「肩こりに鍼って、効くんですか?」
患者さんにこう聞かれて、少しだけ言葉を選んだ経験、ありませんか。
やっかいなのは、同じ質問を同業者からもされることです。
研修会でこの話になると、たいてい「で、エビデンスはあるんですか」に移ります。
そこで論文を探しはじめると、思っていたのとは違う景色が出てきます。
探し方が下手なわけではありません。まとめて答えてくれる論文のほうが、見当たらないのです。
この記事では、日本で行われた試験を、規模の大きいものから1本ずつ読んでいきます。鍼灸の学術誌に載った日本語の論文も、英文誌に載った日本の試験も、同じ土俵に並べます。読み終わったときに手元に残るのは、「効く/効かない」の一言ではなく、どの試験で何が言えて、何が言えないかの線引きです。
結論(先に3つだけ)
いちばん規模が大きい試験でも、参加者400名・施術は1回・追跡は24時間です。3つの施術群はどれも「何もしない群」より改善した人が多かった一方で、貫通する鍼と皮膚に触れるだけのプラセボ鍼のあいだには差が出ていません(施術直後 p=0.78)。そして何もしなかった群でも、4人に1人は改善しています。
「肩こり」を対象にした鍼のシステマティックレビュー(同じテーマの研究を集めて一つにまとめた論文)は、当サイトが2026年8月23日に調べた範囲では見つかりませんでした。ですから答えは、日本で行われた試験を1本ずつ読んで組み立てるしかありません。
そしてこの試験は、結果の意味づけそのものが学術誌の上で議論の途中にあります。批判と、著者による反論が同じ雑誌に公開されています。どちらが正しいかを、当サイトは判定しません。
- 先に2つだけ|この記事が読むのは日本の試験/「肩こり」は neck pain と重なりません
- 探しても見つからないもの|肩こりを対象にした鍼のまとめ論文
- いちばん規模が大きい試験|400名・1回の施術で何が見えたか
- その試験の意味づけをめぐって、いま学術誌の上で議論が続いています
- 刺さない鍼と比べた3つの試験|「効くが短い」でそろっています
- 職場で測った試験|4週・20名で何が動いたか
- 「どこに、どのくらいの深さで」を比べた試験
- 【一覧表】日本の試験を1枚に並べる|対照もアウトカムも追跡期間もそろっていません
- 各試験は有害事象をどう報告したか|同じ日本の調査で40倍違う理由
- 日本の総説は「肩こり」をどう整理しているか|一次性・二次性と、持続効果
- 患者説明と自院サイトの表現|日本の試験の数字を、そのまま渡せる言葉にする
- 正直に言うと|この記事で書かなかったこと
- FAQ|肩こりへの鍼で鍼灸師によくある質問
- まとめ|肩こりへの鍼のエビデンスとして、日本の試験から言えること・言えないこと
- 関連記事
- 参考文献
先に2つだけ|この記事が読むのは日本の試験/「肩こり」は neck pain と重なりません
なぜ日本の試験だけなのか。
「肩こり」を主題に据えた鍼の試験は、当サイトが確認できた範囲では、いずれも日本で行われたものだったからです。英語で書かれた論文でも、この語は katakori とローマ字のまま題名に入っています。
首の痛み全体の見取り図、施術より先に医療機関をおすすめしたい場面、そして安全性の全体像は、親記事の首の痛みへの鍼|慢性頸部痛のエビデンスと受診の見極めガイドにまとめてあります。
もう1つ。日本語の「肩こり」の中心にあるのは、痛みの強さではなくこり感や重圧感です(定義そのものは後の章で扱います)。
英語の論文では katakori とローマ字で書かれ、併記される英訳は論文ごとに違います。この愁訴に特化した評価尺度が作られたのも2022年で、それ以前の試験は当然それを使っていません。
この食い違いをどう扱うかは、首の痛みへの鍼|慢性頸部痛のエビデンスと受診の見極めガイドで整理しました。
つまり、neck pain のレビューを読んで「だから肩こりにも効く」とは言えないわけです。
では、肩こりそのものを扱ったまとめ論文はどこにあるのか。
ここから、この記事の本題に入ります。
探しても見つからないもの|肩こりを対象にした鍼のまとめ論文
「肩こりに鍼、エビデンスあるんですか」と聞かれたら、まずシステマティックレビューを探しますよね。
当サイトも探しました。結果から書きます。
見つかりませんでした。
調べたのは4経路です。PubMed で2通り、Europe PMC で1通り、それに日本語のWeb検索。
全件の表題を確認しましたが、レビューは1本も出てきませんでした。返ってきた「肩のレビュー」は、すべて凍結肩や腱板修復後の拘縮など「肩関節の可動域制限」のもので、肩こりではありません(検索式と件数はボックス①)。
ここは慎重に書きます。
「存在しない」ではありません。「当サイトが2026年8月23日に調べた範囲では見つからなかった」です。
医中誌Webのような有料の日本語データベースは検索していませんし、CENTRAL・CiNii も同様です。
頸部痛には10本以上あるのに、肩こりでは見つかりませんでした
この非対称が、この記事の出発点です。
慢性の頸部痛(neck pain)については、鍼のシステマティックレビューが10本以上あります。親記事は、その山を整理した記事です。
ところが、同じ首と肩のまわりの訴えでありながら、「肩こり」の側は、上の4経路で探した範囲では1本も見つかりませんでした。
図解:慢性頸部痛(neck pain)を対象にした鍼の系統的レビューが10本以上あるのに対し、肩こり(katakori)を対象にした鍼の効果の系統的レビューが、当サイトの検索範囲では0本だったという非対称を示す図
当サイトが2026年8月23日に、PubMed(2式)・Europe PMC(1式)・日本語Web検索の4経路で調べた結果です。
10本以上。親記事がこの山を整理しています。対象は非特異的頸部痛・むち打ち関連障害・神経根症状を伴う頸部痛など、複数の区分の寄せ集めです
0本。PubMedの2式(20件・34件)、Europe PMCの `katakori` 検索(40件)、日本語Web検索のいずれにも見当たりませんでした
Aoki 2019。5つの質問票を評価し、9つの評価基準のうち優れた測定特性が確認されたのは2つ。内容妥当性を検討した尺度は0でした
模式図です。「0本」は「見つからなかった」であって、「存在しない」という意味ではありません。医中誌Webなど有料の日本語データベース、CENTRAL、CiNii は検索していません。「10本以上」は親記事が扱った頸部痛のレビューの本数で、肩こりと同じ条件・同じ検索式で数えたものではありません。検索日は2026年8月23日です。
唯一見つかった系統的レビューは、治療の話ではなかった
当サイトの検索で見つかった系統的レビューは、1本だけでした。
ただし主題は、治療の効果ではありません。「肩こりの重症度を測る質問票」を評価したレビューです(Aoki 2019)。
その結論の一文が、いまの状況をよく表しています。
there has been no standardized patient-reported outcome measure to evaluate Katakori severity
(当サイトによる訳:肩こりの重症度を評価するための、標準化された患者報告アウトカム尺度は存在してこなかった。)
見つかった質問票は5つ。
ただし、9つの評価基準のうち、優れた測定特性が確認されたのは2つの基準だけで、しかも内容妥当性——その質問票が測りたいものを過不足なく含んでいるか——を検討した尺度は、1つもありませんでした。
物差しがそろわないと、まとめようがない
メタ解析(複数の研究の数値を統計的に一つにまとめる手法)は、測っているものがそろっているほど組みやすくなります。バラバラの物差しを無理に束ねると、出てきた数字が何を意味するのか読めなくなります。
肩こりに特化した尺度(Katakori Disability Index、KDI)が作られたのは2022年です。
この記事がこれから並べる日本の試験は、どれもそれ以前のものか、別の物差しを使っています。
つまり「肩こりのメタ解析が無い」のは、誰かがサボっているからではなく、統合できる共通の物差しが、そもそも用意されてこなかったからではないか——そう読めます。
ただし、一次資料に書いてあるのは「標準化された尺度が存在してこなかった」という事実までです。そこから「だからメタ解析が組めない」とつなげているのは、当サイトの読み取りです。
エビデンスボックス① 検索の記録と、肩こりの質問票のレビュー(深く知りたい方向け・飛ばしてOK)
- 検索日:2026年8月23日。実施=当サイト。
- 式A(PubMed/E-utilities esearch):
(katakori[tiab] OR "shoulder stiffness"[tiab] OR "neck and shoulder stiffness"[tiab] OR "stiff shoulder"[tiab]) AND (acupuncture[tiab] OR "acupuncture therapy"[mh])→ 20件。全件の表題を確認。システマティックレビュー/メタ解析は0件(内訳=RCT・症例報告・調査・注射の研究・LED照射・肩腱板病変など)。 - 式B(PubMed/E-utilities esearch):
(katakori[tiab] OR "shoulder stiffness"[tiab] OR "neck and shoulder stiffness"[tiab] OR "stiff shoulder"[tiab]) AND (systematic review[pt] OR meta-analysis[pt] OR "systematic review"[tiab] OR "meta-analysis"[tiab])→ 34件。全件の表題を確認。すべて凍結肩・腱板修復後の拘縮・癒着性関節包炎など「肩関節の可動域制限」のレビューで、肩こり(katakori)を対象にしたものは0件。式Aと式Bの積集合は空(Aの20件に含まれるPMIDは、Bの34件に1件も含まれない)。 - 式C(Europe PMC):
katakori(全フィールド)→ 40件。表題を全件確認。系統的レビューは下記 Aoki 2019 の1件のみで、治療効果の系統的レビューは0件。 - 式D(日本語Web検索):
肩こり 鍼 システマティックレビュー メタアナリシス 全日本鍼灸学会雑誌→ 該当なし。返ってきたのは総説・観察研究・個別のRCTでした。 - 🛑 検索していないもの:医中誌Web(有料)/CENTRAL/CiNii。したがって本記事の記述は「存在しない」ではなく「当サイトが上記4経路で調べた範囲では見つからなかった」です。
- Aoki K, Hall T, Takasaki H. Reporting on the level of validity and reliability of questionnaires measuring Katakori severity: A systematic review. SAGE Open Med. 2019;7:2050312119836617.(PMID 30906552/DOI 10.1177/2050312119836617/PMC6421599・オープンアクセス)検索先=ICHUSHI・MEDLINE・EMBASE・PubMed/開始〜2017年4月/言語制限なし/COSMINチェックリストによる測定特性の系統的レビュー。
- 逐語①=”there has been no standardized patient-reported outcome measure to evaluate Katakori severity.“(当サイトによる訳:肩こりの重症度を評価するための、標準化された患者報告アウトカム尺度は存在してこなかった。)
- 逐語②=”Five questionnaires were identified in five studies. The Shoulder Pain and Disability Index and Scale for Measuring Felt Shoulder Stiffness had the highest level of methodological quality. However, excellent measurement properties were found in only two out of nine criteria. Furthermore, in particular, content validity was not investigated in any measure.“(当サイトによる訳:5論文から5つの質問票が同定された。SPADI と Scale for Measuring Felt Shoulder Stiffness が方法論的な質としては最も高かった。しかし優れた測定特性が確認されたのは9基準のうち2つだけであり、とりわけ内容妥当性はいずれの尺度でも検討されていなかった。)
- 逐語③(著者の結論)=”There is preliminary evidence for the reliability and validity of the Shoulder Pain and Disability Index and Scale for Measuring Felt Shoulder Stiffness; however, much further research is required.“
- 限界:Aoki 2019 の検索は2017年4月までです。それ以降に開発・検証された尺度や、その後に出たレビューは含まれません。
- KDI(Katakori Disability Index)の項目数が論文間で食い違う件:開発論文=Takasaki H, Handa Y. J Phys Ther Sci. 2022;34(1):13-17.(PMID 35035072/PMC8752277)逐語=”We eventually developed a 31-item Katakori Disability Index with modified instructions and items, two additional items, and a post-survey checklist”。一方、3か国での異文化妥当性を検討したTakasaki H. Sci Rep. 2025;15(1):12087.(PMID 40204890/PMC11982398)の全文は “The KDI comprises 11 items plus one dummy item” と記載しています。当サイトは両論文の関係(絞り込んだのか別版なのか)を確認できていないため、項目数を断定しません。
- あわせて、2022年の開発論文が検討したのは内容妥当性までで、信頼性・反応性(変化を捉える力)の検証は行われていません。再検査信頼性・反応性を検証した論文は、当サイトが Europe PMC で全文検索した範囲では見つかりませんでした(「無い」という断定ではありません)。
いちばん規模が大きい試験|400名・1回の施術で何が見えたか
ここからは個別の試験です。まず、参加者がいちばん多いものから。
2023年に発表された、400名を4つの群に分けた試験です(Takakura 2023)。
群は、①貫通する鍼/②皮膚に触れるだけのプラセボ鍼/③皮膚に触れないプラセボ鍼/④何もしない群、の4つ。
測ったのは、施術の直後と24時間後に、こりのVAS(0〜100mmの線に自分で印をつける物差し)が10mm以上下がった人の数です。
割り付けは各群100名。皮膚接触群と非接触群は99名が解析対象になりました。
「即効性」をどこまで示したか|どの施術群も「何もしない群」より改善者が多い
「1回で変わりますか」と聞かれることは多いはずです。この試験が答えられるのは、まさにそこ——施術の直後と翌日まで、という範囲です。
施術直後に改善した人は、貫通69名・皮膚接触73名・非接触61名。
これに対して、何もしなかった群は24名でした。
24時間後は74名・67名・59名に対し、何もしない群は22名です。
3つの施術群と何もしない群との差は、いずれも統計的に有意でした(χ²=54.17/49.26/28.77、いずれも p<0.01)。
VASの下がり幅も同じ方向で、施術を受けた群では直後がおよそ35%の低下。翌日は非接触が30%、皮膚接触と貫通が37%の低下でした。
ここで落としてはいけないのが、何もしなかった群でも4人に1人が改善しているという数字です。
「1回の施術で6〜7割が良くなりました」という言い方は、この24名を伏せたときにだけ成立します。
24名を並べて初めて、この試験が何を測ったのかが見えてきます。
ただし、施術群どうしには差が出ていません
肝心なのはここです。
施術直後の比較では、貫通する鍼と、皮膚に触れるだけのプラセボ鍼のあいだに差はありませんでした(p=0.78)。
貫通と非接触(p=0.38)も、皮膚接触と非接触(p=0.99)も同じです。
24時間後になって貫通が非接触を上回りましたが(p=0.01)、施術群どうしで有意差が報告されたのは、この組み合わせだけでした。
ですからこの試験を根拠に、「本物の鍼は偽鍼より効いた」とは書けません。
著者自身も、そうは書いていません。
「鍼という一連の所作が、こりの主観的な改善に大きな影響を与えた。ただし所作だけのプラセボ鍼では、浅く皮膚を貫いたときのようには改善が保たれなかった」という書き方です(逐語はボックス②)。
「日本最大の試験だから信頼できる」とも書けません
規模と限界は、いつも同じ文に入れておいたほうが安全です。
施術は1回だけ。追跡は24時間。刺入は5mm。
臨床で毎週続けている施術とは、別のものだと考えたほうがよいでしょう。
参加者は18〜60歳で、しかも鍼で得気を経験したことがある人に限られています。鍼が初めての人には当てはめられません。
さらに、単施設で施術者は6名。
患者側の盲検も保てていません(298名全体で p=0.001。ただし「感覚がなかった」と答えた人を除いた197名では p=0.56)。
これは責められる点ではなく、鍼の試験に共通してついてまわる制約です。なお、この試験は2種類のプラセボ鍼を用意して施術者にもどちらを持っているか分からなくする設計を採っていますが、鍼で盲検がどの層まで成り立つのかは鍼で二重盲検が難しい理由|盲検化の4層を分けて読むにまとめました。
エビデンスボックス② 400名の試験の設計・数値・限界(深く知りたい方向け・飛ばしてOK)
- Takakura N, Takayama M, Kawase A, Kaptchuk TJ, Kong J, Vangel M, Yajima H. Acupuncture for Japanese Katakori (Chronic Neck Pain): A Randomized Placebo-Controlled Double-Blind Study. Medicina (Kaunas). 2023;59(12):2141.(PMID 38138244/DOI 10.3390/medicina59122141/PMC10745119・全文を確認)
- デザイン:ランダム化・二重盲検(施術者と患者)・プラセボ対照の4群並行試験。単施設。試験登録=ISRCTN76896018。
- 群構成(逐語)=”randomized, double-blind (practitioner-patient blind), placebo-controlled study … with four arms: skin-piercing treatment with penetrating needles … skin-touching treatment with skin-touch placebo needles … no skin-touch treatment with no-touch placebo needles … and control with no treatment”
- 選択基準:18〜60歳/特定疾患によらない本態性の頸肩のこり/鍼で得気を経験したことがある者。除外基準:頸部疾患・神経症状・24時間以内に他の治療予定がある者・収縮期血圧140超または拡張期90超。
- 主要アウトカム(逐語)=”Improvement in the neck/shoulder stiffness score immediately and 24 h after treatment were the primary outcomes. The decrease in stiffness VAS score of 10 mm or more was defined as the improvement“
- 検出力(逐語)=”With 100 patients in each group, we had 0.99 power to detect a significant difference”/”For between-group comparisons, we had at least 0.98 power to detect a 10 mm minimum clinically significant difference”
- 改善者数:施術直後=貫通69/皮膚接触73/非接触61/無処置24。24時間後=74/67/59/22。(割り付けは各群100名、皮膚接触・非接触は99名で解析)
- 無処置対照との比較(逐語)=”penetrating treatment (χ2 = 54.17, p < 0.01), skin-touch treatment (χ2 = 49.26, p < 0.01), and no-touch treatment (χ2 = 28.77, p < 0.01)”
- 施術群どうしの比較(全ペア):施術直後=貫通 vs 皮膚接触 p=0.78/貫通 vs 非接触 p=0.38/皮膚接触 vs 非接触 p=0.99(いずれも差なし)。24時間後は貫通 > 非接触(p=0.01)のみ有意。
- VASの変化率(逐語)=”−35% post-treatment for all groups; −30% next day for no-touch, −37% next day for skin-touch and penetrating”。⚠️ 原文は “for all groups”。翌日の値が3つの施術群についてのみ示されていることから、本文では「施術を受けた群」と読みました=当サイトの読み取りです
- 著者の結論(逐語)=”All treatments were better than those in the no-treatment control. The ritual of acupuncture had a significant impact on the subjective improvement of neck/shoulder stiffness, but improvement with ritual-alone versions of placebo acupuncture was not maintained as with the superficial skin piercing.“(当サイトによる訳:すべての施術は無処置対照より良好であった。鍼の所作は頸肩のこりの主観的改善に有意な影響を与えたが、所作のみのプラセボ鍼による改善は、浅い皮膚貫通のようには保たれなかった。)
- 著者が挙げた限界(逐語)=”The limitations of this study include only a single treatment session, short follow-up, and shallow insertion; the patients knew that the two types of placebo needles were options. Further research is warranted with multiple treatments using more needles and/or deeper insertion while telling the patient that there is one placebo arm and not two.”
- 患者の盲検:298名全体では割り付けの推測が偶然の範囲を超えていました(p=0.001)。「感覚がなかった」と回答した者を除いた197名では p=0.56。
- 資金・COI:JSPS科研費 JP22390147・JP16K09266・JP15K08938。共著者の1名は NIH-NCCAM #1R01AT012144-01 の支援。COI=”The authors declare no conflict of interest.”
- 関連①(事前公表されたプロトコル):Takakura N, ほか. Design of a randomised acupuncture trial on functional neck/shoulder stiffness with two placebo controls. BMC Complement Altern Med. 2014;14:246.(PMID 25027157/PMC4223566)逐語=”single-centre, randomised, placebo-controlled trial”/使用経穴=”Bladder10, Small Intestine14, Gallbladder21 and Bladder42″。⚠️ PubMedの出版タイプに
Multicenter Studyが付いていますが、本文は single-centre と明記しています。PubMedのタグを根拠にしないでください。 - 関連②(盲検の予備試験):Takayama M, ほか. The Potential of Double Blinding with Two Placebo Acupuncture Needles: A Randomized Controlled Pilot-Trial. Medicines (Basel). 2014;2(1):11-27.(PMID 28933379/PMC5532973)肩こり患者120名で盲検の成否だけを検証したもの。逐語=”The practitioners were blinded to the nature of treatment using the same multiple needles, but patient blinding was insufficient.” κ=施術者0.15/患者0.44。患者側の盲検が不十分になることは、本試験の前から分かっていたことになります。
その試験の意味づけをめぐって、いま学術誌の上で議論が続いています
この試験には、続きがあります。
2024年、同じ雑誌に批判のコメント論文が掲載されました(Birch et al. 2024)。
そして著者らが、同じ雑誌に反論を発表しています(Takakura et al. 2024)。
どちらもオープンアクセスで、全文を無料で読めます。
批判の中身|「これはプラセボ対照試験ではない」
批判の核は、偽鍼を当てた場所です。
3つの施術群は、どれも同じ経穴に施術していました。
だからこれは手技どうしの比較であって、鍼の有効性をプラセボと比べた試験ではない——というのが批判側の主張です。
It was a comparison of treatment techniques and not a placebo-controlled trial testing the efficacy of acupuncture.
(当サイトによる訳:これは治療手技どうしの比較であって、鍼の有効性を検証したプラセボ対照試験ではなかった。)
批判の向きを、取り違えないでください
ここは反対向きに要約されがちなところです。
批判側が言っているのは、「鍼は効かない」ではありません。
むしろ逆向きで、「刺さなくても改善が出た。ということは偽鍼の側にも生物学的に活性な要素が入り込んでいて、鍼の効果をむしろ過小評価しているおそれがある」という指摘です。
同じ論文のなかで、「この試験が示したのは、対象とした肩の痛みの治療において、効果を得るために鍼を刺入する必要はないということだ」という強い一文も書かれています(逐語はボックス③)。
つまり批判と反論は、「効くか効かないか」ではなく、この設計で何を測ったことになるのかをめぐって噛み合っています。
著者側の反論と、臨床での扱い
著者らは同じ誌上で反論を発表しています。ただし当サイトは、この反論の全文を1つの経路でしか読み取れていません。中身を逐語で引くことは控え、「同じ雑誌の上で反論が出ている」という事実までにとどめます(書誌はボックス③)。
「日本には400人規模の試験があります」とだけ伝えると、片側だけを渡すことになります。
「その試験の設計の意味づけについては、いま研究者どうしで議論が続いています」まで含めておくと、あとで訂正せずに済みます。
同業者に聞かれたとき
「肩こりで400人規模の試験が日本にありますよ。ただし施術は1回きり、追跡は24時間です。何もしない群よりは改善した人が多かったけれど、刺す鍼と皮膚に触れるだけの鍼では差が出ていません。しかもその設計の解釈をめぐって、批判と著者の反論が同じ雑誌に載っています。読むならセットで、が安全だと思います。」
エビデンスボックス③ 批判と反論の書誌・逐語・当サイトの確認範囲(深く知りたい方向け・飛ばしてOK)
- 批判:Birch S, Alraek T, Kim TH, Lee MS. Comment on Takakura et al. Acupuncture for Japanese Katakori (Chronic Neck Pain): A Randomized Placebo-Controlled Double-Blind Study. Medicina 2023, 59, 2141. Medicina (Kaunas). 2024;60(7):1030.(PMID 39064459/DOI 10.3390/medicina60071030/PMC11278864・オープンアクセス)当サイトの確認=PMC全文と Europe PMC の fullTextXML の2経路で本文を逐語取得し、一致を確認済み。
- 逐語①=”To test the effectiveness of acupuncture against a putative placebo, both the technique of needling and the sites of needling in the sham must be different, and the sham technique must demonstrate a lack of specific effects.”
- 逐語②=”… both applied the treatment techniques to the same acupoints as in the test acupuncture. … It was a comparison of treatment techniques and not a placebo-controlled trial testing the efficacy of acupuncture.“
- 逐語③=”Since the trial found a significant improvement in all three acupuncture treatment arms compared to the no-acupuncture arm, the trial demonstrated that, for the treatment of the shoulder pain targeted by the trial, it is not necessary to insert needles for the treatment to be effective.“(当サイトによる訳:3つの鍼施術群すべてが無施術群と比べて有意な改善を示したのだから、この試験は、対象とした肩の痛みの治療については、効果を得るために鍼を刺入する必要はないことを示したことになる。)
- 逐語④=”This trial accidentally included biologically active components of the acupuncture treatment in the sham treatments, making them potentially effective in their own rights and risking the underestimation of the acupuncture treatment’s effects.“(当サイトによる訳:この試験は、鍼施術の生物学的に活性な要素を偽鍼側に偶然含めてしまっており、偽鍼それ自体が効果を持ちうる状態にして、鍼施術の効果を過小評価する危険を生んでいる。)批判の向きは「鍼が効かない」ではなく「偽鍼の側にも効果があった可能性」です。
- 逐語⑤=”The conclusions drawn by the researchers about the potential role of the placebo and the ritual of the therapy are invalid and do not follow from this trial.”
- 反論:Takakura N, Takayama M, Kaptchuk TJ, Kong J, Yajima H. Reply to Birch et al. Comment on “Takakura et al. Acupuncture for Japanese Katakori (Chronic Neck Pain): A Randomized Placebo-Controlled Double-Blind Study. Medicina 2023, 59, 2141”. Medicina (Kaunas). 2024;60(9):1438.(PMID 39336479/DOI 10.3390/medicina60091438/PMC11434132・オープンアクセス)
- 🛑 当サイトの確認範囲:この反論はPMCの全文を1つの経路で読み取ったのみで、複数経路での照合ができていません。そのため本記事では、反論の内容を逐語で引用していません。「著者らが同じ誌上で反論を発表している」という事実の提示にとどめています。内容を確認されたい方は、上記PMCで原文をご覧ください。
- 当サイトの立場:批判と反論のどちらが妥当かについて、当サイトは判定していません。両論文を併記することが、この試験を引用するときの最低条件だと考えています。
刺さない鍼と比べた3つの試験|「効くが短い」でそろっています
施術が終わった直後は「軽くなりました」。
でも1週間後には、元どおりの肩で座っている。
この経験、ありませんか?
日本で行われた肩こりの試験を並べると、まさにこの形が出てきます。刺さない鍼(偽鍼)と比べた試験が少なくとも3本あり、どれも同じ方向を向いています。
① 2002年・鍼灸学校のボランティア34名(Nabeta & Kawakita)
圧痛点への鍼と、刺さない偽鍼を比べた試験です。
週1回を3週間。VASは初回の刺鍼から1か月にわたり、2日おきに記録されています。
抄録に「(Japanese: katakori)」と明記された、数少ない国際誌の肩こり試験です。
結論は、著者自身の言葉で読むのがいちばん正確です。
Acupuncture applied to tender points appears to have short-term effects on neck and shoulder pain and stiffness, but this study was unable to demonstrate any long-term superiority over sham acupuncture.
(当サイトによる訳:圧痛点への鍼は、頸と肩の痛み・こりに短期的な効果があるように見えるが、本研究では偽鍼に対する長期的な優位性を示すことができなかった。)
ここで気をつけたいのは「短期的な効果」の中身です。
鍼の群では施術直後や翌日にVASが下がったと書かれています(P<0.01)。
ただし抄録の書き方から見て、これは群の中での前後比較とみられます。
つまり「本物の鍼のほうが偽鍼より短期的に優れていた」とは読めません。
群間で比べた記述があるのは、最終治療の9日後に「差が無かった」という一文のほうです。
この記事では、そこを言い換えずにそのまま置いておきます。
② 2006年・大学生の3群比較(伊藤ほか)
トリガーポイント群・経穴群・偽鍼群の3群に分け、週1回×4回を行った試験です。
偽鍼は鍼先をカットした自作のもので、体内に入らないよう加工されています。
登録は各群10名、脱落を補って最終的に各群9名で解析されています。
治療終了時、VASはトリガーポイント群だけが下がりました。
64.1から44.3へ。治療前と比べても、偽鍼群と比べても有意差が付いています(p<0.05)。
問題はその先です。
1か月後の値は、トリガーポイント群51.1/経穴群57.8/偽鍼群59.6。
著者は「元の値まで回復していた」と書いています。
もうひとつ、この試験には研究の読み方として面白い数字があります。
偽鍼群9名のうち、6名が「実際に刺入されている」と答えていました。
日本で自作された偽鍼でも、患者側の盲検が成り立つことがある、という記録です。
③ 2002年・貼る鍼を偽鍼と比べた53名(古屋ほか)
同じ製品から鍼尖だけを取り除いたプラセボを作り、円皮鍼と比べた試験です。
外観でも包装でも区別のつかない対照で、3日間の留置。
対象は専門学校の教職員と学生で、全員に鍼灸の受療経験がありました。
3日後、「肩こりがある」と答えた人はプラセボ群25名中23例、円皮鍼群28名中12例。
危険率1%未満で有意差が付いています。
VASのほうは注意が要ります。
この論文が検定しているのは「それぞれの群の、施術前と比べた変化」だけで、同じ時点で群と群を比べた検定は報告されていません。
群どうしを同じ時点で比べているのは、上の「肩こりがある人数」のデータだけです。数字は動いていますが、VASを「群間差」として引用することはできません。
そしてこの試験には、臨床に直接刺さるサブグループの結果があります。
頸肩腕の徒手検査で陽性所見があった人たち(プラセボ6名・円皮鍼9名)では、両群とも有意な変化が出ていません。
事後に分けた小さな集団の話ですが、「同じ肩こりでも中身が違う」ことを日本のデータが示した例です。
3本を並べて言えること
いずれも「その場では動いた」と読める場面があります。
いずれも「差が続いた」とは書かれていません。
これが、日本の偽鍼対照試験の正直な姿です。
なお、古屋2002のプラセボ円皮鍼は珍しい型です。偽鍼(シャム鍼)とは何か|4つのタイプと「不活性でない」問題とあわせて読むと、3本の設計の違いが見えやすくなります。
図解:日本で行われた偽鍼対照の3試験について、変化が確認できた時点と、群間の差が確認できなくなった時点を時間軸に並べた図
日本で行われた偽鍼対照の3試験を、時間の流れに沿って並べたものです。
- 1
Nabeta & Kawakita 2002|34名|刺入しない偽鍼
施術直後〜翌日:VAS減少(P<0.01・群内の前後比較)最終治療の9日後:群間差なし - 2
伊藤ほか 2006|最終 各群9名|鍼先をカットした自作偽鍼
治療終了時:TrP群のみ偽鍼群より良好(p<0.05)/VAS 64.1→44.31か月後:3群とも元の値(TrP 51.1/経穴 57.8/偽鍼 59.6) - 3
古屋ほか 2002|53名|鍼尖を除いたプラセボの貼る鍼
3日後:「肩こりがある」人数で群間差(23/25 vs 12/28・p<0.01)3日より先は測定していない
差が続いた時点を示した試験は、この3本にはありません
模式図です。3本は対象者・対照・測るもの・測る間隔がすべて違うため、レーンどうしを横に比べることはできません。いずれも小規模で(34名/最終 各群9名/53名)、被験者は鍼灸学校のボランティア・大学生・専門学校の教職員と学生に偏っています。「差が確認できなくなった」は「効果が無い」の証明ではなく、その時点で差を示せなかったという意味です。古屋2002 について群と群を同じ時点で比べているのは「肩こりがある」人数だけで、VASは両群の施術前との比較しか報告されていません。
エビデンスボックス④ 刺さない鍼と比べた3つの試験(深く知りたい方向け・飛ばしてOK)
- Nabeta T, Kawakita K. Relief of chronic neck and shoulder pain by manual acupuncture to tender points—a sham-controlled randomized trial. Complement Ther Med. 2002;10(4):217-222.(PMID 12594972/DOI 10.1016/s0965-2299(02)00082-1)鍼灸学校のボランティア34名。圧痛点への刺鍼(雀啄5回)vs 刺入しない偽鍼、週1回×3週。VASは初回刺鍼前から1か月間、2日おきに測定。逐語=“There was no statistical difference of VAS scores between acupuncture and sham groups 9 days after the last treatment.”/“the acupuncture group showed significant reduction of VAS scores immediately after and/or 1 day after the real acupuncture treatments (P<0.01)”。圧痛閾値は本物の鍼のあとで上がる傾向。限界=本文は有料で未読のため、群ごとのn・VASの実数値・信頼区間は書いていません。P<0.01 は群内比較とみられるため、「偽鍼より優れていた」とは記載していません。被験者は一般の患者ではありません
- 伊藤和憲, 南波利宗, 西田麗代, 河本真, 越智秀樹, 北小路博司. 大学生の肩こり被験者を対象にしたトリガーポイント鍼治療の試み. 全日本鍼灸学会雑誌. 2006;56(2):150-157.(DOI 10.3777/jjsam.56.150/J-STAGE 無料全文)封筒法で3群各10名。40mm・16号ディスポ鍼、目的の部位まで刺入し10分間置鍼、週1回×4回。経穴群は天柱・肩井・肩外兪・完骨の圧痛部位に最大8か所、刺入深度10mmに統一。Shamは鍼先をカットした自作偽鍼。VAS(治療前→終了時→1か月後)=TrP群 64.1±17.5→44.3±21.3→51.1±22.8/経穴群 61.1±26.8→59.2±18.2→57.8±22.3/Sham群 62.1±17.5→62.1±7.8→59.6±26.3。終了時にTrP群のみ治療前比(Wilcoxon p<0.05)およびSham群比(Scheffe p<0.05)で有意。Sham群9名中6名が「刺入された」と回答。限界=著者自身が「動的割り付け法」「30例と小規模」で一般化できないと明記。脱落例を補充して各群同数に調整している。⚠️ 要旨は「軽減する傾向」、本文は「有意な差」と強さが違います。
- 古屋英治, 名雪貴峰, 八亀真由美, 古海博子, 篠原隆三, 二村隆一, 金子泰久, 坂本歩. 肩こりに及ぼす円皮鍼の効果―偽鍼を用いた比較試験―. 全日本鍼灸学会雑誌. 2002;52(5):553-561.(DOI 10.3777/jjsam.52.553/J-STAGE 無料全文)専門学校の教職員・学生56名のうち当日「肩こりがある」に該当した53名。くじ引きでプラセボ円皮鍼群25名・円皮鍼群28名。鍼体長0.6mmのバイオネックス鍼と、製造過程で鍼尖を除いた同種のプラセボ。後頸部・肩上部・肩甲間部の圧痛硬結4か所以内に3日間留置(経穴には留意せず)。抜鍼は刺入者とは別の施術者。「肩こりがある」=プラセボ25名中23例 vs 円皮鍼28名中12例(p<0.01)=同一時点の群間比較はこの項目のみ。VAS=プラセボ 55.2±17.5→46.5±19.7→45.9±21.7/円皮鍼 52.5±20.7→40.5±22.4→34.2±19.7。ただし検定は「両群の施術前」に対する比較で、同一時点の群間比較は報告されていません。徒手検査で陽性所見あり(6名・9名)では両群とも有意な変化なし。有害事象=抜鍼時のかゆみ(プラセボ3例・円皮鍼4例)ほか、脱落0名。著者の限界=「効果に対する心理的影響の存在は否定できない」。⚠️ 表題とキーワードはCCTですが、本文とフロー図は「くじによるランダム割り付け」と記載しています。当サイトはどちらか一方に断定していません。陽性所見なし群のp値は本文と図・結語で食い違うため記載していません
- 3本に共通する限界:被験者が鍼灸学校のボランティア・大学生・専門学校の教職員と学生に偏っており、外来患者ではありません。最大でも53名。追跡はそれぞれ1か月・1か月・3日で、同じ物差し・同じ時点で並べることはできません
職場で測った試験|4週・20名で何が動いたか
「肩がこって仕事にならない」。
この訴えを、痛みの点数ではなく仕事のはかどり方で測った日本の試験があります。
2024年、オフィスワーカー20名の無作為化試験です(Minakawa ほか)。
デザインは上乗せ型です。
対照群は職場で推奨されている対策だけを続け、鍼の群はそこにトリガーポイント鍼を足しました。
偽鍼はなく、盲検もありません。
上乗せ型の試験は「鍼そのものの作用」ではなく「いつものケアに足したときの差」を見ています。比較の相手が何かで結論は変わります。この型の読み方は上乗せ試験(add-onデザイン)は何を測るか|通常ケア+鍼にまとめました。
結果は、動いた項目と動かなかった項目がはっきり分かれました。
主要アウトカムの相対的プレゼンティーイズム(仕事のはかどり方の自己評価)と、28日間の痛みの合計点は群間差あり。
一方で、不安・抑うつ、破局的思考、不眠は有意差なし。プレゼンティーイズムも、ふだんの自分と比べた出来(相対)では差が出た一方、出来そのものを点数化したほう(原語 absolute presenteeism)では差が出ていません。
効果量は大きく出ていますが、これは9名対11名の比較の値です(実数はボックス⑤)。
「効果量が大きい=確かな効果」ではない、という前提を外さないでください。
そして、この試験のいちばん大事な一文は、著者自身が限界の欄に書いています。
「誰一人として肩こりが消失しなかった」「数日で元に戻った」。
刺さない鍼と比べた3試験と、まったく同じ方向です。
企業側の損失についても、結論に金額が書かれています。女性労働者1人あたり年間およそ76万円という差です(正確な値はボックス⑤)。内訳の表は当サイトの読み取りに確信が持てないため、この数字だけを引いています。
なお、同じ研究グループの2007年の4群試験(40名)は、対象が chronic neck pain で著者は katakori という語を使っておらず、群間の統計も抄録にありません。次章の一覧表とボックス⑤に置くにとどめます。
エビデンスボックス⑤ 職場の試験と4群試験の詳細(深く知りたい方向け・飛ばしてOK)
- Minakawa Y, Miyazaki S, Waki H, Akimoto Y, Itoh K. Clinical effectiveness of trigger point acupuncture on chronic neck and shoulder pain (katakori) with work productivity loss in office workers: a randomized clinical trial. J Occup Health. 2024;66(1):uiad016.(PMID 38273431/DOI 10.1093/joccuh/uiad016/PMC11020276 全文確認)単施設・2023年1〜3月・4週間。UMIN000048701。層別ブロック法で割付、割付は被験者と接触しない研究者が実施。盲検なし・偽鍼群なし(著者が限界に明記)。対象=3か月以上の頸肩の痛み(NRS 4〜10)と業務パフォーマンス低下があり、神経学的検査が正常な管理・事務・技術職。介入=セイリン40mm・16号、置鍼10分+必要に応じ単刺、週1回・最大4回(4回受けた者6名/3回3名)、臨床経験17年の鍼灸師1名が実施。
アウトカム(対照n=11/鍼n=9):相対的プレゼンティーイズム(relative presenteeism)+0.04/+0.29(d=1.33・p<.01)/absolute presenteeism(WHO-HPQ の指標名。当サイトの禁止語ルールのため和訳せず原語のまま表記します)+4.55/+16.67(d=0.79・p=.10)/NRS 28日間合計 200(SD 23)/161(SD 25)(d=1.65・p<.01)/HADS 群間差なし(r=0.08・p=.73)/PCS −1.18/−6.78(d=0.60・p=.23)/AIS +0.64/−2.00(d=0.75・p=.11)。
サンプルサイズの決め方(逐語)=“This study was conducted in 1 year with a limited budget, due to the coronavirus pandemic. Therefore, a maximum of 20 subjects were recruited”(主要アウトカムに基づく計算では1群8名)。
有害事象(逐語)=延べ33回の施術のうち“No adverse events … were observed in 27 (81.8%)”、“15.2% were for drowsiness, and 3% for malaise and pain at the treatment site”。疲労・症状の悪化・出血・血腫・気分不良・悪心はなし。
結論の逐語(金額)=“the difference in labor losses incurred by companies due to neck and shoulder pain (katakori) was revealed to be JPY 756 065 per female worker per year.”/限界の逐語=“none of the patients experienced complete disappearance of neck and shoulder pain (katakori) after TrPA”/“the intensity of neck and shoulder pain (katakori) returned to normal after a few days of acupuncture”/“the effects of this study were subjectively evaluated.” 金額の内訳は当サイトの読み取りが不確実なため記載していません。 - Minakawa Y, Miyazaki S, Sawazaki K, Iimura K, Waki H, Yoshida N. Managing office worker presenteeism by providing financial aid for acupuncture therapy: a pragmatic multicenter randomized comparative study. Ind Health. 2023;61(3):203-212.(PMID 35569996/DOI 10.2486/indhealth.2021-0186)37施設・4週間・UMIN000035321。介入は鍼治療費の月8,000円までの補助で、施術そのものではありません。主訴の64%が頸部の不調。受けた施術回数の中央値1.0回(IQR 1.0-2.0)。効果量 r=0.15(p=0.03)で、著者自身が “slightly better” と記述。⚠️ 抄録内で人数の記載が合わない(”A total of 203 patients” に対し n=103 と n=108)ため、参加人数を確定値として書いていません。
- Itoh K, Katsumi Y, Hirota S, Kitakoji H. Randomised trial of trigger point acupuncture compared with other acupuncture for treatment of chronic neck pain. Complement Ther Med. 2007;15(3):172-179.(PMID 17709062/DOI 10.1016/j.ctim.2006.05.003/本文は有料・抄録のみ確認)明治鍼灸大学 整形外科外来の外来患者40名(女性29・男性11/47〜80歳)、6か月以上の非放散性慢性頸部痛・神経学的検査正常。13週で4群各10名(経穴群・トリガーポイント群・非トリガーポイント群・偽鍼群)。アウトカム=VAS(0-100mm)と NDI(60点法)。逐語=“There was significant reduction in pain intensity between the treatment and the interval for the TrP group (p<0.01, Dunnett’s multiple test), but not for the SA or non-TrP group.”限界=群間差も信頼区間も抄録に存在しません。1群10名。対象は chronic neck pain であって katakori ではありません。
「どこに、どのくらいの深さで」を比べた試験
「浅く刺すか、深く刺すか」。
臨床では毎日の判断ですが、これを直接比べた日本の試験があります。
2018年、慢性肩こりの患者16名を対象にした予備的ランダム化比較試験です(大﨑ほか)。
浅刺群8名は切皮のみ(約5mm)、深刺群8名は10〜20mmの刺入。施術部位は両群とも「患者が肩こりを自覚する部位」で最大10か所、週1回×5回。その後4週間の無治療期間を置き、合計8週間を追いかけています。
VASでは群間に差が出ました(経時変化のパターン P=0.0214/初回直後の変化量 P=0.0233/終了4週後の変化量 P=0.008)。いずれも深刺群のほうが良好という向きです。
一方で、生活の支障を測るSPADIには群間差がありませんでした。測るものを変えると結果が変わる、という典型例です。
ここからが、研究の読み方としていちばん大事な部分です。
深刺群では、鍼の刺入感覚(P=0.0014)とひびき感(P=0.0002)が有意に多く報告されました。
つまり被験者は、自分がどちらの群かを感覚で分かってしまいます。満足度も深刺群のほうが高く、盲検が成立しない比較で満足度と自己申告のVASが動いたとき、そこに何が混ざっているかは切り分けられません。
そして、この試験には偽鍼群も無治療群もありません。浅刺 vs 深刺という「実対照」どうしの比較なので、この結果は「鍼が効くか」の答えにはなりません。
インターネット上には、この試験を「深い鍼のほうが効果が続く」と要約した解説もあります。
当サイトはその読み方を採りません。
原著で確認できたのは、上に挙げた3つの時点の群間差と、SPADIに差が無かったことまでです。
なお、刺入の深さと安全性(気胸など)の関係は、この記事では扱いません。
そちらは首の痛みへの鍼|慢性頸部痛のエビデンスと受診の見極めガイドの安全性の章にまとめています。
この章で書いているのは「この試験ではこう設定された」という研究の記述です。刺入の深さ・角度・部位に関する指示や推奨ではありません。各群8名の予備的試験で、施術者は臨床経験1年の1名です。
書誌=大﨑彩加, 今枝美和, 北小路博司, 糸井恵, 井上基浩. 肩こりに対する鍼の刺入深度の違いによる効果の相違―予備的ランダム化比較試験―. 全日本鍼灸学会雑誌. 2018;68(1):10-20.(DOI 10.3777/jjsam.68.10)明治国際医療大学附属病院整形外科外来・2016年4〜12月・ITT解析・40mm・18号鍼。対象は20歳以上・6か月以上の慢性肩こりで、神経学的所見に異常のない人。
【一覧表】日本の試験を1枚に並べる|対照もアウトカムも追跡期間もそろっていません
ここまでの試験を、1枚の表にします。
見てほしいのは効果の大小ではありません。
そろっていないことそのものです。
| 試験(年) | 人数 | 比べた相手 | 主に測ったもの | いつまで見たか | 結果の方向 |
|---|---|---|---|---|---|
| Takakura ほか(2023) | 400 | 無処置+2種類のプラセボ鍼 | こりの改善(VAS 10mm以上の減少) | 24時間 | 3つの施術群はいずれも無処置より改善者が多い。施術群どうしは直後で差なし |
| Nabeta & Kawakita(2002) | 34 | 刺入しない偽鍼 | VAS(2日おき) | 1か月 | 最終治療の9日後に群間差なし |
| 伊藤 ほか(2006) | 30(最終 各群9) | 自作の偽鍼+経穴群 | VAS | 1か月後 | 終了時はTrP群のみ偽鍼群より良好。1か月後は3群とも元の値 |
| 古屋 ほか(2002) | 53 | 鍼尖を除いたプラセボ円皮鍼 | 「肩こりがある」人数/VAS | 3日 | 人数では群間差あり。VASは同一時点の群間比較の報告なし |
| Minakawa ほか(2024) | 20 | 職場の推奨対策のみ(上乗せ) | 相対的プレゼンティーイズム/NRS | 4週 | 主要アウトカムとNRSで群間差。ほか4項目は有意差なし |
| 大﨑 ほか(2018) | 16 | 浅刺(実対照) | VAS/SPADI | 終了4週後 | VASは深刺群で良好。SPADIは群間差なし |
| Itoh ほか(2007) ※対象は慢性頸部痛 |
40 | 偽鍼を含む4群 | VAS/NDI | 13週 | TrP群で群内の減少。群間の統計は抄録になし |
比べた相手は、無処置・偽鍼・プラセボ円皮鍼・職場の対策・浅刺と、5種類に散らばっています。
測ったものも、VAS・改善した人数・仕事のはかどり方・SPADI・NDIとバラバラです。
追跡期間にいたっては、24時間から13週まで開きがあります。
これでは、統合して1つの数字にすることができません。肩こりのメタ解析が見あたらないことの理由の一つが、ここにあります。比較対照ごとに結論が変わるしくみは鍼のエビデンスは比較対照で変わる|無治療比・偽鍼比・実薬比で扱っています。
この表に並べたのは、この記事が本文で読んだ7本です。
日本の肩こり・頸肩部の試験がこの7本で全部、という意味ではありません。
首の痛み全体の見取り図、海外の試験やガイドラインを含めた評価、受診の見極めについては親記事にまとめてあります。
首の痛みへの鍼|慢性頸部痛のエビデンスと受診の見極めガイドをあわせてどうぞ。
各試験は有害事象をどう報告したか|同じ日本の調査で40倍違う理由
ここは安全性の章ではなく、「数字の作られ方」を読む章です。
日本で行われた鍼の有害事象の調査で、当サイトが確認できたものが2本あります。
2017年の多施設前向き調査(Furuse ほか)は、教育機関の附属施術所8施設・14,039施術で 6.03%。
1999年の単一施設6年の集計(Yamashita ほか)は、65,482施術で 0.14%。
同じ日本で、40倍以上の開きがあります。
施術が乱暴になったわけでも、安全になったわけでもありません。
違うのは数え方です。
2017年の調査は、全患者に毎回、調査票で聞き取る方式だったと整理されています。1999年の集計は、施術者が気づいた時点で報告する方式でした。
聞けば増える。——ただし、この収集方法の違いは、当サイトが両論文の抄録から直接確認できた事項ではありません(確認範囲はボックス⑥に書いています)。
中身を見ると、この差の正体がよく分かります。2017年で最も多かったのは皮下出血・血腫で2.64%、次いで不快感0.78%、刺鍼部の残存痛0.67%——どれも「わざわざ報告するほどでもない」と流されやすい種類のものです。
では、この記事で読んできた試験はどうだったでしょうか。
Minakawa 2024 は延べ33回のうち27回(81.8%)で有害事象なし、眠気15.2%と報告しています。
古屋 2002 は3日間の留置後、抜鍼時のかゆみを両群あわせて7例記録しています。
一方で、書いていない試験のほうが多いというのが日本全体の姿です。
1960年代から2010年代までの日本の鍼のRCT108件を調べた系統的レビュー(Masuyama & Yamashita 2023)によると、2010年代でも有害事象を報告したのは28%、試験登録の報告は9%でした。
「有害事象が無かった」ではなく「有害事象の欄が無かった」試験が、いまも多数派です。
2つの調査は、どちらも重篤な事象の報告はなかったと書いています。ただし、これを「鍼は安全だ」と読み替えることはできません(まれであってもゼロではありません)。
重い事象の症例報告、気胸の頻度、部位ごとの注意は、首の痛みへの鍼|慢性頸部痛のエビデンスと受診の見極めガイドの安全性の章にまとめてあります。
図解:日本で行われた2つの有害事象調査の割合と、その差が報告方式の違いによることを示す図
どちらも日本で行われた、鍼の有害事象の調査です。
最多は皮下出血・血腫 2.64%、不快感 0.78%、刺鍼部の残存痛 0.67%
全患者に毎回、調査票で聞き取った
最多は抜き忘れ 27件、症状の悪化 4件
施術者が気づいた時点で報告した
40倍以上の差。違いは数え方です
日本のRCTで有害事象を報告したのは28%(2010年代)
試験登録の報告は9%
報告されないものは「無かったこと」になる
模式図です。2つの調査の収集方法の違いは、当サイトが抄録以外の情報から整理したものです。2つの調査は施設も年代も対象者も違うため、割合の大小をそのまま安全性の比較に使うことはできません。割合が低いことは「起きていない」という意味ではありません。どちらの調査でも重篤な事象の報告はありませんでしたが、日本からは重い事象の症例報告が別に出ています。左の調査は教育機関の附属施術所8施設の記録で、日本の鍼灸院の代表値ではありません。
エビデンスボックス⑥ 有害事象の「数え方」と、日本の2つの調査(深く知りたい方向け・飛ばしてOK)
- 🛑 確認範囲:両調査のデータ収集方法(毎回の聞き取りか、気づいた時点での報告か)は、抄録の逐語には記載がありません。Furuse 2017 の本文は有料で未読です。本文で述べた「数え方の違い」は当サイトの整理であり、原著の記述として引用したものではありません。
- Furuse N, Shinbara H, Uehara A, Sugawara M, Yamazaki T, Hosaka M, Yamashita H. A Multicenter Prospective Survey of Adverse Events Associated with Acupuncture and Moxibustion in Japan. Med Acupunct. 2017;29(3):155-162.(PMID 28736592/DOI 10.1089/acu.2017.1230)前向き観察・多施設。教育機関附属の鍼灸院8施設・2014年10月〜2015年6月・施術者232名・患者2,180名・14,039施術。逐語=“In total, 847 (6.03%) AEs were reported. The most common AEs included subcutaneous bleeding and hematomas (370, 2.64%), followed by discomfort (109, 0.78%) and residual pain at insertion points (94, 0.67%). No infections or serious AEs were reported.”著者自身の限界(逐語)=“the risk cannot be defined definitely because the survey sample size was too small.” 教育機関の附属施術所であり、一般の鍼灸院の代表値ではありません。部位別の内訳は本文が有料のため確認しておらず、記載していません。
- Yamashita H, Tsukayama H, Tanno Y, Nishijo K. Adverse events in acupuncture and moxibustion treatment: a six-year survey at a national clinic in Japan. J Altern Complement Med. 1999;5(3):229-236.(PMID 10381246/DOI 10.1089/acm.1999.5.229)施術者84名(指導者13・研修生71)・65,482施術で94件(0.14%)。14分類で最多は抜き忘れ27件、以下 内出血・血腫(痛みなし9/痛みあり8)、熱傷7、不快感7、めまい6、悪心・嘔吐6、刺鍼部痛6、軽度出血4、症状の悪化4、倦怠感3、接触皮膚炎の疑い3、発熱3、上肢のしびれ1。逐語=“No serious or severe cases such as pneumothorax, infection, or spinal cord injury were reported”。報告方式は施術者の気づきによるもので、全例への聞き取りではありません。
- Yamashita H, Tsukayama H. Safety of acupuncture practice in Japan: patient reactions, therapist negligence and error reduction strategies. Evid Based Complement Alternat Med. 2008;5(4):391-398.(PMID 18955234/DOI 10.1093/ecam/nem086/PMC2586322)総説(レベル5)。逐語=“Almost all of adverse reactions commonly seen in acupuncture practice—such as fatigue, drowsiness, aggravation, minor bleeding, pain on insertion and subcutaneous hemorrhage—are mild and transient, although we should be cautious of secondary injury following drowsiness and needle fainting.”総説の記述であり、日本全体の頻度ではありません。
- Masuyama S, Yamashita H. Trends and quality of randomized controlled trials on acupuncture conducted in Japan by decade from the 1960s to the 2010s: a systematic review. BMC Complement Med Ther. 2023;23(1):91.(PMID 36973783/DOI 10.1186/s12906-023-03910-3/PMC10041764)99論文・108件のRCT(1960年代1/1970年代6/1980年代9/1990年代5/2000年代40/2010年代47)。逐語=“Clinical trial registration and adverse events were reported only in 9% and 28% of the included RCTs even in the 2010s, respectively.”/“The proportion of RCTs with positive results was 80% in the 2000s and 69% in the 2010s.”/“The quality of RCTs on acupuncture conducted in Japan did not appear to have improved over the decades except for ‘sequence generation.'” 1990年以前は「浅刺 vs 深刺」のような手技比較が主流で、2000年代から偽鍼・偽の経穴が主流になったとも報告されています
- 重い事象の症例報告(頻度と同じ視野に置くために挙げています。本記事では内容を展開しません):Watanabe M, Unuma K, Fujii Y, Noritake K, Uemura K. An autopsy case of vagus nerve stimulation following acupuncture. Leg Med (Tokyo). 2015;17(2):120-122.(PMID 25465674)=著者は “could have died” という推定の書き方をしています/Hanabusa Y, Kubo T, Watadani T, Nagano M, Nakajima J, Abe O. Successful transcatheter arterial embolization for a massive hemothorax caused by acupuncture. Radiol Case Rep. 2022;17(9):3107-3110.(PMID 35784785/PMC9240951)。いずれも1例の報告であり、頻度を示すものではありません。「まれ」は「ゼロ」という意味でもありません。
日本の総説は「肩こり」をどう整理しているか|一次性・二次性と、持続効果
「そもそも、みんな同じものを『肩こり』と呼んでいるのか?」
この問いを、2025年の日本語の総説(林 2025)が正面から扱っています。
まず、定義が1つではありません。
日本整形外科学会の肩こりプロジェクト委員会は「頸より肩甲部にかけての筋緊張感(こり感)、重圧感、及び鈍痛などを総称」と定義しています。
一方、全日本鍼灸学会の研究委員会臨床部門肩凝り班の定義には、「他覚的にはこれらの筋を触診すると、異常に緊張し、特定の部位に圧痛点ないしこりを生じているもの」という所見が入ります。
同じ総説は、こうも書いています。
「肩こりと関連する客観的所見は未だ明らかでない」。
だから主として自覚症状から定義されている、と。
そのうえで、この総説は肩こりを2つに分けています。
原発性(一次性、本態性)は、特別な基礎疾患がなく自覚するいわゆる肩こり。
症候性(二次性)は、何らかの基礎疾患があり、その関連症状として自覚される肩こりです。
二次性の原因として挙げられている領域はかなり広く、整形外科だけでなく内科・外科、耳鼻科、眼科、精神科、歯科、更年期障害まで並びます。総説は、二次性への治療は「背景にある原因疾患に応じた治療が行われる」と書いています。
効果の持続についても、この総説は正直です。
「治療期間終了後の長期の持続効果に関する報告はほとんどないのが現状である」。
そして鍼通電療法単独では「短期的な肩こりの程度の軽減に留まる可能性が高く」と書かれています。
なお、ここで紹介したのは日本の総説がどう整理しているかという文献の中身です。触診や徒手検査で一次性と二次性を分けられる、という意味ではありません。目の前の人の症状がどちらなのかという判断は、鍼灸師の役割ではありません。
その線引きは首の痛みへの鍼|慢性頸部痛のエビデンスと受診の見極めガイドにまとめてあります。
出典と、当サイトが確認した範囲:林健太朗. 肩こりに対する鍼通電療法の臨床とそのエビデンス. 日本東洋医学系物理療法学会誌. 2025;50(2):33-39.(DOI 10.32255/jjsop.50.2_33/J-STAGE 無料全文7ページを確認)シンポジウム講演にもとづく総説です。
上に引いた2つの定義は、この総説が紹介しているものです。全日本鍼灸学会側の定義の出典(佐々木和郎. 肩凝りの定義およびメカニズム. 全日本鍼灸学会雑誌. 1994;44(4):361-363)と、日本整形外科学会側の出典(高岸憲二ほか. 日整会誌. 2008;82(10):901-911)は、当サイトは原著を読んでいません。
同総説が紹介している著者ら自身のパイロット研究(8名)の数値と、転載された超音波の実測値は、原著を確認していないため記載していません。また『慢性疼痛診療ガイドライン』2021年版の推奨度・エビデンスの強さも、本文を確認していないため書いていません。
患者説明と自院サイトの表現|日本の試験の数字を、そのまま渡せる言葉にする
ここまでの内容を、患者さんの前で言える言葉に落とします。
そのまま使える形で3つ置いておきます。
①「鍼で肩こりは良くなりますか」と聞かれたとき
「日本でも、肩こりに鍼を使った試験がいくつか行われています。
受けた直後や数日のうちに軽くなったという報告は、複数あります。
ただ、刺さない鍼と比べたときに『差が続いた』と示せた試験は、私が知る範囲ではありません。
だから『しばらくは楽になるかもしれないが、そのあとは分からない』というのが、いまいちばん正確な言い方です。」
②「1回でも変わりますか」と聞かれたとき
「日本でいちばん規模の大きい試験は400人ですが、施術は1回きり、追跡も24時間だけでした。
その1回で、こりの点数が一定以上下がった人は、鍼を受けた群でおよそ3人に2人。
ただ、何もしなかった群でも4人に1人は下がっています。
なので『1回で変わることはあるが、それが鍼だけの働きかどうかは、この試験からは分けられない』とお伝えしています。」
③ 施術のあとの反応を先に伝えるとき
「日本の8施設・約1万4千回の記録では、20人に1人くらい(6.03%)で何らかの反応が記録されていました。
いちばん多いのは皮下出血で、40人に1人くらい(2.64%)です。
ほかに、だるさ・眠気・症状が一時的に強く感じられることが、よくある反応として挙げられています。
別の調査ではもっと低い数字も出ていますが、それは『全員に毎回聞いたか、気づいたときに記録したか』という数え方の違いです。
眠気が出ることがあるので、お帰りの運転や自転車は少し休んでからにしてください。」
自院ホームページでの表現:リスクの低い書き方/避けたい書き方
以下は「この書き方なら適法」と保証するものではなく、相対的にリスクが低い/高い書き方の整理です。実際の記載は最新のガイドライン本文と、所管保健所の指導をご確認ください。施術所のウェブサイトは、あはき師法・柔整師法の広告規制については原則として対象外とされていますが、医療法・薬機法・景品表示法などの他法令は及びます。詳しくは鍼灸院のホームページと広告規制の記事へ。
あはき師法7条の広告可能事項は限定列挙で、効能・効果や学術的根拠の記載はそもそも含まれていません。バナー広告等からリンクされるなどしてウェブサイトが広告に該当する場合は、この制限がかかります(指針Ⅵ-1)。
つまり、ウェブサイトが広告に該当する場面では、下の「リスクが低い」例のような書き方であっても、効能・効果に触れる記載そのものが掲載できる範囲の外になります。以下は、広告に該当しない自院サイトを前提にした整理です。
そのうえで、肩こりに触れるなら、相対的にリスクが低い形は次のとおりです。記載をおすすめするものではありません。なお下の「避けたい」側に自律神経の話を入れているのは、それが検索されているからではなく、「肩こり 鍼」で検索した上位のページに実際にその見出しが並んでいるからです。
- リスクが低い:出典・比較の相手・留保をセットで書く(例:「刺さない鍼と比べた日本の試験では、施術直後の変化は報告されていますが、1か月後には差が確認されていません」)
- リスクが低い:試験の規模と追跡期間まで書く(「最大でも400名・1回の施術・24時間の追跡」)。数字を出すなら、その数字が持っている限界も同じ画面に置く
- リスクが低い:肩こりには背景に別の病気が隠れている場合があるため、必要と思われるときは医療機関の受診をおすすめしている、と運用として書く
- 避けたい:「肩こりの本当の原因は自律神経の乱れです」——研究で示されていない機序を、原因として断定する表現
- 避けたい:「血流が良くなるから改善します」——日本の研究では、圧痛点へのドライニードリング(当サイトは鍼と同一には扱っていません)の直後、総ヘモグロビンも酸素飽和度も有意には変化しませんでした
- 効果の保証・原因の判定・他職種との優劣比較についての整理は、首の痛みへの鍼|慢性頸部痛のエビデンスと受診の見極めガイドの同じ節にまとめてあります
正直に言うと|この記事で書かなかったこと
この記事は「日本の試験だけを読む」という、狭い約束で書いています。
書かなかったことを、出口つきで開示します。
- 受診をすすめる目安は書いていません。この記事の材料は試験の結果であって、判断の基準ではないからです。→ 首の痛みへの鍼|受診をすすめるサインの章へ
- 安全性の全体像(気胸や血管に関わる事象の頻度、部位ごとの注意)は書いていません。この記事で扱ったのは「有害事象の数え方」だけです。→ 親記事の安全性の章へ
- 施術の頻度・回数・期間の数字は1つも書いていません。日本の試験が採用した回数は、試験の都合で決まったものだからです。→ 実務の子記事で別に扱います
- 療養費(保険)の扱いは書いていません。→ 鍼灸の療養費(保険)実務ガイドへ
- 美容鍼は扱っていません。肩こりを対象にした試験として当サイトが確認できた材料がないためです
- 首から来る頭痛は扱っていません。→ 頭痛への鍼の総合ガイド、緊張型頭痛の記事へ
- 海外のガイドラインと系統的レビューは、この記事の約束の外です。首の痛みについての国際的な評価は親記事にまとめてあります
- 自院サイトの表現の細部(広告規制そのものの解説)は扱っていません。→ 広告規制の記事へ
- 「肩こりに鍼は効かない」とも書いていません。偽鍼と差が出ないことは、差が無いことの証明ではないからです。同じ理由で「有効である」とも書いていません
FAQ|肩こりへの鍼で鍼灸師によくある質問
Q. 肩こりへの鍼は、1回で変化が出ますか?
A. 日本で最大規模の試験(400名・1回の施術・24時間の追跡)では、こりの点数が10mm以上下がった人が、鍼を刺した群100名中69名でした。ただし何も受けなかった群でも100名中24名が同じ基準を満たしています。「1回で変わることはあるが、その変化が鍼だけによるものかは、この試験では分けられない」が正確な説明になります。
Q. 肩こりへの鍼は、どこに刺すのが良いのでしょうか?
A. 部位や深さを推奨できる材料は、この記事にはありません。書けるのは「この試験ではこう設定された」という研究の記述までです。刺入の深さを比べた予備的試験(16名)ではVASに群間差が出ましたが、SPADIには差がなく、被験者は感覚で群が分かってしまう設計でした。
Q. 肩こりへの鍼の作用機序は、どう説明すればよいですか?
A. 「血流が良くなるから」という説明には、日本に確かめようとした記録があります(本文の自院サイトの節を参照)。鎮痛の機序は作用機序の記事で5つの仮説を整理していますが、仮説であって確立した説明ではありません。
Q. 肩こりから来る頭痛にも、鍼は使えますか?
A. この記事の材料は肩こりを主なアウトカムにした試験だけなので、頭痛については扱っていません。頭痛のタイプ別のエビデンスは頭痛への鍼の総合ガイドと緊張型頭痛の記事にまとめています。
まとめ|肩こりへの鍼のエビデンスとして、日本の試験から言えること・言えないこと
- この記事が本文で読んだ、刺さない鍼と比べた試験は3本。差が続いたと示せた試験は1本もありません(追跡は最終治療9日後/1か月後/3日後まで。古屋2002は3日より先を測っていません)
- 職場で測った試験(20名・4週)では、仕事のはかどり方と痛みの合計点に差が出た一方、不安・抑うつ・破局的思考・不眠・もう一方のプレゼンティーイズム指標には有意差がありませんでした。著者自身が「誰も肩こりが消失せず、数日で元に戻った」と書いています
- 7本を1枚に並べると、対照・アウトカム・追跡期間がまったくそろっていません。統合して1つの数字にできないことが、目で見て分かります
- 有害事象は「同じ日本で6.03%と0.14%」。違いは安全性ではなく、数え方の違いによる可能性が高いと考えられます。日本の鍼のRCTで有害事象を報告していたのは、2010年代でも28%でした
- 日本の総説自身が「長期の持続効果に関する報告はほとんどない」と書いています。海外の資料を1本も持ち出さずに、結論は同じ場所に着きます
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更新履歴:本記事は初版です。肩こり(katakori)を対象にした鍼の系統的レビューが公表された場合、日本で新しい試験が公表された場合、KDI(Katakori Disability Index)を用いた試験が現れた場合に追記します。
本記事の引用(英文・日本語とも)は著作権法32条にもとづく引用です。英文の日本語訳はすべて当サイトによるもので、他者の公式訳は用いていません。
参考文献
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- 佐々木和郎. 肩凝りの定義およびメカニズム. *全日本鍼灸学会雑誌*. 1994;44(4):361-363. DOI: 10.3777/jjsam.44.361 ※書誌のみ確認・本文未読。文献18が紹介している定義の出典として掲載
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- 鈴木真理, 山口智, 五十嵐久佳, ほか. VDT作業者に対する鍼治療効果(1) 頸・肩こり, 眼疲労に及ぼす影響. *全日本鍼灸学会雑誌*. 2010;60(5):829-836. DOI: 10.3777/jjsam.60.829 ※対照群なしの報告。存在の言及のみで数値は未使用
- Watanabe M, Unuma K, Fujii Y, Noritake K, Uemura K. An autopsy case of vagus nerve stimulation following acupuncture. *Leg Med (Tokyo)*. 2015;17(2):120-122. PMID: 25465674. DOI: 10.1016/j.legalmed.2014.11.001 ※1例の症例報告。著者は推定の表現を用いています
- Hanabusa Y, Kubo T, Watadani T, Nagano M, Nakajima J, Abe O. Successful transcatheter arterial embolization for a massive hemothorax caused by acupuncture. *Radiol Case Rep*. 2022;17(9):3107-3110. PMID: 35784785. DOI: 10.1016/j.radcr.2022.05.040 ※1例の症例報告
本記事は鍼灸師向けの学術情報の提供を目的としたものであり、特定の治療効果を保証するものではありません。効果には個人差があります。鍼灸師は疾病の診断を行う立場にはありません。肩こりの型の判断や併存疾患の評価は医療機関の役割です。個別の患者への対応にあたっては、受診を優先すべきサインがないかを確認し、必要に応じて医療機関の受診をおすすめしてください。
【AI作成・編集責任について】本記事はAI(人工知能)が作成し、株式会社addwisteria の加藤タカシが編集責任者として内容を確認しています。引用した論文・ガイドラインの数値や推奨は改訂により変わることがあるため、実際の臨床判断では各原典の最新版をご確認ください。


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