「首、ずっと張ってるんですよね」。
問診票の主訴欄に、そう書かれていること、ありませんか。
腰でも膝でもなく、首。鍼灸院ではよくある一行です。
ところが、首の痛みへの鍼について調べてみると、話が急に難しくなります。
「中等度の質のエビデンスがある」と書いたレビューと、電気鍼などについて「有効ではなく、用いるべきではない」と書いたレビューが、同じ症状について並んでいるからです。
この食い違いには、はっきりした理由があります。
「何と比べたか」と「そもそも何を測っているか」の2つです。
この記事では、その2つの軸で整理したうえで、施術より先に受診をおすすめしたい場面もあわせて置きます。
結論(1分でわかる全体像)
慢性の首の痛みへの鍼は、通常のケアだけの群と比べると改善が報告されていますが、偽鍼と比べると差は小さいか、出ていません(本記事が扱った大規模な試験は、いずれも偽鍼を置いていない設計です)。
この症状のコクラン・レビュー(CD004870)は2016年11月に撤回されたまま引用されており、撤回を伏せて「質の高いエビデンスがある」と要約すると正確でなくなります。
英国のガイドラインは慢性一次性疼痛に鍼を「考慮してよい」(条件付き。根拠の確実性は low〜very low が中心とされています)としており、原因が特定できる首の痛みはこの推奨の対象ではありません。
そして「受診をすすめる首のサイン」に世界共通の決定版の一覧はなく、首と肩の上部は、頻度としてはまれでも重い有害事象の報告が実在する部位です——頻度と部位は、いつも同じ画面に置いて話します。
【先に1つだけ】この記事を読むときの前提
日本語の「こり」と英語の neck pain は、同じものを測っていません。海外の試験の多くは首の「痛みの強さ」や「動かしにくさ」を測っており、こり感を直接測ったものではありません。そのまま読み替えることはできない、というのがこの記事の出発点です。
- 首の痛みとこりは、鍼灸院で最も多い主訴のひとつ|数字で規模を確かめる
- 「首の痛み」「こり」「頸部痛」は研究では別物|非特異的頸部痛・神経根症・肩こり
- まず受診へつなぐ|施術より先に医療機関をおすすめする首のサイン(頸髄症・血管解離・感染・腫瘍)
- 安全性|首・肩上部への刺鍼で先に伝えること
- 首の痛みへの鍼のエビデンス|無治療・通常ケア比と偽鍼比で結論が変わる
- 【判断表】来院者の状況別|鍼の話をしてよいか・受診をすすめるか
- ガイドラインは首の痛みへの鍼をどう扱っているか
- 明日から使える患者トークと自院HPの表現|「こりが取れる」「原因は自律神経」をどう扱うか
- 正直に言うと|この記事で書かなかったこと
- FAQ|首の痛みへの鍼で鍼灸師によくある質問
- まとめ|首の痛みへの鍼を鍼灸師としてどう扱うか
- 関連記事
- 参考文献
首の痛みとこりは、鍼灸院で最も多い主訴のひとつ|数字で規模を確かめる
まず規模だけ確かめておきます。
厚生労働省の2022(令和4)年 国民生活基礎調査では、男女とも「腰痛」「肩こり」の順に有訴者率が高くなっています。
ここで、よく見かける説明をひとつ訂正しておきます。
「肩こりは女性の訴えの第1位」という言い方です。
2019年の調査では確かに女性の1位でしたが、2022年の調査では腰痛と順位が入れ替わり、第2位になっています。
なお有訴者率は複数回答の自己申告で、「日本人の◯%が首こりを持っている」という有病率の話ではありません(数値はボックス①)。
エビデンスボックス① 疫学データの出典と限界(深く知りたい方向け・飛ばしてOK)
- 厚生労働省「2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況」Ⅲ 世帯員の健康状況(p.17/表12・図17) https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa22/dl/04.pdf
- 有訴者率(人口千対・総数)=276.5(男 246.7/女 304.2)。2019年は総数302.5(男270.8/女332.1)。
- 2022年の症状別(人口千対):男 腰痛91.6(1位)・肩こり53.3(2位)/女 腰痛111.9(1位)・肩こり105.4(2位)。本文(逐語)=「症状別にみると、男女とも「腰痛」「肩こり」の順に有訴者率が高くなっている(図17)。」
- 2019年は女性で肩こり113.8 > 腰痛113.3 と順位が逆でした。「肩こりは女性の第1位」と書くと2022年調査と食い違います。海外誌に掲載された日本の試験でも2019年調査を引用しているものがあるため、孫引きに注意が必要です。
- 男性の3〜5位(2022年)=頻尿45.6/手足の関節が痛む40.7/鼻がつまる・鼻汁が出る37.8。女性の3〜5位=手足の関節が痛む69.8/目のかすみ49.8/頭痛46.8。
- 限界:複数回答・自己申告。有訴者に入院者は含まれません(分母の世帯人員には含みます)。2022年は新型コロナ禍の影響を受けた調査年で、有訴者率の総数自体が2019年より下がっています(302.5→276.5)。有病率ではありません。
- 参考(職域の横断研究):Onda A, Onozato K, Kimura M. Clinical features of neck and shoulder pain (Katakori) in Japanese hospital workers. Fukushima J Med Sci. 2022;68(2):79-87.(PMID 35660659/PMC9493333)単一の私立病院の職員359名の約75%に何らかの頸肩のこりの訴え。関連要因=PC作業3〜6時間 aOR 1.82/6時間超 2.48/女性 3.75/睡眠への不満 2.92。傾向スコアでマッチした13組で僧帽筋の硬さ(超音波エラストグラフィ)が有意に高く、四肢体幹の筋量に差はありませんでした。単一施設の職員であり、一般人口の代表ではありません。
「首の痛み」「こり」「頸部痛」は研究では別物|非特異的頸部痛・神経根症・肩こり
図解:撤回前の系統的レビューが統合した27試験の6区分と、日本語の「こり」がどの区分にも対応しないことを示す図
数字は各区分の参加者数です。いちばん多い区分といちばん少ない区分では、規模が100倍以上違います。
頸から肩甲部にかけての筋緊張感(こり感)・重圧感・鈍痛の総称
英訳が論文ごとに違う 中核症状は痛みではない 専用の評価尺度は2022年に開発
模式図です。上段の6区分は2016年11月に撤回された版に記載されていたもので、本図はレビューの結論を支持する目的では用いていません。「対応する区分が無い」は「研究が存在しない」という意味ではなく、国際的な試験の結果をそのまま読み替えられない、という意味です。
ここを飛ばすと、あとの数字が全部あいまいになります。
「頸部痛」はひとつの病態ではない
海外の研究で neck pain と書かれているものは、実は寄せ集めです。
撤回されたコクラン・レビューが統合した27試験の内訳は、6つの区分に分かれていました。
しかも、数がまるで違います。
いちばん多い2区分だけで9千人を超え、いちばん少ない神経根症状の群は43人です(区分名と内訳は図解①とボックス②)。
つまり「頸部痛に鍼は効くか」は、最初から6種類の患者を混ぜた問いです。
数字を見たら、まずどの区分の患者から出た数字かを確かめる。これが最初の作法になります。
日本語の「こり」は、そこに入っていない
そして、ここが本題です。
この6区分のどこにも、日本語の「こり」に対応する区分はありません。
日本の総説は、この愁訴を「頸より肩甲部にかけての筋緊張感(こり感)、重圧感、および鈍痛などを総称」したものと説明しています。
中核にあるのは痛みの強さではなく、こり感・重圧感です。
英語の論文では、この語はローマ字のまま katakori と書かれ、併記される英訳が論文ごとに違います。
chronic neck pain、neck and shoulder stiffness、non-specific pain or discomfort in the neck and shoulder girdle。
定訳が確立していないのです。
測るものさしも新しく、この愁訴に特化した評価尺度が作られたのは2022年でした。
2016年までのレビューが統合した試験は、当然その尺度を使っていません。
だから、海外の neck pain の試験の結果を、そのまま日本の「こり」の説明に流用することはできません。
ただし「日本人だけの症状」でもない
反対側にも触れておきます。
「肩こりは日本人特有」という説明は、元の資料と食い違います。
2025年の3か国調査では、日本で開発された尺度が米国・シンガポールでも部分的に成り立つことが示され、同様の訴えを持つ回答者は米国で61.8%、シンガポールで75.1%でした。
ただしこれはオンライン調査に答えた人のなかでの割合で、各国の有病率ではありません。
エビデンスボックス② 分類と「こり」という愁訴の出典(深く知りたい方向け・飛ばしてOK)
- 27試験の6区分(撤回されたレビューの抄録より・書誌はボックス⑤):むち打ち関連障害(WAD)3試験205名/慢性筋膜性頸部痛 5試験186名/関節症性変化による慢性痛 5試験542名/慢性非特異的頸部痛 6試験4,011名/神経根症状を伴う頸部痛 2試験43名/亜急性・慢性の機械的頸部痛 6試験5,111名。この区分は撤回された版に載っていたものであり、レビューの結論を支持する根拠としては用いていません。本記事では「頸部痛が単一の病態ではない」ことを示す目的でのみ引用しています。
- 林健太朗. 肩こりに対する鍼通電療法の臨床とそのエビデンス. 日本東洋医学系物理療法学会誌. 2025;50(2):33-39.(DOI 10.32255/jjsop.50.2_33/J-STAGE 無料PDF)定義の逐語=「頸より肩甲部にかけての筋緊張感(こり感)、重圧感、および鈍痛などを総称」。※本記事が確認したのは要旨のみで、本文中のエビデンスの記述は引用していません。
- Takasaki H, Handa Y. J Phys Ther Sci. 2022;34(1):13-17.(PMID 35035072/PMC8752277)逐語=”‘Katakori’ refers to a nonspecific symptom, including discomfort or dull pain, that is experienced around the occiput and that extends through the cervical spine to the acromion and scapular area.”(当サイトによる訳:「肩こり」とは、後頭部周囲に感じられ、頸椎を通じて肩峰・肩甲部にまで及ぶ、不快感や鈍い痛みを含む非特異的な症状を指す。)31項目の評価尺度(Katakori Disability Index)が作られたのは2022年です。
- Takasaki H. Sci Rep. 2025;15(1):12087.(PMID 40204890/PMC11982398)逐語=”Katakori, or neck and shoulder stiffness, is a common issue in Japan but also affects people globally.”/有訴の割合=”61.8% (420/680 participants) in the US and 75.1% (417/555 participants) in Singapore”。これはオンライン横断調査の回答者内の割合であり、各国の有病率ではありません。異文化妥当性は “partial metric invariance in 26 of 55 item combinations” と部分的な成立にとどまります。
- 英訳の不統一:chronic neck pain(Takakura 2023 の題名内)/neck and shoulder stiffness(Takasaki 2025)/neck and shoulder pain (katakori)(Minakawa 2024)/non-specific pain or discomfort in the neck and shoulder girdle(Onda 2022)。
- この愁訴を主題にした日本の試験は、いずれも小規模です(詳細は子記事で扱います):Takakura N, et al. Medicina (Kaunas). 2023;59(12):2141(PMID 38138244/400名・1回施術・4群)/Minakawa Y, et al. J Occup Health. 2024;66(1):uiad016(PMID 38273431/女性オフィスワーカー20名・4週・上乗せ設計。頸肩の痛みの強さが20%低下 P<.01, d=1.65、相対的プレゼンティーイズムが0.25改善 P<.01, d=1.33。一方で absolute presenteeism・HADS・PCS・AIS では群間差なし)/Itoh K, et al. Complement Ther Med. 2007;15(3):172-179(PMID 17709062/40名・4群各10名)/古屋英治ほか. 全日本鍼灸学会雑誌. 2002;52(5):553-561(DOI 10.3777/jjsam.52.553/53名・プラセボ円皮鍼対照。割付方法・群間差・信頼区間は要旨から取得できず、本記事では数値を書いていません)。
- 当サイトが確認できた範囲では、日本の頸部痛・頸肩のこりに関する大規模RCTは見つかりませんでした。最大は Takakura 2023 の400名ですが、施術は1回のみです。「見つからなかった」であって「存在しない」ではありません。
まず受診へつなぐ|施術より先に医療機関をおすすめする首のサイン(頸髄症・血管解離・感染・腫瘍)
29のガイドラインを調べても、赤旗は一致していなかった
先に、いちばん大事な事実を置きます。
2024年の系統的レビュー(複数の研究を系統的に集めて評価したもの)が、頸部痛の診療ガイドラインを29本調べました。
分かったのは、どの赤旗(レッドフラッグ=見逃すと重大な病気を示唆する徴候)を使うかについて、ガイドライン同士の一致がほとんど無いということです。一致度の指標は中央値で0でした。
根拠の大半は専門家の推論で、診断精度の裏づけがあると認められたのは、外傷後の骨折に対する救急外来のルールだけです(内訳はボックス③)。
「決定版の一覧が無い」。これが元の資料の答えです。
ですからここから先に並べるのは、判定表ではありません。「ここから先は鍼灸院ではなく医療機関の役割になる」という、線の引き方の話です。
それでも、複数の資料が一致しているもの
◆ 突然はじまった、いつもと違う後頸部・後頭部の痛み
首から後頭部にかけての動脈が裂ける「解離」という病態があります。
連続161例の報告では、椎骨動脈の解離で頭痛が最初の症状だった人が33%、頭痛が出てから他の神経症状が出るまでが中央値で14.5時間でした。
「今までにない出方の痛みが、急に始まった」。そう言われたら、その日のうちの受診をおすすめし、施術は見合わせる。それだけで足ります。
◆ 意識・体温・脈拍・血圧・呼吸に気になる変化があるとき
ここは、日本の鍼灸師向けの規範文書がはっきり書いています。
「バイタルサイン(意識状態、体温、脈拍、血圧、呼吸状態)に異常がみられた場合は、施術を行うべきではない。速やかに医療施設での処置を勧めるべきである。」
— 公益社団法人 全日本鍼灸学会『鍼灸安全対策ガイドライン2025年版(改訂第2版)』「禁忌の場合」より
首の痛みかどうかに関係なく、ここが最初の線です。
同じガイドラインは、発熱がある人には受診をすすめることが望ましいとし、局所の強い熱感や腫れには局所への施術を避けるべきだとしています(要約。逐語はボックス③)。
◆ 手先の不器用さ・歩きにくさ・排尿の異常(失禁など)
BMJの総説は、頸髄の圧迫で知られる訴えとして「ボタンを留める、鍵を使う、字を書くといった動作の困難」や「排尿の失禁などの自律神経症状」を挙げています。歩き方の変化も、頸髄症を疑う所見のひとつです。
同じ総説が引用する研究(手術を受けた42名)では、症状の始まりから診断まで平均2.2年、平均5.2回の受診を要していました。
伝え方はこうです。「これは頸髄症です」ではなく、「この訴えがあるので、一度、整形外科での確認をおすすめします」。
すでに受診済みなら、そこで何と言われたかを聞き取ります。
◆ がんの既往がある/説明のつかない体重減少がある/発熱がある
先ほどのレビューで、数少ない一致点がここでした。
悪性腫瘍を挙げていたガイドラインはすべてが「がんの既往」と「説明のつかない体重減少」を、脊椎の感染を挙げていた4本のうち3本は「発熱」と「最近の感染」を赤旗にしています。
日本語では、2025年の教育講演が「半年以内の5%以上の非意図的減少は悪性腫瘍や慢性疾患を疑う」と目安を示しています。
◆ ぶつけた・転んだあとの首の痛み
これは鍼灸院で見立てる話ではありません。
外傷後にレントゲンを撮るかどうかを決めるルールは実在しますが、救急外来で医師が撮影の要否を決めるためのものです。当てはまらないから施術してよい、という使い方はできません(項目と精度はボックス③)。
外傷後は、まず医療機関です。
所見が出なくても、「大丈夫」とは言えない
この章でいちばん大事な話を、最後に置きます。
頸髄症を疑うための身体所見18種類を集めた系統的レビューは、「ほぼすべてが、特異度は高いが感度は低く、ふるい分けの道具としては不十分(poor screening tools)」と結論しています。
所見が出なくても、病態が無いことにはなりません。
脊髄硬膜外膿瘍でも同じです。
救急外来の症例(頸椎に限らず脊椎全体)を調べた研究では、「脊椎の痛み+発熱+神経の異常」という古典的な3徴が初診時に揃っていたのはわずか13%。診断が遅れた群では運動麻痺が残った人が45%(遅れなかった群は13%)でした。
だから、この章の目的は「見分けること」ではありません。
「ここから先は自分の役割ではない」と決めておくこと。そして迷ったら早いほうへ倒すこと。それだけです。
この章の限界:上の項目は、複数の資料が一致していたものと、日本の鍼灸のガイドラインが明文で「施術を行うべきではない」「受診を勧めることが望ましい」としているものに限っています。網羅的な一覧ではなく、当てはまらないことを確かめる用途には使えません。Hoffmann徴候などの検査手技は本記事では扱いません(鍼灸師の業務範囲の問題に加えて、ふるい分けの道具としては不十分と報告されているためです)。また、本記事は鍼と頸部動脈解離を結びつけていません。参照した資料は、いずれも鍼との因果を扱ったものではありません。
エビデンスボックス③ 受診をすすめるサインの出典と、その限界(深く知りたい方向け・飛ばしてOK)
- Feller D, Chiarotto A, Koes B, Maselli F, Mourad F. Red flags for potential serious pathologies in people with neck pain: a systematic review of clinical practice guidelines. Arch Physiother. 2024;14:105-115.(PMID 39639931/DOI 10.33393/aop.2024.3245/PMC11618059・CC BY-NC・全文確認)29ガイドラインを選定、うち12本が赤旗114項目を記載(骨折17・がん21・脊椎感染14・脊髄症15・脊髄損傷1・動脈解離7・頭蓋内3・炎症性関節炎2・その他の全身疾患6・特定の病態に紐づかないもの19)。
逐語=”Overall, there is very little agreement (median Fleiss’ kappa of 0) between guidelines on the red flags to screen for serious pathologies.”/”Red flags were mainly supported by expert opinions.”/”The Canadian C-spine rules were supported by Level 1 evidence, while the National Emergency X-Radiography Utilization Study (NEXUS) criteria had Level 2 evidence”/”The remaining red flags (102, 89.5%) were based on mechanism-based reasoning, corresponding to Level 5 evidence.”/一致した項目=”all guidelines mentioning cancer as a serious condition recommended a ‘history of cancer’ and an ‘unexplained weight loss’ as flags for this condition”/”three out of four guidelines (75%) considering spinal infection reported the presence of fever and a ‘history of recent infection’ as red flags for an infection”(当サイトによる訳は本文に記載)。
⚠️ 赤旗114項目の逐語一覧は Supplementary material 4 にあり、当サイトは取得できていません。そのため、上で逐語を引けた項目以外を「ガイドラインが挙げている赤旗」として列挙していません。⚠️ 同論文は “It is estimated that 1% of neck pain can be caused by underlying serious pathologies” とも記していますが、これは同論文中の推定であり、当サイトが確かめた疫学値ではないため本文では使っていません。 - Silbert PL, Mokri B, Schievink WI. Headache and neck pain in spontaneous internal carotid and vertebral artery dissections. Neurology. 1995;45(8):1517-1522.(PMID 7644051)連続161例(内頸動脈解離135/椎骨動脈解離26)。逐語=”it was the initial manifestation in 47% of those with ICAD and in 33% of those with VAD”/”The median interval from onset of headache to development of other neurologic manifestations was 4 days for the ICAD group and 14.5 hours for the VAD group.”/”In the VAD group, headaches were distributed posteriorly in 83% of patients”/”Neck pain was present in 26% of patients with ICAD (anterolateral) and in 46% of those with VAD (posterior).”1995年・単一施設の紹介症例で、一般人口の頻度ではありません。椎骨動脈解離は26例と小規模です。
- Biller J, Sacco RL, Albuquerque FC, et al; American Heart Association Stroke Council. Cervical arterial dissections and association with cervical manipulative therapy. Stroke. 2014;45(10):3155-3174.(PMID 25104849)逐語=”Patients with CD may present with unilateral headaches, posterior cervical pain, or cerebral or retinal ischemia…”/”practitioners should strongly consider the possibility of CD as a presenting symptom”。🛑 この声明が扱っているのは頸椎への徒手スラスト(cervical manipulative therapy)であって、鍼ではありません。声明自身が “current biomechanical evidence is insufficient to establish the claim that CMT causes CD” と記しています。本記事は鍼に読み替えていません。全文(ahajournals.org)は取得できず、抄録の逐語のみを使用。正誤表(Stroke. 2016;47(11):e261)が出ていますが内容は未確認です。
- 坂本歩 監修/公益社団法人 全日本鍼灸学会 臨床情報部 安全性委員会 編『鍼灸安全対策ガイドライン2025年版(改訂第2版)』2025. https://safety.jsam.jp/img/file1.pdf (2025年5月20日 改訂第2版発行/2025年8月9日 修正版 Ver.1.2。序文に「無償でダウンロードすることができる形で一般公開する」旨が明記され、転載を禁じる記載は見当たりませんでした)。本文で引用したのは「禁忌の場合」2。あわせて「注意すべき場合」6の逐語=「発熱を呈する患者においては、その原因疾患の特定および治療を優先すべきである。施術を控えて医療機関への受診を勧めることが望ましい。」(同ガイドラインが受診勧奨をどの強さの語尾で書いているかを示すために引用)。「注意すべき場合」3は局所の熱感・腫れと経過不良時の精査について述べており、本記事では要約して紹介しています。同書は語尾で強制力を段階分けしており(しなければならない/してはならない>するべきである/するべきではない>推奨される/推奨されない>注意が必要である)、本記事の要約もその段階を崩さないようにしています。同書は「医療事故などが発生した際の裁判や訴訟に用いられることは本ガイドラインの主旨ではない」とも明記しています。
- Davies BM, Mowforth OD, Smith EK, Kotter MR. Degenerative cervical myelopathy. BMJ. 2018;360:k186.(PMID 29472200/PMC6074604)総説。逐語=”difficulty doing up buttons, using keys, mobile phones, or writing”/”Autonomic symptoms such as bowel or bladder incontinence, erectile dysfunction”。診断の遅れ=”an average delay of 2.2 years … On average, 5.2 ±3.6 consultations were required before a diagnosis was made”。この遅延の数値は同総説が引用した後ろ向き研究のもので、Davies 自身のデータではありません(原著=Behrbalk E, et al. Neurosurg Focus. 2013;35(1):E1/PMID 23815245/イスラエルの単一施設で手術を受けた42名)。当サイトは原著の抄録の逐語を取得できておらず、総説が併記する「1.7か月〜8.9年」という範囲は書いていません。
- Cook C, Brown C, Isaacs R, et al. Clustered clinical findings for diagnosis of cervical spine myelopathy. J Man Manip Ther. 2010;18(4):175-180.(PMID 22131790/PMC3113267)n=249。5所見=歩行の異常/Hoffmann徴候/inverted supinator sign/Babinski徴候/45歳超。3項目以上で “positive likelihood ratio = 30.9 (95% CI = 5.5-181.8)”。脊椎外科の受診者が母集団で有病率が高く、区間も 5.5〜181.8 と極端に広いため、本記事は「歩き方の変化が所見のひとつに数えられている」という定性の記述にとどめ、検査手技としては扱っていません。
- Cook CE, Wilhelm M, Cook AE, Petrosino C, Isaacs R. Clinical tests for screening and diagnosis of cervical spine myelopathy: a systematic review. J Manipulative Physiol Ther. 2011;34(8):539-546.(PMID 21899892)12論文・18テスト。逐語=”Nearly all of the 18 tests demonstrated high levels of specificity and low levels of sensitivity, suggesting that they are poor screening tools.”/”Only one study was scored as high quality.”(当サイトによる訳は本文に記載)。抄録のみ確認(本文は有料)。
- Davis DP, Wold RM, Patel RJ, et al. The clinical presentation and impact of diagnostic delays on emergency department patients with spinal epidural abscess. J Emerg Med. 2004;26(3):285-291.(PMID 15028325)脊髄硬膜外膿瘍63名 vs 対照126名。逐語=”The ‘classic triad’ of spine pain, fever, and neurologic abnormalities was present in 13% of SEA patients and 1% of controls during the initial visit”/”Diagnostic delays were present in 75% of SEA patients. Residual motor weakness was present in 45% of these patients vs. only 13% of patients without diagnostic delays (odds ratio 5.65, 95% C.I. 1.15-27.71, p < 0.05).”/”one or more risk factors were present in 98% of SEA patients”。脊椎全体が対象で、頸椎に限った数字ではありません。危険因子の中身は抄録に列挙されておらず、本記事では書いていません。
- Stiell IG, Wells GA, Vandemheen KL, et al. The Canadian C-spine rule for radiography in alert and stable trauma patients. JAMA. 2001;286(15):1841-1848.(PMID 11597285)n=8,924(重要な頸椎損傷151名=1.7%)。逐語=”is there any high-risk factor present that mandates radiography (ie, age >/=65 years, dangerous mechanism, or paresthesias in extremities)?”。精度は原文が百分率で記載しており、当サイトは比で表記します=感度 1.00(95%CI 0.98〜1.00)/特異度 0.425(0.40〜0.44)=見逃さないことに振り切って作られているため、当てはまる人の多くは骨折ではありません。🛑 これは救急外来で医師が撮影の要否を決めるためのルールで、対象は意識清明で全身状態の安定した鈍的外傷の患者です。鍼灸院の判断ツールではなく、「当てはまらないから施術してよい」という使い方はできません。dangerous mechanism の内訳は抄録に記載がなく、本記事では書いていません。参考=NEXUS 基準(Hoffman JR, et al. N Engl J Med. 2000;343(2):94-99/PMID 10891516/特異度 0.129)。
- 寺澤佳洋. 鍼灸師が知っておきたい「レッドフラッグ」. 全日本鍼灸学会雑誌. 2025;75(4):411-415.(DOI 10.3777/jjsam.75.411/J-STAGE 無料/全文確認)第74回全日本鍼灸学会学術大会 教育講演。逐語=「半年以内の 5% 以上の非意図的減少は悪性腫瘍や慢性疾患を疑う。」共通項目として「冷汗」「突然発症」「詰まる/破れる/裂ける/捻れる」を挙げています。⚠️ 同稿の症状別の節は頭痛・肩痛・腰痛・妊婦の4つで、頸部痛の節はありません。また「肩痛」の節は肩関節疾患や関連痛の話であり、日本語の「肩こり」ではありません。教育講演の記録であり、系統的レビューではありません。
- 参考(頸部痛ではなく腰痛のデータ):Downie A, et al. Red flags to screen for malignancy and fracture in patients with low back pain: systematic review. BMJ. 2013;347:f7095.(PMID 24335669)逐語=”Many red flags in current guidelines provide virtually no change in probability of fracture or malignancy or have untested diagnostic accuracy.”腰痛の数値であり、頸部痛に転用していません。「赤旗の多くは検証されていない」という方法論上の指摘が、Feller 2024 と同じ方向を向いている例として挙げています。
- 参考(頸髄症の治療方針):Fehlings MG, et al. Global Spine J. 2017;7(3 Suppl):70S-83S.(PMID 29164035/PMC5684840)中等度・重度の変性頸髄症に手術を推奨(質 Moderate/強さ Strong)、軽度では手術または監視下の構造化リハビリの提示(Very low to low/Weak)。鍼への言及ではありません。「頸髄症=ただちに手術」とは要約できません。
- 本記事が扱わなかったもの:『頚椎症性脊髄症診療ガイドライン2020(改訂第3版)』(日本整形外科学会・日本脊椎脊髄病学会 監修/Minds c00606)は、Mindsのページに無断転載を禁じる記載が現存するため本文を開かず、推奨文・推奨の強さ・エビデンスの強さを書いていません(『頭痛の診療ガイドライン2021』『変形性膝関節症診療ガイドライン2023』と同じ扱い)。公開されている項目一覧に鍼を主題とする項目はありませんが、本文中の言及の有無は確認できていないため「記載が無い」とは書いていません。/IFOMPT の Cervical Framework(Rushton A, et al. J Orthop Sports Phys Ther. 2023;53(1):7-22)は本文が有料で、枠組みの具体項目を列挙していません。同枠組みは徒手理学療法士の国際団体のもので、鍼灸の枠組みではありません。
安全性|首・肩上部への刺鍼で先に伝えること
図解:首・肩上部への刺鍼に関する有害事象の頻度と、施術前後に確認・説明する項目
左が「どのくらいの頻度で報告されているか」、下が「だから施術の前後で何をするか」です。
何らかの有害作用の報告。うち治療を要したのは1.9%、入院に至ったのは0.03%
医原性の気胸(肺の外側に空気がもれる状態)の発生率。リスクのある部位に限ると100万回に1.75回
胸部手術の既往肺気腫肺癌結核慢性気管支炎肺炎男性であること
施術回数はリスクと関連しませんでした
- 1
刺鍼の前に まれだが胸に関わる事象が報告されていることを、一言伝える
- 2
施術のあとに 胸の痛み・息苦しさが出たら、その日のうちに受診してもらう
- 3
受診のときに いつ、どこに鍼を受けたかを伝えてもらう
模式図です。「まれ」は「ゼロ」ではなく、症例報告があることは「よくある」という意味でもありません。7.4%は腰痛または頸部痛の患者を対象にした前向き観察研究、発生率は台湾の保険データベースの数字で、いずれも日本の鍼灸院の統計ではありません。本図は施術手技の指針ではなく、刺入深度・角度に関する指示を含みません。
誰を送るかを決めたら、次は「刺す前に何を言うか」です。
有害事象の頻度|7.4%と、100万回に0.87回
腰痛または頸部痛で鍼を受けた73,406名を前向きに追った研究では、何らかの有害作用を報告したのが7.4%、治療を要したのが1.9%、入院に至ったのは0.03%でした。
多くは施術部位の痛みの増強、内出血、めまい、局所の腫れです。
より重い事象は、台湾の全国保険データベースの研究があります。
540万回を超える施術で、医原性気胸(肺の外側に空気がもれる状態)の発生率は100万回に0.87回、リスクのある部位に限っても100万回に1.75回。桁で言えば、極めてまれです。
鍼全般の有害事象は腰痛への鍼のエビデンスの記事の安全性の節にまとめました。ここでは首・肩に固有の事象に絞ります。
まれな事象の好発部位が、首・肩の施術部位と重なる
問題は、そのまれな事象が起きる場所です。
日本から報告された症例(施術の翌日に両側の気胸を起こした31歳の女性)には、「鍼は肩甲上角の先端付近で胸膜に容易に到達しうる」と記されています。
超音波で測った皮下組織の厚さは22mm。これは1例の計測値であり、刺入深度の基準ではありません。
台湾の症例報告も、「頸部や肩の周囲への鍼は、気胸の危険因子となりうる」と述べています。
日本の鍼灸の規範文書も、後頸部について「延髄、脊髄、大後頭神経、椎骨動脈の損傷に注意する」と書いています(『鍼灸安全対策ガイドライン2025年版』)。
つまり、まれな事象の好発部位が、首・肩の施術部位そのものです。
「まれだから大丈夫」でも「危ないからやめよう」でもなく、頻度と部位を同じ画面に置いて話す。それがこの症状での扱い方だと考えています。
患者背景でリスクは変わる
台湾の研究は、リスクが上がる背景も示しています。
胸部手術の既往・肺気腫・肺癌・結核・慢性気管支炎・肺炎、そして男性であることの7つです(倍率はボックス④)。いずれも問診で拾える項目です。
逆に、施術回数はリスクと関連していませんでした。「通い慣れた人だから安全」ではありません。
事前に説明されていなかった、が繰り返し記録されている
シンガポールの救急外来で2017〜2021年に扱われた気胸474例のうち、4例(0.84%)が鍼に関連していました。
そのケースシリーズには、「3名の患者は全員、鍼を受ける前に、施術者から重篤な有害事象の可能性について説明を受けていなかったと述べた」と書かれています(当サイトによる訳)。
頸部への施術後に脊髄の硬膜外血腫を起こし、脳梗塞と誤診されて血栓溶解療法が行われた症例もあります。
施術歴が医療機関に伝わること自体に、意味があります。
ここから出てくる運用は、とてもシンプルです。
- 首・肩上部に刺鍼する前に、まれだが胸に関わる事象が報告されていることを一言伝える
- 症例報告で実際に生じていたのは、胸の痛み・息苦しさと、手足の力の入りにくさ・感覚の異常です。施術後にこうした症状が出たら、鍼灸院に連絡する前でよいのでその日のうちに受診してもらう
- 受診のときにいつ、どこに鍼を受けたかを伝えてもらう
「鍼は安全です」とだけ言うのは、この章の内容を全部落とすことになります。
この章の限界:上の頻度は腰痛または頸部痛の患者を対象にした前向き観察研究と台湾の保険データベースに基づくもので、日本の鍼灸院の統計ではありません。症例報告は「起こりうること」を示すものであって、頻度を示すものではありません。「まれ」は「ゼロ」ではなく、症例報告の存在は「よくあること」も意味しません。直前に挙げた3つの症状は症例報告に記載されていた施術後の症状であり、来院時に受診をすすめるサインの一覧ではありません(それは前章で扱いました)。本記事は施術手技の指導を目的とせず、刺入深度・角度に関する具体的な指示は記載していません。
エビデンスボックス④ 安全性の出典(深く知りたい方向け・飛ばしてOK)
- Witt CM, Pach D, Reinhold T, Wruck K, Brinkhaus B, Mank S, Willich SN. Treatment of the adverse effects from acupuncture and their economic impact: a prospective study in 73,406 patients with low back or neck pain. Eur J Pain. 2011;15(2):193-197.(PMID 20609604/DOI 10.1016/j.ejpain.2010.06.008)5,440名(7.4%)が1つ以上の有害作用を報告/1,422名(1.9%)が治療を要した(自己対処1.2%/医師の診察と投薬0.6%/入院0.03%)。⚠️ 対象は「腰痛または頸部痛」であり、頸部痛だけの数字ではありません。全疾患横断の Witt 2009(229,230名/PMID 19420954)とは別の研究です。
- Lin SK, Liu JM, Hsu RJ, Chuang HC, Wang YX, Lin PH. Incidence of iatrogenic pneumothorax following acupuncture treatments in Taiwan. Acupunct Med. 2019;37(6):332-339.(PMID 31433202/DOI 10.1136/acupmed-2018-011697)全民健康保険100万人コホート・411,734名/5,407,378回の施術。逐語=”The incidence rates of iatrogenic pneumothorax were 0.87 per 1 000 000 acupuncture treatments overall and 1.75 per 1 000 000 acupuncture treatments in ‘at-risk’ anatomical areas.”/リスク上昇(調整オッズ比・95%CI)=胸部手術歴 7.85(3.49-9.25)/肺気腫 4.87(1.03-7.96)/結核 3.65(1.39-9.56)/肺癌 3.85(1.53-9.73)/慢性気管支炎 2.61(1.03-6.87)/肺炎 2.09(1.44-2.72)/男性 3.41(1.36-8.57)。施術回数はリスクと関連しませんでした。
- Nishie M, Masaki K, Kayama Y, Yoshino T. Bilateral pneumothorax after acupuncture treatment. BMJ Case Rep. 2021;14(3):e241510.(PMID 33649032/PMC7929814)31歳女性・施術翌日に両側気胸。逐語=”Acupuncture needles may easily reach the pleura around the end of the suprascapular angle”(当サイトによる訳:鍼は肩甲上角の先端付近で胸膜に容易に到達しうる)。超音波で皮下組織の厚さ22mmを確認。1例の計測値であり、刺入深度の基準ではありません。
- Chiu WS, Lu YW, Lien TH. Iatrogenic Pneumothorax During Acupuncture: A Case Report. Medicina (Kaunas). 2023;59(6):1100.(PMID 37374304/PMC10301852)逐語=”Acupuncture around the neck or shoulder may be a risk factor for pneumothorax.”(当サイトによる訳:頸部や肩の周囲への鍼は、気胸の危険因子となりうる。)慢性肺疾患でリスクが増すと記載。
- Th’ng F, Rao KA, Huang PY. Case series: acupuncture-related pneumothorax. Int J Emerg Med. 2022;15(1):48.(PMID 36096724/PMC9465868)シンガポールの救急外来・2017〜2021年の気胸474例中4例(0.84%)が鍼関連。逐語=”All 3 patients claimed that they were not informed by the acupuncturists of potential serious AEs prior to acupuncture treatments”。症状を伝えたのに受診を勧められなかった例、施術者2名が有害事象を認識していなかった例も記録されています。
- Wang P, Luo P, Xiang Z, et al. Post-Acupuncture Acute Cervical Spinal Epidural Hematoma With Hemiplegia Misdiagnosed as Cerebral Infarction: A Case Report and Literature Review. Clin Case Rep. 2025;13(8):e70779.(PMID 40822609/PMC12354976)頸部施術後の急性頸部脊髄硬膜外血腫。脳梗塞と誤診され血栓溶解療法が行われた症例。
- Kim MS. Cervical Spinal Cord Injury Due to Direct Needle Damage During Acupuncture. Korean J Neurotrauma. 2025;21(4):323-328.(PMID 41220883/PMC12599455)頸部痛への施術後の頸髄損傷2例(35歳女性・48歳女性)。保存的に改善したものの感覚異常が残存。著者は医師に対し、上肢の脱力の際に頸髄損傷を鑑別に入れるよう促しています。
- Jian J, Shao Y, Wan L, et al. Autopsy diagnosis of acupuncture-induced bilateral tension pneumothorax. Medicine (Baltimore). 2018;97(44):e13059.(PMID 30383682/PMC6221646)52歳男性が両側緊張性気胸で死亡。背部に20か所を超える刺鍼痕。本記事はこの1例を扇情的に扱わず、上記 Lin 2019 の頻度と同じ視野に置いて記載しています。
- 『鍼灸安全対策ガイドライン2025年版(改訂第2版)』(書誌はボックス③)「注意すべき部位」4「後頸部」の逐語=「延髄、脊髄、大後頭神経、椎骨動脈の損傷に注意する。」同2「前頸部」=「総頸動脈、内頸動脈、迷走神経、気管の損傷に注意する。」同3「鎖骨上窩」=「鎖骨下動脈、肺の損傷に注意する。」柱書は、解剖学を熟知し患者の体格を考慮して刺激条件を決めるべきだとしています。
- 本記事は刺入深度・角度に関する手技の指針を示していません。経穴名を挙げて「ここは何mmまで」といった指導も行っていません。上記はすべて「報告の紹介」です。
首の痛みへの鍼のエビデンス|無治療・通常ケア比と偽鍼比で結論が変わる
図解:慢性頸部痛への鍼の結果を、比較した相手(通常ケア・偽鍼・実対照)ごとに並べた図
3本の帯は同じ長さです。長さで大小を示すのではなく、中身の言葉で違いを示しています。
模式図です。帯ごとに測っている尺度も対象者も違うため、帯の長さを横に比べることはできません。「有意差なし」は差が無いことの証明ではありません。帯1の試験は偽鍼を置いていない非盲検の設計で、鍼そのものの作用と通院・関わりの効果を分離していません。
ここからが、この記事のエビデンスの中身です。
結論を先に1行で言うと、「何と比べたか」で答えが割れます。
出発点にあるのは、撤回されたレビュー
この症状には、コクラン・レビュー(CD004870)が実在しました。
2016年5月に更新された版は27試験を統合しています。おそらく、あなたが勉強会で聞いた「中等度の質のエビデンス」は、この版のことです。
ところがその半年後、2016年11月17日付で、同じ番号のレビューが WITHDRAWN(撤回)として登録されました。
撤回後も、この版は引用されています(当サイトが確認できた実例は1件で、その論文は撤回の事実にも触れていました。ボックス⑤)。
さらに、この版の中心的な数字は、そのままでは計算が合いません。
論文には「差はだいたい −0.23」という代表の数字と、「本当の値はこの幅のどこか」という幅(−0.20〜−0.07)が並べて書かれています。
ところが代表の数字が、その幅の外にある。
クラスの平均点が、いちばん低い点といちばん高い点の外側にあるようなもので、数字として成り立ちません。
抄録にも要約表にも同じ形で載っているので、書き間違いでもなさそうです。だから当サイトは、この数字を効果の大きさとして使いません。
「中等度の質」の範囲も確かめておきます。
この評価が付いているのは要約表の1行(8試験560名)で、27試験すべてに付いた等級ではありません。「27試験を統合して中等度の質」という要約は、実際より強い言い換えになります。
撤回された理由は、当サイトが確認できた資料の範囲では見つけられませんでした。「不正があった」「否定された」とは書きません。
こうしたレビューをどこから読むかは、コクランレビューの使い方の記事で「結論より先に見る3か所」として整理しています。
通常のケアと比べると、差は大きい
最も規模が大きいのは、ドイツの実用試験(日常診療に近い条件で行う試験)です。
慢性の首の痛みを持つ1万4千人余りが参加し、首の痛みと能力障害の質問票で、群間の差は12.3ポイント(p<0.001)でした。
英国の試験も方向は同じです。
罹病期間の中央値が6年という517名で、12か月後の質問票で、鍼は通常ケアより3.92パーセントポイント良好でした(95%信頼区間 0.97〜6.87、P=0.009)。
ただし、ここは同じ文の中に置いてください。
この2つの試験は、どちらも偽鍼を置いていません。非盲検です。
「大規模な試験で有効だった」と言うときは、「対照は通常ケアだった」までを1セットにします。
上乗せ設計の読み方は上乗せ試験の記事、待機・無治療の群で差が大きく出る理由は待機リスト対照の記事にまとめています。
偽鍼と比べると、差は小さいか、出ていない
対照を偽鍼に変えると、景色が変わります。
英国の135名の試験では、鍼のほうが良い方向に統計的な差が出ました。
ところが著者自身が「この差は臨床的には有意でない」と結論に明記しています(痛みのスケール上で12%の差にとどまったため。区間はボックス⑥)。
2024年の系統的レビューでも、偽鍼と比べた痛みの改善に有意差は出ていません(p=0.63)。
このレビューが大きな改善を報告しているのは、他の治療に鍼を上乗せした比較のほうです。
さらに強い言い方をしているのが、カナダの研究班による系統的レビューです。
「西洋式の鍼は非貫通のプラセボ電気鍼と同等」「刺鍼する鍼は貫通型の偽鍼と同等」と整理したうえで、電気鍼などについて「有効ではなく、頸部痛の管理に用いるべきではない」と結論しました(いずれも当サイトによる訳。英語の逐語はボックス⑥)。
この「通常ケア比は大きく、偽鍼比は小さい」という構図は、腰痛・膝OA・頭痛・アレルギー性鼻炎と同じ形です。
患者さんに聞かれたときは、「何もしない場合と比べれば良くなったという報告はあります。ただ、見た目だけ似せた鍼と比べると差は小さいんです」——このくらいが、いまの研究に対して正確な言い方です。
なぜ対照で答えが変わるのかは比較対照の記事、偽鍼のタイプは偽鍼の記事に整理しました。
運動療法・徒手療法・マッサージと比べると
患者さんが迷っているのは、たいてい「鍼か、それ以外か」です。
分かりやすいのは、2001年にドイツで行われた3群の試験(177名)です。
鍼/通常のマッサージ/偽レーザー鍼に分け、運動時の痛みで鍼はマッサージより有意に良好(P=0.0052)。ところが偽レーザー鍼との差は有意ではありませんでした(P=0.327)。
同じ試験、同じ患者、同じアウトカム。対照を変えただけで、結論が「勝った」から「差があるとは言えない」に変わります。
※この試験の抄録は、偽レーザー鍼との差にP値と整合しない信頼区間を併記しています。本記事は著者が記した「有意差なし」だけを採り、数値はボックス⑦に置きました。
2017年の系統的レビューは、鍼を単独で理学療法や薬などの実対照と比べた結果を統合しています。痛み・機能障害・生活の質の3つとも、信頼区間が「差なし」をまたいでいます(数値はボックス⑦)。
鍼とマッサージのように術者の盲検が原理的に成り立たない比較の読み方は、盲検化の記事で扱っています。
他職種との優劣について:本記事は、鍼と他の施術・他の職種の優劣を論じるものではありません。上の結果は試験ごとの設定(対照の種類・回数・期間)に強く依存しており、一般化には使えません。自院サイトでの他職種との比較表現は、比較優良広告に触れうる点にも注意が必要です。
効果は続くのか・研究の質で数字はどこまで動くのか
持続性の答えも、対照で割れます。
慢性痛の試験を個人データで統合した2017年の解析では、無治療比の差は12か月後もおよそ9割が保たれ、偽鍼比の差はおよそ半分に減っていました。
もうひとつ。2017年の系統的レビューは、上乗せ比較の結果を割付の隠蔽(どちらの群に入るかを事前に分からなくする手続き)の質で分けて集計しました。
隠蔽が不十分な研究だけの集計と、良好な研究だけの集計とで、効果量が10倍以上違って見えます(数値はボックス⑥)。
エビデンスボックス⑤ 撤回されたレビューの書誌と、版の履歴(深く知りたい方向け・飛ばしてOK)
- pub3(2006年):Trinh KV, Graham N, Gross AR, Goldsmith CH, Wang E, Cameron ID, Kay T. Acupuncture for neck disorders. Cochrane Database Syst Rev. 2006 Jul 19;(3):CD004870.(PMID 16856065/DOI 10.1002/14651858.CD004870.pub3)10試験・慢性頸部痛のみ・Jadad平均2.3/5。pooled SMD −0.37, 95% CI −0.61 to −0.12=この版は点推定値と信頼区間が整合しています。⚠️ ただしこれが何と比べた統合値かは、当サイトが確認した抄録からは特定できませんでした。また、これは現在撤回されている同一番号(CD004870)のレビューの旧版です。効果の根拠としては用いていません。整合しているという事実だけを挙げています(=版が新しいほど数字が良くなるとは限らず、壊れることもある、という例)。
- pub4(2016年5月4日):Trinh K, Graham N, Irnich D, Cameron ID, Forget M. Acupuncture for neck disorders. Cochrane Database Syst Rev. 2016 May 4;(5):CD004870.(PMID 27145001/DOI 10.1002/14651858.CD004870.pub4)27試験。抄録逐語=”Results of the meta-analysis favoured acupuncture (standardised mean difference (SMD) -0.23, 95% confidence interval (CI) -0.20 to -0.07; P value = 0.0006). This effect does not seem sustainable over the long term.”
🛑 点推定値 −0.23 が、併記された信頼区間 −0.20〜−0.07 の外側にあります。PMC全文の Summary of findings 表にも同じ組み合わせが印字されており、抄録の転記ミスではありません。当サイトはこの数値を効果量として引用していません。
⚠️ “Moderate”(中等度の質)の評価は、要約表の1行(8試験560名・偽鍼と比べた短期のアウトカム)に付いたものです。レビュー全体の等級ではありません。 - pub5(2016年11月17日)=撤回版:WITHDRAWN: Acupuncture for neck disorders. Cochrane Database Syst Rev. 2016 Nov 17;11(11):CD004870.(PMID 27852100/DOI 10.1002/14651858.CD004870.pub5)
- 撤回理由:当サイトが確認できた資料の範囲では、記載を見つけられませんでした。発行元のサイトに到達できず、PMC全文(PMC6734124)にも撤回の告知・”What’s new”・”Notes” が見当たりませんでした(位置を変えて2回確認)。検索エンジンの要約は理由らしきものを返しますが、元の資料ではないため採用していません。
- 撤回に言及した二次情報の実例:Costa S, Ferreira ADS. Acupuncture for neck pain: current evidence and challenges. Longhua Chin Med. 2022;5:32.(DOI 10.21037/lcm-22-8)逐語=”A more recent Cochrane systematic review including 27 randomized controlled trials also supported these findings with moderate-quality evidence, but it is currently withdrawn from the Cochrane library since 2016 for review.”=撤回の事実に触れていますが、理由については “for review”(検討のため)と記すのみで、撤回の告知そのものを参照したものではありません。当サイトは撤回理由の元の資料に到達できていないため、この記述を撤回理由としては採用していません。
- 取り違え注意:頸部痛には徒手療法の系統的レビュー(Gross A, et al. CD004249.pub4/PMID 26397370/2015年・51 RCT・2,920名)も実在します。これは鍼のレビューではありません。「頸部痛のコクラン」を検索すると先に当たることがあります。
- 安全性について、撤回された版は “These studies reported no life-threatening adverse effects” と記していますが、撤回された記述であり、集団データ(本記事の安全性の章)と併せずに単独で引くべきものではありません。
エビデンスボックス⑥ 対照別の主要な試験・レビューの数値(深く知りたい方向け・飛ばしてOK)
- 【通常ケア比】Witt CM, Jena S, Brinkhaus B, Liecker B, Wegscheider K, Willich SN. Acupuncture for patients with chronic neck pain. Pain. 2006;125(1-2):98-106.(PMID 16781068/DOI 10.1016/j.pain.2006.05.013)ARCシリーズ。6か月超の慢性頸部痛14,161名(無作為化=鍼1,880/対照1,886、非無作為化10,395)。3か月で最大15回。NPAD(Neck Pain and Disability Scale)3か月:鍼群 16.2(SE 0.4)改善→38.3、対照群 3.9(SE 0.4)改善→50.5、群間差 12.3(p<0.001)。偽鍼なし・非盲検の上乗せ設計。⚠️ 95%信頼区間は抄録に記載がなく(標準誤差のみ)、本記事では書いていません。非無作為化群のほうが重症でより大きく改善しており、参加者の選択の影響を分離できません。
- 【通常ケア比】MacPherson H, Tilbrook H, Richmond S, et al. Alexander Technique Lessons or Acupuncture Sessions for Persons With Chronic Neck Pain: A Randomized Trial. Ann Intern Med. 2015;163(9):653-662.(PMID 26524571/DOI 10.7326/M15-0667)ATLAS。慢性非特異的頸部痛517名・罹病期間中央値6年・鍼12回(計600分)。NPQ 12か月:鍼 3.92 percentage points(95% CI 0.97〜6.87)P=0.009/アレクサンダー・テクニーク 3.79(0.91〜6.66)P=0.010。NPQ は%表示の尺度で、ARC の NPAD の素点とは単位が違います。ベースラインからの12か月減少率は鍼32%・AT31%=これは群内変化であり、通常ケアとの差ではありません(本文では扱っていません)。偽鍼なし。ISRCTN15186354。
- 【偽鍼比】White P, Lewith G, Prescott P, Conway J. Acupuncture versus placebo for the treatment of chronic mechanical neck pain: a randomized, controlled trial. Ann Intern Med. 2004;141(12):911-919.(PMID 15611488)慢性機械的頸部痛135名(完遂124)・4週8回・偽TENS(廃止した電気鍼装置による模擬経皮刺激)・単盲検。VAS(1〜5週)=6.3 mm [95% CI, 1.4 to 11.3 mm]; P = 0.01。ただし著者の結論に逐語で “this difference was not clinically significant because it demonstrated only a 12% (CI, 3% to 21%) difference between acupuncture and placebo”(当サイトによる訳:この差は、鍼とプラセボの間に12%[信頼区間 3%〜21%]の違いを示したにすぎないため、臨床的に有意ではなかった)。術者1名・非介入群なしで、平均への回帰を統制できないと著者が明記しています。
- 【偽鍼比・上乗せ比】Fang J, Shi H, Wang W, et al. Durable Effect of Acupuncture for Chronic Neck Pain: A Systematic Review and Meta-Analysis. Curr Pain Headache Rep. 2024;28(9):957-969.(PMID 38856887/PMC11416387 全文確認)18 RCT(検索2024年3月まで)。対照=偽鍼3件/無治療・通常ケア2件/他治療13件。上乗せ(adjunct)3か月後 SMD −0.79(95%CI −1.13〜−0.46)p<0.01/6か月後 MD −18.13(−30.18〜−6.07)(6か月の I²=92%)。偽鍼比の疼痛は p=0.63 で有意差なし。⚠️ 偽鍼比の疼痛の数値(MD −0.12, 95%CI −0.06〜0.36)も点推定値が信頼区間の外にあるため、本記事では定性の記述だけを使っています。機能(NPQ)は偽鍼比で MD −6.06(−8.20〜−3.92)p<0.01, I²=45%。有害事象 8.5〜13.8%・軽微で一過性。正式なGRADE評価は行われていません(著者は “moderate-to-low quality” と記述)。
- 【偽鍼比・否定側】Wong JJ, Shearer HM, Mior S, Jacobs C, Côté P, et al. Spine J. 2016;16(12):1598-1630.(PMID 26707074/DOI 10.1016/j.spinee.2015.08.024)OPTIMa の系統的レビュー。38試験を選定し、うちバイアスリスクが低いと判定されたのは22件(検索は2000〜2014年)。best evidence synthesis で、統合統計は行っていません。逐語=”Western acupuncture provides similar outcomes to non-penetrating placebo electroacupuncture, and needle acupuncture provides similar outcomes to sham-penetrating acupuncture.”/”It also suggests that electroacupuncture, strain-counterstrain, relaxation massage, and some passive physical modalities … are not effective and should not be used to manage neck pain.”(「…」は当サイトによる省略。訳は本文に記載)。これは系統的レビューであり、同研究班の診療ガイドライン本体(Côté P, et al. Eur Spine J. 2016;25(7):2000-2022/PMID 26984876)ではありません。ガイドライン本体は本記事では取得できておらず、「OPTIMaのガイドラインが鍼を推奨した/しなかった」とは書いていません。
- 【持続性】MacPherson H, Vertosick EA, Foster NE, et al. The persistence of the effects of acupuncture after a course of treatment: a meta-analysis of patients with chronic pain. Pain. 2017;158(5):784-793.(PMID 27764035/PMC5393924)29試験17,922名(長期追跡は20試験6,376名)。対象に “musculoskeletal pain (low back, neck, and shoulder)” を明記。無治療対照比=3か月あたり 0.011 SD の減衰(95%CI −0.014〜0.037, P=0.4)=12か月で約90%が維持/偽鍼比=3か月あたり 0.025 SD(95%CI 0.000〜0.050, P=0.050)=12か月で約50%減衰。
- 【研究の質】Seo SY, Lee KB, Shin JS, et al. Effectiveness of Acupuncture and Electroacupuncture for Chronic Neck Pain: A Systematic Review and Meta-Analysis. Am J Chin Med. 2017;45(8):1573-1595.(PMID 29121797)16 RCT。上乗せ比較を割付の隠蔽の質で層別すると、隠蔽が不十分な研究=SMD −1.78(−2.08〜−1.48)/隠蔽が良好な研究=SMD −0.07(−0.26〜0.12)。固定効果モデル。著者自身が “high risk of bias and imprecision” と明記。⚠️ 各層に含まれる試験数は抄録に記載がなく、本記事では書いていません。
- 本記事が数値を使わなかったもの:Vas J, et al. Pain. 2006;126(1-3):245-255(PMID 16934402/抄録の「28.1」が群間差か群内変化かを判別できず)/Farag AM, et al. Complement Ther Med. 2020;49:102297(PMID 32147064/点推定値と信頼区間の符号が整合しない)/Jo HR, et al. Medicine. 2022;101(33):e29656(PMID 35984173/ネットワークメタ解析。GRADEは全体で very low、上位は火鍼・温鍼で日本の一般的な手技ではない)。
エビデンスボックス⑦ 実対照・偽対照を同時に置いた試験(深く知りたい方向け・飛ばしてOK)
- Irnich D, Behrens N, Molzen H, König A, Gleditsch J, Krauss M, Natalis M, Senn E, Beyer A, Schöps P. Randomised trial of acupuncture compared with conventional massage and “sham” laser acupuncture for treatment of chronic neck pain. BMJ. 2001;322(7302):1574-1578.(PMID 11431299/DOI 10.1136/bmj.322.7302.1574/PMC33515)慢性頸部痛177名(鍼56/マッサージ60/偽レーザー鍼61)・3週5回。運動時痛(1週後の群間差)=vs マッサージ 24.22(95%CI 16.5〜31.9)P=0.0052/vs 偽レーザー鍼 17.28(10.0〜24.6)P=0.327=有意差なし。
⚠️ 後者は、区間が0を含まないのにP値が有意でないとされており、両者は整合しません(抄録の記載どおりに転記しています)。本記事は著者が記した「有意差なし」という記載のみを使い、数値を効果の大きさとしては用いていません。罹病期間5年超・筋膜性疼痛のサブグループで差が大きいとされますが、これは事後解析です。長期の効果は限定的と著者が明記しています。 - Takakura N, Takayama M, Kawase A, Kaptchuk TJ, Kong J, Vangel M, Yajima H. Acupuncture for Japanese Katakori (Chronic Neck Pain): A Randomized Placebo-Controlled Double-Blind Study. Medicina (Kaunas). 2023;59(12):2141.(PMID 38138244/PMC10745119 全文確認)単施設・特定疾患によらない本態性の頸肩のこり400名(4群各100・解析398)・施術は1回のみ。介入=鍼体径0.18mm・刺入深度5mm・4本・置鍼10分(試験の介入条件の記述であり、手技の指針ではありません)。VAS が10mm以上下がった者を「改善」と定義。改善者数=直後 貫通69/100・皮膚接触73/99・非接触61/99・無処置24/100(3施術群とも無処置に対し p<0.01)/24時間後 74/100・67/99・59/99・22/100。24時間後に貫通>非接触(p=0.01)。貫通 vs 皮膚接触は有意差なし(直後 p=0.78)。盲検=施術者は保たれた(298名で p=0.33)/患者は破れた(p=0.001。ただし「感覚なし」と答えた者を除いた197名では p=0.56)。著者の結論(逐語)=”All treatments that received the ritual of acupuncture were better than the no-treatment control.”。著者が挙げた限界=1回のみの施術・短い追跡・浅い刺入・患者が「プラセボ鍼が2種類ある」ことを知っていたこと。ISRCTN76896018。※v3では本文から外し、本ボックスのみの掲載としました(日本の試験の詳細は子1で扱います)。
- Seo SY, et al. 2017(書誌はボックス⑥):鍼単独 vs 実対照=疼痛 SMD 0.24(95%CI −0.27〜0.75)/機能障害 SMD 0.51(−0.01〜1.02)/QOL SMD −0.37(−1.09〜0.35)=いずれも信頼区間が「差なし」をまたぐ。
- 参考:徒手療法のネットワークメタ解析(Gong Z, et al. BMJ Open. 2025;15(10):e098682/PMID 41083306/101 RCT・7,633名)も実在しますが、これは鍼のレビューではありません。本記事では鍼の根拠として使っていません。
限界・留保:上の数字は、いずれも参加者の型(非特異的・機械的・関節症性・神経根症状など)を分けずに読むと意味を取り違えます。「有意差なし」は「差がないことの証明」ではありません。また、通常ケア比の2試験は偽鍼を置いていない非盲検の設計で、鍼そのものの作用と、通院や施術者とのやりとりの効果を分離していません。標準化平均差やその信頼区間は、ひとつの試験の結果ではなく複数の試験を統合した推定値です。
【判断表】来院者の状況別|鍼の話をしてよいか・受診をすすめるか
前提を置きます。鍼灸師は疾病の診断を行う立場にはありません。
この表は診断表ではなく、「鍼の話をしてよいか、受診をすすめるか」の目安です。
| 来院者の状況 | 鍼灸院での基本スタンス | 根拠の状態(ひとこと) |
|---|---|---|
| 医療機関で「原因のはっきりしない慢性の首の痛み」と言われている | 鍼の話をしてよい(回数と期間を先に決めて) | 通常ケア比は改善の報告、偽鍼比は差が小さいか出ていない |
| 頸肩のこり感・重圧感が主訴(痛みより「こり」) | 鍼の話をしてよい(受診状況を確かめたうえで)。ただし海外の数字をそのまま当てはめない | 国際的な研究が測るのは痛みと機能で、こり感ではない |
| 突然はじまった、いつもと違う後頸部・後頭部の痛み | その日のうちの受診をおすすめし、施術は見合わせる | 神経症状は後から出てくることがある。出典は受診サインの章を参照 |
| 発熱がある/がんの既往・説明のつかない体重減少がある | 施術を控え、受診が済んでいるかを確かめる | 複数の資料が一致。出典は受診サインの章を参照 |
| 手先の不器用さ・歩きにくさ・排尿の異常(失禁など)を訴えている | 受診が済んでいるかを確認し、済んでいなければ受診をすすめる | 判断は医療機関の役割。本記事は網羅的な一覧を持たない |
| ぶつけた・転んだあとの首の症状(むち打ち関連を含む) | 本記事の範囲外。医療機関の治療方針を確認してから | 外傷後は鍼灸院で判定しない。別制度(自賠責)の実務も扱っていない |
| 未受診で、原因が分からない | 受診をすすめたうえで、回数と期間を先に決めて施術 | 型が分からないと、どの研究が当てはまるかを決められない |
ガイドラインは首の痛みへの鍼をどう扱っているか
「ガイドラインには載っているんですよね?」
この質問への答えは、どのガイドラインかで変わります。しかも、この症状では割れ方が大きいです。
| 出典 | 鍼の位置づけ | 読むときの注意 |
|---|---|---|
| 英国 NICE NG193(2021) | 慢性一次性疼痛に「Consider(考慮してよい)」=条件付き | 対象は慢性一次性疼痛。原因が特定できる首の痛みは対象外。”Offer” ではない。確実性は very low〜low が中心 |
| カナダ OPTIMa の系統的レビュー(2016) | 電気鍼などは「有効ではなく、用いるべきではない」 | これは系統的レビューであり、同研究班の診療ガイドライン本体ではない(本体は未取得) |
| 日本『慢性疼痛治療ガイドライン』2018年版 →『慢性疼痛診療ガイドライン』2021年版 | 2018年版には鍼灸のCQも「肩こり」の章も無く、2021年版には「H.統合医療」章と「L.肩こり」章が置かれている | 2021年版の推奨の強さ・エビデンスの強さ・推奨文は、本記事では一切書いていません(本文未確認) |
英国が「考慮してよい」とした根拠の主力は、慢性頸部痛だった
ここは、あまり紹介されていない点です。
英国のNICEガイドライン NG193(2021年)は、16歳以上の慢性一次性疼痛に対して、鍼またはドライニードリングの1コースを「考慮してよい」としています(推奨1.2.5・条件付き。逐語はボックス⑧)。
注目すべきは、その推奨を支えたエビデンスの中身です。
鍼を扱ったエビデンスレビューのなかで、委員会自身が「エビデンスの大部分は、慢性頸部痛または線維筋痛症の女性に基づくものであった」と書いています(当サイトによる訳。英語の逐語はボックス⑧)。
「英国が慢性一次性疼痛に鍼を条件付きで認めた。その判断を支えたエビデンスの主力は、慢性頸部痛の女性だった」——首の痛みを扱う鍼灸師にとって、覚えておく価値のある事実です。
ただし、次の4つはいつもセットにしてください。
- “Consider”(考慮してよい)であって “Offer”(提供する)ではない
- エビデンスの確実性は very low 〜 low が中心
- 提供する場・担当者・時間という費用の条件が、推奨文そのものに書き込まれている
- 対象は慢性一次性疼痛。原因が特定できる首の痛みは、この推奨の外側にある
「NICEが首の痛みに鍼を勧めている」という要約は、この4つを全部落としています。
なお同じNICEでも、腰痛(NG59)では鍼を推奨せず、膝の変形性関節症(NG226)では “Do not offer” としています。
日本のガイドラインについて、書けること
日本側は、事実だけを書きます。
厚生労働省の研究事業の研究班が監修した『慢性疼痛治療ガイドライン』(2018年)には、鍼灸を主題とするCQも、「統合医療」「肩こり」の章もありませんでした。
一方、2021年の『慢性疼痛診療ガイドライン』の公開されている章立てには「H.統合医療」と「L.肩こり」が置かれています。本文は開いていないため、書けるのはここまでです(確認の範囲はボックス⑧)。
エビデンスボックス⑧ ガイドライン3種の書誌と確認範囲(深く知りたい方向け・飛ばしてOK)
- National Institute for Health and Care Excellence. Chronic pain (primary and secondary) in over 16s: assessment of all chronic pain and management of chronic primary pain. NICE guideline NG193. Published 7 April 2021. 本体=https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK569960/ /Evidence review G(鍼)=https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK569984/
推奨1.2.5(逐語)=”Consider a single course of acupuncture or dry needling, within a traditional Chinese or Western acupuncture system, for people aged 16 years and over to manage chronic primary pain, but only if the course: is delivered in a community setting and is delivered by a band 7 (equivalent or lower) healthcare professional with appropriate training and is made up of no more than 5 hours of healthcare professional time (the number and length of sessions can be adapted within these boundaries) or is delivered by another healthcare professional with appropriate training and/or in another setting for equivalent or lower cost.”(当サイトによる訳:慢性一次性疼痛の管理のため、16歳以上の人に、中国式または西洋式の鍼の体系のなかで、鍼またはドライニードリングを1コース考慮してよい。ただし、そのコースが地域の場で提供され、適切な訓練を受けた band 7〔英国の医療専門職の給与等級。相当またはそれ以下〕の医療専門職によって提供され、医療専門職の時間として5時間を超えないもの〔この範囲内で回数と時間は調整できる〕である場合、または、適切な訓練を受けた別の医療専門職によって、あるいは別の場で、同等以下の費用で提供される場合に限る。)
エビデンスの構成(逐語・本文で訳を紹介した箇所)=”The majority of evidence was based on women with chronic neck pain or fibromyalgia, but that studies were also included in people with myofascial pain, vulvodynia, chronic pelvic pain and shoulder pain.”(NG193 Evidence review G: Acupuncture for chronic primary pain/当サイトによる訳:エビデンスの大部分は、慢性頸部痛または線維筋痛症の女性に基づくものであったが、筋膜性疼痛、外陰部痛、慢性骨盤痛、肩の痛みの人を対象とした研究も含まれていた。)
慢性一次性疼痛の定義(逐語)=”Chronic primary pain has no clear underlying condition or the pain or its impact is out of proportion to any observable injury or disease.”(当サイトによる訳:慢性一次性疼痛には明確な基礎疾患が無いか、痛みまたはその影響が、観察できる損傷や疾患に見合わないものである。)
質の評価(逐語・部分)=偽鍼比の疼痛(3か月以内)”Very low quality evidence from 13 studies with 1230 participants showed a clinically important benefit”/通常ケア比 “Low quality evidence from 5 studies with 234 participants showed a clinically important benefit”(加えて3,162名の1試験が moderate quality で便益)。委員会の理由づけ(逐語)=”the overall benefit of acupuncture, particularly for reducing pain and improving quality of life, in combination with the lack of harm, other than discontinuation from the therapy.”
⚠️ 推奨文が “acupuncture or dry needling” と併記していることは、「鍼=ドライニードリング」の根拠にはなりません。両者を同一視しない扱いは当サイトの既定方針です。
⚠️ 効果量(平均差・標準化平均差と95%信頼区間)は本文ページで展開できなかったため、本記事では試験数・参加者数・質の等級・便益の方向までにとどめています。 - Wong JJ, et al. Spine J. 2016;16(12):1598-1630.(PMID 26707074)書誌と逐語はボックス⑥。診療ガイドライン本体=Côté P, Wong JJ, Sutton D, et al. Eur Spine J. 2016;25(7):2000-2022(PMID 26984876)は本記事では取得できていません。検索エンジンの要約は「OPTIMaは鍼を推奨」と返しますが、同一研究班の系統的レビューの結論と方向が食い違うため、元の資料を確認するまで採用していません。
- 慢性疼痛治療ガイドライン作成ワーキンググループ 編『慢性疼痛治療ガイドライン』真興交易㈱医書出版部, 2018年3月. https://www.mhlw.go.jp/content/000350363.pdf (厚生労働行政推進調査事業費補助金 慢性の痛み政策研究事業「慢性の痛み診療・教育の基盤となるシステム構築に関する研究」研究班 監修)全6章・CQ1〜51(Ⅰ総論 CQ1-7/Ⅱ薬物療法 CQ8-21/Ⅲインターベンショナル治療 CQ22-33/Ⅳ心理的アプローチ CQ34-39/Ⅴリハビリテーション CQ40-46/Ⅵ集学的治療 CQ47-51)。目次全4ページを直接確認し、鍼灸を主題とするCQ・「統合医療」章・「肩こり」章がいずれも存在しないことを確認しました。同書の逐語(p.9)=「本ガイドラインは慢性疼痛治療の臨床に役立てるものであり、裁判などの資料には用いるものではないことをここに明記する。」(同書自身が用途を限定している例として引用)
- 慢性疼痛診療ガイドライン作成ワーキンググループ 編『慢性疼痛診療ガイドライン』真興交易㈱医書出版部, 2021年6月30日. Mindsガイドラインライブラリ c00664 https://minds.jcqhc.or.jp/summary/c00664/ /公開されている章立てに H.統合医療(CQ H-1 鍼灸治療は慢性疼痛に有用か?/CQ H-2 マッサージは慢性疼痛に有用か?)と L.肩こり(CQ L-1〜L-6。L-5=肩こりの非薬物・非侵襲療法で有用な治療法は何か?)が置かれています。🛑 本文PDFは開いていません(ビューアでダウンロード・印刷が無効化され、無断転載を禁じる記載があるため。『頭痛の診療ガイドライン2021』と同じ扱いとしました)。推奨度・エビデンス総体・推奨文は書いていません。二次情報に流通している「推奨度2・エビデンスC」という記述は、元の資料で確認していないため使っていません。
- 本記事が扱えなかった英語圏のガイドライン:Blanpied PR, et al. Neck Pain: Revision 2017. J Orthop Sports Phys Ther. 2017;47(7):A1-A83(PMID 28666405)/Bussières AE, et al. J Manipulative Physiol Ther. 2016;39(8):523-564.e27(PMID 27836071)=ともに本文が有料で、鍼の記載の有無を確認できていません。「英語圏のガイドラインは鍼に触れていない」とは書いていません。
明日から使える患者トークと自院HPの表現|「こりが取れる」「原因は自律神経」をどう扱うか
判断はできても、言葉が出てこない。
そのまま使える言い回しを3つ置いておきます。
①「首こりは鍼で取れますか」と聞かれたとき
「海外の研究の多くは、首の『痛みの強さ』や『動かしにくさ』を測っていて、日本語で言う『こり感』を直接測ったものは、まだ数が少ないんです。
測り方の目盛りができたのも最近のことで。
だから『研究でこう出ています』と言い切れる範囲は、思っているより狭いです。
そのぶん、ご本人の感じ方をこちらで記録しながら進めさせてください。」
② 首・肩の上部に刺す前に伝えること
「肩の上のあたりは、体の構造上、注意して扱う場所です。
報告されている頻度は、施術100万回あたり1回前後、肺に近い部位に限っても100万回あたり2回弱とされていて、桁としてはとてもまれです。
ただ、まれというのはゼロという意味ではありません。
もし施術のあとで、胸の痛みや息苦しさが出たら、うちに連絡するより先に、その日のうちに病院にかかってください。
そのときに『鍼を受けた』と伝えていただけると助かります。」
③「何回くらい通えばいいですか」と聞かれたとき
「研究で行われている量は、3〜4週間で5〜8回、あるいは3か月で12〜15回くらいが多いです。
ただ『何回やれば何が起きるか』を比べた研究は見あたらないので、あくまで目安です。
まず回数と期間を決めて、そこで一度、続けるかどうかを一緒に判断しましょう。」
自院ホームページでの表現:リスクの低い書き方/避けたい書き方
以下は「この書き方なら適法」と保証するものではなく、相対的にリスクが低い/高い書き方の整理です。実際の記載は最新の「あはき・柔整広告ガイドライン」本文と、所管保健所の指導をご確認ください。施術所のウェブサイトは、あはき師法・柔整師法の広告規制については原則として対象外とされていますが、医療法・薬機法・景品表示法などの他法令は及びます。詳しくは鍼灸院のホームページと広告規制の記事へ。
先に前提を置きます。
あはき師法7条の広告可能事項は限定列挙で、効能・効果や学術的根拠の記載はそもそも含まれていません。
バナー広告等からリンクされるなどしてウェブサイトが広告に該当する場合は、この制限がかかります(指針Ⅵ-1)。
つまり、ウェブサイトが広告に該当する場面では、下の「リスクが低い」例のような書き方であっても、効能・効果に触れる記載そのものが掲載できる範囲の外になります。以下は、広告に該当しない自院サイトを前提にした整理です。
そのうえで、首の痛みに触れるなら、相対的にリスクが低い形は次のとおりです。記載をおすすめするものではありません。
- リスクが低い:出典・比較対象・留保をセットで書く(例:「通常のケアのみと比べた改善が報告されていますが、比較用の偽の鍼と比べた差は小さいか示されていません」)
- リスクが低い:ガイドラインに触れるなら、強さの区分と確実性まで書く。「ガイドラインで推奨されています」への短縮は避ける(”Consider” は “Offer” ではありません)
- 避けたい:「首こりの本当の原因は自律神経の乱れです」——研究で示されていない機序を原因として断定する表現
- 避けたい:「効果大」「1回で軽くなります」「こりが取れます」——効果を保証する表現
- 避けたい:「首の痛みの原因を見極めます」——原因の判定をうたう表現
- 避けたい:「鍼と整体、どちらが優れているか」——他職種・他施設との優劣の比較
正直に言うと|この記事で書かなかったこと
このページは「見取り図」です。
書かなかったこと・書けなかったことを、理由つきで開示しておきます。
- 元の資料に到達できなかったものが3つあります。コクラン・レビューの撤回の告知、『慢性疼痛診療ガイドライン』2021年版の本文、NICE NG193 の効果量です。いずれも「確認できた範囲まで」で止め、推測で埋めていません。
- 効果量として使わなかった数値が3つあります。いずれも点推定値と信頼区間、あるいは区間とP値が整合しないためです(内訳はボックス⑤・⑦)。
- 受診をすすめる目安を網羅的な「一覧表」にしていません。頸部痛の赤旗は、ガイドライン29本を調べたレビューで一致がほとんど無く、114項目のうち102項目は根拠が機序にもとづく推論(エビデンスレベル5)にとどまるためです。載せたのは、複数の資料で一致していたものと、日本の鍼灸のガイドラインが明文で示しているものに限っています。Hoffmann徴候などの検査手技も書いていません(業務範囲の問題に加えて、ふるい分けの道具としては不十分と報告されているためです)。また、鍼と頸部動脈解離を結びつける記述はしていません。
- 火鍼・温鍼・鍼刀・浮鍼・動きながら行う鍼のデータを使っていません(日本の一般的な鍼灸院の手技ではないため)。同じ理由で、ドライニードリングも鍼と同一には扱っていません。
- 扱わなかった隣接テーマ:首から来る頭痛(頸原性頭痛)はメタ解析はあるものの主要アウトカムが「総有効率」で、著者自身が出版バイアスを検出しています。寝違え、交通事故後のむち打ち関連障害、五十肩、美容鍼も扱っていません。
- 「効かない」とも書いていません。偽鍼比で差が出ていないことは、差が無いことの証明ではないからです。同じく「有効である」とも書いていません。
エビデンスボックス⑨ 書かなかったことの根拠と、費用対効果(深く知りたい方向け・飛ばしてOK)
- 頸原性頭痛:Liu Z, Gao X, Zhang X, Qu Y. Meta-Analysis of Acupuncture Treatment for Cervicogenic Headache. World Neurosurg. 2024;189:166-173.(PMID 38768751)主要アウトカムが「総有効率」で、著者自ら出版バイアスを検出、被験者総数も不明です。/Pourahmadi M, et al. Dry Needling for the Treatment of Tension-Type, Cervicogenic, or Migraine Headaches. Phys Ther. 2021;101(5):pzab068=ドライニードリングは鍼とは別のものとして扱っています。頸原性頭痛の疼痛は 95%CI −4.69〜3.87 で効果の有無すら判定できず、GRADEは全主要アウトカムで very low。/Patil DS, Tikhile P, Gangwani N. Cureus. 2024;16(3):e57361(PMC11063809)は非薬物療法のレビューですが、鍼はほぼ対象外です。
- 日本の一般的な手技ではない介入:Jo HR, et al. Medicine. 2022;101(33):e29656(PMID 35984173/火鍼・温鍼を含む9介入のネットワークメタ解析。GRADEは全体で very low)/Lijian Z, et al. Front Pain Res. 2025;6:1654265(PMID 41322114/超音波ガイド下の鍼刀)/Ren H, et al. Medicine. 2025;104(36):e44299(PMID 40922242/浮鍼)/Kim D, et al. Medicine. 2020;99(44):e22871(PMID 33126334/動きながら行う鍼。かつ急性頸部痛が対象)/Yu B, et al. Medicine. 2024;103(45):e40415(PMID 39533561/急性の落枕。主要アウトカムが「総有効率」)/Peron R, et al. Lasers Med Sci. 2024;39(1):291(PMID 39653805/単回・即時効果のみ)。いずれも本記事では数値を使っていません。
- 神経根症状を伴う頸部痛:Zhao H, et al. Comb Chem High Throughput Screen. 2024;27(19):2951-2962(PMID 37957858)は27試験3,124名で「鍼は牽引より有意に有効」としていますが、対照が牽引のみ・中国中心で、原因が特定できる痛みは受診の見極めが先になります。存在の言及にとどめました。
- 【費用対効果】Willich SN, Reinhold T, Selim D, Jena S, Brinkhaus B, Witt CM. Cost-effectiveness of acupuncture treatment in patients with chronic neck pain. Pain. 2006;125(1-2):107-113.(PMID 16842918)n=3,451(鍼1,753/対照1,698)・対照は通常ケア。3か月の総費用差=277.47ユーロ(95%CI 175.71-379.23)、逐語=”The ICER was 12,469 euros per QALY gained.”
- 【費用対効果】Essex H, Parrott S, Atkin K, et al. An economic evaluation of Alexander Technique lessons or acupuncture sessions for patients with chronic neck pain: A randomized trial (ATLAS). PLoS One. 2017;12(12):e0178918.(PMID 29211741/PMC5718562)QALY増分 0.032(鍼)、増分費用 £451。逐語=”Acupuncture was likely to be cost-effective (ICER = £18,767/QALY bootstrapped 95% CI £4,426 to £74,562)”。⚠️ ブートストラップ信頼区間の上限 £74,562 は、英国で一般に用いられる閾値(£20,000〜30,000)を大きく超えます。
- ⚠️ 上の2本はどちらも対照が通常ケアで、偽鍼対照ではありません。「通常ケアと比べたから費用対効果が良く出ている」という構造を外して読むことはできません。アレルギー性鼻炎では、通常ケア対照と偽鍼対照の経済評価で結論が逆になった例があります。また、いずれも欧州の医療費・支払い制度に基づく試算であり、日本の料金設定の根拠にはなりません。
- Vickers AJ, et al. Acupuncture for Chronic Pain: Update of an IPD Meta-Analysis. J Pain. 2018;19(5):455-474.(PMID 29198932/PMC5927830)39試験20,827名。対象に非特異的筋骨格系疼痛(腰・頸)を含み、無治療対照比で約0.5標準偏差、偽鍼比で約0.2標準偏差、1年後の効果の減弱は約15%と報告しています。本記事では、頸部痛に限った条件別の効果量は使っていません(同論文の表の読み取りが抄録の記述と整合しないため、当サイトは数値の採用を保留しています)。
FAQ|首の痛みへの鍼で鍼灸師によくある質問
Q. 首の痛みへの鍼は、何回くらい必要と説明すればよいですか?
A. 「何回で何が起きるか」を直接比べた試験は、本記事の文献の範囲では挙げられません。示せるのは試験がどれくらいの量の施術を行ったかという目安だけなので、「回数と期間を先に決めて、そこで一度、続けるかどうかを一緒に判断する」が最も正確な説明になります(目安の数字はトーク③に置きました)。
Q. 首の痛みの鍼灸に療養費(保険)は使えますか?
A. 通知で支給対象として挙げられているのは6疾患(神経痛・リウマチ・頸腕症候群・五十肩・腰痛症・頸椎捻挫後遺症)で、首まわりでは「頸腕症候群」「頸椎捻挫後遺症」がこの列挙に含まれます。一方、6疾患以外について保険者が個別に判断するとされているのは「慢性的な疼痛を主症とする類症疾患」であり、この限定を外して読むことはできません。いずれの場合も医師の同意書が前提になります。支給の可否を施術所側で断定せず、加入保険者または所管の地方厚生局へご確認ください。この回答は公開情報にもとづく整理であり、法的・行政的な助言ではありません。範囲と手続きの詳細は鍼灸の療養費(保険)の実務ガイドで整理しています。
Q. 首の痛みに鍼が作用するしくみは説明できますか?
A. 首の痛みに固有の機序を示した資料は、本記事では扱っていません。痛み一般に対する鎮痛の機序については作用機序の記事で5つの仮説を整理していますが、仮説であって確立した説明ではありません。「自律神経の乱れが本当の原因」といった言い方は、研究で示された内容を超えています。
Q. 首の痛みへの鍼は費用対効果の面ではどうですか?
A. ドイツと英国の2本があり、どちらも「費用対効果がありそうだ」という方向でした。ただし2本とも対照が通常ケアで、偽鍼対照ではありません。英国の試算はばらつきを考慮した区間の上限が同国の一般的な閾値を大きく超えており、また海外の医療費制度に基づく数字なので、日本の料金設定の根拠にはなりません。読み方は費用対効果の記事に整理しています。
まとめ|首の痛みへの鍼を鍼灸師としてどう扱うか
- 慢性の首の痛みへの鍼は、通常ケアと比べると改善の報告があり、偽鍼と比べると差は小さいか出ていません。大規模な試験はどちらも偽鍼を置いていない非盲検の設計なので、「大規模で有効」と言うときは「対照は通常ケア」を同じ文に置きます
- この症状のコクラン・レビューは、2016年11月に撤回されたまま引用されています。撤回前の版の中心的な数字は、そのままでは計算が合いません
- 日本語の「こり」と英語の neck pain は、同じものを測っていません。訳語も定まっておらず、専用の尺度ができたのは2022年です
- 英国のガイドラインは慢性一次性疼痛に「考慮してよい」(条件付き。確実性は low〜very low が中心)。原因が特定できる首の痛みは対象外です
- 受診をすすめる首のサインに、決定版の一覧はありません。だから見分けるのではなく、「ここから先は医療機関の役割」という線を先に決めておきます
- 首・肩上部は、まれでも重い事象の報告がある部位。施術前に一言伝え、施術後の胸痛・息苦しさは受診をすすめ、受診時に施術歴を伝えてもらう運用にします
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更新履歴:本記事は初版です。参照した資料に改訂・撤回・追加があった場合、頸部痛×鍼の新しい系統的レビューが出た場合、国民生活基礎調査が更新された場合に追記します。
本記事の引用(英文・日本語とも)は著作権法32条にもとづく引用です。英文の日本語訳はすべて当サイトによるもので、他者の公式訳は用いていません。
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本記事は鍼灸師向けの学術情報の提供を目的としたものであり、特定の治療効果を保証するものではありません。効果には個人差があります。鍼灸師は疾病の診断を行う立場にはありません。首の痛みの型の判断や併存疾患の評価は医療機関の役割です。個別の患者への対応にあたっては、受診を優先すべきサインがないかを確認し、必要に応じて医療機関の受診をおすすめしてください。
【AI作成・編集責任について】本記事はAI(人工知能)が作成し、株式会社addwisteria の加藤タカシが編集責任者として内容を確認しています。引用した論文・ガイドラインの数値や推奨は改訂により変わることがあるため、実際の臨床判断では各原典の最新版をご確認ください。

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