「頭が痛いんです」。
問診票のその一行を見て、少し身構えたこと、ありませんか。
肩や首をさわれば楽になりそうな人もいれば、なんとなく引っかかる人もいます。
その「引っかかり」を、勘ではなく手順に変えるのがこのページの役割です。
この記事を読むと、どのタイプの頭痛が鍼の話をしてよい相手で、どのタイプはその場で医療機関につなぐべきかの見取り図が手に入ります。
結論(1分でわかる全体像)
頭痛への鍼で、質の高いエビデンスが積み上がっているのは緊張型頭痛と片頭痛の2つです。
群発頭痛・薬剤の使用過多による頭痛(MOH)・三叉神経痛は、状況がまったく違います。標準治療が確立していたり、鍼の根拠が症例報告レベルだったりします。
そして鍼灸師にとって最も大事な仕事は、二次性頭痛(別の病気の症状としての頭痛)を疑ったら、施術より受診を優先することです。
鍼灸師は診断できません。だからこそ「見分ける」ではなく「疑ったら送る」で統一します。
【まず押さえる6つ】施術より受診を優先するサイン(全項目は下の一覧)
1. 突然・数十秒でピークに達した、今までにない痛み
2. 発熱+首が硬い/前に曲げにくい
3. 手足の力が入らない・ろれつが回らない・視野がおかしい
4. 頭を打ったあとに始まった(高齢者は数週間後も)
5. 50歳を過ぎて初めて出てきた頭痛
6. だんだん強くなる/いつもの頭痛と明らかに性質が変わった
この6つに当てはまらない場合でも、下の一覧に該当があれば受診を優先します。残りの項目と根拠は、この下の一覧にまとめています。
危険な頭痛のサイン(レッドフラグ)は?|施術より受診をすすめる場面
ここがこの記事の核心です。
順番も、あえていちばん前に置きました。
図解:緊急度で分けた、受診をすすめる頭痛のサイン一覧
17項目を4つの層に整理しました。「|」の左が鍼灸院で聴取・観察できるサイン、右が医療機関で確認されること(疑う病態)です。
A群の行動
施術を中止/原則、救急要請を検討/本人の運転での移動はすすめない/迷ったら #7119(地域により未実施)
頭痛・発熱・項部硬直・意識変容の4症状のうち2つ以上は95%(NEJM 2004)
が緊張型頭痛様(Neurology 1993)。痛み方では腫瘍を除外できません
医師向けスクリーニング(SNNOOP10, Neurology 2019)を鍼灸院の実務に読み替えたもので、鍼灸院での有用性を検証した研究はありません。原著者自身が「レッドフラグの診断的有用性についての前向き研究は不足している」と述べています。緊急度の4層分けは本サイトの整理であり、検証された分類ではありません。Ottawa SAH Ruleは救急外来で除外に使うルールで特異度15.3%。当てはまる=出血ではありません。当てはまるときに「施術ではなく受診」を選ぶための目安です。右列は医療機関で確認される病態であり、鍼灸院で判定するものではありません。
SNNOOP10とは?鍼灸院での読み替え方
二次性頭痛のスクリーニングとして国際的に使われているのが、SNNOOP10というリストです。
2019年に Neurology 誌に掲載され、15項目のレッドフラグ(危険を示すサイン)が並んでいます。
具体的には、発熱を含む全身症状、がんの既往、神経学的な脱落症状、突然発症、50歳以降の発症、頭痛のパターン変化、体位による変化、咳やいきみでの誘発、進行性の悪化、妊娠・産褥期、外傷後の発症、免疫抑制状態、鎮痛薬の使用過多など。
ひとつでも当てはまれば「別の病気が隠れていないか」を考える、という設計です。
このリストを鍼灸院で使うときの読み替えは、ひとつだけ。
「見分けるため」ではなく、「施術より受診を先にするため」に使うということです。
エビデンスボックス① SNNOOP10の出典と、使ううえでの限界(深く知りたい方向け・飛ばしてOK)
- Do TP, Remmers A, Schytz HW, et al. Red and orange flags for secondary headaches in clinical practice: SNNOOP10 list. Neurology. 2019;92(3):134-144.(PMID 30587518 / DOI 10.1212/WNL.0000000000006697)
- デザイン:ナラティブ・レビュー(系統的レビューではない)。エビデンスレベルは専門家レビュー相当。ただし国際的に広く採用されている実務ツール。
- 著者ら自身が「前向き疫学研究の不足により、レッドフラグの診断的有用性の理解は限られている」と述べています。各項目の感度・特異度が確立しているわけではありません。
- SNNOOP10は医師の外来スクリーニング用で、鍼灸院での使用を想定して検証されたものではありません。
- 15項目のうち「乳頭浮腫(Papilledema)」は眼底検査が要るため、鍼灸師には評価できません。医療機関で確認される所見です。
― くも膜下出血を疑う場面
「今までに経験したことがない痛みが、いきなり来た」。
この訴えは、施術ではなく受診を優先する場面です。
救急外来で使われるOttawa SAH Ruleという判断ルールがあります。
40歳以上/頸部痛・項部硬直/目撃された意識消失/労作時の発症/瞬時にピークに達する痛み/診察上の頸部前屈制限、の6項目です。
JAMA 2013の検証では、このルールの感度は100%と報告されています。
※この「100%」は鍼の効果ではなく、救急外来で出血を「除外」するための判断ルールの感度です。
感度が高いのは「見逃さないための道具」だから。
逆に特異度が低いので、当てはまったからといって出血とは限りません。
だからこそ、鍼灸院での使い方はシンプルです。
当てはまる項目があるなら、施術ではなく受診。それだけです。
― 髄膜炎を疑う場面
「3つそろっていないから大丈夫」は、残念ながら誤りです。
オランダの前向きコホート(NEJM 2004、細菌性髄膜炎696エピソード)では、古典的3徴(発熱・項部硬直・意識変容)がそろっていたのは44%だけでした。
一方で、頭痛・発熱・項部硬直・意識変容の4つのうち2つ以上は95%に存在しました。
つまり運用はこうなります。
頭痛・発熱・首の硬さ・意識のもうろうを含めた4つのうち2つあれば送る。そろうのを待たない、ということです。
痛み方では腫瘍を除外できない
ここは、いちばん誤解されているところかもしれません。
脳腫瘍の患者111例を調べた研究(Neurology 1993)では、頭痛があったのは48%。
そしてその頭痛の性状は、77%が緊張型頭痛様でした。
「朝方に強くて、だんだん悪化する」という教科書的イメージ。
それに当てはまらない頭痛のほうが、むしろ多かったわけです。
結論は明快です。
頭痛の”痛み方”で腫瘍を除外することはできません。
除外は画像検査の仕事であって、鍼灸師の仕事ではありません。
ただし逆の誤読も避けたいところです。
これは「頭痛の48%が腫瘍」という話ではありません。すでに腫瘍と診断された人を後から見た研究です。
「頭痛はすべて画像検査へ」でもなく、レッドフラグや神経症状があるときに送る、というバランスになります。
【一覧】緊急度で分けた、受診をすすめるサイン
17項目をフラットに並べても、施術中には思い出せません。
そこで緊急度で4つの層に分けました。
いずれも、SNNOOP10などをもとに鍼灸院で聴取・観察できる項目だけに絞ったものです。
A:その場で救急要請を検討
- 突然、数秒〜1分でピークに達する激しい頭痛(今までにない痛み)
- その頭痛が労作中(運動・排便など)に始まった/頭痛とともに意識を失った(目撃されている)/首の痛み・首の硬さ・首を前に曲げにくいをともなう
- 発熱をともなう頭痛+首の硬さ、または意識のもうろう
- 手足に力が入らない・しゃべりにくい・視野がおかしい・意識がはっきりしない
A群の行動:その場で施術を中止し、原則として救急要請を検討します。ご本人の運転での移動はすすめません。判断に迷ったら #7119(救急安心センター事業)という選択肢もあります。ただし未実施の地域があるため、自院の所在地で利用できるかを事前に確認しておいてください。
B:今日〜数日中に受診をすすめる
- 50歳以降に初めて出てきた頭痛
- だんだん強くなる/頻度が増える/いつもの頭痛と明らかに性質が変わった
- 頭部外傷のあとに始まった頭痛(高齢者では数週間後の発症も)
- がんの既往がある
- 免疫を抑える治療中、または免疫不全がある
- 妊娠中・産後
- 横になる・起き上がるで変わる頭痛
- 咳・くしゃみ・いきみ・運動で誘発される頭痛
C:次回の受診で相談してもらう
- 鎮痛薬を月10日(トリプタン等)/月15日(市販薬)以上、3か月以上使っている
- 頭痛が月15日以上ある(慢性化している)
※未受診の方であれば、Cも「受診をすすめる」に格上げして扱います。
D:タイプとして送る
- 片側の目の奥の激痛が15〜180分続き、同じ側の涙・鼻水・充血・まぶたの下がりをともなう。じっとしていられない → 頭痛を診る医療機関へ
- 顔面の電撃のような一瞬の激痛が、洗顔・歯みがき・食事で誘発される → 顔面の痛みとして医療機関へ
この一覧の限界:医師向けのスクリーニング(SNNOOP10, Neurology 2019)を鍼灸院の実務に読み替えたもので、鍼灸院での有用性を検証した研究はありません。原著者自身が「レッドフラグの診断的有用性についての前向き研究は不足している」と述べています。またOttawa SAH Ruleは救急外来で「除外」に使うルールで、特異度は15.3%です。当てはまる=出血、ではありません。当てはまるときに「施術ではなく受診」を選ぶ、という使い方をしてください。緊急度の3層分けは、実務で思い出しやすくするための本サイトの整理であり、検証された分類ではありません。
エビデンスボックス② SAH・髄膜炎・脳腫瘍の一次データ(深く知りたい方向け・飛ばしてOK)
- Perry JJ, et al. Clinical decision rules to rule out subarachnoid hemorrhage for acute headache. JAMA. 2013;310(12):1248-1255.(PMID 24065011)カナダ10大学病院ER、成人2,131例、うち132例(6.2%)がSAH。Ottawa SAH Rule:感度100%(95%CI 97.2-100.0)/特異度15.3%(95%CI 13.8-16.9)。
限界:意識清明・神経学的異常なしの急性頭痛患者に「除外」目的で使うルール。特異度が低いため陽性の大半はSAHではない。鍼灸院で「陽性=出血」と判断する道具ではない。 - Hoh BL, et al. 2023 Guideline for the Management of Patients With Aneurysmal Subarachnoid Hemorrhage. Stroke. 2023;54(7):e314-e370.(PMID 37212182)AHA/ASAの最新ガイドライン。
- van de Beek D, et al. Clinical features and prognostic factors in adults with bacterial meningitis. N Engl J Med. 2004;351(18):1849-1859.(PMID 15509818)市中感染性細菌性髄膜炎696エピソード。古典的3徴(発熱・項部硬直・意識変容)がそろったのは44%、頭痛・発熱・項部硬直・意識変容の4症状中2つ以上は95%。個別頻度は頭痛87%/項部硬直83%/発熱77%/意識変容69%。全体死亡率21%。
限界:1998-2002年のオランダ、成人・培養陽性例に限定。ワクチン普及後の日本の疫学とは異なる可能性。 - Forsyth PA, Posner JB. Headaches in patients with brain tumors: a study of 111 patients. Neurology. 1993;43(9):1678-1683.(PMID 8414011)脳腫瘍111例。頭痛は48%に存在。性状は緊張型頭痛様77%/片頭痛様9%/その他14%。前屈で増悪32%、悪心・嘔吐を伴うもの40%。
限界:1993年、単施設、すでに腫瘍と診断された患者の後ろ向き解析。未診断集団での事前確率を示すものではない。 - 補強:Palmieri A, et al. Update on headache and brain tumors. Cephalalgia. 2021(DOI 10.1177/0333102420974351)。原発性脳腫瘍で頭痛が初発症状となる頻度は比較的低く、画像検査はレッドフラグまたは神経症状を伴う患者に限るべき、という趣旨。
- 50歳以降の新規発症について:SNNOOP10では巨細胞性動脈炎が第一に挙げられています。なお2022 ACR/EULARの基準は「分類基準」であって診断基準ではないため、本記事では受診をすすめる判断の道具としては扱いません。
頭痛の患者の7〜8割は未受診|なぜ鍼灸院に「地図」が要るのか
意外かもしれませんが、頭痛のある人の多くは病院に行っていません。
日本の調査では、片頭痛のある人のうち「頭痛で医師にかかったことがない」人が7〜8割。1997年の全国調査でも、2022年の健保組合データでも、同じ傾向でした。
つまり、あなたのところに来ている頭痛の人も、医師にかかっていない可能性が高いということです。
だから「鍼が効くか」より先に、「これは鍼の話をしてよい頭痛か」を見る順番になります。
エビデンスボックス③ 疫学データの出典と限界(深く知りたい方向け・飛ばしてOK)
- Sakai F, Igarashi H. Prevalence of migraine in Japan: a nationwide survey. Cephalalgia. 1997;17(1):15-22.(PMID 9051330 / DOI 10.1046/j.1468-2982.1997.1701015.x)全国横断疫学調査、15歳以上4,029名。片頭痛の1年有病率8.4%(前兆なし5.8%/前兆あり2.6%)=およそ12人に1人。69.4%が頭痛で医師にかかったことがない。自分の頭痛が片頭痛だと認識していたのは11.6%のみ。
限界:1997年(ICHD初版基準)、クォータサンプリングで真の無作為抽出ではなく、自己報告ベース。約30年前のデータ。 - Takeshima T, et al. Population-based door-to-door survey of migraine in Japan: the Daisen study. Headache. 2004;44(1):8-19.(PMID 14979878)住民悉皆・戸別訪問、成人5,758名。片頭痛の1年有病率6.0%(95%CI 5.4-6.6)。受診率は前兆あり7.3%/前兆なし5.3%。
限界:鳥取県の単一地域で全国代表性なし。 - Sakai F, Hirata K, Igarashi H, et al. J Headache Pain. 2022;23(1):70.(PMID 35733104 / DOI 10.1186/s10194-022-01439-3)健保組合加入者21,480名のレセプト+オンライン調査。片頭痛(疑い含む)有病率3.2%、受診したことのない片頭痛患者81.0%。
限界:就労世代中心で高齢者・非就労者を含まない。有病率が1997年調査と大きく異なることは、調査法によって推定が変わることを示している。 - Husøy AK, et al. J Headache Pain. 2025;26(1):204.(PMID 41057756)17か国41,614名のIPDメタ解析。何らかの頭痛の1年有病率65.0%(95%CI 64.6-65.5)。
限界:日本は17か国に含まれない。日本の数字として引用してはいけない。
※本文の「7〜8割」は、上記1997年調査の69.4%と2022年調査の81.0%を丸めた表現です。日本の緊張型頭痛の有病率については、本記事では数値を出していません。よく引用される数字の一次出典(査読論文・公的統計)に到達できなかったためです。
頭痛にはどんな種類があるの?
医療機関では、国際頭痛分類(ICHD-3)という共通の地図が使われています。
2018年に Cephalalgia 誌に掲載され、日本頭痛学会が日本語版を公開しています。
図解:国際頭痛分類(ICHD-3)による頭痛のタイプ別見取り図
中央にあるのは「頭痛」。そこから一次性と二次性に分かれ、三叉神経痛は別枠に置かれています。
片頭痛・緊張型頭痛 鍼の主戦場 / 群発頭痛 送る
二次性頭痛全般・MOH 送る
三叉神経痛 送る
模式図です。ICHD-3は医師が診断に用いる分類であり、鍼灸師が診断に使うものではありません。本図は分類名のレベルにとどめ、診断基準の条文は扱っていません。ピルの表示は「施術を続けるか、受診をすすめるか」の目安です。
大づかみに言うと、頭痛は2つに分かれます。
ひとつは一次性頭痛。頭痛そのものが病気であるタイプです。
もうひとつは二次性頭痛。別の病気があって、その症状として頭が痛いタイプです。
そのうえで、鍼灸院の実務で押さえておきたいのは2つだけ。
群発頭痛は、片頭痛や緊張型頭痛とは別のグループです。
同じ「一次性頭痛」でも扱いがまったく違います。
そして三叉神経痛は、そもそも頭痛の分類に入っていません。
「顔面の痛み」として、別の枠で扱われています。
限界・留保:ICHD-3は医師が診断に用いる分類です。鍼灸師が診断に使うものではありません。ここでは「医療機関ではこう整理されている」という地図として紹介しています。本記事では診断基準の条文は扱わず、分類名のレベルにとどめています。
エビデンスボックス④ ICHD-3の構造と階層番号(深く知りたい方向け・飛ばしてOK)
- Headache Classification Committee of the IHS. The International Classification of Headache Disorders, 3rd edition. Cephalalgia. 2018;38(1):1-211.(DOI 10.1177/0333102417738202)
- 日本語版:日本頭痛学会・国際頭痛分類委員会「国際頭痛分類 第3版(ICHD-3)日本語版」(https://www.jhsnet.net/kokusai_new_2019.html)
- 第1部 一次性頭痛:1.片頭痛/2.緊張型頭痛/3.三叉神経・自律神経性頭痛(TACs=群発頭痛はここ)/4.その他の一次性頭痛疾患
- 第2部 二次性頭痛:5.頭頸部外傷・傷害/6.頭頸部血管障害/7.非血管性頭蓋内疾患/8.物質またはその離脱(=MOHはここ)/9.感染症/10.ホメオスターシス障害/11.頭蓋骨・頸・眼・耳・鼻・副鼻腔・歯・口等の障害/12.精神疾患
- 第3部:13.有痛性脳神経ニューロパチーおよび他の顔面痛(=三叉神経痛はここ)/14.その他
限界:ichd-3.org は実在を確認していますが、本記事作成時に本文の全文取得ができなかったため、診断基準の逐語引用は行っていません。原文確認は『国際頭痛分類 第3版』日本語版(医学書院)をご参照ください。
鍼のエビデンスがあるのは、どのタイプ?
ここまで安全の話をしてきました。
では、鍼の話をしてよい相手はどこでしょうか。
答えは緊張型頭痛と片頭痛の2つです。
どちらもCochraneレビュー(2016年)があり、中等度の質で結果が示されています。
ただし、読み方には注意が要ります。
無治療や通常ケアと比べれば明確に良い。けれど偽鍼(にせの鍼)と比べると差は小さい。
この二重性は膝OAや腰痛と同じ構図です。
「効かない」でも「よく効く」でもなく、その中間を正確に伝える必要があります。
反応率やNNTB(何人に施術すれば1人が反応するか)といった具体的な数値と、患者説明の組み立ては、それぞれの子記事にまとめています。
限界・留保:偽鍼との差は小さく、「無治療より良い」と「偽鍼より良い」は別の話です。また片頭痛のCochraneレビューは2025年にプロトコル(PMID 39932102)が公開されており、改訂作業が進んでいます。結果は将来更新されうるものとしてお読みください。
鍼が主役にならないタイプは?
「やらない判断」も専門性です。
ここでは3つのタイプを、根拠つきで見ていきます。
図解:頭痛のタイプ別に見た鍼のエビデンスの階層の比較
タイプごとに、参照できる研究の階層がまったく違います。バーの長さは階層の模式です。
プラセボは20%(JAMA 2009・二重盲検RCT 109例)
プラセボは17%(Cochrane 2013)
バーの長さは根拠の階層を表す模式であり、効果の大きさではありません。「確認できない」は「効かないと証明された」という意味ではなく、群発頭痛・MOHでは鍼を否定する質の高い研究も見当たりません。片頭痛・緊張型頭痛でも偽鍼との差は小さいと報告されています。数値の内訳は子記事を参照してください。
群発頭痛に鍼のエビデンスはある? ― 気づいて送る領域
片側の目の奥をえぐるような激痛が15〜180分続き、同じ側の涙・鼻水・充血・まぶたの下がりを伴う。
じっとしていられない。
このパターンを聞いたら、群発頭痛が候補に上がります。
有病率は生涯で約1,000人に1人。
片頭痛と比べると桁が2つ違うので、遭遇する機会はまれです。
でも、まれだからこそ見落とせません。
鍼のエビデンスはどうか。正確に書きます。
2026年7月時点でPubMedを検索した範囲では、システマティックレビュー(複数の研究を系統的に集めて評価したもの)やメタ解析は1件も見つかりませんでした。
ランダム化比較試験は中国語の1本(180例)が確認できましたが、偽鍼も無治療も標準治療も対照に置いていません。鍼のやり方どうしを比べた研究で、「鍼が群発頭痛に効くか」を検証したものではないのです。
あとは症例報告と症例集積が中心です。
一方、標準治療は速くて大きい。
高流量酸素は15分後に78%が無痛(プラセボ20%)。
皮下スマトリプタン6mgは15分後に48%が無痛(プラセボ17%)。
日本では在宅酸素療法のガイドラインも整備されています。
つまり、受診すれば具体的な手段があるのです。
発作が15〜180分・1日最大8回という時間軸は、予約して通う施術とはそもそも噛み合いません。
群発頭痛が疑われたら、鍼で様子を見るのではなく、頭痛を診る医療機関へつなぐ。これが鍼灸師の役割です。
薬剤の使用過多による頭痛(MOH/旧称:薬物乱用頭痛)
これは分類上、二次性頭痛です。
「鍼が効くか」を語る前に、原因である薬の使い方を整理することが治療の本筋になります。
問診で拾えるサインは具体的です。
市販の鎮痛薬を月15日以上、あるいはトリプタン・複合鎮痛薬などを月10日以上、それが3か月以上続いている。
頭痛自体も月15日以上ある。
ここで大事なのは、鍼灸師が「薬をやめましょう」と言わないことです。
中止時には一時的に頭痛が強くなるなどの離脱症状(数日〜10日程度)が起こりうるため、自己判断での中断はリスクを伴います。
やることは「服薬日数を聴き取り、気づいたら受診をすすめる」まで。
日本のガイドラインでの扱いも、正確に押さえておきましょう。
全日本鍼灸学会雑誌の解説論文(菊池ら2022)によれば、MOHを扱うCQ Ⅵ-3には鍼灸に関する推奨やエビデンスの確実性についての記述はありません。
ただし、MOHを含む慢性片頭痛への鍼治療が予防薬(トピラマート)とほぼ同等に頭痛日数を減らしたという研究が引用され、効果が期待されると述べられています。
つまり「MOHにも鍼が推奨されている」とは言えません。
言えるのは、選択肢として言及はあるけれど、鍼灸に対する推奨や確実性は示されていないまで。ここは盛らないでおきます。
なお同論文は、患者と接する時間が長い鍼灸師が、薬の使い方と頭痛の慢性化について正しい情報を伝える役割を担える可能性にも触れています。
「やめさせる」ではなく「気づいて、つなぐ」。ここが現実的な関わり方です。
三叉神経痛に鍼は使える? ― そもそも頭痛の章ではない
顔面の電撃のような一瞬の激痛が、洗顔や歯みがき、食事で誘発される。
これが三叉神経痛の典型像です。
ここで決定的なのは、EAN(欧州神経学会)のガイドライン自身が「臨床像だけでは二次性を除外できないため高解像度MRIを推奨する」という趣旨を明記していることです。
腫瘍や多発性硬化症が背景にあることがあるからです。
専門医のガイドラインが「見た目では分からない」と書いている以上、鍼灸院で判断できる話ではありません。
鍼のエビデンスは「乏しい」というより「量はあるが質が低い」が正確です。
レビューは13件ありますが、それらを評価したオーバービュー(2024年)では、質の評価はどれも低いという結果でした。
エビデンスボックス⑤ 群発頭痛・MOH・三叉神経痛の根拠(深く知りたい方向け・飛ばしてOK)
- 群発頭痛の疫学:Fischera M, et al. Cephalalgia. 2008;28(6):614-618(PMID 18422717)。住民ベース研究のメタ解析。生涯有病率124/10万人(95%CI 101-151)=著者要約で「約1,000人に1人」。1年有病率53/10万人。男女比4.3:1。限界:2008年、組み入れ研究の診断基準・調査法が不均一、信頼区間が広い。
- 群発頭痛への鍼:PubMedで “cluster headache”[Title] AND acupuncture[Title/Abstract] を実行し全6件を確認(2026年7月時点)。RCTはZai FL, et al. Zhongguo Zhen Jiu. 2022;42(6):603-607(PMID 35712941)の1件のみ。反復性群発頭痛180例を3群(通常鍼60/蝶口蓋神経節60/併用60)に割付。シャム鍼群・無治療群・標準治療対照のいずれもなし。主要評価は「総有効率」(併用93.0% vs 75.9% vs 73.7%)。限界:言語バイアス、主観的な複合アウトカム、盲検化なし、対照が同種介入のみ、短期追跡、出版バイアス。鍼を主題とするSR/メタ解析は、2026年7月時点のPubMed検索の範囲では1件も見つかりませんでした。また1989年の報告(Hardebo JE, et al. Headache. 1989;29(8):494-497、PMID 2529227)では、鍼は頭痛予防にほとんど価値がなかったとされています。
※「効かないことが示された」ではありません。否定的なRCTも見当たらず、「有効性を示す質の高い根拠が確認できない」が正確な状態です。 - 群発頭痛の標準治療:Robbins MS, et al. Headache. 2016;56(7):1093-1106(PMID 27432623)。米国頭痛学会のエビデンスに基づくガイドライン。急性期は皮下スマトリプタン・ゾルミトリプタン点鼻・高流量酸素がレベルA。抄録上、鍼への言及はありません(=評価対象に入っていない)。/Cohen AS, et al. JAMA. 2009;302(22):2451-2457(PMID 19996400):二重盲検RCT、109例。15分後の無痛達成率 酸素78% vs プラセボ20%(P<.001)。/Law S, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2013;(7):CD008042(PMID 24353996):皮下スマトリプタン6mgで15分後に48%が無痛(プラセボ17%)。/日本頭痛学会「群発頭痛の在宅酸素療法(HOT)ガイドライン」2018。
- MOH:Kebede YT, et al. Front Pain Res. 2023;4:1194134(PMID 37614243、オープンアクセス)。ICHD-3 8.2の骨子=もともと頭痛疾患のある人に月15日以上の頭痛があり、エルゴタミン/トリプタン/オピオイド/複合鎮痛薬は月10日以上、単純鎮痛薬(アセトアミノフェン・アスピリン・NSAIDs)は月15日以上の使用過多が3か月を超えて続く。頻度は一般人口で1〜2%、頭痛専門施設の患者では30〜50%。中止時に2〜10日で離脱症状が起こりうる。
鍼のエビデンス:PubMedで “medication overuse headache”[Title] AND acupuncture[Title/Abstract] を実行し該当2件のみ(ナラティブレビュー1件+症例報告1例)。MOHを主題としたRCT・SR/メタ解析は確認できませんでした。
※菊池ら2022によれば、CQ Ⅵ-3ではMOHを含む慢性片頭痛を対象としたRCT(Yang CP, et al. Acupuncture versus topiramate in chronic migraine prophylaxis: a randomized clinical trial. Cephalalgia. 2011;31(15):1510-1521)が引用され、鍼治療がトピラマート投与とほぼ同等に頭痛日数を減少させたと紹介されています。MOH単独を対象とした試験ではありません。同CQに鍼灸の推奨・エビデンスの確実性の記述はない、と同論文は明記しています。
限界:ICHD-3の条文は本記事作成時に原文取得ができず、上記オープンアクセス総説の記載に基づいています。 - 三叉神経痛:Bendtsen L, et al. European Academy of Neurology guideline on trigeminal neuralgia. Eur J Neurol. 2019;26(6):831-849(PMID 30860637)。臨床像だけでは二次性を除外できないため高解像度MRIを推奨する趣旨を明記。長期治療の第一選択はカルバマゼピンまたはオクスカルバゼピン。薬物で制御できない場合、古典的TNでは微小血管減圧術が第一選択の手術。/He HX, et al. Front Neurol. 2024;15:1375587(PMC11258042):SR/MA 13件のオーバービュー。AMSTAR-2(システマティックレビューの方法論的な質を評価する尺度)はcritically low 6件・low 7件(high/moderateはゼロ)、GRADEはhighゼロ・moderate 1・low 4・critically low 8。著者らは「有望さを示すが、方法論的品質・エビデンス品質ともに総じて低く、結論の解釈には慎重さが必要」と結論。限界(原著が明記):試験の大半が中国発、対照の多くがカルバマゼピンでプラセボ対照でない、出版バイアス、盲検化の困難。
限界・留保:「エビデンスがない」は「効かないと証明された」ではありません。群発頭痛・MOHについては、鍼を否定する質の高い研究も見当たりません。現時点で言えるのは「有効性を示す質の高い根拠が確認できない」までです。
【判断表】鍼の対象か、受診をすすめるか
いよいよ実務です。
前提を先に置きます。鍼灸師は診断できません。
この表は診断表ではなく、「施術を続けるか、受診をすすめるか」の目安です。
図解:鍼の施術を続けるか受診をすすめるかの判断フロー
上から順に確認します。ひとつでも該当したら、その時点で受診が先です。
- 1
受診をすすめるサイン(A〜B群)はあるか?
ひとつでもあれば、施術より受診を優先します。A群はその場で施術を中止し、原則として救急要請を検討します。 - 2
鎮痛薬は月10日/月15日以上を3か月以上使っていないか?
該当すればMOHを念頭に受診をすすめます。服薬の中断は鍼灸師からすすめません。 - 3
群発頭痛らしい発作/顔面の電撃痛はないか?
該当すれば医療機関へつなぎます。群発頭痛は酸素・スマトリプタン、顔面の痛みはMRIと薬物治療が標準です。 - 4
すべて該当なし → 医療機関での診断状況を確認したうえで、期限を決めて施術を組み立てる
すでに緊張型頭痛/片頭痛と診断されている場合は、診断を前提に回数と期間を決めて評価します。未受診・未診断の場合は、受診をすすめたうえで、並行して期限を区切って施術を組みます。頭痛の型を判断するのは医療機関の役割です。
このフローは診断のためのものではありません。本図は頭痛の型を決めるためのものではありません。型の判断は医師が行います。鍼灸師は診断を行う立場になく、「施術を続けるか、受診をすすめるか」を決めるための目安です。該当項目がゼロでも二次性頭痛を除外したことにはなりません。経過中に痛み方が変わったら、その時点で受診をすすめてください。
| 頭痛のタイプ | 鍼灸院での基本スタンス | ひとこと理由 |
|---|---|---|
| 緊張型頭痛 | 鍼の主戦場 | 無治療との比較では明確に良い。ただし偽鍼との差は小さい |
| 片頭痛 | 鍼の主戦場(受診とセットで) | 同じ二重性。未受診が7〜8割なので受診の確認から |
| 群発頭痛 | 送る | 標準治療が速く大きい。鍼のSR/メタ解析は確認できず |
| 薬剤の使用過多による頭痛(MOH) | 送る | 分類上は二次性。薬の使い方の整理が本筋 |
| 三叉神経痛 | 送る | 顔面の痛みの枠。二次性の除外にMRIが要る |
| 二次性頭痛全般 | 送る | 原疾患の治療が本筋 |
緊張型頭痛と片頭痛の2行については、数値の読み方・回数の目安・患者説明の組み立てを個別記事にまとめています。
エビデンスボックス⑥ 各タイプのICHD-3上の位置と根拠の状態(深く知りたい方向け・飛ばしてOK)
- 緊張型頭痛=第1部 2./Linde K, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2016;(4):CD007587(PMID 27092807)。12試験2,349名、GRADE中等度。数値の内訳は子記事参照。
- 片頭痛=第1部 1./Linde K, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2016;(6):CD001218(PMID 27351677)。22試験4,985名、GRADE中等度。改訂プロトコル(CD015528, PMID 39932102)が2025年に公開済み。数値の内訳は子記事参照。
- 群発頭痛=第1部 3.(TACs)/SR・メタ解析は確認できず。RCTは中国語1件のみで、対照設定上、有効性の検証にはなっていない。標準治療は高流量酸素・皮下スマトリプタン等がレベルA。
- 薬剤の使用過多による頭痛(MOH)=第2部 8.(二次性頭痛)/RCT・SRは確認できず(症例報告1例+ナラティブレビュー1件)。原因薬剤の整理+薬物・非薬物サポートが標準。
- 三叉神経痛=第3部 13.(有痛性脳神経ニューロパチーおよび他の顔面痛)/SR 13件はすべてlowまたはcritically low、GRADE highはゼロ。標準はカルバマゼピン等、難治例は微小血管減圧術。二次性の除外にMRIが要る。
- 二次性頭痛全般=第2部 5.〜12./原疾患の治療が本筋。
日本のガイドラインは鍼をどう位置づけている?|『頭痛の診療ガイドライン2021』
「日本のガイドラインには、鍼のことは書かれているんですか?」
患者さんからより、同業の方から聞かれる質問かもしれません。
答えは「はい」。ただし当編集部はガイドライン本文を直接確認していないため、以下は解説論文(菊池ら2022)の報告に基づきます。
ただ、その中身を正確に知っておくことのほうが大事です。
ここで使う出典は、ガイドライン本文ではありません。
全日本鍼灸学会雑誌に掲載された解説論文(菊池ら2022)です。ガイドライン作成に関わった研究者を含む著者が、鍼灸に関わるCQ(クリニカルクエスチョン=診療上の疑問と、それへの回答の単位)を整理したものです。
同論文によれば、2013年版からの最大の変更点はこれです。
片頭痛・緊張型頭痛・薬剤の使用過多による頭痛(MOH)の治療を選ぶときの「選択肢の一つ」として記載されたこと。
片頭痛と緊張型頭痛については、予防のフェイズでも発作のフェイズでも、非薬物療法として取り上げられているとされます。
ただし、ここで盛らないことが大事です。
同論文の小括は、エビデンスの確実性はCであり、今後よりエビデンスレベルの高い臨床試験が必要と述べています。
一般にエビデンスの確実性はA(高い)〜D(非常に低い)で示され、Cは「低い」に相当するとされます。「記載された」と「根拠が強い」は別の話ですよね。
CQごとの位置づけを一覧で
菊池らが本文で個別に解説しているCQは、次の8つです。
| CQ | 何を扱うCQか | 菊池ら2022が報告する鍼灸の位置づけ |
|---|---|---|
| Ⅰ-22 | 頭痛診療にチーム医療は必要か | 全体は弱い推奨/確実性B(多職種の介入が専門医単独より効果が高い)。多職種のメンバーに鍼灸師が含まれる |
| Ⅰ-15 | 薬物療法以外にどのような治療があるか | 鍼灸は有酸素運動・カイロプラクティックと並び理学療法の一つとして記載(推奨:該当なし) |
| Ⅱ-2-11 | 片頭痛の急性期治療の「その他」 | 補完代替医療として鍼灸(弱い推奨/確実性B)。副作用・使用中の薬剤との相互作用の考慮が必要(弱い推奨/確実性C) |
| Ⅱ-3-3 | 片頭痛予防療法のゴール設定 | ニューロモデュレーション・認知行動療法・有酸素運動とともに非薬物療法として記載(弱い推奨/確実性B) |
| Ⅲ-4 | 緊張型頭痛の治療はどのように行うか | 全体は強い推奨/確実性は個別。非薬物療法の一つに鍼灸。鍼灸の確実性はC(個々の研究の質が低いため) |
| Ⅲ-6 | 緊張型頭痛の予防療法 | 筋電図バイオフィードバック・頭痛体操・認知行動療法・頸部指圧などと並んで記載(エビデンスの確実性なしと記載) |
| Ⅲ-7 | 緊張型頭痛の薬物療法以外の治療 | 薬物を用いにくい患者や薬物療法との併用で考慮(弱い推奨/確実性は個別)。鍼灸の確実性はC |
| Ⅵ-3 | 薬剤の使用過多による頭痛(MOH) | 鍼灸に関する推奨・エビデンスの確実性の記述はない。ただしMOHを含む慢性片頭痛への鍼治療の研究が引用され、効果が期待されると述べられている |
表を見ると、ひとつ気づくことがあります。
片頭痛の側は確実性B、緊張型頭痛の側はC。 同じ「非薬物療法の選択肢」でも、根拠の評価は同じではないのです。
ただし、読み替えには注意が要ります。
個別のCQにBと記載があっても、同論文の小括は全体を「確実性C」と総括しています。
また推奨や確実性は、鍼灸を含む非薬物療法のまとまりに付されている箇所もあります。「鍼だけがBの評価を得た」とは読まないでおきましょう。
チーム医療のCQに「鍼灸師」が入っている
鍼灸師としていちばん押さえておきたいのは、CQ Ⅰ-22かもしれません。
菊池らによれば、このCQは弱い推奨/確実性Bで、多職種の介入が頭痛専門医単独の介入より効果が高いことが示されているとされます。
そしてその多職種のメンバーに、鍼灸師が名前を連ねていると報告されています。
同論文は、急性期・予防のいずれのフェイズでも鍼灸師がチームとして関わるときのほうが推奨度は高いと述べています。
非薬物療法は複数を組み合わせると効果が高くなる、とも。
つまり「鍼だけで完結させる」より、「受診を前提に、組み合わせの一つとして関わる」ほうが、日本のガイドラインの建て方と噛み合うわけです。
この記事が最初から「疑ったら送る」で統一しているのも、結局は同じ方向を向いています。
出典の扱いについて:本節の記述はすべて、全日本鍼灸学会雑誌の解説論文(菊池ら2022・オープンアクセス)に基づいています。当編集部は『頭痛の診療ガイドライン2021』本文を直接確認していません(公開ページに転載・AI利用の制限があるため)。CQ番号・推奨の強さ・エビデンスの確実性は同論文の記載を引用したものであり、ガイドライン本文からの引用ではありません。原文の確認は書籍版をご参照ください。
また同論文の抄録は「9つのCQで推奨された」と要約していますが、本文で個別に解説されているのは上表の8つです。本記事では件数を断定していません。推奨や確実性は改訂により変わりうるため、引用時は最新版の原典をご確認ください。
エビデンスボックス⑦ 菊池ら2022の書誌と読むうえでの注意(深く知りたい方向け・飛ばしてOK)
- 菊池友和, 山口智, 久保亜抄子, 松浦悠人, 荒木信夫「頭痛の診療ガイドライン2021の出版にあたり Clinical question の鍼灸治療推奨からみる今後の展望」全日本鍼灸学会雑誌. 2022;72(1):4-13.(DOI: 10.3777/jjsam.72.4 / J-STAGE・オープンアクセス)
- 種別:解説(commentary)。システマティックレビューやRCTではありません。ガイドラインの鍼灸関連CQを整理・紹介した論文で、著者にはガイドラインの引用文献に採用された研究の実施者が含まれます。
- 著者所属:日本鍼灸理療専門学校/東洋医学研究所/埼玉医科大学東洋医学科/東京有明医療大学/よみうりランド慶友病院。
- 抄録と本文の食い違い:抄録は「9つのclinical questionで推奨された」「片頭痛/緊張型頭痛/MOHにおいて予防・発作いずれのフェイズでも推奨された」と要約していますが、本文のCQ Ⅵ-3(MOH)の項では「鍼灸治療に関する推奨やエビデンスの確実性についての記述はない」と明記されています。本記事は本文の記述を採用し、MOHについて「推奨された」とは書いていません。
- 同論文がCQ Ⅲ-4・Ⅲ-7の根拠として挙げる鍼灸の文献は、12試験2,349例の緊張型頭痛SR=Linde 2016(Cochrane CD007587)です。本サイトの緊張型頭痛の記事が扱っている論文と同一です。
- CQ Ⅵ-3で引用されている研究:Yang CP, et al. Acupuncture versus topiramate in chronic migraine prophylaxis: a randomized clinical trial. Cephalalgia. 2011;31(15):1510-1521。MOHを含む慢性片頭痛が対象で、MOH単独の試験ではありません。
- 限界:①ガイドライン本文の一次確認は当編集部では行えていません(本論文の記述を通じた間接的な把握です)。②解説論文であり、推奨の強さや確実性の判定そのものを検証したものではありません。③同論文自身が小括で「エビデンスの確実性はCであることから、今後はよりエビデンスレベルの高い臨床試験によりエビデンスの確実性を上げていく必要がある」と述べています。個別CQにBと記載された箇所があっても、全体の総括はCです。④推奨の強さと確実性は、鍼灸単独に付されたものとは限りません。Ⅰ-22・Ⅱ-3-3・Ⅱ-2-11などでは、鍼灸を含む多職種介入・非薬物療法・補完代替医療のまとまりに対する記載として紹介されています。⑤鍼灸専門誌に掲載された鍼灸領域の著者による解説であり、記述の重点の置き方には立場の影響がありうる点も踏まえてお読みください。
明日から使える患者トークと、自院HPでの書き方
判断はできても、言葉が出てこない。よくあることですよね。
そのまま使える言い回しを4つ置いておきます。
①「送る」と伝えるとき
「今日のお話をうかがった感じだと、鍼で様子を見るより先に、一度お医者さんに診てもらったほうがいい内容が入っていました。
施術は、そのあとで組み立てましょう。」
②「鍼を試す価値がある」と伝えるとき(緊張型・片頭痛)
「肩や首のこりをともなう頭痛で、受診をすすめるサインがない場合や、医療機関で片頭痛と診断されている方の予防については、鍼の研究がいくつも出ています。
何もしない場合と比べれば良い結果が報告されていますが、効き方には個人差があります。
まず回数の目安を決めて、頭痛の日数が減るかどうかを一緒に確認していきましょう。」
③ 鎮痛薬の使用日数を聴くとき
「頭痛薬は、ひと月に何日くらい飲まれていますか。
実は薬の飲む”日数”が増えると、それ自体が頭痛を長引かせてしまうタイプがあります。
やめる・減らすの判断は医師の領域なので、一度ご相談されるとよいと思います。私からは自己判断での中断はおすすめしません。」
④「日本のガイドラインにも書いてあるの?」と聞かれたとき
「日本の頭痛のガイドラインでも、片頭痛や緊張型頭痛では、お薬以外の方法のひとつとして鍼灸が挙げられているという解説が出ています。
ただ『これで良くなります』という強さではなく、あくまで『選択肢のひとつ』という書き方です。研究の質はまだ十分ではない、とも書かれています。
ですので、受診と並行して、回数と期間を決めて試す形をおすすめしています。」
自院ホームページでの表現:リスクの低い書き方/避けたい書き方
以下は「これなら適法」と保証するものではなく、相対的にリスクが低い/高い書き方の整理です。実際の記載は最新の「あはき・柔整広告ガイドライン」本文と、所管保健所の指導をご確認ください。
- リスクが低い:「緊張型頭痛・片頭痛については、無治療と比べた改善が報告されています(Cochrane 2016)」のように、出典と比較対象を添えて書く
- リスクが低い:「気になる症状がある場合は、医療機関の受診をおすすめしています」と、受診優先の姿勢を明記する
- リスクが低い:「日本の頭痛のガイドラインでも、片頭痛・緊張型頭痛では非薬物療法の選択肢の一つとして鍼灸が挙げられていると報告されています(菊池ら2022・全日本鍼灸学会雑誌)」のように、出典と「選択肢の一つ」という位置づけまで含めて書く
- 注意:あはき法7条の広告可能事項は限定列挙で、効能・効果や学術的根拠に関する記載はそもそも含まれていません。上の書き方は「どうしても触れる場合に相対的にリスクが低い形」であり、記載をおすすめするものではありません。とくに「ガイドラインで推奨されています」への短縮は避けてください(推奨や確実性は鍼灸単独に付されたものとは限らず、同論文の総括は「確実性C」です)。
- 避けたい:「頭痛が消えます」「どんな頭痛にも対応します」「群発頭痛に効果があります」といった、効果を保証する書き方
- 避けたい:頭痛のタイプを鍼灸院が判定できるかのような表現(例:「頭痛のタイプを見極めます」)
この記事で書かなかったこと:①『頭痛の診療ガイドライン2021』の本文は、当編集部が直接確認していません(公開ページに転載・AI利用の制限があるため)。上の節の記述は、ガイドラインの鍼灸CQを整理した査読付きの解説論文(菊池ら2022・全日本鍼灸学会雑誌)に基づくもので、ガイドライン本文の引用ではありません。推奨文言そのものの逐語引用は行っていません。②日本の緊張型頭痛の有病率も出していません。広く引用される数字の一次出典に到達できませんでした。③「群発頭痛に鍼は効かない」とも書いていません。それを示す否定的なRCTも見当たらないからです。
FAQ|頭痛への鍼で鍼灸師によくある質問
Q. 頭痛の患者にどこまで問診すればいいですか?
A. 診断のためではなく「送るかどうか」を決めるための問診と考えると整理しやすいです。発症の仕方(突然か)、いつもと違うか、発熱の有無、外傷歴、がんの既往、妊娠の有無、鎮痛薬の月あたり服用日数。この7つは押さえておきたいところです。
Q. 頭痛への鍼は何回くらい必要ですか?
A. 頭痛のタイプによって参照できる出典が違います。緊張型頭痛については英国NICEが回数の目安を示しており、片頭痛の予防でも同様の考え方が使われます。いずれも確立した標準ではないため、回数と期間を先に決めて一緒に評価する形が現実的です。具体的な内訳は緊張型頭痛への鍼のエビデンスと片頭痛予防への鍼のエビデンスにまとめています。
Q. 頭痛の鍼灸に療養費(保険)は使えますか?
A. 通知で支給対象として挙げられているのは6疾患(神経痛・リウマチ・頸腕症候群・五十肩・腰痛症・頸椎捻挫後遺症)で、頭痛はこの列挙に含まれていません。ただし6疾患だけで線引きされるわけではなく、慢性的な疼痛を主症とする類症疾患は、医師による適当な治療手段がないかどうかを保険者が個別に判断するとされています。いずれにせよ医師の同意書など複数の要件が前提になるため、可否を施術所側で断定せず、加入保険者への確認をおすすめします。範囲と手続きの詳細は鍼灸の療養費(保険)の実務ガイドで整理しています。自費になる場合の回数・期間の設計も、あらかじめ共有しておくと行き違いが起きにくくなります。
Q. 日本の『頭痛の診療ガイドライン2021』では、鍼灸はどう扱われていますか?
A. 全日本鍼灸学会雑誌の解説論文(菊池ら2022)によれば、片頭痛・緊張型頭痛・薬剤の使用過多による頭痛(MOH)の治療を選ぶ際の「選択肢の一つ」として記載されたことが、2013年版からの大きな変更点とされています。片頭痛と緊張型頭痛では、予防・発作のどちらのフェイズでも非薬物療法として取り上げられているとのことです。ただし同論文はエビデンスの確実性はC(低い)と述べており、MOHのCQには鍼灸への推奨・確実性の記述はないと明記しています。なお当編集部はガイドライン本文を直接確認していません。CQごとの位置づけは本文の「日本のガイドラインは鍼をどう位置づけている?」の一覧表にまとめています。
Q. 「病院に行ってください」と言うと、患者さんが離れませんか?
A. 未受診が7〜8割という現状を踏まえると、むしろ受診をすすめられる鍼灸院は貴重です。「受診をすすめたうえで、並行して施術を組む」という提案の仕方であれば、関係は途切れにくくなります。
Q. 頭痛に鍼が効くしくみは説明できますか?
A. 鎮痛の機序はいずれも仮説段階です。頭痛に固有の決定的な機序が確定しているわけではありません。症状横断の共通テーマなので、作用機序の記事にまとめています。
Q. 頭痛への鍼は費用対効果の面ではどうですか?
A. 経済評価は国の医療制度が前提になるため、日本の料金設定の根拠には使えません。海外の数字の読み方は費用対効果の記事で整理しています。
Q. 群発頭痛の患者さんから「鍼もやってみたい」と言われたら?
A. まず医療機関の受診状況を確認してください。日本では在宅酸素療法のガイドラインが整備されており、受診の実利がはっきりしています。鍼については、システマティックレビューが確認できていないこと、RCTが1本のみで有効性の検証になっていないことを、そのまま正直に伝えるのが誠実だと考えます。
まとめ|頭痛への鍼を鍼灸師としてどう扱うか
- 施術より受診を優先するサインは、緊急度で4層に分けて覚えます。A群はその場で施術中止・救急要請を検討
- 髄膜炎の古典的3徴がそろうのは44%。頭痛・発熱・首の硬さ・意識のもうろうの4つのうち2つで送る
- 痛み方では腫瘍を除外できません(脳腫瘍の頭痛の77%が緊張型頭痛様)。除外は画像検査の仕事です
- 鍼の質の高いエビデンスがあるのは緊張型頭痛と片頭痛の2つ。ただし偽鍼との差は小さいと報告されています
- 群発頭痛・MOH・三叉神経痛は送る側。標準治療が確立していたり、鍼の根拠が症例報告レベルだったりします
- 日本の『頭痛の診療ガイドライン2021』でも、片頭痛・緊張型頭痛・MOHの治療を選ぶ際の選択肢の一つとして鍼灸が記載されているとされます(菊池ら2022)。ただしエビデンスの確実性はC(低い)で、MOHのCQには鍼灸への推奨・確実性の記述はありません
- チーム医療のCQ(Ⅰ-22)には鍼灸師が多職種のメンバーとして含まれるとされ、チームとして関わるときのほうが推奨度は高いと同論文は述べています
- 片頭痛の未受診は7〜8割。鍼灸院は「最初に相談される場所」になりえます
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参考文献
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- 菊池友和, 山口智, 久保亜抄子, 松浦悠人, 荒木信夫「頭痛の診療ガイドライン2021の出版にあたり Clinical question の鍼灸治療推奨からみる今後の展望」全日本鍼灸学会雑誌. 2022;72(1):4-13. DOI: 10.3777/jjsam.72.4 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsam/72/1/72_4/_article/-char/ja ※本記事における『頭痛の診療ガイドライン2021』のCQ・推奨・エビデンスの確実性に関する記述は、すべてこの解説論文に基づきます(オープンアクセス)
- 「頭痛の診療ガイドライン」作成委員会 編『頭痛の診療ガイドライン2021』医学書院, 2021.(Minds要約 https://minds.jcqhc.or.jp/summary/c00689/ )※当編集部は本文を直接確認していません。本記事は文献26の解説論文を出典としており、ガイドライン本文の逐語引用は行っていません
- Yang CP, Chang MH, Liu PE, et al. Acupuncture versus topiramate in chronic migraine prophylaxis: a randomized clinical trial. Cephalalgia. 2011;31(15):1510-1521.(文献26がCQ Ⅵ-3の引用文献として紹介しているもの。MOHを含む慢性片頭痛が対象)
本記事は鍼灸師向けの学術情報の提供を目的としたものであり、特定の治療効果を保証するものではありません。効果には個人差があります。鍼灸師は疾病の診断を行う立場にはありません。頭痛の型の判断や併存疾患の評価は医療機関の役割です。個別の患者への対応にあたっては、突然の激しい頭痛、発熱・神経症状を伴う頭痛、これまでと様子の異なる頭痛など、受診を優先すべきサインがないかを確認し、必要に応じて医療機関の受診をおすすめしてください。なお本記事の分類・チェック項目は診断のためのものではなく「施術を続けるか、受診をすすめるか」を判断する参考情報です。レッドフラグの診断的有用性は前向き研究が不足しており、鍼灸院での有用性は検証されていません。掲載した数値・推奨は改訂により変わりうるため、引用時は原典の再確認をお願いします。
【AI作成・編集責任について】本記事はAI(人工知能)が作成し、株式会社addwisteria の加藤タカシが編集責任者として内容を確認しています。引用した論文・ガイドラインの数値や推奨は改訂により変わることがあるため、実際の臨床判断では各原典の最新版をご確認ください。


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