY, Yang JW, Yan SY, Tu JF, She YF, Li Y, et al. Acupuncture for the Treatment of Diarrhea-Predominant Irritable Bowel Syndrome: A Pilot Randomized Clinical Trial. JAMA Netw Open. 2022;5(12):e2248817.(PMID 36580333/DOI 10.1001/jamanetworkopen.2022.48817/PMC9856830)中国4病院・IBS-D・90名を3群(特定経穴・非特定経穴・非経穴の偽鍼)各30名・週3回×4週。本文によると偽鍼は皮膚を貫かない先の鈍い針。抄録の逐語=”There were substantial improvements in the primary outcomes for all groups (composite response rates of 46.7% [95% CI, 28.8%-65.4%] in the SA group, 46.7% [95% CI, 28.8%-65.4%] in the NSA group, and 26.7% [95% CI, 13.0%-46.2%] in the NA group), although the difference between them was not statistically significant (P = .18).”/Conclusions(全2文)=”In this pilot randomized clinical trial, acupuncture in both the SA and NSA groups showed clinically meaningful improvement in IBS-D symptoms, although there were no significant differences among the 3 groups. These findings suggest that acupuncture is feasible and safe; a larger, sufficiently powered trial is needed to accurately assess efficacy.”(当サイトによる訳:主要アウトカムはすべての群で大きく改善した〈複合反応率:特定経穴群46.7%、非特定経穴群46.7%、非経穴群26.7%〉が、群間の差は統計的に有意ではなかった〈P=.18〉。/このパイロット試験では、特定経穴群と非特定経穴群の鍼は IBS-D の症状に臨床的に意味のある改善を示したが、3群間に有意差はなかった。これらの知見は、鍼が実施可能で安全であることを示唆する。効果を正確に評価するには、より大規模で十分な検出力のある試験が必要である。)🛑 評釈:結論の1文目は前半(意味のある改善)と後半(3群に有意差なし)をセットで読みます。「安全」は著者の語で、当サイトは地の文で使いません。有害事象の数は抄録と本文で食い違っており、当サイトは載せていません。著者は ACTION と共通しています(書誌の事実)。
- Lembo AJ, Conboy L, Kelley JM, Schnyer RS, McManus CA, Quilty MT, et al. A treatment trial of acupuncture in IBS patients. Am J Gastroenterol. 2009;104(6):1489-97.(PMID 19455132/DOI 10.1038/ajg.2009.156/PMC2694961)米国・成人 IBS 230名。3週の偽鍼の導入期(施術者との関わりが手厚い/限定的)の後、真の鍼と偽鍼を3週6回で比較し、別に待機リストの群を置いた。本文によると偽鍼は皮膚を貫かない Streitberger 針を非経穴に。抄録の逐語=”Although there was no statistically significant difference between acupuncture and sham acupuncture on the IBS-GIS (41 vs. 32 % , P = 0.25), both groups improved significantly compared with the waitlist control group (37 vs. 4 % , P = 0.001). Similarly, small differences that were not statistically significant favored acupuncture over the other three outcomes: IBS-AR(59 vs. 57 % , P = 0.83), IBS-SSS (31 vs. 21 % , P = 0.18), and IBS-QOL (17 vs. 13 % , P = 0.56).”/Conclusions=”This study did not find evidence to support the superiority of acupuncture compared with sham acupuncture in the treatment of IBS.”(当サイトによる訳:IBS-GIS で鍼と偽鍼に統計的に有意な差はなかった〈41% vs 32%、P=0.25〉が、両群とも待機リスト群より有意に改善した〈37% vs 4%、P=0.001〉。同様に、他の3つのアウトカムでも、統計的に有意でない小さな差が鍼に有利だった。/本研究は、IBS の治療で鍼が偽鍼より優れていることを支持するエビデンスを見出さなかった。)🛑 評釈:「37% vs 4%」の37%は鍼と偽鍼を合わせた値と読めますが、抄録に明記はありません。群ごとの人数は当サイトは確定できておらず、載せていません。待機リストの群が試験の後に治療を受けたかは確認しておらず、本文の「試験の間は治療を受けずに待つ群」は一般的な定義による説明です。PMC の本文は著者最終稿です。本文の限界の記載(当サイトの言い換え)には、6回3週では不十分だった可能性、患者と施術者の関わりのより大きな研究に入れ子になっており導入期の脱落で検出力が落ちたこと、偽鍼が本当に不活性かに議論があることが挙げられています。その「より大きな研究」が下の Kaptchuk 2008 と同じかは、当サイトは確認していません。
- Schneider A, Enck P, Streitberger K, Weiland C, Bagheri S, Witte S, et al. Acupuncture treatment in irritable bowel syndrome. Gut. 2006;55(5):649-54.(PMID 16150852/DOI 10.1136/gut.2005.074518/PMC1856122)ドイツ・43名(鍼22/Streitberger 針の偽鍼21)。抄録の逐語=”Both the AC and SAC groups improved significantly in global QOL, as assessed by the FDDQL, at the end of treatment (p = 0.022), with no differences between the groups. SF-36 was insensitive to these changes (except for pain). This effect was partially reversed three months later.”/Conclusions(全3文)=”Acupuncture in IBS is primarily a placebo response. Based on the small differences found between the AC and SAC groups, a study including 566 patients would be necessary to prove the efficacy of AC over SAC. The placebo response may be predicted by high coping capacity and low sleep quality in individual patients.”(当サイトによる訳:鍼群と偽鍼群はともに治療終了時に全般的な生活の質が有意に改善し、群間差はなかった。SF-36 は〈痛みを除き〉この変化を捉えなかった。この効果は3か月後に部分的に戻った。/IBS への鍼は主にプラセボ反応である。鍼群と偽鍼群の小さな差にもとづくと、偽鍼に対する鍼の有効性を証明するには566名を含む研究が必要だろう。プラセボ反応は、個々の患者の高い対処能力と低い睡眠の質で予測できるかもしれない。)評釈:1文目は43名の試験の著者の結論で、「鍼はプラセボだと証明された」とは読みません。2文目の566名は、これから必要な試験の規模の見積もりで、566名で試験をしたという意味ではありません。3文目の予測因子は事後の解析です。
- Lowe C, Aiken A, Day AG, Depew W, Vanner SJ. Sham acupuncture is as efficacious as true acupuncture for the treatment of IBS: A randomized placebo controlled trial. Neurogastroenterol Motil. 2017;29(7).(PMID 28251729/DOI 10.1111/nmo.13040)二重盲検・真の鍼43/偽鍼36・週2回4週。抄録の逐語=”A total of 53% in the true acupuncture group met their criteria for a successful treatment intervention, but this did not differ significantly from the sham group (42%). IBS symptom scores similarly improved in both groups.”/Conclusions=”The lack of differences in symptom outcomes between sham and true treatment acupuncture suggests that acupuncture does not have a specific treatment effect in IBS.”(当サイトによる訳:真の鍼群の53%が自分で設定した治療成功の基準を満たしたが、偽鍼群〈42%〉と有意な差はなかった。IBS の症状の点数は両群で同様に改善した。/偽鍼と真の鍼で症状の結果に差がなかったことは、IBS において鍼に特異的な治療効果がないことを示唆する。)評釈:表題の「同等に有効」は、同等性を検証した試験の結論ではありません。偽鍼の型と実施国は、当サイトは確認していません。
- Mak AD, Chung VCH, Yuen SY, Tse YK, Wong SYS, Ju Y, et al. Noneffectiveness of electroacupuncture for comorbid generalized anxiety disorder and irritable bowel syndrome. J Gastroenterol Hepatol. 2019;34(10):1736-1742.(PMID 30891824/DOI 10.1111/jgh.14667)全般性不安障害と IBS の併存・80名・偽電気鍼対照。抄録の逐語=”Anxiety, depressive symptom, and bowel symptom severity did not differ significantly between electroacupuncture and sham groups.”(当サイトによる訳:不安、抑うつ症状、腸症状の重症度は、電気鍼群と偽群で有意な差がなかった。)評釈:主要評価項目は不安で、腸症状は副次です。併存集団の結果で、IBS 全体には広げません。
- SR の質の評価=Ma YY, Hao Z, Chen ZY, Shen YX, Liu HR, Wu HG, et al. Acupuncture and moxibustion for irritable bowel syndrome: An umbrella systematic review. J Integr Med. 2024;22(1):22-31.(PMID 38199885/DOI 10.1016/j.joim.2023.12.001)抄録の逐語(Conclusion・全3文)=”Most included systematic reviews interpreted findings to suggest that acupuncture and moxibustion have benefits for IBS. However, there is a need to improve the methodological, reporting and evidence quality of the systematic reviews. Larger, multicenter, rigorously designed randomized controlled trials and high-quality systematic reviews are required to obtain more robust evidence.”(当サイトによる訳:採用した系統的レビューの多くは、鍼と灸が IBS に利益があると示唆する形で結果を解釈していた。しかし系統的レビューの方法論・報告・エビデンスの質は改善が必要である。より頑健なエビデンスを得るには、より大規模な多施設の厳密に設計された RCT と、質の高い系統的レビューが必要である。)評釈:同じ抄録は、15本の系統的レビューのうち13本の方法論の質を AMSTAR 2 で「非常に低い」、GRADE でエビデンスの質を「低い」または「非常に低い」と評価しています。
- 施術者の関わり方を変えた IBS の試験=Kaptchuk TJ, Kelley JM, Conboy LA, et al. Components of placebo effect: randomised controlled trial in patients with irritable bowel syndrome. BMJ. 2008;336(7651):999-1003.(PMID 18390493/DOI 10.1136/bmj.39524.439618.25)本文の「施術者の関わり方を変えた試験」です。IBS の患者さんを対象に、偽鍼と施術者の関わり方を組み合わせてプラセボ効果の成り立ちを調べた試験で、鍼の適応を調べたものではありません。数値と読み方は、文脈効果の記事にあります。確認の範囲:書誌は PubMed の書誌情報(2026-09-17 確認)によります。この記事のために抄録を取り直してはいません。
通常のケアに鍼を足すと、どう見えるのか
「病院の治療は続けたまま、鍼も試してみたいんです」。
そんな相談を受けたことはありませんか。この形に近いのが、英国で行われた試験です。
英国のかかりつけ医のケアに、鍼を足した233名の試験
英国のプライマリケア(かかりつけ医の診療)で、IBS の233名を2つの群に分けた試験があります(MacPherson 2012)。
片方は通常のケアに週1回・10回の鍼を足し、もう片方は通常のケアだけでした。両群とも、かかりつけ医のケアは必要に応じて受けています。
3か月の時点で、症状の点数(IBS-SSS=症状の重さを点数にした質問票)は、鍼を足した群のほうが下がっていました。
点数が50点以上下がった人は、鍼の群で約5割、通常のケアだけの群で約3割です。
著者自身が書いている、3つの留保
1つ目。著者は本文で、この改善を「小さいが統計的に有意」と表現しています。
抄録の結論には「他のエビデンスにもとづく治療と並んで、プライマリケアで提供される治療の選択肢として考慮されるべき」とありますが、同じ論文がこう書いている点は外せません。
2つ目。盲検ではなく、患者さんは自分の群を知っていました。
3つ目。鍼の群は、施術者と過ごす時間が増えます。著者はこの「時間と注目」の影響を差し引いておらず、改善の一部に寄与した可能性が高いと書いています。
ここでの「通常のケア」は、待機リストとは別の対照です。違いは待機リスト対照とは|鍼の効果が大きく出る5つの仕組みで、この比べ方が何を測っているかは上乗せ試験(add-onデザイン)は何を測るか|通常ケア+鍼で整理しています。
2年後には、統計的な差は確認されていない
同じ試験を24か月まで追った報告では、通常のケアだけの群との統計的な差は確認されませんでした(MacPherson 2017)。
差の推定値は鍼の群に有利な向きで、その大きさは6〜12か月の時点の約8割でした。ただし、統計的な差とは言えない幅です。
ここから「効果が2年続いた」とも「2年で消えた」とも読めません。
言えるのは、「24か月の時点では、鍼を足した効果があるとは確かめられなかった」までです。
難治性の IBS で、従来の治療を続けたまま偽鍼と比べた試験
難治性の IBS の170名を対象にした、多施設の試験もあります(Zhao J 2024)。
両群とも従来の治療を続けたうえで鍼と偽鍼を比べ、4週で鍼の群の症状の点数がより大きく下がったと報告されています。
ただし「難治性」の定義、従来の治療の中身、偽鍼の型は、抄録に書かれていません。
対象が難治性に限られた試験なので、IBS 全体の結果としては読めません。
② 「鍼で、お腹の調子はよくなりますか?」と聞かれたとき
「正直にお伝えしますね。本物の鍼とニセの鍼を比べた研究では、本物のほうが良かったという報告と、差がなかったという報告の両方があって、まだはっきりしていません。かかりつけ医のケアに鍼を足した英国の研究では、3か月の時点で症状の点数が良い方向に差が出ましたが、研究者自身がその差は小さいと書いていて、2年後には差がはっきりしませんでした。
鍼にも、刺したところの痛みや内出血などが起こることがあります。お灸を使うときは、軽いやけどが起こることもあります。今のお薬や病院での治療は続けたまま、試すかどうか、続けるかどうかを一緒に決めていきましょう。」
エビデンスボックス⑤ 通常のケアへの上乗せを調べた試験の原文と限界(深く知りたい方向け・飛ばしてOK)
- MacPherson H, Tilbrook H, Bland JM, Bloor K, Brabyn S, Cox H, et al. Acupuncture for irritable bowel syndrome: primary care based pragmatic randomised controlled trial. BMC Gastroenterol. 2012;12:150.(PMID 23095376/DOI 10.1186/1471-230X-12-150/PMC3556159)英国のプライマリケア・2群の実践的 RCT・233名(鍼+通常ケア116名/通常ケアのみ117名。抄録の方法の文による)。鍼は個別化した鍼を週1回・10回。本文の逐語=”All patients remained under the care of their general practitioner, and received usual care according to need.”(当サイトによる訳:すべての患者はかかりつけ医のケアを受け続け、必要に応じて通常ケアを受けた。)
- 抄録 Results の逐語=”There was a statistically significant difference between groups at three months favouring acupuncture with a reduction in IBS Symptom Severity Score of -27.43 (95% CI: -48.66 to -6.21, p=0.012). The number needed to treat for successful treatment (≥50 point reduction in the IBS SSS) was six (95% CI: 3 to 17), based on 49% success in the acupuncture group vs. 31% in the control group, a difference between groups of 18% (95% CI: 6% to 31%). This benefit largely persisted at 6, 9 and 12 months.”/Conclusions(全3文)=”Acupuncture for irritable bowel syndrome provided an additional benefit over usual care alone. The magnitude of the effect was sustained over the longer term. Acupuncture should be considered as a treatment option to be offered in primary care alongside other evidenced based treatments.”(当サイトによる訳:3か月時点で、鍼に有利な統計的に有意な群間差があり、IBS 症状重症度スコアは −27.43 低下した〈95%CI −48.66〜−6.21、p=0.012〉。治療成功〈IBS-SSS の50点以上の低下〉の治療必要数は6〈95%CI 3〜17〉で、成功は鍼群49%、対照群31%、群間差18%〈95%CI 6%〜31%〉にもとづく。この利益は6・9・12か月でおおむね持続した。/IBS への鍼は、通常ケアのみに対して追加の利益をもたらした。効果の大きさは長期にわたって維持された。鍼は、他のエビデンスにもとづく治療と並んで、プライマリケアで提供される治療の選択肢として考慮されるべきである。)
- 本文 Discussion 第1段落の語句(逐語)=”a small yet statistically significant clinical reduction in symptoms at three months”(当サイトによる訳:3か月時点での、小さいが統計的に有意な臨床的な症状の軽減)。🛑 評釈:当サイトの記録にあるのはこの語句までで、文全体ではありません。そのため語句として示しています。抄録の結論2文目の「長期にわたって維持」と3文目の「考慮されるべき」は、著者自身のこの表現と、下の限界、24か月の追跡の結果と同じ視野に置いて読みます。
- 本文の限界の段落の冒頭3文(逐語。段落はこの後も続きます)=”There is likely to be a contribution to the overall benefit we observed due to the additional attention received in the acupuncture group resulting from the contact time with practitioners in the acupuncture arm. We did not control for this bias, which would have required a trial arm with a practitioner-led intervention in order to control for time and attention. The patients in our study were not blind to their group allocation, as would have been the case in a sham-controlled trial.”(当サイトによる訳:鍼群では施術者との接触時間による追加の注目があり、それが観察された全体の利益に寄与している可能性が高い。我々はこのバイアスを統制しておらず、時間と注目を統制するには、施術者が行う別の介入の群が必要だった。偽鍼対照の試験であれば盲検化されていたはずだが、本試験の患者は自分の割付について盲検化されていなかった。)評釈:本文の「差し引いていない」は、原文の did not control for(統制していない)の言い換えです。
- 🛑 評釈(対照の読み方):対照は「通常ケア」で、待機リストではありません。対照群が試験の後に鍼を受けたかどうかは、当サイトが取得した範囲の本文に記載がなく、不明です(「後で鍼を受けなかった」とも書きません)。治療必要数(NNT)は、成功を1人増やすのに何人に行う必要があるかの目安で、盲検のない通常ケア比の値です。IBS-SSS の満点と、臨床的に意味のある差の原典は、当サイトは確認していません。
- MacPherson H, Tilbrook H, Agbedjro D, Buckley H, Hewitt C, Frost C. Acupuncture for irritable bowel syndrome: 2-year follow-up of a randomised controlled trial. Acupunct Med. 2017;35(1):17-23.(PMID 26980547/DOI 10.1136/acupmed-2015-010854/PMC5466911)上の試験の24か月追跡。抄録 Results の逐語=”The adjusted difference in mean IBS SSS at 24 months was -18.28 (95% CI -40.95 to 4.40) in favour of the acupuncture arm. Differences at earlier time points estimated from the multivariate model were: -27.27 (-47.69 to -6.86) at 3 months; -23.69 (-45.17 to -2.21) at 6 months; -24.09 (-45.59 to -2.59) at 9 months; and -23.06 (-44.52 to -1.59) at 12 months.”/Conclusions(全1文)=”There were no statistically significant differences between the acupuncture and usual care groups in IBS SSS at 24 months post-randomisation, and the point estimate for the mean difference was approximately 80% of the size of the statistically significant results seen at 6, 9 and 12 months.”(当サイトによる訳:24か月時点の IBS-SSS 平均の調整済みの差は −18.28〈95%CI −40.95〜4.40〉で、鍼群に有利な向きだった。多変量モデルで推定したそれ以前の時点の差は、3か月 −27.27〈−47.69〜−6.86〉、6か月 −23.69〈−45.17〜−2.21〉、9か月 −24.09〈−45.59〜−2.59〉、12か月 −23.06〈−44.52〜−1.59〉だった。/ランダム化の24か月後、IBS-SSS で鍼群と通常ケア群に統計的に有意な差はなく、平均差の点推定値は、6・9・12か月でみられた統計的に有意な結果の約80%の大きさだった。)🛑 評釈:本文の「統計的な差とは言えない幅」は、24か月の95%信頼区間(−40.95〜4.40)が差なし(0)をまたいでいることを指します。3か月の値が2012年の論文〈−27.43〉とこの論文〈−27.27〉で違うのは、解析モデルが違うためで、当サイトは2つを混ぜて並べません。24か月で差がないことを「効果が消えた」とも、点推定値が約8割であることを「効果が続いた」とも読みません。
- Zhao J, Zheng H, Wang X, Wang X, Shi Y, Xie C, et al. Efficacy of acupuncture in refractory irritable bowel syndrome patients: a randomized controlled trial. Front Med. 2024;18(4):678-689.(PMID 38958923/DOI 10.1007/s11684-024-1073-7)多施設・難治性 IBS・170名(85名ずつ)。抄録によれば、鍼と偽鍼の比較は両群とも従来の治療の文脈の中で行われ(抄録の語は “in the context of conventional treatments”、結論の語は “combined with treatment as usual”)、週3回・計12回、主要評価は4週の IBS-SSS の変化。抄録の逐語=”From baseline to 4 weeks, the IBS-SSS total score decreased by 140.0 (95% CI: 126.0 to 153.9) in the acupuncture group and 64.4 (95% CI: 50.4 to 78.3) in the sham acupuncture group. The between-group difference was 75.6 (95% CI: 55.8 to 95.4). Acupuncture efficacy was maintained during the 4-week follow-up period. There were no serious adverse events.”(当サイトによる訳:ベースラインから4週までに、IBS-SSS 合計点は鍼群で140.0〈95%CI 126.0〜153.9〉、偽鍼群で64.4〈50.4〜78.3〉低下した。群間差は75.6〈55.8〜95.4〉だった。鍼の有効性は4週の追跡期間中も維持された。重篤な有害事象はなかった。)🛑 評釈:「難治性(refractory)」の定義、従来の治療の中身、偽鍼の型は抄録に無く、本文は未確認です。抄録冒頭の先行研究についての文は著者の前提の文で、当サイトは根拠として引きません。対象が難治性に限られるため、IBS 全体の結論としては使いません。対照が偽鍼なので、英国の試験(対照=通常ケアのみ)とは「上乗せ」の意味が違います。
- Gan Y, Huang SL, Luo MQ, Chen M, Zheng H. Acupuncture in addition to usual care for patients with irritable bowel syndrome: a component network meta-analysis. Acupunct Med. 2022;40(5):403-414.(PMID 35437029/DOI 10.1177/09645284221085280)通常ケアへの上乗せを成分に分けて解析したネットワークメタ解析・25 RCT。Conclusion の逐語=”Acupuncture provided additional benefits to usual care, and it might be considered as adjunctive therapy for patients who respond inadequately to usual care.”(当サイトによる訳:鍼は通常ケアに追加の利益をもたらし、通常ケアに十分反応しない患者の補助療法として考慮されうる。)🛑 評釈:「usual care」の中身は抄録に無く、当サイトは「薬に鍼を足すと良い」とは読みません。ネットワークメタ解析の順位は引用しません。本文の根拠には使っておらず、上乗せの統合が存在することの紹介にとどめます。
薬と比べた研究は、どう読めばいいのか
「鍼のほうが薬より良かった、という論文を見ました」。患者さんや同業の方に、そう言われたらどう答えますか。
薬と比べた研究には、鍼の側が上回ったという報告が複数あります。
ただし、読むときに2つの注意があります。
注意1:鍼と飲み薬の比較には、期待が入りこみやすい
鍼と飲み薬を比べる試験では、どちらを受けているかを患者さんに隠すのが難しくなります。
コクランが集めた薬との比較は、盲検のない中国語の試験が中心でした。前の章で訳した著者結論の3文目は、まさにこの点への問いかけです。
系統的レビューを集め直した2019年の統合(Wu 2019)も、集めた27試験に適切な盲検を行ったものは無かったと書いています。
著者は結論の1文目で、バイアスのリスクなどが結論の信頼性を制限した、と述べています。
盲検がどの層で難しいのかは、鍼で二重盲検が難しい理由|盲検化の4層を分けて読むで整理しています。
注意2:大きな試験でも、抄録に盲検の記載がない
中国7病院の531名の試験(Pei 2020)は、便秘型には下剤の一種、下痢型には鎮痙薬(腸のけいれんを抑える薬)を対照にしました。
6週の時点で、鍼の群のほうが症状の点数が大きく下がったと報告されています。
ただ、抄録には盲検の有無が書かれていません。2種類の薬をまとめて1つの対照群にしています。
著者の結論も「より有効かもしれない」という書き方です。
同じ試験の中で比べず、別々の試験の結果をつないで比べた「間接比較」もあります(Shi 2022)。
全般的な症状ではピナベリウム(鎮痙薬の一種)より良かったと報告する一方、腹痛では鎮痙薬との統計的な差は示されていません。どちらも直接比べた結果ではありません。
鍼灸院で伝えたいこと
コクランが比べた2種類の鎮痙薬について、コクランは「IBS にささやかな利益を示すことが示されている」と書いています。
鍼が「効果の大きい薬」を上回ったという意味ではありません。
ここから言えるのは、「鍼が薬の代わりになる」でも「鍼で薬を減らせる」でもありません。
薬の選択は、鍼灸師が答える範囲ではありません。処方されている薬は自己判断でやめず、主治医に相談するよう伝えてください。
③ 「薬をやめて、鍼だけにしてもいいですか?」と聞かれたとき
「お薬のことは、私からはお答えできないんです。やめるか減らすかは自分で決めずに、処方してくださった先生に相談してみてください。
薬と比べて鍼のほうが良かったという研究はあります。ただ、どちらを受けているか患者さんに分かる比べ方が中心で、鍼が薬の代わりになるとは言えません。鍼を試すなら、今の治療は続けたまま、一緒に様子を見ていきましょう。」
エビデンスボックス⑥ 薬と比べた研究の原文と、読み方の注意(深く知りたい方向け・飛ばしてOK)
- コクラン(Manheimer 2012)の薬との比較=抄録の数値と著者結論の3文の原文は、エビデンスボックス③にあります(症状の重さが改善した患者は鍼群84%・薬物治療群63%、RR 1.28、5試験449名、GRADE で low)。🛑 評釈:同じ5試験に、盲検のない中国語の4試験が含まれます。当サイトはこの数値を、3文目(好みや期待だけによるのかを今後の試験が明らかにするかもしれない)と切り離して使いません。本文の「ささやかな利益を示すことが示されている」は、結論2文目の “both of which have been shown to provide a modest benefit for IBS” の当サイトによる訳です。当サイトは、ピナベリウムやトリメブチンを「標準的な第一選択薬」とも「効果の乏しい薬」とも書きません。海外や日本のガイドラインで、これらの薬がどう位置づけられているかは、この記事では扱っていません。
- Wu IXY, Wong CHL, Ho RST, Cheung WKW, Ford AC, Wu JCY, et al. Acupuncture and related therapies for treating irritable bowel syndrome: overview of systematic reviews and network meta-analysis. Ther Adv Gastroenterol. 2019;12:1756284818820438.(PMID 30719074/DOI 10.1177/1756284818820438/PMC6348567)系統的レビュー15本から RCT 27本・2,141名。抄録 Results の最初の2文(逐語)=”From 15 SRs of mediocre quality, 27 eligible RCTs (n = 2141) were included but none performed proper blinding. Results from pairwise meta-analysis showed that both needle acupuncture and electroacupuncture were superior in improving global IBS symptoms when compared with pinaverium bromide.”(当サイトによる訳:質が中程度の系統的レビュー15本から、適格な RCT 27本〈2,141名〉を採用したが、適切な盲検を行ったものは無かった。ペアワイズのメタ解析の結果、手技の鍼と電気鍼はいずれも、ピナベリウム臭化物と比べて IBS の全般的な症状の改善で優れていた。)/Conclusion(全3文)=”The risk of bias and NMA inconsistency among included trials limited the trustworthiness of the conclusion. Patients who did not respond well to first-line conventional therapies or antidepressants may consider acupuncture as an alternative. Future trials should investigate the potential of (1) acupuncture as an add-on to antidepressants and (2) the combined effect of Chinese herbs and acupuncture, which is the norm of routine Chinese medicine practice.”(当サイトによる訳:採用した試験のバイアスのリスクとネットワークメタ解析の非一貫性が、結論の信頼性を制限した。第一選択の従来療法や抗うつ薬にうまく反応しなかった患者は、代替として鍼を検討してよい。今後の試験は、〈1〉抗うつ薬への上乗せとしての鍼と、〈2〉通常の中国医学の診療の標準である漢方薬と鍼の併用効果を調べるべきである。)🛑 評釈:Results の3文目はネットワークメタ解析の順位の文で、当サイトは順位を引用しないため省いています(文の途中では切っていません)。結論の2文目だけを引かず、1文目の留保と一緒に読みます。この論文は、日本消化器病学会のガイドライン2020(日本語版)の CQ3-20 の解説で文献8として挙げられています(ボックス⑦)。
- Pei L, Geng H, Guo J, Yang G, Wang L, Shen R, et al. Effect of Acupuncture in Patients With Irritable Bowel Syndrome: A Randomized Controlled Trial. Mayo Clin Proc. 2020;95(8):1671-1683.(PMID 32499125/DOI 10.1016/j.mayocp.2020.01.042)中国7病院・Rome III・便秘型と下痢型で層別し2:1で割付。対照は抄録の方法の文で、便秘型に PEG 4000(ポリエチレングリコール)1日20g、下痢型にピナベリウム臭化物1日150mg。6週(鍼18回)・12週追跡。抄録 Results の逐語=”Of 531 patients with IBS who were randomized, 519 (344 in the acupuncture group and 175 in the PEG 4000/ pinaverium bromide group) were included in the full analysis set. From baseline to 6 weeks, the total IBS-Symptom Severity Score decreased by 123.51 (95% CI, 116.61 to 130.42) in the acupuncture group and 94.73 (95% CI, 85.03 to 104.43) in the PEG 4000/pinaverium bromide group. The between-group difference was 28.78 (95% CI, 16.84 to 40.72; P<.001). No participant experienced severe adverse effects.”/Conclusion=”Acupuncture may be more effective than PEG 4000 or pinaverium bromide for the treatment of IBS, with effects lasting up to 12 weeks.”(当サイトによる訳:ランダム化された IBS 患者531名のうち、519名〈鍼群344名、PEG 4000/ピナベリウム臭化物群175名〉が最大の解析対象集団に含まれた。ベースラインから6週までに、IBS 症状重症度スコア合計は鍼群で123.51〈95%CI 116.61〜130.42〉、PEG 4000/ピナベリウム臭化物群で94.73〈85.03〜104.43〉低下した。群間差は28.78〈16.84〜40.72、P<.001〉だった。重度の有害作用を経験した参加者はいなかった。/IBS の治療において、鍼は PEG 4000 またはピナベリウム臭化物より有効かもしれず、効果は12週まで持続する。)🛑 評釈:盲検の有無は抄録に無く、本文は未確認のため、当サイトは「非盲検」とも「盲検」とも書きません。2種類の薬をまとめた対照群なので、「鍼は PEG より上」「鍼はピナベリウムより上」と個別には書きません(型ごとの結果は本文未確認)。結論の “may” を保ちます。割付は531名、解析は519名です。
- Shi YZ, Tao QF, Qin D, Chen M, Yu SG, Zheng H. Acupuncture vs. antispasmodics in the treatment of irritable bowel syndrome: An adjusted indirect treatment comparison meta-analysis. Front Physiol. 2022;13:1001978.(PMID 36277191/DOI 10.3389/fphys.2022.1001978/PMC9583016)35 RCT・鎮痙薬と鍼それぞれのプラセボ対照試験を用いた調整済み間接比較。抄録の逐語=”In pairwise comparisons, acupuncture had a greater improvement than most antispasmodics except cimetropium and drotaverine in relieving abdominal pain, although the between-group difference was statistically insignificant.”/”In pairwise comparisons, acupuncture was more effective than pinaverium (SMD, -1.11 [95%CI, -1.94 to -0.28]) in relieving global IBS symptoms.”(当サイトによる訳:ペアワイズ比較では、腹痛の軽減で鍼はシメトロピウムとドロタベリンを除く多くの鎮痙薬より大きな改善を示したが、群間差は統計的に有意ではなかった。/ペアワイズ比較では、IBS の全般的な症状の軽減で鍼はピナベリウムより有効だった〈SMD −1.11、95%CI −1.94〜−0.28〉。)🛑 評釈:鍼と薬を同じ試験の中で比べたものではありません。本文では、全般的な症状の肯定側と、腹痛の差なしの両方を並べています。当サイトは「間接比較の報告がある」までにとどめます。
学会は、IBS の鍼をどう扱っているのか
図解:過敏性腸症候群の診療ガイドラインでの鍼の扱いを、名指しで「勧めるべきではない」とする・推奨文ではなく解説で扱う・推奨項目に無い、の3つと、当サイトが鍼の扱いを確認できていない文書に分けて、文書名と年を並べた図。推奨項目に無いことや確認できていないことは、推奨しないという意味ではないことを添えている
「推奨項目に無い」と「勧めない」は別です。最後のカードは、当サイトが扱いを確認できていない文書です。
英国 NICE CG61=IBS の治療として鍼の使用を勧めるべきではない
推奨は2008年
2017年の見直しではガイドラインを更新しないと決めた(当サイトが確認した版)(鍼の推奨を見直して再確認した、という意味ではありません)
日本消化器病学会 2020=推奨文にあるのはペパーミントオイルだけ
日本語版の解説=標準的な治療や抗うつ薬で十分な反応が得られない場合の代替として、鍼灸治療を行うことを提案すると記載。この文には推奨の強さ・エビデンスレベルの表示が付いておらず、「学会が鍼灸を推奨した」という意味ではありません
根拠に挙げられた統合(2019年)は、結論の信頼性がバイアスのリスクなどで制限されると記載
英語版=推奨文は「補完代替医療で推奨されるのはペパーミントオイルだけ」と明記、解説は2つのメタ解析で鍼がプラセボより症状を改善したとしつつ、研究デザインのため注意が要ると記載
米国 ACG 2021=推奨25項目に鍼は無い。「推奨しない」という意味ではありません(本文全体での鍼の記載は当サイト未確認)
英国消化器病学会(BSG)2021=当サイトは本文に到達できておらず、鍼の扱いは不明
韓国 2025=当サイトの照合が済んでおらず、鍼の扱いは不明
「鍼を扱っていない」「推奨しない」という意味ではありません
模式図です。4つのカードは扱いの種類の違いで、強い・弱いの順番ではありません。カード3・4は「鍼を推奨しない」という意味ではありません。カード2の「提案」は推奨文ではなく解説の文で、「学会が鍼灸を推奨した」という意味ではありません。カード1の推奨の文は2008年のものです。英国の試験(2012年)や中国の試験(2025年)はこの推奨より後に出ています。2017年の見直しで鍼の研究をどう評価したかは、当サイトは確認していません。出所=NICE CG61(NCBI Bookshelf NBK553734・NBK551006)/日本消化器病学会 機能性消化管疾患診療ガイドライン2020―IBS(改訂第2版)CQ3-20/Wu 2019(PMID 30719074)/Fukudo 2021(PMID 33538894)/Lacy 2021(PMID 33315591)/Vasant 2021(PMID 33903147)/Choi 2025(PMID 40205893)。カードの構成は当サイトが組み直したもので、原典にこの図はありません。
「学会はどう言っているんですか」。ここは文書ごとに、扱いが分かれます。
ひとまとめに「推奨されていない」とも「推奨されている」とも言えません。
英国 NICE:2008年の推奨で「勧めるべきではない」
英国の NICE(国立医療技術評価機構)の成人 IBS のガイドラインは、IBS の治療として鍼の使用を「勧めるべきではない」としています。
この推奨は2008年のものです。2017年の見直しでは、ガイドラインを更新しないと決めました(当サイトが確認した版)。
原文の語は「禁止」ではなく、「勧めるべきではない」です。
2017年の見直しで鍼の研究をどう評価したかは、当サイトは確認できていません。英国の上乗せ試験(2012年)や中国の280名の試験(2025年)は、この推奨より後に出ています。
日本消化器病学会:推奨文ではなく、解説の中で
日本消化器病学会のガイドライン(2020年)には、「IBS に補完代替医療は有用か」という臨床の問い(CQ)があります。
その推奨文にあるのは、ペパーミントオイルだけです。鍼灸は、推奨文の下の解説で扱われています。
日本語版の解説は、標準的な治療や抗うつ薬で十分な反応が得られなかった場合に、代替として鍼灸治療を行うことを提案する、と書いています。
ただしこの文には、推奨の強さもエビデンスレベルも付いていません。「学会が鍼灸を推奨した」と読める伝え方は避けてください。
同じガイドラインの英語版は、書きぶりが違います。
2つのメタ解析で鍼がプラセボより症状を改善したとしつつ、研究デザインのため注意が要る、と書いています。「提案する」に当たる文は、当サイトが確認した範囲にはありません。
もう1つ。日本語版の解説が根拠に挙げた統合(Wu 2019)は、結論の2文目で、反応しなかった患者は代替として鍼を検討してよい、と書いています。
その1文目は、バイアスのリスクなどが結論の信頼性を制限した、という留保です。
米国・韓国・英国の消化器の学会
米国の ACG(American College of Gastroenterology)の2021年のガイドラインは、推奨の一覧に鍼の項目がありません。
韓国の2025年のガイドラインは本文で鍼をどう扱っているかを、英国消化器病学会(BSG)の2021年のガイドラインは本文そのものを、当サイトは確認できていません。
どれも「鍼を推奨していない」という意味ではありません(詳しくはエビデンスボックス⑦)。
エビデンスボックス⑦ ガイドラインの書誌と、鍼の扱いの原文(深く知りたい方向け・飛ばしてOK)
- National Institute for Health and Care Excellence. Irritable bowel syndrome in adults: diagnosis and management. Clinical guideline CG61. Created 2008-02-23; last update 2017-04.(NCBI Bookshelf NBK553734。NICE 本体のページには当サイトは到達できていません)推奨 1.2.4.1 の逐語=”The use of acupuncture should not be encouraged for the treatment of IBS.” [2008](当サイトによる訳:IBS の治療として、鍼の使用を勧めるべきではない。〔2008年〕)
- NICE. Surveillance report 2017 – Irritable bowel syndrome (2008) NICE guideline CG61.(NCBI Bookshelf NBK551006)決定の逐語=”We will not update the guideline on irritable bowel syndrome (IBS) at this time.”(当サイトによる訳:現時点では、IBS のガイドラインを更新しない。)🛑 評釈:”should not be encouraged” は「禁止」とも「提供しない」とも違う語で、当サイトは「NICE は鍼を禁止」「否定」とは書きません。推奨の年は〔2008〕で、2017年の決定はガイドラインを更新しないというものです。見直しの評価の節には鍼を含む語句がありますが、その前後の文を当サイトは取得しておらず、「2017年に鍼を再評価して非推奨を確認した」とは書きません。本文・結論・まとめの「当サイトが確認した版」は NCBI Bookshelf 版(最終更新 2017年4月)のことで、NICE 本体の現行版と同じかは未確認です。そのため、2026年時点の NICE 本体の状態については書いていません。
- 日本消化器病学会 編集・発行(制作 南江堂). 機能性消化管疾患診療ガイドライン2020―過敏性腸症候群(IBS)(改訂第2版). 2020年6月1日発行.(学会公開 PDF https://www.jsge.or.jp/committees/guideline/guideline/pdf/IBSGL2020_.pdf )CQ3-20「IBS に補完代替医療は有用か?」(文書 p.80)。当サイトの言い換え=推奨の囲みは、ペパーミントオイルは有用であり使用することを提案する、というもので、推奨の強さは弱、エビデンスレベルは A です。鍼灸は解説の中で扱われ、複数の RCT と2つのメタアナリシスで IBS と IBS-D に対する有効性が示されているとしたうえで、標準治療法または抗うつ薬にうまく反応しなかった場合は、代替として鍼灸治療を行うことを提案する、と書かれています。解説はあわせて、鍼灸と薬草の併用、灸についての研究にも触れています。根拠の文献は、文献8が Wu IXY 2019(ボックス⑥)、文献9が Zhu L 2018(下痢型のネットワークメタ解析)です。確認の範囲:推奨の囲みと解説の鍼灸の文は、編集長が原本のページ画像で照合(2026-09-14)。ページ画像の照合のため、かぎ括弧の逐語引用にはしていません。
- 🛑 評釈(日本語版の読み方):鍼灸の「提案する」は推奨の囲みの文ではなく解説の文で、推奨の強さ・エビデンスレベルは付いていません。当サイトは「日本消化器病学会のガイドラインが鍼灸を推奨(提案)している」とは単独で書きません。解説の、標準治療や抗うつ薬に反応しなかった場合の代替として、という部分は、文献8の結論の2文目とほぼ同じ内容で、同じ論文の1文目は結論の信頼性の制限を述べています(ボックス⑥)。奥付は転載・複製に許諾を求めており、当サイトは推奨の囲み・表・図を再現しません。推奨欄にある合意率の表記は、記事では扱いません。文献9はネットワークメタ解析で、当サイトは順位を引用しません。
- Fukudo S, Okumura T, Inamori M, Okuyama Y, Kanazawa M, Kamiya T, et al. Evidence-based clinical practice guidelines for irritable bowel syndrome 2020. J Gastroenterol. 2021;56(3):193-217.(PMID 33538894/DOI 10.1007/s00535-020-01746-z/PMC7932982・CC BY 4.0・同ガイドラインの英語版。訂正 PMID 37752291)CQ 3–20 の推奨の最初の2文(逐語)=”Peppermint oil is effective in treating IBS. Of all comprehensive alternative medicines, only peppermint oil is recommended for treating IBS.”(当サイトによる訳:ペパーミントオイルは IBS の治療に有効である。補完代替医療のうち、IBS の治療に推奨されるのはペパーミントオイルだけである。)続く推奨の強さは弱、エビデンスレベルは A です。解説の鍼の文(逐語)=”Many studies have investigated the effects of acupuncture in IBS. According to 2 meta-analyses, acupuncture improved the symptoms of IBS [211] and IBS-D [212] more than placebo, although caution is advised due to the study design.”(当サイトによる訳:多くの研究が IBS における鍼の効果を調べている。2つのメタ解析によれば、鍼はプラセボより IBS〔211〕と IBS-D〔212〕の症状を改善したが、研究デザインのため注意が勧められる。)🛑 評釈:英語版の推奨文は「ペパーミントオイルだけ(only)」と明記し、日本語版の囲みにこの語に当たる表現はありません。英語版の解説には、日本語版の「代替として提案する」に当たる文は、当サイトが確認した範囲にありません。”more than placebo” を当サイトは「偽鍼を上回った」とは訳しません。文献211・212の書誌は未取得で、日本語版の文献8・9と同じかは未確認です。
- Lacy BE, Pimentel M, Brenner DM, Chey WD, Keefer LA, Long MD, et al. ACG Clinical Guideline: Management of Irritable Bowel Syndrome. Am J Gastroenterol. 2021;116(1):17-44.(PMID 33315591/DOI 10.14309/ajg.0000000000001036)当サイトの言い換え=推奨の一覧(Table 2・25項目)と PICO の問いの一覧(Table 3・25問)に、鍼の項目はありません。確認の範囲:ACG の PDF の p.17〜21 の目視(Table 2 の一部の文は編集長が機械照合)。p.22 以降の本文での鍼の記載は確認していません。PDF に無断複製を禁じる表示があり、表は再現しません。🛑 評釈:推奨の一覧に鍼が無いことと、鍼を推奨しないことは別です。当サイトは「ACG は鍼を推奨していない」「否定した」とは書きません。本文では、同じく「米国消化器病学会」と訳されることがある AGA と混同しないよう、ACG を英語名で示しています。
- Choi Y, Youn YH, Kang SJ, Shin JE, Cho YS, Jung YS, et al. 2025 Seoul Consensus on Clinical Practice Guidelines for Irritable Bowel Syndrome. J Neurogastroenterol Motil. 2025;31(2):133-169.(PMID 40205893/DOI 10.5056/jnm25007/PMC11986658)⚠️ 本文での鍼の扱いは、当サイトは照合できていません。🛑 評釈:当サイトは「韓国のガイドラインは鍼を推奨していない」とは書きません。
- Vasant DH, Paine PA, Black CJ, Houghton LA, Everitt HA, Corsetti M, et al. British Society of Gastroenterology guidelines on the management of irritable bowel syndrome. Gut. 2021;70(7):1214-1240.(PMID 33903147/DOI 10.1136/gutjnl-2021-324598)当サイトの言い換え=抄録が評価の対象として挙げているのは、食事・薬物・心理療法の有効性についてのメタ解析です(リサーチ時の抄録の取得による)。本文には到達できていません。🛑 評釈:抄録に鍼の語が無いことから、「BSG は鍼を扱っていない」「推奨していない」とは書きません。
- AGA の2本=Lembo A, Sultan S, Chang L, Heidelbaugh JJ, Smalley W, Verne GN. AGA Clinical Practice Guideline on the Pharmacological Management of Irritable Bowel Syndrome With Diarrhea. Gastroenterology. 2022;163(1):137-151.(PMID 35738725/DOI 10.1053/j.gastro.2022.04.017)/Chang L, Sultan S, Lembo A, Verne GN, Smalley W, Heidelbaugh JJ. AGA Clinical Practice Guideline on the Pharmacological Management of Irritable Bowel Syndrome With Constipation. Gastroenterology. 2022;163(1):118-136.(PMID 35738724/DOI 10.1053/j.gastro.2022.04.016)。題名のとおり薬物療法のガイドラインです。本文は確認していません。
過敏性腸症候群の鍼灸について、日本の研究はどこまであるのか
鍼を無作為に比べた日本の試験は、当サイトが Web 検索で探した範囲では見つかりませんでした。
「日本に試験が無い」ではなく、「この範囲で見つからなかった」です。
鍼灸の期間と、休む期間を入れ替えた4例
薬を半年以上使っても症状が十分に改善しなかった IBS の4例に、鍼灸の期間と無治療の期間を交互に設けた報告があります(松本 2005)。
4例中3例で、腹痛やお腹の張り、生活の質(QOL)の評価が、鍼灸の期間中に「軽減」したと抄録に書かれています。
一方で、心理状態には一定の傾向が見られなかった、とも書かれています。
著者は、有効な治療となる可能性が示唆されたと結論しています。対照群を置いた比較ではない、4例の報告です。
高齢の2例と、薬と併用した1例の症例報告
高齢の IBS の2例の報告(松本 2007)では、鍼灸を始めた後に腹痛などが軽くなったと書かれています。
いっぽうで、鍼灸を休んだ1〜2か月後に、軽い再燃があったと書かれています。
2例とも、医療機関で精査や投薬を受けていた方です。
高齢者の IBS に鍼灸を積極的に試みる価値がある、というのは、この2例にもとづく著者の結語です。50歳以上で新しく出たお腹の症状は、前の章の目安のとおり、まず医療機関につないでください。
消化器内科で薬を続けながら、鍼を併用した1例の報告(藤倉 2025)もあります。
著者自身が、プラセボ効果が寄与した可能性と、大規模な無作為化比較試験で検証する必要を書いています。
エビデンスボックス⑧ 日本の研究について確認できたこと(深く知りたい方向け・飛ばしてOK)
- 松本 淳, 石崎 直人, 苗村 健治, 山村 義治, 矢野 忠. 過敏性腸症候群の患者に対する鍼灸治療の効果-条件反転法による検討. 全日本鍼灸学会雑誌. 2005;55(1):56-67.(DOI 10.3777/jjsam.55.56)条件反転法(無治療期と治療期を交互に繰り返す設計)・4例。当サイトの言い換え(J-STAGE の抄録による)=罹病期間4年以上で、半年以上の投薬でも症状が十分に改善しなかった IBS 患者4例に、中医学的な弁証に従って鍼灸治療を行い、治療期間(10回ないし20回を1クール)と無治療期間を交互に繰り返した。4例中3例で腹痛・腹部膨満感・QOL が治療期間中に軽減し、2例で服薬量が減少した。心理状態には一定の傾向は見られなかった。著者は、鍼灸治療が IBS 患者の腹痛等の症状と QOL の改善に有効な治療となる可能性が示唆された、と結論しています。🛑 評釈:対照群のない4例の単一症例実験で、3例に入らなかった1例の経過は本文を読んでおらず不明です。「服薬量が減少した」は、当サイトは減薬をすすめる根拠に使いません(薬の選択は鍼灸師が答える範囲ではありません)。確認の範囲:J-STAGE の抄録(2026-09-17 編集長照合)。
- 松本 淳, 石崎 直人, 小野 公裕, 山村 義治, 矢野 忠. 高齢者の過敏性腸症候群に鍼灸治療が有効であった2症例. 全日本鍼灸学会雑誌. 2007;57(4):501-508.(DOI 10.3777/jjsam.57.501)症例報告2例(72歳女性・88歳男性)。当サイトの言い換え(J-STAGE の抄録による)=2例とも鍼灸治療の開始後に腹痛・腹部膨満感の減少、便性状と QOL の改善が得られ、服薬量も減少した。鍼灸治療の休止1〜2か月後に、腹痛や QOL に軽度の再燃を認めた。著者は、2例とも鍼灸治療が有用で、高齢者 IBS に鍼灸治療を積極的に試みる価値がある、と結んでいます。抄録によれば、症例1は入院での精査で異常がなく、症例2は同じ内科で投薬治療を受けていました。🛑 評釈:日本消化器病学会のガイドラインの診断の流れ図は、50歳以上での発症を危険因子に挙げています(ボックス②)。この2例は医療機関で精査・投薬を受けていた症例で、当サイトは「高齢者に積極的に試みる価値がある」を一般化しません。確認の範囲:J-STAGE の抄録(2026-09-17 編集長照合)。
- 藤倉 光慈, 井畑 真太朗, 山口 智, 屋嘉比 康治. 過敏性腸症候群に鍼治療が有効であった 1 症例 - 出雲スケールと HADS を指標とした検討 -. 日本東洋医学系物理療法学会誌. 2025;50(2):197-201.(DOI 10.32255/jjsop.50.2_197)症例報告1例(30歳代男性・混合型 IBS・消化器内科で処方薬を続けながら鍼を併用)。当サイトの言い換え(J-STAGE の抄録による)=消化器症状は鍼治療の導入直後から改善し、著者は神経性の調節作用やプラセボ効果が寄与した可能性があると考察しています。結語では、大規模な無作為化比較試験などで鍼治療の客観的な有効性を検証する必要がある、と書いています。🛑 評釈:抄録の考察には「薬物単独と比べ、鍼を併用することでより高い効果が示唆された」という趣旨の文がありますが、1例の報告で比較の対照がないため、当サイトは効果の根拠として使いません。確認の範囲:J-STAGE の抄録(2026-09-17 編集長照合)。
- 検索の範囲:Web 検索4式(「過敏性腸症候群 鍼 J-STAGE 全日本鍼灸学会雑誌」ほか)で探しました(2026-09-14)。J-STAGE の内部の検索機能、医中誌Web、CiNii は使っていません。「日本に RCT が無い」ではなく、「この範囲で見つからなかった」です。
IBS の鍼の安全性は、研究でどう報告されているか
有害事象の記載を当サイトが確認できた IBS の試験では、重篤と報告された有害事象はありませんでした。
ただしこれは「安全」「副作用はない」と同じ意味ではありません。報告のされ方に、ばらつきがあるからです。
コクラン(2012年)が集めた17試験のうち、有害事象を報告していたのは9試験でした。
その中で鍼に関連したのは失神の1件で、著者は人数が少なく、この安全性データの有用性は限られると書いています。
英国の上乗せ試験では、重篤な有害事象はなく、軽いものが11名に記録されていました。
刺したときの痛み(うち一部は神経の痛みや疲労も報告)、内出血、お灸による軽いやけど、刺した場所のかゆみと腫れです。お灸を使う院では、説明に入れておきたい内容です。
中国の大きな試験(2020年・2024年・2025年)は、抄録で重い有害事象はなかったと書いています。
ただ、軽い有害事象の件数や中身は、抄録には書かれていません。
ACTION 試験に先立つパイロット試験は、有害事象の数が抄録と本文で食い違っているため、当サイトは数を載せていません。
患者さんには「副作用はない」ではなく、起こりうることを先に伝えてください。
療養費(保険)の対象になるのか
鍼灸の療養費の支給対象として通知に挙げられている6疾患は、神経痛・リウマチ・頸腕症候群・五十肩・腰痛症・頸椎捻挫後遺症で、IBS は含まれていません。
当サイトは、IBS を療養費の対象として扱うとする資料を確認していません。
支給の可否や算定の取扱いを判断するのは、保険者と所管の地方厚生局です。
この段落は厚生労働省の公開資料を当サイトが整理した二次情報で、通知の番号や本文は扱っておらず、法的・行政的な助言ではありません。手続きの全体は鍼灸の療養費(保険)完全ガイド|6疾患・同意書・受領委任の実務【鍼灸師向け】にまとめています。
エビデンスボックス⑨ 有害事象の記録と、療養費の資料(深く知りたい方向け・飛ばしてOK)
- Manheimer 2012(ボックス③)抄録の最終文の逐語はボックス③にあります(有害事象を報告した9試験で、鍼に関連した有害事象は失神の1件)。🛑 評釈:「17試験で有害事象が1件」ではなく、「報告した9試験の中で1件」です。報告しなかった8試験で何が起きたかは分かりません。この失神の1件は、抄録では重さが分類されていません。本文の「重篤と報告された有害事象はありませんでした」は、この点を踏まえた書き方です。
- MacPherson 2012(ボックス⑤)本文の逐語=”No serious adverse events associated with acupuncture were reported by acupuncturists in the logbooks or by patients in follow-up questionnaires.”/”Non-serious adverse events associated with acupuncture were reported by eleven patients: eight experienced pain from the needles (three of the eight also reported nerve pain, bruising or fatigue), one had bruising from the needles, one had a slight burn from a moxibustion stick, and one had itchy and swollen skin where one of the needles had been inserted.”(当サイトによる訳:鍼に関連する重篤な有害事象は、施術者の記録簿でも、追跡の質問票での患者の報告でも報告されなかった。/鍼に関連する非重篤な有害事象は11名が報告した。8名が鍼による痛み〈うち3名は神経痛、皮下出血、疲労も報告〉、1名が鍼による皮下出血、1名が灸の棒による軽いやけど、1名が鍼を刺した部位の皮膚のかゆみと腫れだった。)評釈:1文目は、リサーチノートが文末を切って記録していたため、編集長が本文で確認した原文の文末で引いています。
- Lembo 2009(ボックス④)本文(著者最終稿)の逐語=”Three adverse events were reported during the acupuncture vs sham acupuncture phase of the study: 1) painful foot cramp following treatment (sham acupuncture), 2) nausea/hip pain (true acupuncture), and 3) rib pain after a fall (sham acupuncture).”/”All of the events were considered to be unrelated to the study procedure.”(当サイトによる訳:鍼と偽鍼を比べる段階で3件の有害事象が報告された。1〉施術後の足の痛みを伴うこむら返り〈偽鍼〉、2〉吐き気・股関節の痛み〈真の鍼〉、3〉転倒後の肋骨の痛み〈偽鍼〉。/いずれの事象も試験の手技とは無関係と判断された。)
- 中国の3試験の抄録(逐語)=ACTION(Yang JW 2025・ボックス④)”No severe adverse event was reported.”/Pei 2020(ボックス⑥)”No participant experienced severe adverse effects.”/Zhao J 2024(ボックス⑤)”There were no serious adverse events.”(当サイトによる訳:重度の有害事象は報告されなかった。/重度の有害作用を経験した参加者はいなかった。/重篤な有害事象はなかった。)🛑 評釈:3本とも、軽度の有害事象の件数と中身は抄録に無く、本文は未確認です。「重い有害事象がない」を「有害事象がない」と読みません。
- ⚠️ 当サイトが数値を載せていないもの:Qi 2022(ボックス④)は、有害事象の数が抄録(患者数の表記)と本文(件数の表記)で食い違っており、編集長が本文を照合して原典どおりの食い違いだと確認しています。理由は確認できていないため、どちらの数も載せていません。機能性消化管疾患3つをまとめた統合の有害事象の比は、IBS の数値ではないため使っていません。鍼一般の有害事象の頻度(大規模調査)は、この記事では扱っていません。
- 厚生労働省. 保険医療機関及び保険医の皆様へ はり、きゅう及びあん摩マッサージ指圧の同意書の取扱いを改めてお知らせします(令和7年4月版・6ページ).(https://www.mhlw.go.jp/bunya/iryouhoken/iryouhoken13/dl/250401_01.pdf )鍼灸の療養費の対象となる6疾患の記載を、当サイトが二次情報として整理しました。通知の本体は扱っていません。🛑 評釈:6疾患以外の扱いについては、IBS に当てはめて書ける資料を当サイトは確認していないため、本文では触れていません。
この記事で書かなかったこと・書けなかったこと
正直コーナーです。理由つきで開示します。
- コクラン(2012年)の本文と、Cochrane Library 本体の表示は確認できていません。偽鍼と比べた試験の特性表や、「特定の治療なし」の中身は、抄録の範囲でしか書いていません。
- 2026年の統合(Zheng HZ 2026)と、中国の280名の試験(ACTION)の本文は確認できていません。組み入れた試験の国や偽鍼の型、解析した人数は不明のままです。
- 英国消化器病学会・米国の AGA の本文、ACG の本文全体、NICE 本体の現行版、日本消化器病学会のガイドラインの全ページは確認できていません。韓国のガイドラインは照合できていません。確認していない文書について「鍼を推奨していない」とは書いていません。
- 症状の点数(IBS-SSS)の満点と、臨床的に意味のある差の原典は確認していません。そのため、点数の差の大きさを「臨床的に大きい・小さい」とは当サイトの判断で書いていません。
- 下痢型(IBS-D)に絞った記事は、今は作っていません。材料の中心の試験の本文が確認できていないためで、保留にしています。
- ネットワークメタ解析の順位、ばらつきが極端に大きい灸の統合値、ほかの病気とまとめた統合の値は使っていません。機能性ディスペプシアや慢性便秘の試験も、IBS の根拠にしていません。
- 選穴・手技・通電の処方と、薬の選び方・減らし方は書いていません。比べた鎮痙薬が各国のガイドラインでどう位置づけられているかも、この記事では扱っていません。
- 医中誌Web・CiNii・中国語のデータベース・試験登録サイトは検索していません。「見つからなかった」は、この範囲の話です。
まとめ|過敏性腸症候群の鍼について、言えること・言えないこと
- 偽鍼と比べた研究は割れています。コクラン(2012年・検索は2011年まで)は症状の重さと生活の質で偽鍼に対する利益を見出さず(根拠の質は中等度)、2026年の統合は反応率と治療終了時の症状で上回ったとしましたが、結果の確かさは低くばらつきも大きいとされています。下痢型の280名の試験は偽鍼を上回り(16週時点を除く)、米国の230名などの試験では差がありませんでした
- 英国で通常のケアに鍼を足した試験の改善は、著者自身が「小さい」と書いています。盲検ではなく、時間と注目の影響も差し引けておらず、24か月では統計的な差は確認されていません
- 薬より鍼が上回ったという研究は、盲検のない比較や、抄録に盲検の記載がない比較が中心です。鍼が薬の代わりになるとは言えません。処方薬は自己判断でやめず、主治医に相談するよう伝えてください
- 英国 NICE は2008年の推奨で、鍼の使用を「勧めるべきではない」としています。2017年の見直しでは、ガイドラインを更新しないと決めました(当サイトが確認した版)
- 日本消化器病学会が代替として鍼灸治療を提案しているのは、推奨文ではなく解説の文で、推奨の強さは付いていません。英語版の同じ箇所は、2つのメタ解析で鍼がプラセボより症状を改善したとしつつ、研究デザインのため注意が要ると書いています
- 日本では、鍼を無作為に比べた試験は当サイトの検索範囲で見つかりませんでした。当サイトが見つけたのは、4例の条件反転法の研究と症例報告です
- 重篤と報告された有害事象は確認した試験にはありませんが、記録の仕方はそろっていません。血便・発熱・思い当たる理由のない体重減少などがあれば、施術より先に受診をすすめてください
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更新履歴:本記事は初版です。コクランレビュー(CD005111)の新しい版が出た場合、英国 NICE・日本消化器病学会・ACG・英国消化器病学会・韓国のガイドラインが改訂された場合、本文を確認できていない試験や統合(Zheng HZ 2026・ACTION など)の本文を確認できた場合、療養費の通知が改正された場合に追記・修正します。
引用について:本記事の引用は著作権法32条にもとづく引用です。英文の日本語訳はすべて当サイトによるもので、他者の公式訳は用いていません。文の途中を省いた引用には、その旨を明記しています。日本消化器病学会のガイドライン(日本語版)と日本語の論文は、CQ の題名と一語の語句を除き逐語で引かず、当サイトの言い換えで紹介し、表と図は再現していません。
参考文献
- 日本消化器病学会 編集・発行(制作 南江堂). 機能性消化管疾患診療ガイドライン2020―過敏性腸症候群(IBS)(改訂第2版). 2020年6月1日発行. https://www.jsge.or.jp/committees/guideline/guideline/pdf/IBSGL2020_.pdf ※CQ3-20(文書 p.80)と診断アルゴリズム(文書 p.xvi)を中心に目視。言い換えで紹介
- Fukudo S, Okumura T, Inamori M, Okuyama Y, Kanazawa M, Kamiya T, et al. Evidence-based clinical practice guidelines for irritable bowel syndrome 2020. J Gastroenterol. 2021;56(3):193-217. PMID: 33538894. DOI: 10.1007/s00535-020-01746-z ※訂正 PMID 37752291
- Lan L, Zeng F, Liu GJ, Ying L, Wu X, Liu M, et al. Acupuncture for functional dyspepsia. Cochrane Database Syst Rev. 2014;2014(10):CD008487. PMID: 25306866. DOI: 10.1002/14651858.CD008487.pub2 ※対象の切り分けのみに使用
- Liu Z, Yan S, Wu J, He L, Li N, Dong G, et al. Acupuncture for Chronic Severe Functional Constipation: A Randomized Trial. Ann Intern Med. 2016;165(11):761-769. PMID: 27618593. DOI: 10.7326/M15-3118 ※対象の切り分けのみに使用
- Choi Y, Youn YH, Kang SJ, Shin JE, Cho YS, Jung YS, et al. 2025 Seoul Consensus on Clinical Practice Guidelines for Irritable Bowel Syndrome. J Neurogastroenterol Motil. 2025;31(2):133-169. PMID: 40205893. DOI: 10.5056/jnm25007 ※本文での鍼の扱いは照合できていない
- National Institute for Health and Care Excellence. Irritable bowel syndrome in adults: diagnosis and management. Clinical guideline CG61. Created 2008-02-23; last update 2017-04. NCBI Bookshelf NBK553734 ※サーベイランス2017=NBK551006。NICE 本体のページは未確認
- Manheimer E, Cheng K, Wieland LS, Min LS, Shen X, Berman BM, et al. Acupuncture for treatment of irritable bowel syndrome. Cochrane Database Syst Rev. 2012;2012(5):CD005111. PMID: 22592702. DOI: 10.1002/14651858.CD005111.pub3 ※抄録までの確認
- Zheng HZ, Zou HL, Chen BH, Li YJ, Wu WZ, Huang XB. Acupuncture vs Sham Non-Acupoint Acupuncture for Irritable Bowel Syndrome: A Systematic Review and Meta-Analysis. Gastroenterology. 2026. PMID: 42413705. DOI: 10.1053/j.gastro.2026.06.017 ※Epub・巻号頁は未確定。抄録までの確認
- Yang Y, Rao K, Zhan K, Shen M, Zheng H, Qin S, et al. Clinical evidence of acupuncture and moxibustion for irritable bowel syndrome: A systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Front Public Health. 2022;10:1022145. PMID: 36589968. DOI: 10.3389/fpubh.2022.1022145
- Zheng H, Chen R, Zhao X, Li G, Liang Y, Zhang H, et al. Comparison between the Effects of Acupuncture Relative to Other Controls on Irritable Bowel Syndrome: A Meta-Analysis. Pain Res Manag. 2019;2019:2871505. PMID: 31814859. DOI: 10.1155/2019/2871505
- Billings W, Mathur K, Craven HJ, Xu H, Shin A. Potential Benefit With Complementary and Alternative Medicine in Irritable Bowel Syndrome: A Systematic Review and Meta-analysis. Clin Gastroenterol Hepatol. 2021;19(8):1538-1553.e14. PMID: 32961342. DOI: 10.1016/j.cgh.2020.09.035 ※本文は PMC の著者最終稿を確認
- Yang JW, Qi LY, Yan SY, She YF, Li Y, Chi LL, et al. Efficacy of ACupuncTure in Irritable bOwel syNdrome (ACTION): A Multicenter Randomized Controlled Trial. Gastroenterology. 2025;169(5):958-969.e5. PMID: 40441496. DOI: 10.1053/j.gastro.2025.05.016 ※抄録までの確認
- Qi LY, Yang JW, Yan SY, Tu JF, She YF, Li Y, et al. Acupuncture for the Treatment of Diarrhea-Predominant Irritable Bowel Syndrome: A Pilot Randomized Clinical Trial. JAMA Netw Open. 2022;5(12):e2248817. PMID: 36580333. DOI: 10.1001/jamanetworkopen.2022.48817
- Lembo AJ, Conboy L, Kelley JM, Schnyer RS, McManus CA, Quilty MT, et al. A treatment trial of acupuncture in IBS patients. Am J Gastroenterol. 2009;104(6):1489-97. PMID: 19455132. DOI: 10.1038/ajg.2009.156 ※本文は PMC の著者最終稿を確認
- Schneider A, Enck P, Streitberger K, Weiland C, Bagheri S, Witte S, et al. Acupuncture treatment in irritable bowel syndrome. Gut. 2006;55(5):649-54. PMID: 16150852. DOI: 10.1136/gut.2005.074518 ※抄録までの確認
- Lowe C, Aiken A, Day AG, Depew W, Vanner SJ. Sham acupuncture is as efficacious as true acupuncture for the treatment of IBS: A randomized placebo controlled trial. Neurogastroenterol Motil. 2017;29(7). PMID: 28251729. DOI: 10.1111/nmo.13040 ※抄録までの確認
- Mak AD, Chung VCH, Yuen SY, Tse YK, Wong SYS, Ju Y, et al. Noneffectiveness of electroacupuncture for comorbid generalized anxiety disorder and irritable bowel syndrome. J Gastroenterol Hepatol. 2019;34(10):1736-1742. PMID: 30891824. DOI: 10.1111/jgh.14667 ※抄録までの確認
- Ma YY, Hao Z, Chen ZY, Shen YX, Liu HR, Wu HG, et al. Acupuncture and moxibustion for irritable bowel syndrome: An umbrella systematic review. J Integr Med. 2024;22(1):22-31. PMID: 38199885. DOI: 10.1016/j.joim.2023.12.001
- Kaptchuk TJ, Kelley JM, Conboy LA, et al. Components of placebo effect: randomised controlled trial in patients with irritable bowel syndrome. BMJ. 2008;336(7651):999-1003. PMID: 18390493. DOI: 10.1136/bmj.39524.439618.25 ※PubMed の書誌情報(2026-09-17 確認)。IBS の患者を対象にしたプラセボ効果の試験で、鍼の適応を調べたものではない
- MacPherson H, Tilbrook H, Bland JM, Bloor K, Brabyn S, Cox H, et al. Acupuncture for irritable bowel syndrome: primary care based pragmatic randomised controlled trial. BMC Gastroenterol. 2012;12:150. PMID: 23095376. DOI: 10.1186/1471-230X-12-150
- MacPherson H, Tilbrook H, Agbedjro D, Buckley H, Hewitt C, Frost C. Acupuncture for irritable bowel syndrome: 2-year follow-up of a randomised controlled trial. Acupunct Med. 2017;35(1):17-23. PMID: 26980547. DOI: 10.1136/acupmed-2015-010854
- Zhao J, Zheng H, Wang X, Wang X, Shi Y, Xie C, et al. Efficacy of acupuncture in refractory irritable bowel syndrome patients: a randomized controlled trial. Front Med. 2024;18(4):678-689. PMID: 38958923. DOI: 10.1007/s11684-024-1073-7 ※抄録までの確認
- Gan Y, Huang SL, Luo MQ, Chen M, Zheng H. Acupuncture in addition to usual care for patients with irritable bowel syndrome: a component network meta-analysis. Acupunct Med. 2022;40(5):403-414. PMID: 35437029. DOI: 10.1177/09645284221085280 ※抄録までの確認。順位は不使用
- Wu IXY, Wong CHL, Ho RST, Cheung WKW, Ford AC, Wu JCY, et al. Acupuncture and related therapies for treating irritable bowel syndrome: overview of systematic reviews and network meta-analysis. Ther Adv Gastroenterol. 2019;12:1756284818820438. PMID: 30719074. DOI: 10.1177/1756284818820438 ※抄録までの確認。順位は不使用
- Zhu L, Ma Y, Ye S, Shu Z. Acupuncture for Diarrhoea-Predominant Irritable Bowel Syndrome: A Network Meta-Analysis. Evid Based Complement Alternat Med. 2018;2018:2890465. PMID: 29977312. DOI: 10.1155/2018/2890465 ※ガイドラインの文献としての紹介のみ。順位は不使用
- Pei L, Geng H, Guo J, Yang G, Wang L, Shen R, et al. Effect of Acupuncture in Patients With Irritable Bowel Syndrome: A Randomized Controlled Trial. Mayo Clin Proc. 2020;95(8):1671-1683. PMID: 32499125. DOI: 10.1016/j.mayocp.2020.01.042 ※抄録までの確認
- Shi YZ, Tao QF, Qin D, Chen M, Yu SG, Zheng H. Acupuncture vs. antispasmodics in the treatment of irritable bowel syndrome: An adjusted indirect treatment comparison meta-analysis. Front Physiol. 2022;13:1001978. PMID: 36277191. DOI: 10.3389/fphys.2022.1001978 ※抄録までの確認
- Lacy BE, Pimentel M, Brenner DM, Chey WD, Keefer LA, Long MD, et al. ACG Clinical Guideline: Management of Irritable Bowel Syndrome. Am J Gastroenterol. 2021;116(1):17-44. PMID: 33315591. DOI: 10.14309/ajg.0000000000001036 ※p.17〜21 を目視
- Vasant DH, Paine PA, Black CJ, Houghton LA, Everitt HA, Corsetti M, et al. British Society of Gastroenterology guidelines on the management of irritable bowel syndrome. Gut. 2021;70(7):1214-1240. PMID: 33903147. DOI: 10.1136/gutjnl-2021-324598 ※抄録までの確認。本文での鍼の扱いは未確認
- Lembo A, Sultan S, Chang L, Heidelbaugh JJ, Smalley W, Verne GN. AGA Clinical Practice Guideline on the Pharmacological Management of Irritable Bowel Syndrome With Diarrhea. Gastroenterology. 2022;163(1):137-151. PMID: 35738725. DOI: 10.1053/j.gastro.2022.04.017 ※書誌のみ
- Chang L, Sultan S, Lembo A, Verne GN, Smalley W, Heidelbaugh JJ. AGA Clinical Practice Guideline on the Pharmacological Management of Irritable Bowel Syndrome With Constipation. Gastroenterology. 2022;163(1):118-136. PMID: 35738724. DOI: 10.1053/j.gastro.2022.04.016 ※書誌のみ
- 松本 淳, 石崎 直人, 苗村 健治, 山村 義治, 矢野 忠. 過敏性腸症候群の患者に対する鍼灸治療の効果-条件反転法による検討. 全日本鍼灸学会雑誌. 2005;55(1):56-67. DOI: 10.3777/jjsam.55.56 ※J-STAGE の抄録までの確認(2026-09-17 編集長照合)。言い換えで紹介
- 松本 淳, 石崎 直人, 小野 公裕, 山村 義治, 矢野 忠. 高齢者の過敏性腸症候群に鍼灸治療が有効であった2症例. 全日本鍼灸学会雑誌. 2007;57(4):501-508. DOI: 10.3777/jjsam.57.501 ※J-STAGE の抄録までの確認(2026-09-17 編集長照合)。言い換えで紹介
- 藤倉 光慈, 井畑 真太朗, 山口 智, 屋嘉比 康治. 過敏性腸症候群に鍼治療が有効であった 1 症例 - 出雲スケールと HADS を指標とした検討 -. 日本東洋医学系物理療法学会誌. 2025;50(2):197-201. DOI: 10.32255/jjsop.50.2_197 ※J-STAGE の抄録までの確認(2026-09-17 編集長照合)。言い換えで紹介
- 厚生労働省. 保険医療機関及び保険医の皆様へ はり、きゅう及びあん摩マッサージ指圧の同意書の取扱いを改めてお知らせします(令和7年4月版・6ページ). https://www.mhlw.go.jp/bunya/iryouhoken/iryouhoken13/dl/250401_01.pdf ※二次情報として整理。通知番号は記載していません
本記事は鍼灸師向けの学術情報の提供を目的としたものであり、特定の治療効果を保証するものではありません。効果には個人差があります。鍼灸師は疾病の診断を行う立場にはありません。過敏性腸症候群の型の判断や併存疾患の評価は医療機関の役割です。個別の患者への対応にあたっては、受診を優先すべきサインがないかを確認し、必要に応じて医療機関の受診をおすすめしてください。
【AI作成・編集責任について】本記事はAI(人工知能)が作成し、株式会社addwisteria の加藤タカシが編集責任者として内容を確認しています。引用した論文・ガイドラインの数値や推奨は改訂により変わることがあるため、実際の臨床判断では各原典の最新版をご確認ください。
