偽鍼(シャム鍼)とは何か|4つのタイプと「不活性でない」問題

偽鍼(シャム鍼)とは何か|4つのタイプと「不活性でない」問題 研究の読み方

偽鍼(シャム鍼)とは、本物の鍼に見た目や手順をそっくり似せたうえで、「効くために大事」とされる部分——刺す場所・深さ・そもそも刺すかどうか——をわざと1つ外した、比較用のニセ鍼のことです。

偽鍼は1種類ではありません。少なくとも4つのタイプがあり、どれを対照にしたかで「偽鍼と差がなかった」という一文の意味が変わります。
そして偽鍼は、生理学的に不活性(何も起こさない)とは限りません。これは鍼灸業界の言い分ではなく、報告規範であるSTRICTA 2010に明記されている論点です。
この用語が読めると、論文の結論を見たときに「その偽鍼はどのタイプだったか」をまず確認できるようになります。

定義は「1つずらす」としか言っていません

偽鍼の定義としてよく引かれるのが、片頭痛予防のコクランレビュー(複数の研究を厳密にまとめた分析)です。日本語にすると、こう書かれています。

「本物」の鍼/本物の治療を模倣しつつ、鍼理論上重要とされる少なくとも1つの点で意図的にずらした介入
原文:interventions mimicking ‘true’ acupuncture/true treatment, but deviating in at least one aspect considered important by acupuncture theory / 出典:Linde K, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2016;CD001218(PMID:27351677

大事なのは、「1つ以上ずらす」としか書かれていない点です。何をずらすかは、試験ごとに研究者が決めます。

だから偽鍼には複数のタイプが生まれます。刺す場所をずらす、深さをずらす、そもそも刺さない。どれも定義に当てはまってしまうのです。

偽鍼(シャム鍼)にはどんなタイプがあるの?

偽鍼の4つのタイプと、対応するネットワークメタ解析の手法名、当サイトで扱った試験例

偽鍼の型

偽鍼は1種類ではない|4つのタイプ

慢性疼痛のネットワークメタ解析(45試験・8,287名)が区別した7手法を、読みやすく4つに束ねました。

① 非貫通型のプラセボ鍼
経穴・非貫通/非経穴・非貫通

鈍い先端で皮膚を貫通しない器具を用いる。例:Sun 2025(前兆のない片頭痛)

② 非経穴への刺入
非経穴・浅刺/非経穴・通常深度

経穴から離れた点に実際に刺す。例:Scharf 2006(膝OA)、Witt 2005(膝OA)

③ 経穴への浅刺
経穴・浅刺

経穴に浅く刺し、得気を避ける。例:Zheng 2022(慢性緊張型頭痛・深度2mm以内)

④ 鍼以外の偽装デバイス
偽レーザー/偽通電

作動しない装置を当てる。例:Hinman 2014(慢性膝痛・偽レーザー)

4つの束は当サイトの整理です。分類の原典はWan 2025(7手法)とコクランCD001218(15試験の集計)で、両者は括り方が一致しません。世界標準の分類ではない点にご注意ください。またWan 2025は間接比較が中心で、多くの比較の確実性はlowまたはvery lowと評価されています。爪楊枝などデバイス以外の非刺入刺激をどの束に入れるかは、文献によって整理が分かれます。

2025年に報告された慢性疼痛のネットワークメタ解析(複数の治療を間接的につないで比較する手法)は、45試験・8,287名から偽鍼を7つの手法に分けました。図はそれを4つに束ねたものです。

冒頭で定義を引いたコクランレビュー(片頭痛予防・CD001218)が集計した偽鍼対照15試験の内訳もばらばらで、最も多い非経穴への刺入でさえ7試験。残りは4つのタイプに散っています。

つまり「偽鍼と有意差なし」という一文だけでは、何と比べたのかが分かりません。

では、偽鍼以外の相手——何もしない群や予防薬——と比べるとどうなるのか。そこは鍼のエビデンスは比較対照で変わるで整理しています。

用語の使い分けについて。当サイトでは「偽鍼(シャム鍼)」を総称、「プラセボ鍼」を①の皮膚を貫通しない器具を指す語として使い分けています。これは読みやすさのための当サイトの整理で、文献が定めた区別ではありません。

偽鍼が「不活性でない」とは、どういうこと?

ここがこの記事の主題です。偽鍼は「何も起きない対照」として設計されますが、実際には体に何かが起きている可能性があります。

これは業界の願望ではありません。臨床試験の報告規範であるSTRICTA 2010(CONSORT声明の鍼版拡張)が、解説部でこう述べています。

偽鍼の刺鍼は、貫通するか否かにかかわらず、鍼特異的な生理反応を引き起こしうる
原文:sham acupuncture needling, whether penetrating or not, might elicit acupuncture-specific physiological responses / 出典:MacPherson H, et al. PLoS Med. 2010;7(6):e1000261(PMID:20543992

整合する方向の報告もあります。非貫通型プラセボ鍼の原点となった1998年の健常者60名を対象とした検証では、鈍い痛みの感覚(得気)を報告したのは本鍼34名に対し、偽鍼でも13名でした。

2024年のシステマティックレビュー(29論文)でも、6試験で本鍼のほうが得気の報告が多かったと整理されています。本鍼との差はつきますが、偽鍼側の報告がゼロになるわけではありません(前段の1998年の検証で13/60)。

生理学の側からは、皮膚への軽い接触が無髄C線維に連なる機械受容器を刺激し、情動的な反応につながりうるという説明が提示されています。ただしこれは総説による仮説の提示であり、比較試験で証明されたものではありません。

では、偽鍼群で観察される改善は何がどれだけ混ざった量なのか。そこは鍼のプラセボ効果と文脈効果で分解しています。

タイプ別に見る、当サイトの記事の実例

実例1|非経穴への刺入(②)を対照にした試験

膝OAの大規模試験(1,007名)は、経穴から外れた点に実際に刺す偽鍼を対照にしました。伝統鍼と偽鍼のレスポンダー率に有意差はなく、一方で両鍼群とも保存療法を上回っています。

数値の中身は鍼のエビデンスは比較対照で変わるで扱っています。臨床側の評価は膝OAに鍼は効く?ACR推奨とNICE非推奨が分かれる理由【論文解説】をご覧ください。

実例2|経穴への浅刺(③)を対照にした試験

慢性緊張型頭痛の試験(218名)では、経穴に深度2mm以内で刺し、手技も得気も与えない浅刺鍼を対照にしました。16週のレスポンダー率は本鍼68.2%に対し、浅刺鍼でも48.1%です。

くわしくは緊張型頭痛に鍼は効くのか|NICEの回数目安と偽鍼問題を整理をご覧ください。なお、この4〜5割という値が何の合成量かは鍼のプラセボ効果と文脈効果で扱います。

実例3|そもそも刺入型ですらなかった(④)

慢性膝痛の試験(282名)は「偽鍼と差がなかった試験」として引かれることがありますが、対照は偽レーザーでした。針鍼・レーザー鍼とも偽レーザーに対し有意差はなく、無治療比では12週でわずかに改善したものの1年後には消えています。

この試験も膝OAに鍼は効く?ACR推奨とNICE非推奨が分かれる理由【論文解説】で扱っています。対照の型が違うものを同じ棚に並べない、という本記事の主張そのものの例です。

なお、鍼を1本も刺さない爪楊枝による疑似鍼を対照にした腰痛試験もあります(腰痛の鍼|主要RCT3試験のツボ・置鍼時間・回数を比較)。

よくある誤解

誤解1|「偽鍼と差がなかった=鍼はプラセボ、ということ?」

そう読みたくなりますが、前提が1つ抜けています。コクランCD001218は偽鍼を “might not be inactive placebos”(不活性なプラセボではない可能性がある)と書き、STRICTA 2010も生理反応の可能性に触れています。比較の土台が「何も起きない状態」ではないのです。

ただし反転もできません。「偽鍼が効いている、だから鍼は本物だ」も、同じ資料からは導けません。プラセボ全般を扱ったコクランレビューは、患者が報告した効果と報告バイアスとを区別するのは難しいとも指摘しています(詳しくは鍼のプラセボ効果と文脈効果)。

なお、生理反応の有無(本記事)と、偽鍼群の改善を何に帰属させるか(鍼のプラセボ効果と文脈効果)は別の論点です。混ざりやすいので、分けて読んでください。

誤解2|「偽鍼はどれも同じだから、試験どうしを直接比べられる」

Wan 2025は7手法を区別し、非貫通型と刺入型でプラセボ効果の大きさが違うと報告しています。偽鍼と差がなかった試験を並べるときは、その偽鍼が①〜④のどれだったかを先に確認してください。

誤解3|「盲検が成立していれば、偽鍼は正しい対照だ」

盲検が破れていないことと、対照が生理学的に不活性であることは別の問題です。2024年のレビューでは、盲検指標を算出した24試験のうち成立と判定されたのは13試験(54%)にとどまりました。

一文でまとめると、「バレていない」ことは「効いていない」ことを意味しません。

エビデンスボックス 定義の出典と原典(飛ばして読んでもOK)
  • 定義の一次出典:Linde K, Allais G, Brinkhaus B, et al. Acupuncture for the prevention of episodic migraine. Cochrane Database Syst Rev. 2016;2016(6):CD001218. PMID:27351677 / DOI:10.1002/14651858.CD001218.pub3 / PMC4977344。22RCT・4,985例。偽鍼を “interventions mimicking ‘true’ acupuncture/true treatment, but deviating in at least one aspect considered important by acupuncture theory” と定義。偽鍼対照15試験の内訳=経穴への浅刺4/非経穴への刺入7/非貫通のプラセボ鍼2/実際の刺鍼を伴わない複雑な手順1/混合1。レビュー自身が “sham treatments might not be inactive placebos” と記載。
  • タイプ分類の原典:Wan R, Zheng Q, Zeng X, et al. Differential placebo effect of sham acupuncture for chronic pain: a network meta-analysis of randomized controlled trials. BMC Complement Med Ther. 2025;25:323. PMID:40890765 / DOI:10.1186/s12906-025-05055-x / PMC12403578。ネットワークメタ解析(レベル1)。45RCT・8,287例・偽鍼7手法(SLA偽レーザー/NSN非経穴浅刺/NDN非経穴深刺/NNP非経穴非貫通/ANP経穴非貫通/ASN経穴浅刺/SES偽通電)。手技鍼との疼痛変化の差は、待機治療1.86(95%CI 1.36–2.35、SUCRA 97.4%、確実性moderate)/経穴・非貫通1.14(0.74–1.55、SUCRA 73.6%、low)/非経穴・非貫通1.00(0.35–1.65、SUCRA 64.8%、low)。差が大きいほど手技鍼から離れている=その対照のプラセボ効果が小さい、という向きです。SUCRAの順位は推奨の順位ではありません。 限界=大半が間接比較、I² 81.4〜89.7%、ファンネルプロット非対称(出版バイアス示唆)、多くの比較でlowまたはvery low。手法ごとの試験数は原著から特定できていません。
  • 報告規範:MacPherson H, Altman DG, Hammerschlag R, et al. Revised STandards for Reporting Interventions in Clinical Trials of Acupuncture (STRICTA): extending the CONSORT statement. PLoS Med. 2010;7(6):e1000261. PMID:20543992 / DOI:10.1371/journal.pmed.1000261 / PMC2882429。項目6a=対照の選択理由と根拠、6b=対照の正確な記述。解説部に “sham acupuncture needling, whether penetrating or not, might elicit acupuncture-specific physiological responses”。
  • デバイスの検証:Lim SM, Go E. A systematic review of sham acupuncture validation studies. BMC Complement Med Ther. 2024;24:215. PMID:38840076 / DOI:10.1186/s12906-024-04506-1 / PMC11155071。29論文(Streitberger型5/Park型7/Takakura型6/その他11)。盲検指標を算出した24試験のうち13試験(54%)で有効な盲検が成立と判定。6試験で本鍼のほうが得気の報告が多かった。施術者の盲検化には皮膚に触れない型が最も有効。
  • 非貫通デバイスの原点:Streitberger K, Kleinhenz J. Introducing a placebo needle into acupuncture research. Lancet. 1998;352(9125):364-365. PMID:9717924 / DOI:10.1016/S0140-6736(97)10471-8。健常ボランティア60名のクロスオーバー。刺入されたと感じたのは本鍼54名・偽鍼47名。鈍い痛みの感覚(得気)は本鍼34名・偽鍼13名。刺さっていないと疑った被験者はいなかった。健常者・鍼未経験者が対象であり、患者集団の反応を示すものではありません。/Park J, White A, Stevinson C, et al. Validating a new non-penetrating sham acupuncture device: two randomised controlled trials. Acupunct Med. 2002;20(4):168-174. PMID:12512790 / DOI:10.1136/aim.20.4.168。専門家の合意が得られた40名で、得気を経験する相対リスクは本鍼/偽鍼で15.38(95%CI 2.26–104.86)=信頼区間が極めて広い
  • 生理学からの仮説:Lund I, Lundeberg T. Are minimal, superficial or sham acupuncture procedures acceptable as inert placebo controls? Acupunct Med. 2006;24(1):13-15. PMID:16618044 / DOI:10.1136/aim.24.1.13。皮膚への軽い接触が無髄C線維に連なる機械受容器を刺激し、島皮質の活動・情動反応を誘発しうるという主張。総説による仮説の提示(レベル5相当)であり、比較試験の結果ではありません。 同じ論者による続報(Chin Med. 2009;4:1. PMID:19183454)も存在しますが、当サイトは本文を読んでいないため内容には踏み込みません。
  • 本文で挙げた試験:Scharf HP, et al. Ann Intern Med. 2006;145(1):12-20. PMID:16818924(n=1,007。レスポンダー率=伝統鍼53.1%/偽鍼51.0%/保存療法29.1%。本鍼vs偽鍼は有意差なし、両鍼群とも保存療法には優越)/Zheng H, et al. Neurology. 2022;99(14):e1560-e1569. PMID:35732505(n=218)/Hinman RS, et al. JAMA. 2014;312(13):1313-1322. PMID:25268438(n=282、対照は偽レーザー)/Sun M, et al. J Evid Based Med. 2025;18(3):e70059. PMID:40841679(n=198、主要アウトカムは有意差なし P=0.069、著者が偽鍼群での盲検の一部破綻を明記)/Witt C, et al. Lancet. 2005;366(9480):136-143. PMID:16005336/Cherkin DC, et al. Arch Intern Med. 2009;169(9):858-866. PMID:19433697
  • 限界:各試験の経穴・通電条件・置鍼時間は、Sun 2025とZheng 2022(プロトコル論文経由)以外は原著未確認のため記載していません。Zheng 2022の通電の有無はプロトコル論文にも記載がなく、当サイトはどちらとも書きません。Takakura型デバイスの原著は取得できていないため、開発者の原著は引用していません。プラセボ介入そのものの効果量と、患者報告アウトカムに関する但し書き(Hróbjartsson 2010・Cochrane CD003974・234試験)は鍼のプラセボ効果と文脈効果で扱っています。

関連する用語と、実例の記事

本記事は鍼灸師向けの学術情報の提供を目的としたものであり、特定の治療効果を保証するものではありません。効果には個人差があります。鍼灸師は疾病の診断を行う立場にはありません。症状の型の判断や併存疾患の評価は医療機関の役割です。個別の患者への対応にあたっては、受診を優先すべきサインがないかを確認し、必要に応じて医療機関の受診をおすすめしてください。

【AI作成・編集責任について】本記事はAI(人工知能)が作成し、株式会社addwisteria の加藤タカシが編集責任者として内容を確認しています。引用した論文・ガイドラインの数値や推奨は改訂により変わることがあるため、実際の臨床判断では各原典の最新版をご確認ください。

更新履歴

本記事は初版です。原典の改訂(コクランレビューの更新など)に応じて追記します。
本記事はコクランレビュー(CD001218)とネットワークメタ解析(Wan 2025)を主な典拠にしています。コクランレビューは改訂されることがあり、改訂を確認した時点で数値と記述を見直し、この欄に追記します。当サイトの一次確認の範囲(全文/抄録のみ等)が変わった場合も同様です。

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